後始末屋の特異点   作:緋寺

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先住民思想

 後始末七日目。ついに1週間経過。それでもまだまだ終わりが見えない。海側は終わってきているものの、とにかく島の中が多すぎる。蔓延した穢れの除去は、もう殆ど不可能では無いかと思えるほどの量。

 深海棲艦の発生を食い止める方法は出来ているため、これ以上深海棲艦が増えることはないだろうが、もう既に相当な数が増えてしまっているため、後始末と同時に、それらをどのように養っていくかも問題となってしまっている。

 

「コレカラハ余モ手伝オウデハナイカ! 民ノ住マウ場ヲ作ルゾ!」

 

 その役割を担うのが、この島で生まれた欧州水姫。昨晩ウォースパイトと話をし、その島を守りたいという気持ちを強く持っていることが判明したことで、他の深海棲艦達を扇動するため、まずは先陣を切って作業をする方向性に導いた。

 その結果、やる気満々でうみもりを手伝ってくれることに。戦艦であるが故に力仕事が任せられ、民第一に動くので割と丁寧。力任せにやって壊すということはしない。妹姫もそれに追従して、深海棲艦が住むための場所を作るために尽力する。

 

「ココノモノハ全テ使ッテイイナ。全員ガ落チ着ケルヨウニシナケレバ、ナ!」

「ソウダネ。トリアエズ中ノモノハ全部外ニ出シチャッテモイイカナ」

「イイダロウ。ダガ念ノタメ破壊ハセズダナ」

「ダネー」

 

 欧州姉妹がマイペースに建物の中を物色しながら片付けていく様子に、港町の建物を片付けていた長門は少し驚いていた。言動から考えられないくらい考えられている動き。その動機が全て、この故郷である島を守るためという真っ当かつ高潔なモノである。

 

「保護された深海棲艦のために率先して動くようになったのか。ウォースパイト、ヴァリアント、どんな話をしたんだ」

「王になるなら民にその姿を見せるべきよって教えてあげたの」

「その通りだって納得してくれてね。彼女は、この島を統べる者なんだそうだ」

「なるほどな……確か彼女は、共食いの結果生まれたんだったか……」

 

 悪意なく、全て善意での行動。そしてそれは間違っていないのだから、否定する理由すらない。

 そんな欧州姉妹の行動に、面倒見のいいリ級やネ級改は目をキラキラさせながら手伝いを申し出る。自分達が匿っていた忌雷やイロハ級の寝床を提供してくれるなら、いくらでも手伝えると。

 

「姫様ッ、手伝イマスヨ!」

「ウム、ナラバソチラヲ片付ケテクレ。ヤハリ余ト妹ダケデハ手ガ足リヌ。貴様ラガ手ヲ貸シテクレルダケデ百人力ダ。ヨロシク頼ムゾ」

「ハイッ」

 

 話せないネ級改も強く頷いて手伝いを続けた。序列というモノも関係してくるだろうが、この主従関係は見ていても嫌悪感が無い、むしろ楽しい関係性に見えてくる。当人達が納得しているし、それで効率も上がっているのだから、これがベストと言えるだろう。

 王としての行動を民に見せるというウォースパイトからの助言は、見事に成功している。欧州水姫の深海棲艦達からの支持率は、今回のこの行動によって爆上がりすることに繋がった。

 

 

 

 

 だが、それを面白く思わない者達も存在する。それが、おおわしに保護されているカテゴリーY、つまりはこの島に元々いた者達。作業前に工廠に集まっているところで、あれやこれやと文句ばかりを話していた。

 春星や鮫のように反省した者達は、この欧州水姫の行動をすごいなと感心しているのだが、まだ反省していない者達からしてみれば、勝手に現れて勝手にヒトの家を片付けて自分のモノにしようとしている侵略者である。

 

「おう、テメェらまさか、ここまでしておいて自分の家に帰れるなんて思っちゃいねぇよな」

 

 だが、それは昼目提督がすぐに釘を刺す。これだけ島を穢しておいて、破壊を厭わない戦いを仕掛けておいて、自分から片付けることもしないでおいて、いざ片付けてもらったら自分達の居場所だと主張するのは、都合が良すぎるだろうと。

