日が暮れてきて、しとしとと降り続いた雨も止んでいた。島がうっすら暗くなってきたところで、うみどりの本日の作業は終了。港と反対側の後始末を始めている深雪達は、疲れた顔で帰投した。
想定はしていたが作業量がかなり多く、欧州姉妹が共食いにより喰らい尽くした亡骸は、今回の作業で撤去は完了。穢れまで全て取り払うことは難しいモノの、ぱっと見では大分片付いている状態にはなっている。
ちなみに、そこで掻き集めた残骸は、全て大発動艇に積み込まれた状態。海水で少し洗い流しているため、土まみれということも無くなっている。なお、その海水も浄化済み。
だが、うみどりの状況を見て目を丸くする。
「うわ、マジでこんなにいたのかよ」
工廠厨房に誘われた深海棲艦達が、かなりの量いたのだ。工廠に入ると作業の邪魔になってしまうため、大体は港で食べながらのんびりしている。ヒトのカタチをしたモノもしていないモノも、揃って空腹を満たし、敵意も何もない状態である。
ヒト型の方は特にまったりとしており、食事を提供された後、洗浄もされたことによって、非常に穏やかで友好的な個体として、手伝いをしたりおかわりを要求したりと好きに生きていた。
深雪達の帰投を見た深海棲艦達は、手を振ったり身体を震わせたりして、お帰りと表現していた。特異点だから特に目立つ。
「すげぇ数だな……うみどりに全員入ってもらうのは無理なんじゃないか?」
「なのです……工廠も埋まっちゃいそうなのです」
指折り数えてみたモノの、途中でそれを諦めるくらいにはそこにいる。既にうみどりの総勢を超えている程であるため、もう確実にパンクすることが確定。逆にどうやってここにいてもらおうかというところで悩みが発生していた。
「雨の予報は無いから、外でも大丈夫といえば大丈夫なんだけれど……保護した子達を外に投げ出すみたいになっちゃうのよねぇ」
流石の伊豆提督もこれには大弱り。深海棲艦が生まれていることは予想出来ていたが、ここまで多いとなると話が変わる。面倒を見ることが出来る許容量を大きく超えてしまっていた。
「食材ハ補給ガ入ッタカラ足リテハイルワ」
「ええ、そこの心配が無くなったのはありがたいわね。急に空腹で暴れられる、なんてことはなさそう」
「次ノ補給ニツイテモ、話ハシテアルデショウ。ダカラ、ソコハ心配イラナイワ」
セレスも不安だった食材の問題が解決したため、ホッと安堵。今ならばうみどりの面々への食事の提供も余裕で出来る。それだけでも、後始末が滞る可能性が大きく失われた。
しかし、問題はやはり住まうところである。それを解決するまでは、テントなどで外にいてもらう他無い。まだ片付いていない集落などに行ってもらうのは、新たな穢れを増幅させるだけだ。せっかく洗浄したのに、それが台無しになってしまう。
「港にある建物はある程度掃除出来た。雨風が防げるくらいにはしておいたぞ」
そこに戻ってきたのは長門達戦艦組である。トラや春星が事情に詳しいということで、使えそうな建物を選別して、そこを後始末することで、集まった深海棲艦達の住居としようと考えたのだ。ウォースパイトとヴァリアントまでそちらを手伝っていたというのだから、事情を知らない者達には驚きが隠せないモノ。
「後始末屋の仕事、とても興味深いわ。初めてやる作業ばかりなんだもの」
「ああ、僕も姉貴と、随分と汚れてしまったが、やらねばならないことは出来たと思うぜ」
QE級として、非常に高貴なイメージの強い2人も、今や片付けでそこら中が汚れてしまっている。出張してもらっているのに、風貌は最早後始末屋と同様だ。
それを楽しくやれているのだから、なかなかにメンタルが強い。そうでなくては王女然と出来ないのかもしれないが。
「ありがとう、長門ちゃん達。これである程度は入ってもらえるわよね」
「ああ、雑魚寝になってしまうとは思うが、住居としては使える。ビニールシートで補修しているのは申し訳ないがな」
「むしろそれで済んでるならいい方よ。戦いに巻き込まれて倒壊しているわけでも無いんだし、家としては正常に使えるのよね?」
「それは保証しよう。流石港町の建物だ、かなり強めに造ってある」
住みやすいかはさておき、少なくとも住めるようになっていることは間違いない。
「それじゃあ、何人かに指揮を執ってもらって、イロハ級をそちらに連れて行ってもらいましょう。あら、貴女達がやってくれるの?」
「任セナ。面倒ヲ見ルノハ得意ナンダ」
そこで率先して指揮を執ることを良しとしたのは、忌雷を匿っていたリ級である。また、話すことは出来ないが、ネ級改も挙手することで意思を伝えてきている。
やはり洗浄されたことで意思疎通がしやすくなっており、これまで対話は出来なかったところが、かなりやりやすくなっていた。余計な感情に邪魔されなくなっているのは大きい。
