後始末屋の特異点   作:緋寺

97 / 1179
変わりつつある戦場

 午後は長門に勧められた通り、大規模の後始末に向けて休息を選択した深雪と電。特に電は、風呂では癒せないメンタルの面での疲労が大きいため、心身共に休ませた方がいいだろう。

 その前に甘味をお願いしてみたら、伊豆提督はしょうがないわねぇとニコニコしながらデザートを用意してくれていた。至れり尽くせりで逆に不安になりかけたものの、善意は素直に受け取るものだと、美味しくいただくことにしている。

 

「急ピッチでごめんなさいねぇ。鍛えるというのはどうしてもこうなっちゃなのよぉ」

 

 二人が食べている対面で、伊豆提督も少し休憩とコーヒーを飲んでいた。伊豆提督ですら、こうやって艦娘達の目の前で休む姿を見せているくらいなのだ。トップの人間がこうしているのだから、安心して休むことが出来る。

 

「あたし達も早く強くなりたいからさ、これくらいなら頑張れるよ」

「でも、長門さんや妙高さんからはちゃんと休めって言われたのです」

「ええ、甘いモノを食べて、気持ちよくお昼寝して、お風呂に入れば、身体も心もピッカピカよぉ。アタシも疲れた時はそうするもの」

 

 伊豆提督からも保証され、休むことへの抵抗は一切無くなった。強くなりたいのはわかるが、焦りは禁物。誰もがハードな訓練の後は休息を取るし、大規模な後始末の前にはトレーニング自体を控えめにするくらい。

 トレーニングも大切だが、うみどりで最も大事なのは後始末だ。それを中心に据えてスケジュールを立てるのが基本である。それ故に、深雪と電は休息を推奨されたわけだ。

 これで午前中の鍛錬でそこまで疲労が見えなかったらVR訓練を許可していたかもしれないが、その内容を聞いて、かつその時の表情なども知っているからこそ、午後は休むことに決めたと聞いて喜んでいる。

 

「あ、今日は少し天気が悪くなるかもしれないから、デッキには行かない方がいいわよ。通り雨らしいけど、お昼寝中に雨に降られるなんて気分のいいモノじゃないから」

「ん、りょーかい。後始末には影響無いんだよな」

「ええ、予報ではね。明日の朝に降っていたら、ちょっと大変になるわねぇ」

 

 一応予報としては、夕方にも行かないまだ明るい時間に通り雨が来て、長いと夜にも少しパラつくということ。後始末の時には止んでいると思われるが、少しズレてしまうかもしれない。そうなると、深雪としても初めてとなる()()()()の後始末をすることになる。

 雨の中の作業は、出来ることならもっと後にしたいと考えていた。風で残骸が散らばっていた中規模でもかなり作業量が増えていたのに、雨まで降られたらさらに大変になる。

 そうでなくても姫二体分の後始末になるため、散らばり方はそれなりのもの。通り雨のせいでそれがさらに散ってしまった場合、穢れの拡がり方がその分酷くなる。ただでさえ戦いが終わった後に丸一日放置することになっているのだから、それだけでも危険だというのに。

 

「そうならないことを祈るしかねぇな」

「なのです。でも、今度は疲れて途中で抜けることのないようにしたいのです」

「だな」

 

 二人とも後始末屋としての責任をしっかり持って、次の作業に挑もうとしている。それを見た伊豆提督は感激し、大いに喜びながらデザートを一品追加するのであった。

 

 

 

 

 深雪と電が休息に入ったところまで見届け、伊豆提督は軽く後片付けをした後に執務室へ。すぐに外へと連絡を取る。

 

「……そう、やっぱり」

 

 連絡先は、次の現場で戦闘をしていた部隊を取り仕切る提督である。

 

 うみどりからの通信は、基本的には何処も直通。後始末を効率よく行なえるように、各所と連携を取れるようにされている。うみどりから通信を求めれば、それを拒否する鎮守府は無い。片付けてもらえるのだから、何処も感謝の気持ちで接してくれる。