 

「反省したヤツの意見は聞いてやる。だがな、反省もなく文句ばっかのクソガキ共に発言権なんて無ぇぞ。発言権のある鮫、テメェの意見は聞く。アイツらの行動、どう思うよ」

 

 反省し、後始末に全力を尽くしている鮫は、今もうみどりではなくおおわしに保護されている身。周りが反省もせずにグダグダ言っている中、疎外感を覚えつつも、間違っていたことを理解している鮫の意思は、突き刺さる視線など関係なく真っ直ぐ答えられる。

 

「あたいは、あの深海棲艦達にも住む権利があると思ってるよ。この島で生まれたってのは、あたい達と同じだし。生まれ方は違うけど」

「おう、そうだな。自然発生ってカタチで、あの島で生まれた命だ。考えようによっちゃ、ありゃあテメェらの後の原住民だ。間違っちゃいねぇ」

「確かに家を勝手に荒らされてる感じがするけど、今はもう空き家だから問題あるとは思えないかな。そんなに大事なら自分で片付けたいって言えばイイのに、それもなく片付けさせて、主義主張を言うのは間違ってると思う」

 

 改心した鮫は、ここまでわかりやすく理不尽な物言いが無くなっている。昼目提督が言いたいことを、原住民の視点で伝えてくれた。周りがそれで納得するかどうかは別だが。

 

「あたいの家、深海棲艦に使ってもらえばいいよ。同じ島で生まれたんだから、手を取り合わないとね。むしろ、あたい達こそ手伝わないといけないんじゃない?」

「そりゃあそうだな。テメェは潜水艦だったこともあって海中での作業に出突っ張りだったが、必要ならそっちに行ってもいいぜ」

「あたいの家は何も無いようなモノだから、そのまま深海棲艦の誰かに使ってもらえばいいよ。もし帰れたとしても、上手いこと一緒に住んでいけばイイし。あたい達に害は無いんでしょ? どうせ親もいないんだから、誰かと一緒に暮らした方が楽しいっしょ」

 

 どうせ親はいない。その言葉にはかなり重みがあった。だが、それを受け入れて、新たに生まれた深海棲艦を仲間として見て、共に暮らしていこうという気概に、昼目提督は満足そうに頷いた。

 

「というか、島を滅茶苦茶にした奴の仲間やってたあたい達よりも、この島で生まれて島のために動いてる深海棲艦の方が、この島を使う権利があると思う。あたい達は自分でその権利を手放しちゃったようなモンだし」

「それは否定出来ねぇな。島を壊したのはテメェらを率いていたクソムシだ。そいつの思想がまだ正しいって思うなら、片付けてる後始末屋のことをどうこう言う資格はねぇよ」

「あたいはいろいろ知って反省した。島にゴミを捨ててたのがアイツで、そのゴミを片付けてくれてるのが特異点、片付いたところをまた汚してるのがあたいらだって言われた。あたいらの方がいるだけで罪だよ今のままだと」

 

 鮫がこれだけ言っても、他のカテゴリーY達は反省の色を見せないのだから、昼目提督はその扱いに大きく差をつけている。わからない奴には鉄拳制裁。文句は言わせないし、言う資格も与えていない。だが、鮫は今や非常に待遇がいい。うみどりの炊き出しにも参加させてもらい、美味しいご飯を食べさせてもらっている。おおわしでも一人部屋を貰っており、艦娘達ともイイ関係を築くことが出来ている。

 結果として、鮫はカテゴリーY達からは裏切り者と言われているが、本人は全く気にしていない。裏切ったのではなく、この島の現状を理解し、これからやらねばならないことを把握し、実際に行動しているだけなのだから。

 

「むしろ、深海棲艦の方がいいって言ってくれるかわからないね。あたい達が先住民かもしれないけど、あのヒト達からしてみれば、あたい達こそ後から来た侵略者だよ。だからまぁ、一緒に片付けながら仲良くしては行きたいかな」

