後始末屋の特異点   作:緋寺

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まだまだ続く

 後始末七日目は、ヘトヘトで帰ってくる者が多かった。

 深雪と電がその筆頭であり、みずなぎの面々と共に獣道すらない鬱蒼とした森を片っ端から後始末していたことで、脚は土でドロドロ、木々に引っ掛けてしまったのか、腕などにも小さな傷がついてしまっている。穢れ対策に全身を覆うインナーを身につけていても、泥などは回避出来ないもの。

 そして、それに輪をかけて疲労感を見せているのが、地下施設に入って水爆を解体していた陸軍チームと神風である。作業員である3人は特に疲れており、荷物を持って歩く足も、フラつくまでは行かずとも、かなり重い足取りではあった。

 

「帰投したであります。事前にお伝えしていた、水爆の核となるプライマリを全て解体してきたのであります」

 

 現場から持ち出されてのは、10個の危険物。勿論、誰かの害にならないように核の部分は専用のケースに入れて、放射能漏れを防いた状態での持ち込みである。

 

「こちらは、全ての作業が終わったら持ち帰らせていただきます故、短期間ではありますが、保管していただきたいのであります」

「ええ、わかったわ。それにしても……危険性は薄いにしても、原爆の材料なのよね……。これまで長く後始末を続けてきたけれど、こんなモノを艦に置くことになるなんて思いもしなかったわ」

 

 主任含めた妖精さんの手で、丁重に扱われながら奥に運ばれていく。誰も近付きたくないだろうが、何かの間違いで近付かなくてもいいような、立ち入り禁止区域に置いておくのが手っ取り早い。今はクロトの持ち場として供養の場となっているが、さらにそことは別の場所へ。

 

「さっきのが、あのクソが仕掛けた水爆なのか?」

 

 疲れた顔だが興味を持った深雪があきつ丸に話しかける。

 

「ええ、アレが取り除かれたので、水爆としての大規模な破壊は防ぐことが出来たのであります。そして、それ自体もまた爆弾。そちらも神州丸が解体したので、爆発という危険性は失われたのでありますよ」

「そっか、そっかー。それなら安心だぜ」

「とはいえ、アレ自体が放射能を帯びているモノですから、近付いてはいけません。艦娘ならまだマシですが、人間にはよろしくないモノですからね。対策はしてありますが、万が一があっては困ります故」

「そんな危険物なのかよ……なんつーモン作りやがったんだ」

 

 解体が終わったために安心は出来るのだが、島そのものを消し飛ばしかねない爆発を引き起こす爆弾を大量に置いていたという事実に、深雪は改めて溜息を吐いた。

 

「それはそうと、初めましてでありますな。自分、あきつ丸であります。こちらは同じく処理班の神州丸とまるゆ。明日までと短い間ではありますが、よろしくお願いするのであります」

「ああ、よろしくな。んで、ありがとな。あたし達には出来ねぇことやってくれて。マジで助かったぜ」

「なんのこれしき。我々はそのためにここに来たのであります。適材適所、我々にも出来ないことはあるのですから、そちらはそちらに任せているのであります」

 

 初対面でも和やかに話せている辺り、あきつ丸のコミュ力もかなり高めである。

 相手が特異点であることは充分に理解しているが、そんなこと関係ない、こうして共に作業をする存在として対等に扱っているからこそ、恐れもなければ変に崇め奉るようなこともない。互いに敬意を持ち、互いの良さを認め合う。

 

「ハルカちゃん、みずなぎのみんなと森の中を大体掃除出来たぜ。全然手入れされてなかったから、木も草も酷いことになってた」

「隙間に残骸とかが流れていってしまっていて、大変なことになっていたのです。でも、大分片付いたかと思うのです」

「そうなのね、みずなぎからも連絡を貰ってるわ。最初に気付いてくれてありがとう2人とも。現場判断でみずなぎと連携したのもいい判断よ」

 

 玉波から梨田提督に作業の件が行き、そこからさらに伊豆提督の方へ連絡が行っていたようで、深雪達が既にそちらと組んで作業をしていたことは知っていた。事前に連絡が無かったことも、現場で的確な判断が出来たということで、何も問題は無い。それによって、いち早く作業を進めることが出来ているのだから。

 

「島に散らばる残骸は、まだまだありそうよね……うみねこからも連絡が来てるのよ」

「そうなのか?」

「ええ。あちらはあちらでまた別方向から攻めてくれてるみたいなんだけど、やっぱり全方位に散らばっちゃってるみたいで。昨日の雨のせいで少し抉れた場所があるらしいんだけれど、そこから埋められていた亡骸がいくつか出てきたんだとか……」

 

 深雪は思わずうえっと舌を出した。ただ置いておくだけでなく、土葬をした亡骸が露わになってしまったということは、それだけの犠牲者がここで酷い目に遭っているということに他ならない。

 その亡骸はもう肉を残しておらず骨だけだったようだが、むしろそれが長い年月残酷なことをやり続けた証左にもなってしまっている。

 

「浅いところなら掘り返す必要も出てきたかもしれないわね……でも、何処に埋めたかとかがわかればいいんだけれど。手当たり次第に掘り返すのは流石にね」

「だよなぁ。あ、調査隊のところにいる阿手の側近とかに聞けばいいんじゃね?」

「そうね。マークちゃんも早速尋問してるらしいわ」

 