 逆にうみどりへの通信も自由である。今戦闘をしているから、()()を入れておきたいという連絡が殆どであるが、今回は少々理由が違っていた。

 

「こちらも気をつけるけれど、そちらも気をつけてちょうだいね。最近、この戦いが何か違う方向に向かっている気がするもの。ええ、ええ、それじゃあ後はこちらに任せてちょうだいね」

 

 それだけは忠告し、通信を切った。そのタイミングを見計らって、書類整理をしていたイリスが声をかける。

 

「案の定?」

「ええ、乱入してきた姫は()()()()だったらしいわ」

 

 少し時間はかかっていたものの、その際の戦闘で消耗していた艦隊が全員怪我を治し終えたことで、その時の状況を確認出来た様子。その結果、やはり後発の姫は何処かがおかしかったという。

 曰く、()()()()()()()()()()()()()と。その想像出来ない一撃は、直撃は免れたものの、あまりの不意打ちにその瞬間だけは部隊が混乱に包まれたと、あちら側の提督と艦娘達は話した。

 

「魚雷の増設はやりやすいのかしらね。前の戦艦水鬼も雷撃だったわよ」

「どうなのかしらねぇ。あちらさんの考え方はアタシには理解出来ないもの」

 

 何がどう改造されているかに関しては二の次。深海棲艦を改造した海域に送り出すという行為自体が問題なのだ。

 

「タシュケントちゃんが話していた元凶がこれを仕組んでるって考えるのが妥当だと思うけれど、何処でどうやってるのかが皆目見当がつかないのよねぇ……」

「出現場所はバラバラね。だとしたら、あちらの拠点も()()()()()のかしら」

「勿論、それは考慮しているわ。だとしても、タシュケントちゃんの組織みたいに、何処かで補給が入るでしょう。秘密組織は大本営がうまく隠しているみたいだけど」

 

 そもそも伊豆提督の推理では、タシュケント達秘密組織が潜水艦鎮守府を運用するために、大本営は何かと理由をつけて人間達に潜水艦鎮守府の運用をさせないようにしている。故に、秘密組織以外の潜水艦鎮守府はこの世界には無いと考えていた。

 だが、この元凶の率いる組織も潜水艦を使っているかもしれないとなると、そちらにも大本営が噛んでいるのではないかという不審に繋がる。

 それに、もう一隻潜水艦鎮守府があるとしたら、間違いなく秘密組織がそれを発見しているだろう。いくらこれだけ広い海だとしても、30年探し続けて見つからないというのはおかしな話だ。

 

()()()()()()()と考える方が妥当かもしれないわね。それこそ、鎮守府に偽装して裏で何をしているかわからないような組織と考える方が辻褄が合いそうよ」

「タシュケント達も陸にはなかなか上がれないみたいだものね。その可能性が一番高いかしら」

 

 となると、移動鎮守府以外が全て怪しく感じてくる。例えば、人の出入りが多い軍港都市のような場所なんて、裏で何をやっているか解ったものでは無い。

 

「トシちゃんがそんなことをしているとは思いたくないけれど、可能性としては考えておかなくちゃいけないわよねぇ」

「……そうね。私もそれは信じたくないわ」

 

 線は薄いかもしれないが、疑ってかからなくては前進も出来ないだろう。それこそ、保前提督の与り知らぬところで元凶が蠢いている可能性だってあるのだから。

 

「そろそろ後始末で集めた廃棄物も溜まってきているわよね」

「ええ、余裕はまだあるけれど、資材の補給も視野に入れてもいいと思うわ」

「探りを入れるためにも、一度軍港に行きましょうか。次の後始末の後、予定は入っていたかしら」

「そうね……うん、次の大規模の後に、軍港に近付いていく海域で小規模がありそうというくらいかしらね。流れとしては都合がいいわ」

 

