深雪と電が付き添いとなり、丹陽の集落片付けの見学は続く。途中から春星も加わり、土地勘と戦艦の膂力を持つ者が参加するようになったことで、後始末がより早くなった。
だが、話題は集落の後始末よりは、ついさっきあった出来事──未だ反省の無いカテゴリーY達への叱責のことばかりになる。
春星は、拳で教え、言葉でも責め立て、これまでどれだけ温情を与えられていたかを説いた。今生かしてもらっているのが、どれだけ譲歩されているか。
丹陽も同じようなことは言った。だが、外部から来た者の言葉だから届かなかった。鮫も似たようなことは言った。だが、言葉だけだったから届かなかった。春星は痛みも含めて教えた。だからこそ、最も深く刺さったはずだ。
「オレも気付けたのは奇跡みたいなモンだと思ってます。あとアイツ……向こうにいる鮫って名乗ってる奴。一度痛い目を見て、ちゃんと振り返ることが出来た。オレみたいなクソバカでも気付けたんだ。アイツらの方が気付きやすいと思うんスけどね」
自嘲しながらも春星は作業に入る。この集落出身ということで、ここは誰の家だ、あそこはあんな奴が住んでいたと、割と細かいことが言える。
元ヤンキーという経歴があるため、他の者よりも洗脳教育のかかりが弱かったというのはあるだろう。しかし、こうして話していると、そもそもの頭の作りが違うようにも思えた。
春星は賢い。頭がいいというのではなく、賢いのだ。周りが見えている。何が良くて何が悪いかを判断出来る。1つのことで物事を決めつけない。群れから一歩二歩離れてモノを見ていたからこそ、俯瞰で今が見えていた。
結局はあちらの陰謀論に呑まれていたが、だとしても今はそこから抜け出すことが出来ている。誰が悪い、何が良くない、その辺りを正しく把握出来ている。
「いや、お前、充分すげぇよ。元々あっち側だったのに、ここまであたし達のことを把握してくれてんだ。そういう奴がいてくれること、あたしはめっちゃ嬉しいぜ」
「なのです。頭ごなしに悪だ罪だと言われていたのですから、いや違うと訴えてくれるヒトがいるのは、本当に嬉しいのです」
「特異点の姐さん方は、むしろオレ達の救世主のはずなんだ。それを受け入れないでどうすんだって話なんスよ。アイツらは幸せを壊したっつってたけど、今のオレにとっては、地獄をぶっ壊してくれた恩人だ」
ニッと笑う春星に、深雪も電もスッキリするような感覚を得た。ここまでさっぱりとした性格の人間はなかなか見ない。話していて気持ちいいし、気分がいい。
こういう相手のためなら、作業もしたくなるし捗るというモノだ。やってやっているという気持ちはなくても、後始末に文句を言われたらやる気は無くなる。そのくせ、文句を言う輩は片付けることもしないのだから目も当てられない。最悪、それで酷い目にあったら後始末屋のせいにするまである。
「よっし、じゃあガンガン片付けるぜ。丹陽、お前はちょっと離れてろよ」
「わかってますよ。というか、力仕事すらさせてもらえないんですから」
「当たり前だ。自分でおばあちゃんって言ってんだろ。今回は視察に来たってことだからな」
先程の件があるため、少々気が立っている丹陽だが、こちらも春星のさっぱりした性格に癒されていた。みんなこうならいいのにと思いつつ、それは無理だろうと諦めてもいる。故に、数少ない改心した若者に安心している。
「邪魔にならないように見ています。今後、私も住まわせてもらう家があるかもしれませんから」
「ボスには大きめな家がいいかな。介護のアカシが同居するだろうしね」
「だったら、リ級が物色してたデカい家があるぜ」
「ああ、多分この辺の地主の家っスね。変に壊してないなら住みやすいと思いますよ。別に改築してもいいと思うし」
春星も知っていた、あのリ級が入り込んで食べ物を勝手に食べていた大きな家。やはり地主の家であり、春星も少し世話になったこともあるという。
「この辺の土地の管理をしてたんスけどね、いや、めっちゃイイ人だったって覚えがあります。集落の長だったってのもあって、人望もすげぇあったんスよ」
「へぇ……この集落のボスってわけかい。なら、ボスの住む家にピッタリじゃないか」
タシュケントもそれを聞いて、尚のことそこを丹陽の住居とすることを推していた。丹陽自身は見てみないとわからないし、本当にここに住むかもわからない、そもそも土地の話は欧州水姫との話し合いもあるだろうと、苦笑していた。
「ただ……まぁ、察してもらえると思うんスけど、その人は、あのクソババアに楯突いて……」
「……そうか、そうだよな。そんないい人間なら、阿手のやろうとしてることなんて、真っ先に文句言うよな」
「じゃあ、もう……」
「はい、大分前に殺されてます。それを見たわけじゃあねぇけど、一時を境に、姿を見なくなったんです。だから、そういうこと……なんだろうなと」
