後始末屋の特異点   作:緋寺

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手付かずの森

 各所で後始末が続いていく中、学校に設置された深海棲艦発生抑制装置が起動したことで、穢れがある中でも新たに増殖する心配も無くなった。それより前に生まれてしまった深海棲艦達は、ムーサによる呼びかけで全てうみどりにまで移動してくれているため、ここからはまず何も無いと言える。

 それでも呼びかけに応じていない深海棲艦がいる可能性はあるため、後始末は探しながらの作業になる。それこそ、ラ級の時のように洞穴で留まっているという可能性だってあるのだ。その場合は哨戒機で姿を確認することも出来ないし、ムーサの声が聞こえていないなんてことも考えられる。

 

「なんかこう、島全体を探せる機械とかありゃいいんだけどな。煙幕である程度は探せるとはいえ」

「煙幕を拡げるのも、広すぎて難しいのです」

「だよな」

 

 その探索に出ているのが深雪と電。今回は人海戦術で幅広い場所を捜索したいため、いつもは一緒に行動しているグレカーレや白雲も別行動。2人一組で後始末を続けている。

 特異点組は他には出来ないこととして、煙幕を使って幅広くリサーチし、うみどり側に来ていないモノがいないかを探していた。足で稼ぐ以上に、見えないモノも見えてくる。

 

 山の方は昨日までの雨で地面が緩く、また遺体から流れ落ちたであろう体液が其処彼処に拡がってしまっている。片付けられるモノはどうにかしていくのだが、土に染み込んだモノとなるとそうはいかない。こればっかりは今は放置して、対策を考えてもらう。

 海上での後始末でもそうだが、全ての残骸を取り除いた後でなければ浄化は難しい。それもあって、本当にもう何もないということを確実にしてからでなければ、土の浄化には踏み出さないことになっている。二度手間は避けたい。

 

「とはいえ、煙幕のおかげで残ってた残骸はわかりやすいな。あ、またあったぞ」

「小さい残骸は見落としてしまうのです。ただでさえ土がゆるゆるなのに、草や木もあるので」

「だな。こういう時にあたし達が動かねぇと」

 

 小さな肉片なども隈なく回収していかないと、そこから溢れる穢れが徐々に拡がってしまう。いくら発生を抑制することに成功したからといって、それを放置するわけにはいかない。

 最終的にはその装置に頼らずとも、穢れが全くない島にしなくてはならないのだから。

 

「あー、やっぱこういうところだよな。誰も踏み入れてないようなところだ」

「なのです。落ちて転がって、雨で流されて、こっちの方まで来ちゃっているのです」

 

 山道はある程度踏み固められているため歩きやすく、その近辺も掻き分けられているおかげで踏み入りやすい。しかし、さらに鬱蒼とした場所となると、どうしても手が入っていかない。敬遠しているわけではないのだが、後回しにはされがち。

 木が邪魔、かつ草も多く生えているとなれば、その隙間にある残骸は、特異点の煙幕を使うくらいしないとぱっと見ではわからないモノだ。そこに遺体がそのまま落ちているならまだしも、指一本、目玉1つとなると、確実に見えない。

 

「こりゃあ、草むしりも必要か……?」

「かもしれないのです……ここ、誰も手入れしていないから、大変なことになっているのです」

 

 海からもあまり近くなく、山頂からは降りてきているような場所。誰かが何かをしたわけでもなく、自然が自然のまま残っている場所。ここにわざわざ遺体を投棄していることもないが、何かの間違いで遺体の一部が転がり込んでいるというのがいくらでも考えられる。

 そして、これまでこの島にいた者達は、そんなところにまで手を拡げようともしない。誰も整理しないから、草木は伸び放題、荒れ放題である。この島では林業のようなこともされていないらしい。

 

「ちょっと重点的に探すか。こっちの方に実は隠れ家みたいなところがあったりするかもしれねぇ」

「なのです。木で隠れて何も見えなかった、なんてこともあるかもしれないのです」

「それに、雨のせいで穴が出来ちまったってこともあり得るよな」

 

 これまでだってこの島には雨くらい降っていただろうから、いきなり地盤が緩んで木が倒れるなんてことはないとは思われるが、何が起きているかなんてわからない。ただでさえ今回はこの島の地下で戦っていたくらいなのだ。その時の衝撃などで、おかしくなっていても疑問にならない。

 そうして見ていくと、やはり違和感を覚えるような場所はいくつか見つかる。真っ直ぐ立っていると思われた木が少し斜めにだったり、地面がガタガタに崩れていたり。疑心暗鬼もあるだろうが、そういうところに残骸が溜まっていてもおかしくないし、むしろそういうところで深海棲艦が生まれたことで、草木や地面に影響を与えていることもある。

 

「あったぜ、木の根元。こりゃあ足の一部か」

「こっちにもあったのです。骨なのです」

 

 やはり見つかる残骸。後始末屋が手を抜いているわけではなくても、そうやって見つかっていく。

 

「こりゃあ……まだまだ出てくるぞ」

 

 鬱蒼とした場所に煙幕を流し込むと、出るわ出るわ。草に紛れ込んで見えない残骸が散らばり、まるで絨毯の上に米をばら撒いてしまったかのように転々としている。掃除機があれば一掃出来るかもしれないが、モノがモノ、場所が場所なので、そういうモノも使えない。

