深雪と電が煙幕を撒いたことで、山道でも獣道でも無い、まだ踏み固められてもいないような鬱蒼とした森の中にも残骸が散らばってしまっていることが判明。それを探しながら移動しているうちに、後始末屋みずなぎの活動範囲に入ったことで、そちらが陸に上がって森の片付けを進めることとなった。
深雪と電は、みずなぎの面々と協力して、引き続き森の中に煙幕を撒きながらの作業を続ける。みずなぎを信用していないわけではなく、抑制装置起動前に生まれていた深海棲艦が発見された時の対処をするためである。
こうして人の手が加わっていない森の中にまで入っての作業が始まったことで、島の安全性はより高くなっていく。そこでそろそろ考えなくてはならないのが、地下施設の
「安全は確保されたと見ていいと思うのだけれど、どうかしら」
伊豆提督もそれは常々思っていた。この島にある最も危険なモノ。その撤去が本来なら最優先事項なのだが、島が危険ならば処理班を招致しても作業がなかなか出来ない。
だが、今ならおおよそ大丈夫であろう。穢れが深刻ではあるが、深海棲艦の発生も食い止められ、島の中も危険な残骸などは片付けられ始めている。作業と並行して、そちらも進められる段階に入ったと言えるだろう。
「ええ、私ももう大丈夫だと思うわ。それに、特機1号にこれ以上負担をかけるのもね」
「そうよね。あの子が緊張しているかどうかはわからないとはいえ、四六時中それを持ち続けているのも大変でしょう。なら、ここでやってしまうのもいいわよね」
イリスも同意したことで、ついに始まる。
それが、水爆の撤去だ。
阿手の最後の忘れ形見。自分の身を守るための、最悪な交渉手段。逃げ切れさえすれば、特異点ごと島を破壊してしまう悪意の塊。
地下施設に設置された、複数個の水爆。爆発したら最後、この島は跡形もなく消し飛びそうだし、そうなったとしたらこの海域は穢れどころではない深刻な汚染に包まれる。後始末なんて言っていられない現場の出来上がり。
「ということで、そろそろ可能かと思います。処理班を寄越してもらえると助かります」
『うむ。時間もあったからのう。もう準備はしておる。有道君の鎮守府に待機させておったよ。と言っても、今から2日前ほどじゃがな』
その件を瀬石元帥に相談したところ、処理班は既に編成済であり、いつでも行けるように最も近い鎮守府である有道鎮守府に待機させているという。有道鎮守府の食糧集めにも積極的に参加していたらしく、大本営直属の艦娘ではあるが、もう大分馴染んでいるとのこと。
「それなら、呼べばもう来てもらえるということですね」
『うむ、今日の今日で作業が始められるじゃろ』
「ありがとうございます。早速話をつけたいと思います」
ここまではズルズルと難しいところがいくつも発生したモノの、決まってしまえばトントン拍子。前以て準備をしてくれていたからこそ、高速で物事が進められる。
今回ばかりは後始末屋でも対処不可能な水爆の処理だ。そもそもずっとそこにあるというだけでもヒヤヒヤさせられるというのに、それの処理が出来ないというのも恐ろしい話。今でこそ特異点の煙幕の効果があるとはいえ、根本的な問題が解決しないと、いつ爆発するかもわからない。
それが失われれば、後始末はより効率よく進められるだろう。水爆を気にする必要が無くなるのだから。
『これでようやく、決着になるかのう』
「そう、ですね。一息つけるというわけではないですが、少し落ち着くことになるかと思います」
『そうなったら、一度休むことも考えておくんじゃな。1日作業から離れてもええ。後始末も1週間続いとるんけじゃし。とは言っても、軍港のように羽を伸ばすようなことは出来んが』
「そうですね。みんなも疲れているでしょう。少し休む時間があってもいいでしょうね。今はうみねことみずなぎもいます。交替しながら休みを入れてもいいでしょう」
『うむ。任せきりですまんの』
「いえいえ、これが後始末屋ですから」
水爆が撤去されれば、大急ぎでどうにかしなくてはならないことは無くなる。ならば、休息の時間を作ってもいいだろう。艦内でのんびりというだけではあるが、あるのと無いのとでは大違いだ。
作業が続く中、有道鎮守府に連絡を入れたことで、水爆の処理班がすぐに派遣されてくる。
同じく大本営からの援軍であった熊野丸と山汐丸は、久しぶりということで、その到着を待ち構えていた。
「来たか!」
「来たのでありますね。久方ぶりであります」
「それだけ長かったからな」
その姿が見えたようで、強く拳を突き上げる熊野丸。それに応じるかのように、その艦娘達は手を振ったり、同じように拳を上げたりしていた。