また、言葉で表現出来ないモノ達の意思を汲み取ることが出来る者も存在する。序列的には上になるムーサがその筆頭。やはり姫という立ち位置のおかげで、他とは少々違う扱いとなっている。イロハ級はムーサが姫というだけで、ある程度指示に従ってくれるのだ。リ級とは友達感覚だが。
「ヌキューモヤルヨー。今日ハ外デ寝タインダ」
「外で寝る……?」
「広イ場所デノンビリシタイカラネー」
ヌ級のように、建物の中ではなく外で腰を落ち着けたいというモノもいたりする。ヌ級の他には、ラ級姉妹。洞穴で生まれたということもあり、閉じられた空間より、周りに何もない広い空間の方が嬉しいようである。
そういうモノ達には、港の近くで身体を休めることが出来るように、寝袋ではないが簡易的な寝床を用意してあげた。コンクリートの上で寝ろとは流石に言えない。ヌ級はその辺は全く気にしていないようだが、
「ま、まぁ、パンクしないように上手く配分していけば大丈夫よ。何人かはうみどりで休んでもらうことも出来るわ」
「ナラバ余ハコノ艦デ休マセテモラウトシヨウカ」
「アナタならそう言うと思っていたわ」
欧州水姫は外で眠るのを拒んだようで、さも当然と言わんばかりにうみどり滞在を希望。欧州妹姫は平謝りである。自分ハ外デイイデスと謙虚な姿勢を見せるが、欧州水姫は何ヲ言ウカとケラケラ笑っていた。
「ふふ、あの子は私達と縁がありそうだし、少し話がしてみたいわ。ねぇ、Admiral、私達と相部屋じゃあダメかしら」
「大丈夫?」
「ええ、非武装だったら大丈夫よ。それに、アレ、どう見てもNelsonなんだもの。同郷のよしみで、語り明かしたいわ」
王女然としつつも、好奇心旺盛なウォースパイトは、欧州水姫にとても興味を持ったらしく、せっかくだからと相部屋を希望。ヴァリアントも笑って同じようにしてほしいと伝える。
伊豆提督としては、本当に大丈夫かと不安になりつつも、ウォースパイトのいう通り、非武装となってもらうのだから、突然戦闘になるとかそういったことは無いと考えられる。ウォースパイトもそれだから話をしたいと言っているのだ。
「ホウ、貴様モナカナカニ貫禄ノアル艦娘ダ。余ノ艦隊ニ加エテヤッテモヨイ」
「残念ながら、私は私の艦隊があるの。ごめんなさいね」
「フム、既ニ率イテイルノカ。ナラバ仕方アルマイ。ソレホドノ力ヲ持ッテイルノハ、見レバワカル。ダガ、気ガ向イタラ余ノ軍門ニ下ルガイイ。貴様ノ力、余ガ余ストコロナク使ッテヤロウ」
高笑いする欧州水姫に、ウォースパイトは笑いを堪えるのに必死である。
「Admiral、それとなくこの子が何を目的としているのか聞いてみるわ」
「助かるわ。やたら艦隊運営をしたがっているように思えるから、そこは知っておきたいわね。アタシが直に聞いても良かったんだけれど」
「貴方は他にも忙しかったのでしょう。大丈夫、私の方のAdmiralも、彼女には興味を持ちそうだし、何より私がやりたいわ。だから、任せてね」
茶目っ気ある笑みを見せたウォースパイトは、ヴァリアントと共に、欧州姉妹を連れて行った。まずは自分の洗浄に付き合わせて、より穢れを洗い流してもらおうという考え。深海棲艦は何も洗浄したって問題はない。欧州姉妹もそれを拒まなかったので問題は無かった。
「ああ、深雪ちゃん、お帰りなさい。残骸とかは運び込んでくれたかしら」
「ただいま、ハルカちゃん。結構な量あったよ」
ここで伊豆提督が帰投した深雪達に気付く。その後ろの大発動艇を見て、なるほどと苦笑。
「これ、全部さっきの奴らが食い尽くしたんだよな、多分」
「共食いの結果があの2人だもの。食ったモノを食い、またそれを食い……を繰り返したんだと思うわ。だから、全部彼女達が食べたと言うわけでは無いけれど、それでも相当量は食べてるわね。それであの姿になったかと思うと、深海棲艦の生態はまだまだ謎だらけよ」
だからといって、ここで詳しく解明しようとは考えていない。それを考えている暇があったら、今の後始末をなるべく早く終わらせる方に尽力したい。
「さ、アナタ達も洗浄してらっしゃいな。作業が作業だから、汚れ方が普通じゃないわ」
「だよな。土でも汚れちまってるから、これまでの後始末とは全然違ぇや。んじゃ、風呂行ってくるな」
深雪達も残骸を置いて洗浄に向かう。残されたそれを見ながら、伊豆提督は溜息を吐いた。
「ここに来れた子達以外にも、これだけの数が生まれていたってことだものね……ここの穢れがとんでもないことを、嫌でも思い知らされるわ」
学校の深海棲艦発生抑制装置が動き出したため、これ以上増えることは無いだろうが、それでも相当な数が既に生まれた後。その全てをどうにかすることは可能なのか。伊豆提督はまた悩み始めた。
住居の提供はまだまだ何とも言えない状態。ここからは、穢れまみれの島を住みやすいカタチにリノベーションすることも視野に入る。
詳しい数は書きませんが、保護された深海棲艦の数はぱっと見でも数えきれないくらい。こんなのどうやって面倒を見ればイイんだって話である。