島の学校屋上までやってきた明石達工廠組。妖精さんを利用した深海棲艦発生抑制のシステムを解析し、倫理観ある新たなシステムに作り直すため、明石と主任、そして明石と同じく『工廠』の力を持つダウナー飛行場姫は、早速ここからどうしていくかを考える。
スピーカーは分解済み。必要なパーツが何かを解析し、それをうまく使えば抑制装置に転用出来ると判断。ここからはいろいろと案を出していき、それ通りに作り上げていく作業となる。
「すぐに作ってといきたいところですが、そもそもこのシステムを一度起動させることが必要でしょう。今まさに深海棲艦が増えていることで大変なことになっているわけですから」
「まぁそうなるよね……これ以上増えたら怠いし」
「ということで、まずは私達のサポート妖精さんと接続し、楽しんでもらうことで起動させましょう」
睦月に運んできてもらった資材を使い、その場で設備らしきモノを作り上げていく明石。ここで『工廠』の力を使った改造を使っていくことになる。分解されたスピーカーの中でも使えそうなパーツを選択し、それをさらに改造。足りない部分は資材により補強という流れ。
元々あるヘルメット──妖精さんの脳波か何かを感知するシステムはそのまま流用するが、頭を覆い隠していることが楽しさを半減させると考え、つけているだけでも気分が盛り上がるデバイスのように変形させていく。
「こんなのでいい?」
それを担当したのが、ダウナー飛行場姫。この島で文化とは離れた生活をさせられていたモノの、感性的に明石より機械的ではないため、自由なデザインが期待出来た。むしろ明石がどうしても無骨なモノを考えてしまうため、戦いから離れたモノを考えてもらう。
その結果出来上がったのは、脳波を測定するためにこめかみに貼り付けるようなデバイス。主任だけでなく、サポート妖精さんもこれにはおおっと盛り上がる。
デバイスからは配線が伸びているものの、違和感なく後ろ側を通し、視界どころかつけている感覚も薄れるほどである。
「眼鏡かけてる妖精さんには、眼鏡型もイイんじゃない?」
さらにそちらも作り上げている。自由な発想、お手軽な使い心地を提供してくれている。サポーターとして使っていた明石も、これには少し驚いていた。
「なかなかやりますねぇ。連れてきてよかったですよ」
「この方がだるくないでしょ。意識しないことが大事だと思うから。私だって、なんか舞台とか見せてもらえるってのに、視界の端にちょろちょろされるのはだるいし」
「なるほど、言えてますね」
早速デバイスを身につけてみる明石のサポート妖精さん。髪が長くても違和感なく装着できるため、ヘッドホンやイヤホンよりも嫌な感覚はなく、むしろ身につけているのを忘れてしまいそうな感覚のようだ。
ぐっとサムズアップすると、ダウナー飛行場姫はへへっと笑顔を見せる。
「デザイン性は貴女に任せてもいいかもしれませんね。私はどうも兵器としての考え方になってしまいますから」
「艦娘なんだから仕方ないでしょ。まぁいいや、私がある程度考えるよ。だるいけど」
褒められることは嫌ではないようで、ダウナー飛行場姫も少し乗り気になっていた。
そこからは、明石と主任が設計的な部分を、ダウナー飛行場姫が娯楽的な部分を担当して、どんどん組み上げていく。資材は屋上に置いておけばいいため、それを運んできた睦月は、調査隊と共に周辺警戒。可能ならば他のところを調査しに向かう。
作業をしている者達を放置して向かうことは流石に憚られるため、神通が護衛として屋上に残り、響、白雪、睦月が見て回ることになった。
「今ここで突然深海棲艦が発生する可能性もあるんですよね」
「ええ、幸いなことに、私達調査隊はそれに遭遇はしていませんが、知らないところで現れているようですね。屋上から外を見ていますが、今のところその兆候は見えていません」
「実は
明石の言葉に、神通は確かにと頷く。今回深海棲艦が生まれているのは、基本的には誰も作業をしていなかった夜。穢れが拡がったことで各所に大量発生しているが、それが発生した瞬間というのは誰も見ていない。深海玉棲姫への進化に関しては、発生した後の話であるため、その例からは漏れるタイプとも考えた。
見られていると、いくら穢れが多くても発生しない。見られていないと、少量の穢れでも発生する。これが一番あり得そうである。目が向いていない地下施設内に発生していないのは、穢れが地上の方が多いからとも考えられる。
「なるほど、ではこのシステムは、
「そうか、確かに。楽しい気持ちで増える妖精さんの視線の部分だけを島全体に向けることで、見られているから発生出来ないという状況を作り出している、ということもあり得ますね。正確にはまだわかりませんが、全然ありますよそれ」
妖精さんの増殖の力を、
これもまた、『曲解』である。