水爆処理班は3人。あまり人数が多くてもやりにくく、少ないとサポートがしにくい。そのため、瀬石元帥が精鋭として選択した。
「処理班として遣わされました、あきつ丸であります」
「同じく、神州丸。配備につきます」
「まるゆ、です!」
熊野丸や山汐丸と同様に、少々特殊な陸軍の艦娘。特殊であるが故に、いざという時の技能が叩き込まれているようで、今回もその『いざ』が来てしまったが故に派遣されてきた。
「うみどりの伊豆遥よ。よく来てくれたわ、本当に助かる」
「元帥閣下の指示とはいえ、水爆処理とはまた、海戦とは思えない作業でありますな。でも、お任せいただきたい。自分達が確実に取り払いましょう」
「こいつらの腕は俺も保証する。何かにつけて器用だ」
熊野丸に太鼓判を押され、あきつ丸はニコニコしながらも少し謙虚。煽てないでほしいなどと言いながらもご満悦。
神州丸は表情が乏しいモノの、今回の作業には強い意気込みを持っているようで、やる気満々である。
そしてまるゆは、潜水艦ではあるのだが、地上での任務が多いということで、今回の作業に大抜擢。あきつ丸と神州丸を近くでサポートし、作業を円滑に進めていく。
「あきつ丸、我々も必要か?」
「念の為、来てくれると助かるのであります。自分の身は自分で守れるとはいえ、なるべく目が欲しいところでありますからな」
「わかった。俺と山汐丸も共に行こう」
陸軍部隊が編成され、水爆の処理へと向かうことになった。伊豆提督も、そこは慣れた者同士で組んだ方がやりやすいだろうと許可をする。
「じゃあ早速お願い出来るかしら。案内はつけるわ」
「お任せください。ただその前にいくつか質問をさせていただいても?」
「ええ、何でも聞いてちょうだい」
「工廠が何故炊き出し会場に? というか、噂には聞いておりましたが、深海棲艦が増えすぎなのでは?」
ごもっともな質問に、伊豆提督は苦笑するしかなかった。
地下施設までの案内役は神風が買って出た。最後の敵まで全て見てきており、その経路も熟知している。
「ほう……なかなかの業物……それで敵を斬るのでありますか」
「ええ、本来なら使う機会は無いのだけれど、今回はどんな戦いでも重宝したわ」
神風が地上戦可能、かつ帯刀していることに食いついたのは神州丸。陸軍艦娘だからと言って、神風のような戦い方をするわけでは無いのだが、単純に趣味や興味で神風と仲良くなろうとしているようだ。
「こうして歩いているだけでも、この島が異様であることがわかるでありますなぁ。無人の集落であっても、何か空気が違う」
「なんだか怖い雰囲気ですねぇ……」
あきつ丸は歩きながら周りを見ているのだが、まるゆは少し怯えているようだ。
そんなまるゆは、機材を運んでいる。専門外である神風は、それが何に使われるかはよくわからない。だが、いくつかは素人が見てもわかるモノ。
「それ、ドローンか何か?」
「はい、天井に括り付けられていると聞いておりました故、手が届かぬ場所でも確実に処理出来るように持参したのであります」
「うん、大正解ね。どうやって設置したかはわからないけど、全部が高い天井にあるのよ」
「堪ったモノではありませんな。それを使うことが悪意の塊であるというのに、設置場所も輪をかけて陰湿であります。考えた者の考えを疑うのであります」
初見にもボロクソに言われることに苦笑しつつ、神風はそれに同意した。
水爆処理班が持ってきたのは、非常に高性能なドローン。それにより、手が届かない場所にある爆弾も処理しようという考え。
ここに3人いるのも、操縦役、作業役、補佐役と取り揃え、その制御を完璧なモノにするためだ。3人が3人、全てドローンに注ぎ込まれるのだから、その間の周辺警戒の目は多いに越したことはない。熊野丸と山汐丸、そして神風の3人が、処理を見守りながらも何事もないように警戒する。その流れ。
「ちなみになのだが、そこは充分な作業スペースはあるのだろうか。あと、見ての通りここまで荷台を使って運んできているわけだが、そこまでこのままいけるのだろうか」
神州丸の質問はごもっともであるが、神風がそこは保証する。
「大丈夫よ。少し遠回りになるけれど、直通のエレベーターがあるの。敵の施設をそのまま使うのは気が引けたけど、戦いが終わった後の戻りにも使っているし、調査隊の白雪がちゃんと制御してくれているわ」
「なるほど、あの素晴らしいハッカーが。ならば安心であります」
白雪の名前が出たことで、そこは問題ないと判断出来たようだ。大本営でも、白雪の腕前はよく理解されているようである。
ついに始まる水爆処理。本日中の対処が望ましいが、果たして。
ついに水爆処理が始まります。安全確保が並行して行われていますが、今ならば新たに深海棲艦が現れるということもないので、むしろ今がその時。