後始末8日目。1週間を越え、まだまだ後始末が続くものの、島の未来に視野を向け始めている。死の島となってしまったこの場所を、新たな生活を送る島へと生まれ変わらせ、この戦いが終わった後の憩いの場へとしようという計画。その中心となりそうなのが、こだかのタシュケントと、生まれた深海棲艦の代表となっている欧州水姫だ。
この2人は昨晩のうちに同盟を締結しており、戦いが終わった後はこの島で互いに助け合って共存することを約束した。本来ならば敵同士となり得る艦娘と深海棲艦の組み合わせなのだが、種族など関係ない。穏やかな余生のため、生まれ故郷を平和にするため、この島を共に片付けていくこととなる。
「私もそれは悪いことではないと思いますよ」
その件を翌朝に聞くことになったのは丹陽である。後始末屋にいる、たった一人の第一世代。誰よりも年長者であり、誰よりも知識がある、しかし誰よりも老朽化しており、戦闘すら参加出来ない存在。
そんな丹陽が残り少ない余生を過ごすのは何処がいいかと尋ねられたら、この島でもいいのではと考えた。阿手が穢しに穢した島ではあるが、その痕跡を消し去るために、この島の上を陣取り、後始末をしていく。
阿手が勝手にやってことを片付けるというのは気に入らない部分もあるようだが、存在を自分の手で無かったことにしていくのだから、まだ丹陽的にも許せることのようである。
「この島の後始末は、ちょっとやそっとじゃあ終わりません。誰かがここに住んで、ずっと見守る必要があるでしょう。ただでさえ、定期的に妖精さんに楽しんでもらわなければなりませんし」
「あの学校のヤツだっけか」
「はい。それを管理するヒトも必要ですしね。明石さんもこの島で余生を過ごす側に傾くと思います。あの人はどちらかと言えば、その学校のシステムのメンテナンスの方が重要だと考えるでしょうけど」
島の管理はどうしても必要だ。誰かがそれを担わなくてはならない。システムがあるのなら尚更である。丹陽はそれを引き受けようと言っている。
いろいろ気に食わないところもあるだろうが、少なくともその原因となり得る者は死んでいるのだから問題はない。この島の穢れは、阿手の最後の痕跡と言えるのだから、それを消し去ることで戦えなかったことで発散し切れなかった苛立ちを晴らそうという算段でもある。
「これといった理由がないとか、どうしても行きたいという場所がないのなら、純粋種はここで骨を埋めるというのもアリでしょう。私はここで落ち着けるかどうかはわかりませんが、ここにある痕跡という痕跡を無くしたいというのはあります。私の生涯があとどれだけあるかはわかりませんが、この島の後始末に費やすというのも、普通にアリかなとは思ってたりするんですよ」
「お前がそれでいいってなら、あたしは何も言わねぇよ。つっても、その時が来るのはもうちょい先になると思うけどな」
「そうですね。まだ戦いは終わってはいません。といっても、私はうみどりで介護されているだけのおばあちゃんなので、座して待つしかないんですけどね。タシュケントさんの方が余程みんなを上手く纏めていますよ」
だから自分は隠居しますねとにこやかに話す丹陽。実際、丹陽はここから先、戦いに出ることはない。丹陽自身、
「それにしてはお前は存在感ありすぎなんだよ。何が隠居だ。事あるごとにヒトの後ろ取ってくるだろうに」
「それはおばあちゃんの趣味ですので」
「悪趣味にも程があるだろ」
こうして話していられるうちは、まだまだ現役ということだろう。丹陽は倒れない。生かされているのかもしれないが、今もまだ前向きだ。
そんな丹陽が、何を思ったか、久しぶりにうみどりから出たいと言い出した。というのも、タシュケントが扇動している島で余生を過ごす件について、作業をしている第二世代達と話がしたいらしい。
流石に1人で行かせようとは誰も思っておらず、護衛ではないが付き添いという事で、今回は深雪と電が便乗することになった。誰もまだ入っていないような森は、みずなぎの面々が後始末をしてくれるということで、2人は一時的にだが手が空いた状態となったからだ。たまにはこういうことをしていいという配慮である。
こだかの面々は今は海ではなく陸で作業を始めており、深海棲艦達がまだ手をつけていない家屋などの片付けを進めていた。
こういう時はタシュケントもしっかり作業をしている。艦長代理かもしれないが、艦娘であることには変わりない。そして、今後自分達の居場所になってくれるというのなら、率先して行動もする。
「あれ、ボスじゃないか。うみどりから出してもらえるなんて、珍しいんじゃないかい?」
丹陽の姿に気付いたタシュケントが、戯けた口調で話しかける。深雪と電がついていることに安心しつつも、丹陽がこういう場所に来ること自体が珍しいため、内心少し心配していたりもする。
「純粋種がこの島で余生を過ごすと聞きましたからね。私も賛成だということを直接伝えに来たわけです」
「ああ、ボスには話さずにこっちで決めちゃってたからね。ごめんごめん。でも、ボスも賛成って言ってくれるならありがたいよ」
タシュケントとしても、丹陽には腰を落ち着けられる場所が欲しいと思っていたところだ。なので、この集落の中でも過ごしやすそうな家を使ってもらいたいなんてことまで考えている。それこそ、リ級が物色していた地主の家のような少し大きめの家辺り。
