島の学校に設置されていたスピーカーのような設備。それは予想通り、深海棲艦の誕生を抑制する機能を有していた。しかし、その装置に使われていたのは、薬漬けにされて強制的に楽しい気持ちにさせられていた妖精さんである。阿手との戦いが終わったことで電力供給が途絶え、そのまま息絶えた妖精さんの亡骸が発見され、それを丁寧に運ぶ調査隊。今のうみどりなら、これまで以上に丁重に供養してくれるため、まずは調査の前にそちらをすることとなった。
「マークちゃんから話は聞いているわ。供養させてもらう」
うみどりに到着した調査隊は、工廠厨房の横を抜け、伊豆提督に妖精さんの亡骸を渡す。同時に、立ち入り禁止区域からクロトも戻ってきていた。
「供養カ」
「ええ……残酷なことをされてるわ」
「酷イ話ダ。念入リニ弔ワセテモラウ」
小さな遺体袋を用意し、妖精さんを入れると、クロトはとても丁寧に奥へと運んでいった。
「例の装置の仕組みも聞いてる。妖精さんの楽しいという気持ちが必要、なのよね」
「はい。提督が言うにはそのようです」
「それが常に必要なのか、ある程度必要なのかがわからないわね……それについてはマークちゃんの調査の続きを待つこととしましょう。それに、やり方も考えておかないと」
これ以上、深海棲艦が増えていくのも困るだけ。可能ならば、その装置を解析して、再起動させたい。
しかし、そのために必要なのが、装置に接続されることになる妖精さんだ。しかも、楽しいという気持ちを持たされる生体パーツとしての運用。伊豆提督がそんなことを許すわけがない。
「解析して、改造して、もっと簡単に、でも誰も犠牲にならない方法が必要よ。改造はこちらでも出来るけれど、解析ね……」
「あの2人のことだ、すぐにでも何かを見つけてくれるさ」
「……ええ、そうね」
調査隊の自信のある言葉に、伊豆提督も笑顔で応えた。
実際、調査は難しくなく、同じ系列の研究結果は同じところに纏められているということもあり、一度そこに集中して確認すると、その情報がどんどん出てくる。
特にこのスピーカーについては、設計図までしっかり出てきたため、昼目提督は安堵の息を漏らした。
「流石に薬をぶち込み続けるってこたぁ無ぇよな」
「ですね。薬剤投与は1回につき、楽しいと感じられる時間は3時間……。それがあれば、あの装置が2日動くようですから……端的に1日置きに楽しいと思ってもらえればいい、ということですか」
「そうなるな。妖精さん2人でそれだ。人数増やせば効果が大きくなるかもしれぇが……そもそもの仕組みが専用になっちまってるか」
記載されていた設計図を紐解いていくとわかる、あの装置の合理性。倫理観が欠如していること以外は完璧に近い設計である。
妖精さん2人に対して、効果は2日。だからといって、妖精さんが5人になれば、効果が5日になるというわけではない。人数が増えて強化されるのは、転換されて深海棲艦発生を抑制する
となると、やれそうなことはまず、電力供給を復活させ、妖精さん2人に接続されてもらい、そこでどういうカタチでもいいので楽しんでもらう。それがおそらく単純にあの装置を再起動させる手段。
しかし、薬の投与をするつもりなんて毛頭無く、もっと別の方向で楽しんでもらいたいと考える。それに、装置の一部になるということもよろしくない。
「……例えば、ですけど。まずあの装置を箱の中に詰め込むという点から脱却させて、接続されているけれど自由に動けるというカタチにすれば、少しはマシになりますよね」
「だな。あとはあそこを座席にするとかか。何にせよ、閉じ込めるなんて以ての外だ。その時点で楽しめねぇ」
「やるなら妖精さんが好むような一室にするかですね。そもそもスピーカーという形状から変えないと」
案はどんどん出てくるが、どういうモノが妖精さんの好みかがわからない。おおわしにも妖精さんは沢山いるが、意見を聞き取るのは少々難しいところもある。そのため、意見をこちらに提供してくれやすい、うみどりの主任にも話を聞いてみることにする。
うみどりの工廠へと連絡を繋ぐと、明石と主任はちょうど休憩中。セレスが炊き出しで作っているカレーをモリモリ食べているところだった。その隣には丹陽もいる。
『あ、どうも、ごめんなさいちょうど休憩中で』
「いや、こっちも休憩中に悪ぃ。ちょいと主任に用があってな」
『主任に、ですか?』
阿手の研究成果から導き出された、この島で起き続けている深海棲艦の発生を抑制する方法を話していく。すると、主任はなるほどと頷きながら、何やらホワイトボードに書き始める。
『ていきてきに』
『たのしんでもらう』
『
妖精さんに楽しんでもらえる劇場。人間サイズで無くてもいいため、学校の屋上にそれを作ろうという話である。
『せっけいは』
『こちらでやれる』
