後始末屋の特異点   作:緋寺

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不幸の上の幸せ

 こだかの第二世代も集落の家屋内の片付けをするようになり、島の未来設計がより明確になりつつある。

 戦後に使うであろう場所を今のうちからしっかり掃除しておき、また穢れのない畑作りなどにも積極的。自給自足をしながら余生を過ごすというのも視野に入れていた。

 

 しかし、それが気に入らないのが、元々この島を使っていた者達、おおわしに保護されているカテゴリーYである。自分達の島であることを主張し、しかし後始末をちゃんと手伝うわけでもない。片付けだけをさせておいて、自分達のモノだと主張して使おうとする図々しさ。

 それに対して、この島にまだ阿手の痕跡が残っていることでストレスが溜まっている丹陽が、真正面から正論で殴りかかった。阿手の過去の罪まで持ち出して、お前達も同罪だぞと言い放った時には、深雪達も流石に引いてしまっていたが。

 

「丹陽、それくらいにしとけ。言い分はわかるが、手招きしてまで言うことじゃあねぇぞ」

「なのです。落ち着いてください」

 

 流石にこれ以上は良くないと、深雪と電が丹陽を止めた。交渉したいのか暴言を吐きたいのかわからなくなってきていたからだ。丹陽も小さく息を吐き、少しだけ落ち着く。

 

「……やってもらえるだけの時間はもう終わってますよ。貴女方はそういう道を歩いているんです。歩かされた被害者かもしれませんが、少なからず私達にとっては加害者です。こちらが攻撃したのは正当防衛。文句を言われる筋合いはありませんからね。そこのところをよく考えてから何かを言ってください」

 

 そして最後にそれだけ吐き捨てた。

 

 フォローするわけではないが、今度は深雪が口を開く。

 

「あー……わかっただろうけどな、お前らが崇めていたあのクソババァは、それだけのことをやってたんだ。お前達はそれが正しいと思ってるかもしれねぇけどな、こっちは消えない傷をいくつも刻まれてる。なのに、お前らばっかりが被害者ヅラするのはおかしいよな。だから、お前らにも共存って道を作ってんだ。今のままだと、大本営でもっと苦しい目に遭うぞ」

 

 脅しているわけではない。なので、なるべく優しく、しかし現実を教えるように諭す。

 

 駆逐水鬼は、もう泣きそうな顔をしていた。自分が正しいと思っていたことは全て間違いであり、そのせいでまともな生活すら保証されていない。島を取り返したところで生きていく術もなく、艤装も奪われているために出ていくことも出来ない。

 そして何より、この島の穢れのせいで、いつでも飢餓に苦しむ深海棲艦が現れる。今でこそ装置を稼働させているおかげでそれも無いが、後始末屋が出ていき、深海棲艦も追い出したとなれば、全部自分達でやらねばならない。おそらく妖精さんすら退去するため、使い方もわからない装置がポツンと置かれておしまいだ。最後は勝ち目もなく、生まれた深海棲艦が飢えを凌ぐために、カテゴリーYを片っ端から襲い、食い尽くすのみ。抵抗なんて出来やしない。

 

「いいか、これはすげぇ簡単なことだ。働かざる者食うべからずって言うだろ。お前らはもうガキじゃねぇんだ。養ってほしけりゃ、その分働け。そうしないなら、今より待遇が悪くなるぞ。お前ら、今はおおわしで食べさせてもらってんだろ。その恩に報いるとか、考えてみろよ」

 

 これまでのカテゴリーYの態度からして、これくらいは言っておかないとわからないだろうと、深雪も心を鬼にして伝えた。自分達の方が正しいから自分達を養うのは当然と思うことが間違っている。それだけは知っておいてもらわないと困る。ただ、それだけ。

 

「……手伝ってくれるのなら、生活も保証します。それは、約束出来ることです」

 

 電も少しだけ言葉を添えた。我を通して破滅するなら、考え直した方がいいと。

 

 しかし──

 

「ふざけるな! この侵略者が! 私達はこの島で楽しく幸せにやってきたのに、それをぶち壊したのはお前らだろ特異点!」

 

 これである。結局、この駆逐水鬼はここまで言ってもダメだった。深雪も電も、その言葉を聞いてショックを受けた。

 譲歩してもコレ。自分達が正しいという思いが、全く拭えない。そういう風にしか考えられないように改造されているのではと思ってしまうほどである。

 

 だが、それに横槍を入れる者が現れた。

 

「ふざけんじゃねぇぞテメェ!」

 

 駆逐水鬼の顔面に拳が叩き込まれた。それをしたのは──

 

「春星……!?」

「うす、こっちで作業してるって聞いたんで、オレも手伝いに来ました。オレが住んでた集落、こっちなんスよ。戦艦のパワー、あった方が楽ですよね。なんで、土地勘があるオレも艦娘の皆さんの力になります。でも、その前にやらねぇといけないことが見えました」

 

 戦艦棲姫、春星。カテゴリーYの中で真っ先に改心し、自分達が間違っていることに気付けた、非常に稀有な存在。

 しかも春星は、『舵』を使われていないところからの改心だ。強制的に従わされていた者達とは違う、自主的に従っていたのに、痛い目に遭って後悔して、真に間違っているのが何かに気付くことが出来た者だ。

 

「おいテメェ……自分が何言ってんのかわかってねぇだろ」

 

 いきなり殴られると思っていなかった駆逐水鬼は、殴られた頬を押さえながら唖然としていた。しかし、胸ぐらを掴まれて睨まれ、敵意をこれでもかとぶつけられたことで、小さく怯んでいた。

 