 明日の大規模な後始末の後、そちらの後始末まで終わらせてしまえば、緊急で後始末が入らない限り、一度軍港で補給をするのも悪くないと考えている。

 

 一度廃棄物の処理をしてもらってから、次で二度目の大規模。パンクすることは早々無いにしても、定期的に処理してもらった方が後々楽になる。特に、姫の亡骸をいくつか持っているというのは、綺麗に浄化しているとしても不安になることは多い。

 食糧なども、前回の補給から減ってはいるものの、まだまだ余裕はある。しかし、余裕があるうちに追加で補給しておけば、また長い航海に出ることが出来る。

 

「前からそんなに時間が経っていないから、トシちゃん驚いちゃうかもしれないわねぇ」

「むしろ、()()()()()()()()()()()()()()現場もあるじゃない。私はそちらの方が怖いわ」

 

 大規模が立て続けに発生することが無いとは言わないが、今回は後から姫が乱入するというケースが続いているため、そちらの方がおかしなことである。しかも、乱入した姫は今のところ100%で改造済み。

 最初の榛名達の艦隊が遭遇した戦艦水鬼もそうだし、小規模の後始末の最中に乱入してきた軽巡棲姫、そして次の後始末の現場に乱入したという空母棲姫。本来出来ないことが出来るようになっている個体のせいで、後始末の規模が大きくなっている。

 

「これについて、さりげなくトシちゃんにも話しておこうかしらね。いや、むしろもう知ってるかしら」

「改造された深海棲艦が出てきているというのは、公になっていたと思うけれど」

「なら、今回の廃棄物が()()()()()()ってことはちゃんと伝えておかなくちゃね。……そこから裏側に繋がるかもしれないし」

 

 幼馴染を疑いたくないという気持ちはあるのだが、世界の平和のためには、そこを躊躇してはいけないだろう。

 今の戦いで起きていることは、間違いなく問題だ。そのままにしておく理由は無い。

 

「予定だけはそのように組んでおきましょ。後は……元帥に直談判だけれど」

 

 秘密組織の存在を隠蔽しているであろう大本営。そのトップである瀬石元帥にも、タシュケントと接触したことは連絡するべきかもしれない。しかし、タシュケントと話している限り、この事実を知る者はなるべく少なくしなくてはならないため、万が一繋がっているのが瀬石元帥では無かった場合、秘密組織の存在が公になってしまう危険性がある。

 今は人間にも信用出来る者がいることを知ってもらわなくてはならない。故に、調査隊にもこのことは秘密にしているのだ。あちらの意思を尊重して。

 

「タシュケントのことを考えるなら、それはあちらのボスとやらと接触してからの方がいいかもしれないわね。そうなると、深雪と電の練度上げが急務になるけれど」

 

 イリスもそれを考えて直談判はもう少し後にした方がいいと進言。今はうみどりだけで抱えている問題となっているため、軍規からしてみれば黒寄りのグレーの位置にいるのだが、事を荒立てないようにするのなら、もう少しの間は秘密裏に進めるべきだと考えた。

 しかし、あまり長々と抱え込むのも難しい。そうなると、秘密組織との接触はなるべく早い方がいいだろう。それを実現させるためには、深雪と電の練度上げはこれまで以上に必要不可欠となる。あまり悠長なことは言っていられない。

 

「あの子達が目を覚ましたら、一度練度を測ってみましょうか。そこでまたプランとか考えてみればいいわ」

「そうね。今日の半日での上がり幅から日数もある程度計算出来るものね」

 

 結果として、今後の動きに最重要となるのは、深雪と電になっている。二人が強くなればなるほど、事が一気に進むのだから。

 

 

 

 

 そう話している間に、外では少しずつ雨が降り始めていた。

 




やはり現れていた改造深海棲艦。意図的に後始末の規模が引き上げられているようにすら感じる現状、元凶の狙いは何なんでしょうね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。