「ああ、そりゃそうだ。お互いを知らなきゃ共存なんて出来ねぇ。一方的に主義主張を押し付けるのは交渉でもなんでもねぇしな」

「だから、話が出来るならしたいってのが、あたいの考えかな。海中の方が後始末大変だから、そっちに行くことの方が多いけどさ、実は自分はここに住んでたんだよねって伝えるくらいはしてもイイと思うし。勿論、だからここは触るなとは言わないよ」

「だな。じゃあ、行きたいタイミングがあったら言え。オレから後始末屋に掛け合って、テメェの作業を陸側に換えてやる」

「助かる」

 

 カテゴリーY達は、鮫がこうして昼目提督と和やかに話しているのも気に入らない。自分達の主義主張が絶対的に正しいと思い込んでいるからこそ、目の前の現実に目を向けることが出来ていないのだ。

 

 そんな中、おおわしに来訪者が現れる。

 

「やぁ、同志マーク。ちょっと話があるんだけどいいかな」

 

 こだかのタシュケントである。艦長代理という立場ではあるが、艤装を背負って普通にここまでやってくるのだから、フットワークはかなり軽い。いつもは艦娘ながら事務仕事をしているのだが。

 

「おう、どうしたよ」

「実はあたし達、今の戦いが終わったら、この島で余生を過ごしたいと思ってるんだ。こだかの第二世代の総意だよ」

 

 ここで、新たな火種である。昼目提督はそりゃあいいと全面的に許可をするが、カテゴリーY達は面白くない。自分達の家を、この島で生まれた深海棲艦どころか、何処で生まれたかもわからない艦娘達にも使われるのだから。

 

 ただでさえ現状に文句があるのに、それに対してはすぐさま声が出た。なんでお前達に自分達の島を使わせないといけないんだと。

 対するタシュケント、カテゴリーY達に向けて、意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「なら君達も一緒に住もうじゃないか。あたし達が考えているのはあくまでも移住さ。そのために島の後始末にも参加してる。なんだか今は原住民になった深海棲艦もいるからね。そことも話をつけようとは思ってるよ。共に生きることになるんだからね。仲良くなれることはいいことさ」

 

 そんな考えに行けないことはわかっていて、あえてそう伝えたタシュケント。何もここから出ていけと言っているわけではない。共存しようと言っているだけなのだ。それの何が悪いのか、ちゃんと論理的にに語れるのなら語ってみろという挑戦状でもある。

 

「片付けもしないのに自分達の島だって主張するだけするわけだ。なら、あたし達も、深海棲艦も、この島から出て行ったとしよう。その後、君達はこの島でどう生きていくんだい? あたし達がいるから物資の提供が期待出来る。勿論、あたし達だってこの島で自給自足出来るように努力するつもりさ。深海棲艦にも、そういうことが必要だよと伝えもする。でも、君達はそんなことのやり方もわからないよね。アイツに生かしてもらっていただけなんだから。もしかして、自分達は被害者だから養ってもらうのは当たり前とか思っているのかな。まさかそこまで甘ちゃんではないと思うけど?」

 

 このタシュケントの言葉に、誰も言い返せなかった。今この島を使われることに文句を言っても、いざ自分達だけでこの島を使えと言われたら、何も出来ずに餓死して終わり。生きていくことすらままならない、何も残されていない子供である。

 ならば共存が一番望ましいだろう。それなのに、それを拒否しているのだから、タシュケントは力いっぱい見下している。

 

「まぁ、理解出来たなら考え方を改めるんだね。同志マーク、あたし達こだかの第二世代の意志は伝えたよ」

「ああ、ハルカ先輩にも伝えてるんだよな」

「勿論真っ先に伝えたさ。だから、上手いこと行くように願っててね」

 

 そして手を振っておおわしを後にする。次は島で欧州水姫達と話そうと思っているようだ。

 

 

 

 

 カテゴリーY達は、ここで少し考えさせられることになる。このタシュケントの言葉は、これまで響かなかったところに、確実に刺さった。

 




カテゴリーYのクソガキ達は、これまで養ってもらっていたから生きてこれたことに気付いていませんでした。
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