 阿手は死んでいるが、阿手の側近である飛行場棲姫と重巡新棲姫は、力を失った状態で調査隊の捕虜として捕まっている。利用されて未だ反省のない子供達とは違い、大人で阿手に従っていた者なのだから、より深いところまで情報を持っていてもおかしくはないだろう。

 その尋問がどういうモノなのかはあえて聞かないでおいている。それこそ、相手が相手なので、非人道的なこともしているかもしれない。ただし、相手は自ら人の道を外れたモノなので、人権なんて関係なく、やられても文句を言わせるつもりはないようである。伊豆提督も今回ばかりは見て見ぬふり。

 

「後始末はまだまだ続くわ。安全にはなってきているけれどね」

「だよなぁ……こんなデカい島をまるまる後始末なんて初めてだぜ」

「残念ながら、アタシも初めてなの。長い歴史の中でも、ここまでのことをやるのは本当に初めて。全後始末屋が結集して片付けるだなんて、後にも先にもここくらいだと思うわ」

 

 伊豆提督もこの事態には溜息しか出ない。その上で、今だけは解体後とはいえ核を保有するという前代未聞の状況である。ストレスはとんでもないことになっているのは間違いない。

 

「この水爆の処理が終わったら、一度休みの時間を取ろうと思うわ。ずっと作業しっぱなしだもの。そろそろメンタル面でも疲労が溜まってきているわよね。だから、うみどりでの休息もいいし、少し遠出して有道ちゃんのところに行ってみてもいいわ。ともかく、しっかり心身共に休みましょう。幸い、今は別の後始末屋もいてくれるわけだからね」

「お、マジで。休み貰えるのはありがてぇや」

 

 予期せぬ休みの話が出て、深雪と電は小さく喜んだ。後始末が終わるまでは働き通すのかとばかり思っていたこともあり、途中で休息のタイミングが来るなんて考えていなかったくらいである。

 ワーカホリックというわけではないのだが、現場の状況が状況なだけに、休んでいる暇なんてないと思っていた。だが、今ならば深海棲艦の発生を抑制することも出来た上で、最も危険だった水爆の撤去にも目処がついている。むしろ、今休まないと休めないくらいだろう。

 

「島の穢れは、一朝一夕では無くならないくらい根深いモノになっているわ。それが無くなるまで後始末を続けるってなったら、ここに何ヶ月も、下手したら何年もいなくちゃいけなくなるわ。これはもう、後始末屋だけの問題じゃなくなってる。そこからどう進めていくかはこちらで考えているんだけれど、ここに住むと言っている子達の力も借りるつもりよ」

「ここに住む……って、ここで生まれた深海棲艦達のことか」

「ええ。あの子達はここで生まれた特殊な深海棲艦。通常の個体とは考え方が違うんだもの。あの子達だって、危ない状態で生活したくないでしょうしね」

 

 欧州水姫を筆頭とした、深海棲艦原住民達にも、手伝ってもらう方向で話を進める予定である。むしろ、それもしないで居座られるのと困るというのもあるのだが。

 

「そこはおいおい話していくつもりよ。今日も今日とて、すっごい働いてくれちゃって。集落の方の家の片付けが、すごい速さで進んだくらいだもの」

「うお、マジかよ。そこに自分達で暮らすためだっけか」

「雨露を凌げる場所が欲しいみたいだからね。それに、この島を統治する者として動くんだって」

 

 欧州水姫はやはり、この島の王としての誇りで動いている。仲間達に平穏を、余計な争いも無いように、自ら動いて王としての威厳を見せる。だからだろう、疲れ知らずかと思えるほどに、仲間を扇動するように働き続けているようだ。

 

「そりゃあすげぇや。最強艦隊とか言った時は何考えてんだろうと思ってたけど、仲間のことを考えて動いてるなら、まだ信用が出来るってもんだぜ」

「ハッハハ、イツデモ我ガ最強艦隊ヘノ出向、待ッテイルゾ特異点!」

「ぎゃあ!?」

 

 話しているうちに後ろに立っていた欧州水姫に悲鳴を上げる深雪。電も声こそ上げなかったが、心臓が口から飛び出るのではというくらいに驚いていた。

 

「サァ、今日ノ作業ハ終ワリダ! 皆ノ者、食事ヲ摂リ、明日ヘノ英気ヲ養ウノダ!」

 

 わぁっと声を上げる深海棲艦達。食事に関してはセレス頼りではあるのだが、それでもそれによって士気が上がっているのだから、セレスとしても楽しいモノのようである。

 今日は炊き出しの定番とも言えそうな豚汁を振る舞い、深海棲艦達はそれに舌鼓を打っていた。これだけ上手く統率出来ており、かつ士気が高いのならば、欧州水姫を王とした組織的なところも、上手く行っていると言えるだろう。

 

「作業が早く終わるのはいいことよ、うん、いいこと」

「だ、な。うん」

 

 

 

 

 後始末は続く。だが、いろいろと目星はついてきていた。

 




後始末はまだ終わりません。でも、戦力は増え、危険物も取り除かれ、後顧の憂いも徐々に無くなってきているので、終わりが見えていなくても、気は楽になってきていますね。
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