那珂のライブによって妖精さんの楽しいという気持ちがシステムによって拡張され、島全体に深海棲艦の発生が抑制されるようになった。
システム自体がちゃんと動いていることを確認しているのは明石。その力──力場とも言えるモノが、正しく動いているかが目に見えるわけでもないため、出力値などを数値化して見られるように改良していた。改良を加えたのは主任だが、その主任は妖精さんとして、那珂のライブを楽しんでいた。
「ふむ、数値化してもらえるとありがたいですね。この盛り上がりに比例して出力が上がっているのが明確にわかります」
明石が小さく頷きながら、その数値を眺めていた。何処まで値が上がればいいのかは憶測。とはいえ、楽しいと思えていることが見えているのなら、きっとうまく行っている。そう確信出来た。
「上手く行ってると思うよ。多分だけど」
「はい、私もそう思います。上手く改良も出来ているし、妖精さん達も楽しんでもらえてますね」
「明日からはさらにこの場所を良くしていく感じですか」
「そうですね。私と彼女の『工廠』の力で、座席や設備を整えていきます。あとは、客が増えれば増えるほど、長続きするようなシステムにしたいところです」
今はすぐにでも島内を安全にしたいため、ひとまず動かせるようにしたのだが、このエネルギーを溜め込めるようなシステムを後付けで入れたいというのが明石の希望。
毎日のように楽しんでもらうのは難しいだろうし、何より
妖精さんはハッキリ言ってしまえば笑い上戸だ。大概のことで楽しんでくれる。歌でも踊りでも、目の前で楽しそうなことをしていれば、大体どうとでもなる。理解が難しいこと、例えば、少し難しいことを題材にした漫才やコントだと厳しいが、それ以外の娯楽ならどうとでもなる。
「那珂ちゃんには定期的にライブをやってもらって、その時にはまた違う妖精さんにも見てもらって……と、いい感じの連鎖を作っていきたいですね。ただ、那珂ちゃんはうみどりの一員、後始末が終わればここから去ることになります。それもあって、1回のライブでなるべく長い期間、島の安全を保証したいところですね」
次に考えなければならないのは、このエネルギーを溜め込む装置である。解析は進んでいるため、工廠班や調査隊の知恵を結集すれば、それも不可能ではないだろう。
「楽しんでもらえたらなら何より♪ また必要な時があったら言ってね♪」
客として座っていた妖精さん達と握手までして、最高のライブを完了させた那珂は、やりきったという笑顔と共に、手を振って屋上から出てくる。
そこにはそのライブをずっと見ていた深海玉棲姫と、少し遅れてきた昼目提督と鳥海。そして、歌が終わったことを察して屋上に戻ってきた周辺警戒をしていた者達が集まっていた。
「お疲れさん。相変わらず、いいライブするじゃあねぇか」
「あっは♪ ありがとーっ♪ 入ってきて聴いてくれればよかったのにぃ」
「ここから入ったら、お前さんのライブを邪魔することになるだろうが。舞台を作るなら、扉より遠い向こう側に作るべきだな」
那珂もなるほどと納得する。そうすれば、後から後から客が入ってくるということも可能だ。この屋上を、深海棲艦発生抑制装置など関係なく客で埋めれば、より楽しくなる。後からだっていくらでも聴いていい、楽しんでいい。
「それじゃあ、ここの舞台を作る時は、那珂ちゃんも口出しした方がいいかなぁ。設営とかも、結構詳しいよ?」
「いいかもしれねぇな。それに、ちょいとオレも考えた。お前さんの歌、ここから本当にスピーカーみたく外に聞こえるようにしてもいいかもだ」
「あ、確かに! そしたら知らないヒトでもどんどん興味持ってもらえるもんね!」
屋上に来た者だけでなく、外にいてもうっすら聞こえるくらいが楽しいのではないかという案だ。那珂もそれはいい考えだと笑顔で手を叩いた。
間近で聴きたいと思ってもらえるだろうし、そうでなくても楽しんでもらえる。妖精さんだけでなく、この島で暮らすことになりそうな者達全員が癒されるはずだ。
学校そのものを、一種の娯楽施設のように改造してしまい、ある意味妖精さんの都市のようにするのも、悪い話ではない。
この島をあらゆる種族が住まうことが出来る七色の島とするのなら、妖精さんの居場所も作る必要があるだろう。それをここにする。
「とはいえ、簡単に出来ることじゃあねぇけどな。そもそもここの
「うーん、それは確かに。ここに戻ってくるっていうなら、今はこうやってライブさせてもらってるけど、学校無くすのは違うもんねぇ。那珂ちゃんこの辺わかんない♪」