ダウナー飛行場姫には何の話をしているかはよくわからなかったものの、ひとまず自分の仕事をこなすことにした。
資材を摘んでは『工廠』の力で千切り取り、必要なカタチに変えては接合する。そうして作り上げたのは、妖精さんのための椅子。ふかふかとまではいかなくても、パイプ椅子くらいには出来ている。
「……そういえばさ」
「はい、なんです?」
「前に聞いたんだけど、兵装とか開発してる時に、ぬいぐるみが出来ることがあるって言ってたよね」
「そうですね、あれは妖精さんの手違いなのか、不思議な力で出来上がることがありますね。ペンギンのぬいぐるみ。界隈では失敗ペンギンと言われてますね」
「アレってさ、意図的に作れる?」
ぬいぐるみが作れるなら、金属質な資材を綿のような柔らかい素材に変えられるということに他ならない。
明石はやってみましょうかと、資材を少し使って『工廠』の力で『開発』を実行。わざとハズレを引きやすくすることで、その場に失敗ペンギンを作り出そうと試みる。
すると、ポンと小気味いい音と共に、ぬいぐるみと一緒にもこもことした綿の塊が出来上がった。
「こちらはミスクラウドとか呼ばれてますね。まぁぬいぐるみの一種です」
「都合いいじゃん。これで座り心地いい椅子が作れるんじゃない?」
「なるほど、その発想は無かったです」
ダウナー飛行場姫がぬいぐるみを手に取ると、『改造』によってカタチをさらに変化させていく。ぬいぐるみとはいえ生物のカタチのモノを変化させるのは少々気が引けるところもあったが、それでも仕事として割り切って、サクッと作っていく。
ミスクラウドを綿として、失敗ペンギンは布として使うことで、椅子と組み合わせて、見た目豪華なソファのようになった。主任すら、その造形にはおおっと目を開いた。
「座ってみ?」
促された明石のサポート妖精さんは、デバイスをつけたまま座ると、その居心地の良さに目を細める。
主任もその様子を見てホワイトボードに字を書き殴った。
『さいこう』
「そりゃあよかった」
座って見てるだけでもしんどいだろうと気を遣った結果がコレ。楽しいと思う時間も、数分というわけでは無い。3時間は座りっぱなしになるのだ。いくら妖精さんでも、硬い椅子にずっと座っていたら、身体が痛くなるというもの。ならば、これくらいの座り心地でないと気分も悪いはず。
「これなら割とすぐに作れるかも。いくつ欲しい」
「ひとまず3つ作っておきましょう。システムの増産が必要かもしれませんし、デバイスもその数必要になりますから」
「はいはい、だるいだるい」
言いながらもトントン拍子で作り上げていく。一度作ることが出来たなら、同じことを繰り返すだけ。椅子はすぐに3つ用意される。
「あと、ほら。傘作っといたよ。雨防げた方がいいでしょ。今だって降ってんのに、誰もそれ防ごうとしないし」
「ああ……そこも艦娘の感性ですねコレ……」
今もまだしとしと降り続ける雨。明石達は、傘どころか合羽を着ることも考えておらず、ダウナー飛行場姫だけはずっとそこをどうするのかと考えていた。だが、何も話題も出ずに雨の中作業が始まったので、痺れを切らしたダウナー飛行場姫が傘を作ったようだ。布地も手に入ったので、それらしいモノは出来る。雨が完全に防げるわけでは無さそうだが、今を快適にするくらいなら可能。
「風が吹いたら飛んじゃいそうだから、今はまぁビーチパラソルくらいの気持ちで使えばいいよ。私も楽するならそういうのがいいし」
「ですね。じゃあ、それを立てられるところも作って……と」
実用的な無骨な形状なら明石の得意技。傘立てを簡単に作り上げ、雨を防ぐことが出来る椅子の出来上がり。
「簡易的ならコレでも充分でしょうが……」
「快適さが重要でしょ。楽しんでもらわないといけないんだから」
改めて妖精さんに座ってもらったところ、あまりの快適さに立ち上がることを拒みそうなくらいになっていた。妖精さんをダメにする椅子の完成である。
あとはこれを複数作るだけ。今は3つだが、そのうちもっと増やして、大人数でも楽しめるようにするのが望ましい。
システムの解析を続ければ、妖精さんの数を増やして、その力を島中に拡散、深海棲艦の発生を常に抑制し続けるというカタチに出来そうである。そのための礎は、今ここに出来上がりそうだ。
「デバイスも3つ出来上がりました。これで、3人分の楽しい気持ちを使うことが出来るでしょう」
「じゃあ……やってみる? でも、どうやって楽しませるのさ」
「それはまぁ、あの人を呼ぶしかないでしょう」
そして、それから少しして──
「こーんにーちはー! 艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー!」
ダウナー飛行場姫の意外な才能が発揮されました。明石は良くも悪くも軍人さんですからね。