ただ、今の集落には大きな問題があったりする。それが、放置されていた商店だ。肥大化した忌雷やヌ級が立ち去った後、そこを誰かが片付けたかと言えば、誰も手をつけていないというのが実情。
「ここまで臭いがしますね……噂の妖精さん惣菜」
「あはは……大分酷いことになってるみたいだからね」
丹陽が少し顔を顰めるのも無理はない。
「家そのものを解体するようなことは殆ど無いと思うけど、掃除は大変そうだね。中のモノは一旦全部出すようにはしてるけど」
「そうなんですね。空き家にしてしまうと。……元々の持ち主から文句が出そうなモノですけど?」
チラリと海の方、おおわしのある方に目を向ける丹陽。その辺りもやはり心配事の1つにはなっている。
「一応、あたしの方から忠告はしておいたよ。あたし達を軒並み排除したとしても、君達だけで生きていくことなんて出来ないだろうって」
「それはそうですね。おおわしに保護されているのは、『舵』無し、かつ洗脳教育を受けた子供達でしたよね。保護者もおらず、ただ生かされているだけ。自分で家事とかやれるわけがありません」
「だろう? あたし達はほら、多少とはいえそういうことは出来るじゃないか。潜水艦である程度はやってきたし」
「そうですね。なので、私達は物資さえあれば生活出来るでしょう。出来ればここで畑か何かもやりたいところですが……」
畑はいくらなんでも危険かと、丹陽は自分で口にしておいて否定する。土壌も穢れまみれであるこの島で畑となると、出来上がった野菜も穢れまみれになることは目に見えていた。深海棲艦には美味しく食べてもらえるかもしれないが、艦娘には悪影響が出かねない。
「家が終わったら、畑の後始末もやりたいところだね。せめてそこだけでも穢れがなくなってくれれば、自給自足も夢じゃないよ」
「ですね。深海棲艦の方々にもそれについては話をした方がいいかもしれません。農業に興味を持つ方も出てくるかもしれませんし」
「あはは、それはいいね。農耕棲姫って感じかな?」
そんな未来設計をしていると、不意に視線を感じる。深雪と電がそちらに目を向けると、やはりと言っていいか、おおわしに保護されたカテゴリーY達がこちらを見ていた。遠くではあるが、複雑な表情をしているのが見てわかる。
深雪は少し睨みつけるような目になるが、丹陽はまあまあと抑えさせる。そして、少しだけ海に近付き、カテゴリーY達を手招きした。
それで来るような輩ではないが、それでもにこやかな笑みを浮かべて、手招きを続けた。
すると、そのうちの1人がおそるおそる近付いてきたのがわかった。それは、駆逐水鬼の姿をしていた。
「タシュケントさんからもう聞いているとは思いますが、私達純粋種の艦娘は、戦いが終わった後、この島で共存させてもらおうと思っています。そのためにこのように片付けをしています。私はおばあちゃんなので片付けすら手伝わせてもらえませんが」
笑顔は崩さない。だからか、駆逐水鬼も臆さずに睨みつけてくる。丹陽は中身はともかく見た目だけなら少々幼い。おばあちゃんと自称しているが、そんなこと関係なく、歳下のガキくらいに思っている節がある。
「貴女方がこの島の権利を語るのは結構。実際、今までこの島に住んでいたのですから、主義主張も間違ってはいません。正しいでしょう」
丹陽の言葉に調子付く駆逐水鬼。しかし、
「ですが、貴女方は加害者です。資産の接収は軍として当然の権利。もう貴女方の資産は貴女方の資産ではありません。その上、貴女方は既に人間でもありません。本来なら法が守ってくれるモノを、貴女方は自ら捨てています。貴女方には、感情論以外に発言が出来ないんですよ。それはおわかりですか?」
笑顔を崩さずに語り続ける丹陽。駆逐水鬼は自分達は被害者だという体裁を持っていたが、加害者であると真正面から言われると、一瞬怯む。しかし、感情的になり、がなろうとした途端、丹陽は笑みを失った。
「そもそも、阿手の仲間であるのに反省もしていない者が、のうのうと生かしてもらっているだけありがたいと思ってください。何被害者ヅラしてるんですか。被害者はこちらです。貴女方は何も知らない関わり合いがないと言うでしょうが、阿手の思想を継いでいると言うのなら、私の仇……姉を殺した者と同罪なんですよ。その残滓が残っているだけでも腹立たしいのに、私は理性的に貴女方がこの世界にいることを許可しているんです。何か、言うことは?」
まともに真正面から長年蓄積された恨みをぶつけられた瞬間、駆逐水鬼は言葉を失い、大きく震えた。何も言えなかった。
当然、自分達には何も関わりの無い、生まれてすらいない時の出来事。自分にぶつけられても知ったことかと言えることなのに、丹陽の凄みのせいで、それも自分達の罪なのだと叩きつけられる。
所詮その程度の感情なのだと丹陽は溜息を吐いた。心底失望したような目を向ける。
「片付けだけさせて自分の家だと主張するなら、どうぞご自由に。ですが、その後、やらせるだけやらせて奪った土地で、貴女方はどのように生きていくのか、プランを教えてもらえますか? タシュケントに言われているのですから、少しは考えたでしょう。自給自足の仕方も、この後発生した深海棲艦との接し方も。誰も助けませんよ。貴女方は深海棲艦、人類の敵です。あの王と違って分かりあうつもりもない。だったら、全部自分達でやらないといけないんですが、当然やれるだけの視野があるのでしょう。さぁ、教えてください。今すぐ、ここで、さぁ」
深雪と電も、タシュケントも、今の丹陽には少し引いていた。
丹陽はまだ溜まってる