 雨で流される、雨のおかげで地面から掘り返される、いろいろと考えられるが、総じてこれまでの杜撰な管理による弊害であることは間違いない。

 

「雑には扱えないし、時間をかけてやるしかねぇな」

「もう少し人数がいてもいいかもなのです」

「一度戻って誰か呼んでくるか」

「なのです」

 

 ここは重点的にやるべきだということで、一度戻って援軍を呼ぶことにした。それまでに煙幕を使ってすぐにでも回収しないといけないモノがないかを確認して。

 

 

 

 

 ガサガサと音を立てながら、森の中から出ると、そこは割と開けた場所。海に近いわけではないが、海を一望出来るような絶景。しかし、海側からこちらに来ようとはなかなか思えない。何故なら、そこが岩場になっていたからである。

 艦娘であってもここから上陸しようとは思わない岩礁帯。自然と敬遠してしまいがちな場所に出てしまい、深雪と電は妙に納得した。

 

「こんな場所だから誰も手を入れないわな」

「なのです。上からも下からも誰も入らないのです。危ないですし」

「座礁しても困るしな……っと、ありゃあ他の後始末屋の艦か?」

 

 そこから見えたのは、海上清掃艦みずなぎ。梨田提督と玉波が率いる、別の後始末屋。あちらも作業をしやすいように艦の位置を移動させていたようで、それがたまたまこの近くに来ていたようである。

 そちらの方にも作業をしている者達が見え、深雪と電が突然山の方から姿を現したことで少し驚いていた。岩礁帯も後始末の対象にしていたようで、それなりに近くにいる者もいる。

 

「おや、深雪さんと電さん、そんなところから出てくるとは」

 

 などとやってきたのは、作業中だった玉波。こういう時は、秘書艦も率先して作業をしているらしい。それがみずなぎのやり方。

 

「ああ、山の方にも残骸がヤバい数あるんだよ。しかも、草とかで見づらくなってやがる」

「土を後回しにしても、だんだん溜まってきているのです」

「なるほど、それは厳しいですね。では、我々の部隊からそちらも後始末していきましょう。すぐに用意します」

 

 そう言うと玉波は、無線で艦の方へと連絡。

 

「扇、少し作業を変更します。島の上も相当あるようです。ええ、岩礁帯から上陸、森の中に散らばった残骸を、人海戦術で一掃します。幸い、深雪さんと電さんと合流しましたので、レクチャーを受けながら進めますよ。皆さん、少し危ないかもしれませんが、ここから上陸します」

 

 流石は秘書艦、行動が早い。深雪も電も、その手際の良さに感心していた。玉波の仲間達も、岩礁帯を器用に移動し、少し切り立った場所でも軽く乗り越え、深雪達のいる陸に上がってくる。

 

「お二人とも、少し案内してもらえませんか?」

「おう、任せろ。つっても、煙幕散らしてるところは確認してる場所だ」

「そこにあるモノは全部集めているのです。見落としはないのです」

「なるほどわかりやすい。では、煙幕のないところを行けばいいわけですね。皆さん、煙幕のない場所を徹底的に探してください」

 

 指示も頼もしく、統率が行き届いていることがよくわかる。誰も文句を言うことなく、むしろ笑顔で作業を進めるほどだった。

 

 深雪も電も、他の後始末屋がどのように作業をしているかなんて知らない。なので、みずなぎのやり方をこうして見るのは新鮮だった。自由に動き回りながら自己判断でクリアリングしていくうみどりとは少々違う、複数人を一箇所に集めて一気に片付けていくスタイル。それはそれでまた違った効率の良さを見せられる。

 

「……どうかされました?」

 

 だが、深雪と電には違った感情もあった。それは、玉波の外見である。駆逐艦玉波としては何か変わっているわけではないのだが、2人にはその姿が別のモノを想起させるのだ。

 

「いや、めっちゃ似てるなって思って」

「似てる?」

「はい、うみどりで保護された深海棲艦にそっくりなのです」

 

 それを聞いた玉波は、まさかと目を丸くする。

 

「深海玉棲姫が発見されたのですか?」

「ああ、確かそんな名前だ」

「保護されて、今は何を?」

「アイドルを目指しているのです」

 

 流石に噴き出した。自分に似たような外見の深海棲艦が、事もあろうかアイドル活動である。侮辱しているというわけではなく、単純に想像していなかった言葉に咽せてしまっていた。

 

「んんっ、あ、アイドルですか。そ、それは流石に考えていませんでしたね……」

「なんでも、妖精さんを楽しませることで、この島で深海棲艦が生まれなくなるらしいんだ」

「これ以上増えたら、うみどりは満員になってしまうのです。なので、そういう装置を使って、妖精さんに楽しんでもらうのです」

「玉棲姫が那珂ちゃんのライブ見て興味持ったみたいでさ、アイドルやってみるって話になったらしい」

 

 情報量が多すぎて、玉波は混乱している。だが、納得せざるを得なかった。

 

「……また今度、会わせてください。一度話をしておきたいモノです」

「ああ、またうみどりに来てくれよな。面白いから」

「聞いているだけで面白いですよ」

 

 玉波は複雑ではあるモノの、笑いを堪えるような表情になっていた。

 

 

 

 

 みずなぎの助力で、鬱蒼とした森の中の後始末がスムーズに進むようになる。これでさらに安全が確保されていくだろう。

 




玉波から玉棲姫の話を聞いた時、梨田提督に電流走る
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