「オレ達が正しいと思ってやっていたことはな、何人も何人も傷ついて、それを嘲笑うってことだったんだぞ。しかも、気に入らない奴、文句を言う奴は皆殺しで、自分をアゲてくれる奴だけを残してお山の大将気取ってたようなクソの考えだ。自分が平和ならそれでいいって思ってるようなクソに使われてたんだ。ンな奴がオレ達のことをまともに生かそうと思ってんのか。使い捨てにして、自分のために命すら盾にしてきたぞ。それが正しいなんて思えるのか。あぁっ!?」

 

 鼻がつきそうなくらいの近くで、捲し立てる。駆逐水鬼は、春星のことを裏切り者としか思っていなかったが、これまでのタシュケントや丹陽、深雪の言葉が少しでも刺さっていたこともあり、春星の言葉に言い返すことが出来なかった。

 

「テメェ、今ここで姐さん達に文句言ってんのも、自分の思い通りにならないから気に入らねぇってだけだろ。楽して生きていけるとか、そんな都合のいいこと、あるわけねぇだろ。楽しく幸せにやってきた? ああ、オレも前まではそう思ってたさ。でもな、そのせいで何人も死ななくてもいい奴が死んでんだ。オレの親父とお袋も、テメェの家族もだ。それが幸せか!?」

 

 春星も阿手の実験で両親を失っている。改心するまでは、それも別に普通のことだと思っていたが、この凄惨な現状を知ったことで、そんなことが起きてはいけない、あってはならないことであることを自覚している。

 人の屍の上に築かれた幸せの何が幸せだと、元ヤンキーとは思えない思想で駆逐水鬼に言葉をぶつけた。

 

「他を不幸にして楽しいか? オレは楽しかねぇな。つーか、ここでそれがわかったんだ。ンなこともわからねぇのかテメェは」

「っ……特異点も、他を不幸にしてるだろ!」

「何処の何奴をだ、言ってみろや!」

「私達を、だ!」

「そりゃあ違ぇだろ! オレ達は、()()()()()()()()だ!」

 

 春星は本当に理解している。人の不幸の上に成り立っている自分達の幸せは、誰かに報復されることで壊された。島の幸せを壊した特異点は、阿手に壊された者達の憂いを背に、今後の世界の幸せのために戦いを選んでいる。

 たった1人の我儘な幸せのために大多数を不幸にする島のやり方は、誰からも攻撃を受けて然るべきやり方。そして、特異点のやり方は、自分のためではなく、他の大多数の幸せのためのやり方。春星は、そこまで考えていた。

 

「オレ達に罪は無いかもしれねぇ。でもな、特異点にはもっと罪が無ぇよ。しかも、ここまでされて、まだオレ達に更生の道を用意してくれてんだぞ。その優しさが理解出来ねぇのか! 殺されてもおかしくないのに、こっちも殺す気で立ち向かったのに、それを罪として見てねぇ。しかも、殺し合いで加減して命残してくれて、飯すら食わせてくれてんだ。寝床まであるんだぞ。オレ達に与えられた当然の権利なわけがねぇ!」

 

 唾が飛ぶほどの激しい口撃。

 

「テメェは、テメェらは、他人様の優しさの上で胡座をかいて、我儘押し倒そうとしてるクソガキなんだよ! 何当たり前のツラして文句垂れてんだ! 何かしてから口開けクソ共が!」

 

 そして、駆逐水鬼を突き飛ばすように放した。これだけ言われたら、何か変わってほしいと信じて。

 

 特異点や丹陽は、あくまでも島を攻撃してきた侵略者。どれだけ言われても反発する。しかし、春星は裏切り者という認識があるとはいえ島の住人。その言葉の重みは、駆逐水鬼にとっては大きく変わる。

 さらには、おおわしで鮫も話していたことを思い出す。『島にゴミを捨ててたのがアイツで、そのゴミを片付けてくれてるのが特異点、片付いたところをまた汚してるのがあたいら』。自分達が、ただの邪魔者であることを、改めて痛感した。

 

「丹陽の姐さん、オレが島の連中を代表して謝らせてもらいます。すんませんでした。姐さんが過去に何をされてどんな思いをしてるかは、正直わからねぇ。でも、この島を残してくれているってだけでも、すげぇ温情なんだなってことはわかる。それなのに、何も知らねぇ若造が、間違ったことを言っちまった。本当にすんません」

 

 春星に頭を下げられたら、丹陽も立つ瀬が無い。理解していない者は理解し続けていないまま。理解した者はことの重大さに傷付く。丹陽はそれを狙っていたわけではない。嫌でも冷静になる。

 

「私の方こそごめんなさい。どうしてもこの件になると感情的になってしまいます。でも、おばあちゃんとして、もっと冷静に、俯瞰しなくちゃいけませんね。ごめんなさい、春星さん、そして、ありがとう」

「礼を言われる筋合いは無いですよ、オレは。アイツの仲間だったことは間違いないんです。ただ、理解しただけですから。オレ達にチャンスをくれてるんですよね」

 

 丹陽は何も言わない。だからこそ、それが肯定であることを理解する。

 

「それでもわからねぇ奴はわからねぇと思います。オレも含めて、我儘なガキばっかだと思います。でも、そのチャンスは無駄にはしません」

「……私も耄碌しましたね、本当に。私こそ、過去に追い縋ってる気がしますよ」

 

 自嘲の笑みを浮かべる丹陽は、何処かスッキリしたような表情をしていた。

 

 

 

 

 これで何か変わるかはわからない。だが、変わってほしいと、深雪達は思う。

 




春星の言葉の方が重たいよ。というか、心に刺さるよ。
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