「そこはこっちで考えるぜ。そもそも、ライブ会場がココじゃないといけないってわけじゃあねぇんだからな」
今はスピーカーがここにあったからそうしているだけであって、上手く行ったことがわかったなら、全く違う場所にそれを作ったところで何も問題はないのだ。新たな施設を建造することだって視野に入る。それこそ、この島を包み込みやすい、山の上ということだって。
山頂にライブハウスを作るとなると、また大きく話が変わってくる。今は穢れまみれであり、遺体が投棄されていたということもあって、後始末が一番大変なところというのもある。ライブハウスを作るなら、まずその辺りをしっかり解決しなくてはならない。
「考えることいっぱいだぁ。それに、那珂ちゃんココに巡業するにも、後始末屋のお仕事の合間を縫わなくちゃいけないもんね。オファーはいくらでも受けるけど、その度にここに来るのも大変だもんね」
那珂は出来る限りは力を貸すと話すが、どうしても無理なことはあるだろう。その時にどうにか出来ればいいけど、と那珂は考えつつも、チラッチラッと深海玉棲姫の方に目を向けていた。
深海玉棲姫はそれを受けてビクッと震える。那珂からはアイドルとは何かを教わり、ここにも興味を持って見に来ている。胸が熱くなり、それでもまだ見ているだけだったが、昼目提督に背中を押されたことで、あとは勇気を出すだけの状態。
「あー、誰か那珂ちゃんがいなくてもここでアイドルやってくれるヒトいないかなー! チラッチラッ」
「那珂ちゃんちょっと意識しすぎだよ」
調査隊と共に戻ってきた舞風が苦笑するが、しかし那珂の言いたいことはわかる。
舞風もおそらく、今回の戦いが終わったらうみどりに残るかこの島に永住するかを選択することになるだろうが、どちらにしろ歌える者がこの島にいてくれることが望ましい。那珂がうみどりに絶対戻ることがわかっている今、那珂の意志を継いだ誰かを育てたいと思う。
舞風はダンス専門であるため、歌は教えられない。歌は那珂が直々に教えることになるだろう。なら誰に教えるかと言われれば、もう決まっているようなもの。
「……ア、アノ、那珂チャン」
「ん、なぁに?」
深海玉棲姫が少しだけ、本当に少しだけ、勇気を出した。
「アタシニモ……出来ルノカナ、アイドル」
おずおずと、しかし、前向きに言葉を紡ぐ深海玉棲姫に、那珂は満面の笑みを浮かべてその手を取った。
「勿論! やりたいと思ったら、みんなが出来るんだよ。今貴女はやりたいって思ったんだよね。勇気を出して、そう伝えてくれたんだよね。だったら、絶対に出来る、やれる、なれるよ。貴女だけのアイドルを表現出来る!」
手をブンブンと振られて、深海玉棲姫は目を回しそうな程になっていた。だが、超一流のアイドルとしての力を目の前で見せてくれた那珂にそうやって認めてもらえたことで、心に芽生えていた憧れが、後ろから見るではなく、並び立つことへと変化していく。
「……アタシ、ヤリタイ。ヤッテミタイ。コノ胸ノ熱サ、那珂チャンミタイニ表現シタイ。ソシテ、ミンナヲ、楽シマセタイ」
那珂は感涙を流しそうになった。だが、それは堪えて、深海玉棲姫を思い切り抱き締める。ヒャアと素っ頓狂な声が出てしまったが、深海玉棲姫は尚のこと憧れの存在に認められたことを喜んだ。
「那珂ちゃんが全力でサポートする! 舞風ちゃんもダンスを手解きしてもらえるよね?」
「もっちろん! 歌って踊れるアイドルになってもらいたいからね!」
「絶対いいアイドルになれるよ。那珂ちゃんが保証しちゃう! いいアイドルの条件は、やりたいと思ってやること、だからね♪」
深海玉棲姫は、勇気を出して良かったと、心の底から思った。那珂を追いかける、アイドルとして頑張る、それがやりたいことであり、そして深海玉棲姫にとっての『楽しい』に繋がる。
モチベーションはかなり高い。レッスンで挫けることもあるかもしれないが、この深海玉棲姫ならやれると、那珂は確証を持っている。同じアイドルの誕生を、心の底から祝福していた。
「じゃあ、早速レッスンを始めよう♪ あ、でも流石にうみどりに戻ってからね♪」
「ウン、アタシ、頑張ルネ、那珂チャン」
「うんうん♪ 一緒に頑張ろうね♪」
新たなアイドルの誕生に、この島での娯楽はさらに発展する。妖精さんを楽しませるという試みは、さらなるステップへと向かうことになった。
外に聞こえるようにする、の話なんですが、以前自分も参加出来た艦これ新春ライブの武道館公演のとき、おみくじ待機列で最終リハ中のToshI提督の声が丸聞こえだったという元ネタがあったりします。