話を聞いただけで内容を把握してしまったのか、主任はもうその装置の改造──劇場化の設計を既に頭の中で始めていた。
出来るかどうかはさておき、そのスピーカーから発せられる何かに繋げられる妖精さんは、そもそも自分が装置の一部にされているという実感すら持たない方がいい。ということで、劇場の座席などにそのシステムを組み込み、楽しいと思う気持ちを効率よく取り入れられるようにする。主任が考えたのは、ヘッドホンのように頭につけつつ、その気持ちを感知する装置。スピーカーにそのままそれらしいものがあるはずなので、現場に行って改造するという方向になっている。
『たのしませてくれるひとは』
『うみどりにいる』
あとはどのように楽しむかになるが、それは非常にわかりやすく娯楽を提供出来る者がいる。艦隊のアイドル、那珂だ。
妖精さんは大概のことで楽しいと思える性格の持ち主だが、そこに超一級品のアイドルの歌やダンスが加われば、楽しめないはずがない。
そのため、まずその装置を動かすために、装置自体の改造から始まり、簡易的な娯楽施設、劇場へと変え、そこで妖精さん数人に向けてのライブをすることで楽しませ、それにより島全体の深海棲艦発生を抑え込む。
『改造なら私の力で出来ますから大丈夫です。主任の想像通りのモノを作りますよ』
明石もやる気満々だ。彼女の持つ『工廠』の力によって、触れるだけである程度の改造が出来てしまうのだから、今回のようないろいろと持ち込むのが難しい場所では非常に役に立つ。
『人員が足りないなら、今ならさらに追加出来ますからね。『工廠』の力を持つもう1人がいますから』
『……なんか呼ばれた気がするんだけど。だる……』
さらに増員。『舵』により洗脳されていたが、今では怠いと言いながらも工廠の仕事を手伝っているダウナー飛行場姫。こちらも今はカレーを食べている最中だったが、話題に出されて溜息を吐いている。
罪滅ぼしということで、こちらでも出来ることはしていた。陸上施設型ということで海に出ることは出来ないため、やれることといえば『工廠』の力での多種多様な整備。明石からやり方を学んでは、それを的確にこなしていた。
元々手先が器用だったか、最初は素人が手を出しても大丈夫な作業から始まり、今では少し濃厚な、明石の調査のサポートなどもやっている程である。工作艦としての才能の片鱗が見えているかのようだった。本人は常に怠そうにしているが。
『島の装置をいいように作り替えるお仕事です』
『いいように? 何それ……例えば?』
『妖精さんのための簡易的な劇場を作る感じですね。私達にとってはミニチュアハウスみたいなモノですけど』
『……ふーん、いいよ。ガレージを弄り回すより面白そうだし』
かつて役所のガレージを工廠にして弄り回していたことを考えると、そちらの方が有意義に力を使えるだろうと、少し乗り気である。
『なら、早速私達がその装置の場所に出向きます。直接触った方が早いでしょうし』
「おう、助かるぜ。ハルカ先輩とも話をつけておく。そちらで言ってくれても多分問題ねぇ」
『了解です。では向かいましょう。あ、食べ終えたらでいいですかね』
「そこは任せるが、なるはやで頼むぜ」
『お任せください!』
工作艦がノリノリというのが心強く、この装置をいいモノに作り直すことが出来るのも確定したのも同然となった。
デザインなどはお任せで。妖精さんが楽しめるというコンセプトであれば、ある程度の自由は利く。そこは、実際に楽しむことになる妖精さん達のアイディアを盛り込んでいくことになるだろう。
場所は学校の屋上となるので、範囲そのものも決められている。そこをこれまでの凄惨な光景から、楽しめる娯楽施設へと変えるというのは、後始末としても考えられないことだ。だが、それが今一番必要なのだから、躊躇なんてなかった。
「話は通ったが……なんつー装置作りやがるんだ、阿手はよぉ」
深海棲艦発生を抑制する装置の解析はまだまだ進めていくが、とはいえ妖精さんを動力源にするという考えが何処から出てきたのだと、昼目提督はうんざりしたような表情で呟く。
自分のやったことのせいで、この悲惨な現状が生まれているというのに、それに蓋をするようにまた悲惨な装置を作るのだから目も当てられない。それを悪くないモノに改造することに抵抗はないが、最初のことを思うと、どれだけの被害が出ているのかもわかりやしない。
「でもまぁ、これでどうにかなってくれりゃあな」
「ですね。何かあった時のために、私達も行きますか?」
「その方がいいかもしれねぇな。データの解析も必要だが、今はあっちが最優先だろうよ」
力を合わせて後始末を進めるため、全ての組織が一丸となっている。今までの島には無かったことだろう。
久々登場のダウナー飛行場姫。『工廠』の力を持っているおかげで、今回の活躍に繋がります。