後始末屋の特異点   作:緋寺

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得られる安心

 ついに始まった地下施設の水爆処理。まずはガワの部分を取り外し、中身がどのようになっているかを確認したところ、10個の水爆全てが本物。ダミーは1つもなく、本当に全てがとんでもない威力を持つ爆弾そのものであった。

 ただし、全てが同じ構造であり、1つ解体の手段さえわかってしまえば、同じことをただただ繰り返すだけで終われる。とはいえ、まずはその解体方法を編み出す必要性があるのだが。

 

「さて、ここからであります。何処から攻めましょうな」

「プライマリを先に取り外したいが…………ん、何か見慣れない装置が接続されているな」

 

 神州丸が発見した、仕込まれた原爆部分に接続されている見慣れない装置。構造的に間違いなく余計なことをしているそれに、処理班の面々は思い当たるモノが存在しない。

 だが、ここでの戦いを全て見ている神風には、うみどりでは既に伝わっているその手段をすぐさま知ることが出来る。

 

「それ、心音センサじゃないかしら。阿手に繋がっていて、死んだら爆発してみんな巻き込むように仕込まれてたのよ。今は取り外して、うみどり側で心音を送り続けてるから大丈夫なんだけど」

「なんと……また用意周到で狡猾なことを……。これは取り外し方次第でドカンでありますな……」

 

 神風からの説明を受け、神州丸は少し考える。断線させたらその時点で別のセンサが反応して起爆してしまう可能性を。

 そうなると、心音センサはそのままに、原爆部分を纏めて外した方がいいと判断した。

 

「よし、ではまず、丸ごと外す」

「了解であります。もう少し近付けるでありますよ」

 

 ドローンが慎重に水爆に近付く。勢いよく行ってガツンとぶつかり、そのまま事故で起爆なんてことがあったら目も当てられない。あきつ丸の操縦により、ゆっくりゆっくりと近付いて、ギリギリの位置に待機したところで、神州丸がアームを操縦して慎重に水爆に触れていく。

 天井にビス止めされているプライマリ部分をゆっくりゆっくりと外し、落とさないようにしっかりと支えた。それ相応の重さがあるため、外し切った時にズンとドローンが揺れるが、だからといって墜落するようなことはない。

 

「……ふぅ、まずは外すことが出来たのであります。あきつ丸、ここまで運んでくれるか」

「了解であります。慎重に、慎重に……」

 

 それを雑に扱うわけにはいかない。外された1つを、ゆっくりと地上にまで運んでくる。外されたことで起爆するということはなかったのはまだ良かった方だろう。流石にそこまでしっかりとしたシステムにはしていなかったようだ。

 いくら水爆を仕掛けたとしても、それがメンテナンス出来なければ意味はないし、ここで特異点に難なく勝利出来ていたならば、水爆自体もお役御免となる。いくら阿手であっても、身近にこんな危険な爆発物を置いた状態で常に生活するようなことはしないだろう。ならば、外すことも考えているはずだ。

 

「……外すこと考えていたかしらねぇ……アレが」

「そうなのか?」

「ええ、アレ、これだけのことしでかしておいて、すごく浅慮だったもの」

 

 神風は直に阿手を見ているため、そこまで配慮の行き届いた行動をするかは甚だ疑問ではあったのだが、ひとまずは上手く行っているということで周辺警戒から意識は外さなかった。

 

「ふむ……手元に持ってきてしまえば、構造はシンプルでありますな。センサの類を全て確認しようか。まるゆ、お前も見てくれ」

「はい、確認しますね」

 

 ここで補佐役のまるゆの目も使い、原爆部分の構成を確認し始めた。心音センサが機能したまま、爆発する部分だけを無力化して仕舞えば、センサがそのスイッチをオンにしてしまっても、爆発することは無くなる。

 全てが纏めてオンになるとするならば、ここにある10個の水爆全てから爆発する危険性を取り除けば、この解体は完了となるだろう。

 

「……よし、少しずつだが、進めていくぞ」

「はいっ、まるゆも頑張ります!」

 

 慎重な、手に汗握る作業が始まる。

 

 

 

 

 原爆部分を触り始めてから、おおよそ30分。戦闘よりも重い空気の中、静かに集中しながら作業を進めていた。外殻はわかりやすく深海棲艦の艤装に使われている金属。それを衝撃をなるべく与えないように取り外し、内側から見えてきたのは、青白くチラつく光。そして、共に備え付けられた起爆装置と思われる金属。

 

「……ここまで来たか……」

「外殻が割と難しいカタチしてましたからね……蓋もやたら硬いし重たいし……」

「艤装のパワーアシストが無ければ、開くことも出来なかったくらいの硬さでしたな。艦娘の処理班だからどうにかなったと言わざるをえませんな」

「ああ、本当に」

 