正義感のある者は始末される。実験台に使われ、命を好き勝手に弄られ、いらなくなったからポイ。聞くだけでも気分が悪くなるような話だ。
「オレ達は、それも仕方ないって思ってたんですよ。さっきの奴らは多分、今でもそれが当然の報いとでも思ってる。んなワケねぇだろ」
「ああ、その通りだ。それがいいわけねぇよ」
春星は嫌そうに顔を顰め、深雪達もそれに同調する。人の命を粗末に扱うことを当然と思うことが良くない。そして、春星はそんな考えから脱却出来たことを本当にありがたく思っている。
「あ、でもつい最近まで食い物はあったみたいだけど、その地主がいなくなった後も誰か住んでたってことか」
「そうっスね。確か奥さんだったか息子だか娘だかが住んでたはずですよ。そいつらは、もうクソババアに同調してましたけど。この戦いが起きた時にどうなったかは知らねぇ。オレ達みたいな改造されたか、それとも……死んじまったか」
どうであれ、阿手の被害者であることには変わりない。今どうしているかはわからないが、もしかしたらあのカテゴリーYの中に含まれているかもしれない。
「ま、しけた話はこれまでにしましょうや。丹陽の姐さんが使うってなら、目一杯綺麗にしねぇと」
「あはは、ありがとうございます。少し内覧させてもらいますね」
少しだけ気を取り直した丹陽は、小さく笑みを浮かべる。まだ気に入らないことは多いかもしれないが、春星のおかげで前を向くことは出来ていた。
再び訪れた地主の家。深雪達が前に来た時と同じだが、その時は雨が降っていた。今は晴れているため、また感覚が違う。
「確かに大きいですね。少し荒れていますが庭もあります」
「でしょ。気分転換に庭いじりとかも出来ますよ」
「そういう余生もいいかもしれませんねぇ」
家を見たことで、丹陽は少しだけ明るい表情を見せた。こういう家に住んで余生を過ごすことも悪いことではないなと思ったのだろう。
とはいえ、必ずしも使えるというわけではないし、丹陽自身が違う選択をする可能性もあるのだから、今回はあくまでも内覧である。
既にこの家には片付けの手が入っている。大きな家ということ、そして傷んだ食べ物などが置いてあったため、それを早々に撤去し、掃除などもするべきだと何人かがここにいた。
こちらの集落はこだかの面々の管轄となっているため、深海棲艦はいない。皆、純粋種の艦娘である。丹陽がここまで来たことに驚きつつも、ここに住むかもしれないと言われたら納得し、内覧を快く受け入れてくれた。
「……大きいけれど、住みやすそうな家ですね。本当に、つい最近まで誰かがいたようなことになってます」
「裏口は壊れちまってるんだけどな。あのリ級が物色するために入ってたから」
「だから少し散らかってるんですね。それは仕方ないですよ。あのヒト達も生きるために必死だったんです。それを咎めることなんて誰も出来ません」
まだほんの少し臭いが残っているようにも思えたが、窓を全て開け放っているため、換気はしっかり出来ている。通り抜ける風も気持ちいい。電力さえ通れば、朝昼晩全てが快適に住むことが出来そうである。
「少し妖精さんにお願いしてリフォームしてもらえば、誰かが住むことは容易いでしょう。それは私でなくてもいい。それこそ、深海棲艦の誰かでも──」
と話しているうちに、また他の誰かが近くに来たような空気を感じた。この家は意外といろいろな者が狙っているのかもしれない。
「おや……おそらくこれは、欧州水姫さんですね。妹姫さんもいますよ」
「おう、あの王様がここまで来たのか」
丹陽がそれを察する。こちらの集落はまだ
「特異点ニ、艦娘ノ長モイタカ。奇遇ダナ!」
相変わらずの尊大な物言い。しかし、嫌味が無いために共にいても嫌では無いという稀有な存在。欧州妹姫もにこやかに手を振る。
「貴様モ、コノ家ニ目ヲ付ケタカ。ナカナカイイ目ヲシテイル」
「ということは、貴女も?」
「ウム。ダガ、余ハ別ノ場所ニ居ヲ構エル。コノ家ハ好キニ使ウガイイ!」
大きく笑い飛ばし、寛大に受け入れる。これぞ王の資質。
しかし、少しばかり不穏な言葉も残していた。
「ダガ、少シバカリ気ニナルコトモアッテナ。何処トナクダガ……ココハ
「実ハ、私モ。ウッスラボンヤリダケレド」
「ソウカ、妹モカ。不思議ナ話ダ」
欧州姉妹は、この家に何処となく懐かしさなどを感じているという。理由はわからないがと首を傾げるものの、それ以上追求もしない。
「……なるほど、そういうこともあるんですね。欧州水姫さんがそういう性格で生まれることも頷けるわけです」
「どういうことだよ」
「
丹陽は小さく笑みを浮かべた。
「その地主さんの魂を、思いを、欧州水姫さんは持って生まれたんですよ、おそらく」
ここで死んだ者の輪廻転生。