後始末屋の特異点   作:緋寺

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引き継がれし魂

 欧州水姫と欧州妹姫が、集落にある地主の家に対して、懐かしさを感じると言い出したことにより、丹陽は1つの仮説……というより確信を持った予想を打ち立てた。

 それは、欧州水姫達には、ここの地主の魂を受け継いでいるということ。その思いを持っているのだと。

 

「そんなこと……あり得るのか?」

「私はあってもおかしくないと思いますけどね。食べるモノ次第で成長したり進化したりしてるんですよ。魂を引き継ぐことだってありそうじゃないですか?」

「そんなもんかね……」

 

 妖精さんを食べることで知恵をつけたり、たくさんの共食いを繰り返したことで進化までしてきたのだ。人間を食う、もしくは人間の遺体が埋められた土壌で生まれるなどしたら、その魂を引き継ぐなんてことがあっても、否定は出来ないと丹陽は語る。

 深雪も電も、そんなもんかと首を傾げる。タシュケントは疑問に思い、そして春星はちんぷんかんぷんだと表情で表現していた。

 

「そのように生まれてきてくれたおかげで、こうして普通ではあり得ない共存が可能になったんです。経緯はどうであれ、今は喜んでおきましょう。ただ……そうなると、この家を使うのは少し気が引けますねぇ。本来の持ち主がいるようなモノですし」

 

 丹陽は少し困った表情で笑う。だが、欧州水姫は豪快に笑い飛ばした。

 

「ハハハハ! 気ニセズトモヨイ! 余ガ貴様ニ使ッテホシイト思ッタノダ! 遠慮セズニ使ウガイイ!」

「ウン、私モ使ッテクレテ構ワナイト思ッテルカラ、大丈夫。私達ハ、アッチノ学校ノ方ニ居ヲ構エルツモリダカラ」

 

 欧州姉妹はこの島を見渡せるように、なるべく高台に居を構えるつもりらしい。地主の家は広いが集落1つを見回すことも出来ない場所であるため、やりたいことには繋がらないようである。

 

「そうですか、では遠慮なく。とはいえ、私達の戦いはまだ終わっていませんので、使うのはもうしばらく後になるかと思います」

「構ワン構ワン! コチラノ集落ハ艦娘ガ使ウトイウカタチデ管理シテオクダケダ。代ワリニ、向コウノ集落ハ我々ガ後始末ヲシテイルノダカラナ。余ハソノ全テヲ管理スルノミ! コノ島ヲ守ルタメ、力ヲ合ワセテクレルノナラバ、ココハドノヨウニ使ッテクレテモイイゾ!」

 

 あまりにも寛大。心が広いという言葉では収まらないくらいに豪快。とにかくこの島が平和ならそれでいい。そんな気持ちがあまりにも強い。

 

 深雪も電も、そんな欧州水姫には王の資質があると確信している。仲間に対して非常に友好的。そうでなくてもまずは声をかける。配下になれという言い方は少し気になるところではあるが、それでも嫌味がない。断ったところでそうかで終わらせる。そして、気が向いたら来いと道も残しておくという徹底っぷり。

 他に何も道がないなら、この島で欧州水姫の管理の下、楽しく過ごしていくのも悪くはないなと感じるほどだった。何せ、こうして話していて嫌だと思える部分が一つもないから。残念ながらこれ以上に居心地のいい場所があるから、選択肢として優先順位が下の方に行ってしまうだけである。

 

 そんな欧州水姫を見て、春星があっと何かに気付いたような表情を見せる。

 

「あの、深海棲艦の姫さん、ちょっといいっスか?」

「ム? 貴様ハ……何処カ我々トハ違ウガ、見テクレハ同ジダナ。気ニ行ッタ! 貴様、余ノ艦隊ニ入ラヌカ!」

「えっ、あ、その、オレで良ければ。いや、その前に話聞いてもらっていいっスかね」

 

 スカウトを初めて受け入れられ、欧州水姫はパーッと表情を明るくした。春星はこの島に戻る気満々なので、結果的に欧州水姫の最強艦隊の一員になれる余裕はあるのだ。言われれば普通にやる。艤装の問題はありそうだが。

 だがその前に、まず話をしたいと春星は一旦欧州水姫の勢いを止めてもらう。欧州妹姫も、姉サンチョット話ヲ聞イテアゲヨウと諫めた。

 

「この島に元々いた連中ってのがいるんです。ただ、姫さんや、艦娘の皆さんがここに住むことを嫌がっていて……。共存するのも嫌だと駄々を捏ねてるんです。それなのに、自分達では何も出来ず、養ってもらう前提になっていて……。姫さんからも何か言ってもらえませんかね」

 

 春星の案は、先程の駆逐水鬼のような、未だ反省しきれていない者達に、欧州水姫をぶつけるということ。

 今やこの島は欧州水姫が手中に収めることがほぼ約束されたような状態になっている。そして、それを後始末屋も艦娘も良しとしており、協力しあってこの島の穢れを取り除いていこうという長期計画を考えている。欧州水姫も、今後の暮らしのために必要だと言われたら、悩むことなく首を縦に振った。

 

 だが、それを邪魔しようとしているのが、無反省のカテゴリーY達だ。後のことも何も出来ないのに所有権だけを主張している厄介な輩。欧州水姫ならば、それすら説き伏せられるのではないか。そう考えたのだ。

 

「大丈夫ですかね……私は少し不安です」

「ボスもそう思うかい? あたしもだよ」

 