 あとは起爆装置を外せばひとまずの安心は得られる。神州丸はそこに慎重に手を入れていき、中を確認していく。

 

「起爆装置に仕掛けはないようだ。素直に外すことは出来ると思う」

「それでも、ゆっくりゆっくりですよ」

「わかっている。ここで焦る理由などない。それに……」

 

 天井を見れば、同じモノがまだ9個残っているのだ。この解体はまだまだ始まったに過ぎない。まるゆもこれにはうわっと顔を顰める。

 

「これが一歩目だ。焦っていては、先が思いやられる」

「で、ですね……」

 

 慎重に、慎重に、他の装置との干渉もしないように、起爆装置を外していく。ビスを外し、接続を上手く避け、そして、起爆部分だけをゆっくりと引き抜いた。

 

「……ふぅ……これで、ようやく1つ目であります」

 

 張り詰めていた空気が少しだけ弛緩する。10個のうちの1つ目だったとしても、それが今、危険物では無くなったということに、ほんの少しだけ安心した。

 時間はかかるかもしれないが、それでもしっかりと前に進むことが出来ている。

 

「では次に参ろうか。あきつ丸、2つ目を外しに向かおう」

「了解であります。幸い、接続方法は皆同じ様子。1つ目と同じ方法で全てが可能のようでありますよ」

「そうか、ならば同じことを繰り返すだけでよさそうだ。疲れるし時間はかかるが、逆に言えば、時間があればいくらでも解体が可能だということ。次々と行こう」

 

 息を吐いたのも束の間、次の解体を始める。この1日で、水爆を全て解体することが目的なのだから、休憩は必要だが止まってばかりではいられない。

 

 

 

 

 それから、1つにつきおおよそ30分。9つで4時間半という大きな時間をかけて、確実な解体を続けていた。合間合間に食事などの小休憩を挟みつつ、集中力を切らさないように、作業を続け、そして──

 

「最後の1つ……やはり構造は全く一緒であります」

「いやぁ、1つ1つがシステム違うとかでなくて良かったでありますな。それだともっと時間がかかっていたでありますよ」

「違う可能性があるから毎度毎度調べてはいましたけどね……」

 

 時間がかかっていたのはそのせい。全て同じかもしれないが、一部違うとか、一部はより悪意の強い罠が仕掛けられているとか、そういったことの可能性を考えていたからだ。

 だが、あちらも流石に水爆をここまでキッチリ解体される事態にまではいかないと考えていたか、構造はそのものは全てが同じである。

 

 それともう一つ。解体している神州丸や、それを手伝っているあきつ丸とまるゆには気付けない要因が、今回の解体の成功に関与していた。

 それが、特異点の煙幕である。一度リモコンでの爆発を食い止めるために、阿手の完全否定の煙幕を吹き込まれたことで、突然の起爆などが抑え込まれていたのだ。そうでなければ、もしかしたらこの解体中に起爆装置が作動していた可能性も無くはない。

 

「……よし、完了だ。全ての起爆装置の解除は終わり、爆発の可能性は極限まで失われた。皆、ご苦労であった」

 

 神州丸がそう告げることで、ここで大きく息を吐いた。ついに終わったと全員が肩を撫で下ろす。

 

「まだ安心は出来ないでありますよ。セカンダリはまだ天井に吊るされたままでありますからな。今日のところはコレで終わりとして、明日、またあちらを片付ける方向で進めることになりましょう。流石にここから全部終わらせるのは疲労もピークでありますからな」

 

 起爆の心配は無くなっても、システムが全て失われたわけではない。ここにはまだ、ある意味本体が残っているようなモノ。それを取り除いて、初めて解体は完全に終了となる。

 気が抜けない作業ではあるが、大きな心配が無くなっただけでも、安心感は段違いである。

 

「一度戻り、解体した原爆を運ぼう。ここにあっても困る」

「ですか。うみどりで保管でよろしいでありますか?」

「そうせざるを得ないでしょ」

 

 超危険物も、大本営に運んでもらうまでは、うみどりで保管する以外に選択肢はない。もしくは、有道鎮守府に運び込むか。

 どちらにせよ、対処は大本営に任せられるため、それまでは大切に保管しなくてはならない。それこそ、万が一爆発させたら、うみどりの終わりなのだ。

 

 神風も、流石にこれは伊豆提督に事前に許可はとってある。そんな危険物、持っていたくはないのだが、これもまた後始末の一環だ。早く回収してもらえることを祈り、ひとまずはこれらを地上に持っていくことになる。

 

 

 

 

 これで一旦の安心は得られた。外はもう暗くなりつつあるが、時間をかけた甲斐がある進歩である。




少しの時間だけでも、うみどり、もしくは有道鎮守府は、核保有というとんでもないモノになります。
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