 丹陽とタシュケントは、そこには少し不安を持っていた、欧州水姫は、これまでここにいる面々──深海棲艦を当たり前のように受け入れる者達としか接して来なかったために、ここまで寛大でいられるようにも見えた。

 しかし、最初から反発するつもりの連中を相手にしたら、この寛大さが歪むのではないかという不安があった。今後も友好的な立場でいたいなら、正直会わせたくないような者達でもある。

 

 だが、いつかはぶつかり合うことになるだろう。何も出来ずにカテゴリーY達が更生施設に入れられるなら、一度も顔を合わせることなく事が済みそうではあるのだが、ここで活動をしている限り、そうはならなそうである。

 

「あたしは、話してみる価値が無いとは思えないな、アイツらもさっきの春星の言葉で少しは変わってくれてると思うし」

「電もなのです。上手くいけば、みんなが心を入れ替えてくれるかもしれないのです」

 

 深雪と電はいいアイディアだと考える。自分達は阿手の部下であったという先入観があるため、どうしても攻撃的になってしまうが、欧州水姫にはその辺りの考え方がない。ただこの島を良くしていけるかどうか。観点はそれだけである。

 ならば、上から一方的に抑えつけるような言い争いにはならないのではないかと感じた。そして、欧州水姫の寛大さにも賭けている。

 

「フム、余モ少シ気ニハナッテイタノダ。何ヤラ雰囲気ノ違ウ同胞ガイルトナ」

「嫌々手伝ッテル感ジノ子達、イタヨネ」

「ウム。奴ラトハ一度話ヲシテミタイトハ思ッテイタ。都合ガイイ、余ト謁見スル権利ヲヤロウ」

 

 春星はありがとうございますと頭を下げる。丹陽はどうしても不安が拭いきれていなかった。

 

 

 

 

 地主の家の内覧は一旦中断し、欧州姉妹を連れて再びカテゴリーY達が作業をしている海の近くへと戻ってきた。

 欧州姉妹はそれらを見ると、腕を組んで小さく頷く。そして、そのまま海に出てしまった。

 丹陽は海に出られないため、タシュケントと共に岸で留守番。深雪と電は念のため艤装を装備しているため、欧州水姫についていく。春星も今は同じように行動が出来た。

 

「貴様ラカ、コノ島ノ原住民トヤラハ!」

 

 カテゴリーY達の前に来るや否や、第一声はコレである。なんだなんだと詰め寄ってくるカテゴリーY達を一瞥すると、フムと小さく声を漏らした。

 

「貴様ラハ我ガ最強艦隊ニ加ワル素質ハ残念ナガラ無イヨウダ。ダガ、共存トイウカタチデアレバ、余ガ庇護シテヤロウ!」

 

 尊大かつ寛大。相手が誰であろうとそのスタンスは崩さず、それが自分達よりも先に住んでいた原住民相手でも変わらない。

 カテゴリーY達にしてみれば、欧州水姫達が来たのは自分達よりも後も後、というか指で数えられる程につい最近だ。それなのに、自分達よりも大きい顔をされて、すぐに苛立ちを表に出してきた。何が庇護だと。むしろ出ていけと言わんばかりに食ってかかる。

 

「ハッハッハ! 元気デヨロシイ! ダガ、貴様ラハ自分ノ島ダトイウナラ、マズ島ニ戻ッテ来テハドウダ。何モシナイナラバ、捨テタト思ウガナ」

 

 それは痛烈な一撃。自分の島だというのに、一度も島に上がっていない。おおわしで、余計なことをするなら島に行くなと制限をかけられているのかもしれないが、それにしても所有権を誇示する割には島のことを何もしない。

 

「ダガ、何カ理由ガアルノダロウ。ダカラ特別ニ、我々ガ後始末ヲシタ島ニ戻ッテクルコトヲ許可シテヤロウデハナイカ! 余ノ寛大サニ、咽ビ泣クガイイ!」

 

 それでも、欧州水姫はあくまで寛大。何も作業をしていない者相手でも、受け入れようとしている。文句しか言っていない輩でも、文句は当然の権利として聞き入れ、だとしても屈することなく、自分達の意志は絶対に変えない。

 

「ソモソモ、追イ出サレル筋合イハ無イガ。余モ、妹モ、ココニイル我ガ同胞モ、貴様ラト同ジデ、コノ島デ生マレタ者ダ。ソウ、()()()()()()ナノダ。イワバ、我々ト貴様ラハ同胞。共存共栄ヲ何故シテハナラヌ。余ハ受ケ入レルゾ。貴様ラガドノヨウナ者デアッテモ、ナ!」

 

 ニッと笑う欧州水姫に、いろいろな意味で圧倒されるカテゴリーY達。これだけの反発をしても、何も意に介さず、笑って済ませようとする。これまでの喧嘩腰の対応とは違う、()()()()()()()()()()()()()()()に、カテゴリーY達は、毒気を抜かれるような、そんな気分を味わった。

 

「マァ、貴様ラガ何ヲ言オウガ、我々ハコノ島ヲ出テイクコトハセン。ソレデモ何カアルノナラ、戦イデ決メヨウカ。余ガ相手シテヤロウ! カカッテクル覚悟ガアルナラ、イツデモ待ッテイルゾ!」

 

 最後に高笑いして、話を終えた。

 

 

 

 この態度、この言い分、そこから、カテゴリーY達は、あの地主の姿を思い浮かべていた。

 




ここの地主、ネルソンだったかもしれん
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