後始末屋の特異点   作:緋寺

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この島の特異点

 欧州水姫に地主の影を見た駆逐水鬼は、これまでの反発から一転、更生の道を歩き続けた。今の身体が深海棲艦であることもあり、深海棲艦達のモノとなる予定の集落の片付けに率先して向かっている。

 茫然としつつも、欧州水姫に王の資質を感じ取った深雪達は、ひとまず任せることにした。駆逐水鬼がその道を選んだのだから、とやかく言う筋合いはもう無くなっている。

 

「……恩師の影って、どういうことだ?」

「オレにも、あの姫さんからは、さっきのデカい屋敷に住んでた地主のオッサンの影がチラつきました。ああいうオッサンだったんです。何かあったら豪快に笑い飛ばして、でもオレも何度かぶん殴られたことがあったな……しかも腕っぷしもそこそこ強くて、マジでヤベェオッサンだ、逆らうんじゃねぇって思ったくらいでしたからね」

「はー……丹陽が言ってた、魂引き継いでるってのも、そういうところからあながち間違いじゃなさそうに思えるな」

「ですね。それが、おおわしに保護されたカテゴリーY達の更生に繋がればいいですけど」

 

 少なくとも1人にはこうして変化を齎したのだ。これから何人も意思を変え、更生の道を歩み始めることに繋がることだろう。

 今はまだ誰も知らないが、おおわしのカテゴリーY達の中で、議論が交わされるようになっている。どちらが正しい、何を信じる、様々な意見が飛ぶ。思考停止して阿手の言い分が正しいと言うよりは何倍も良い状態になったと言えるだろう。

 

「それじゃあ、私はうみどりに戻ります。見るべきモノは見たと思いますので」

「ああ、ボス、視察ならいつでも来なよ。あたし達がちゃんと働いてるとこ、見ておきなよね」

「はい、何も心配はしていませんが、また後始末が進んだら見せてもらいます。本当ならお手伝いしたいところなのですが、流石に艤装無しでは何も出来ませんからね。大人しくさせてもらいます」

「はは、それがいいよ。同志ミユキ、うちのボスをよろしく頼むよ」

 

 丹陽のお散歩もここまで。ほんの少しの時間でいろいろあったが、体調に影響するようなことはなかったため、まだ疲労が少ないうちに撤収となった。

 

 

 

 

 そこから作業は少し進み、昼。工廠厨房は今日も相変わらず繁盛している。だが、新たな深海棲艦が加わるということは今のところない。学校屋上に作られた、発生抑制装置は上手く動いているようである。

 前回の起動から2日経ち、そろそろ効力が切れてくる頃。そこでまたライブが開かれるらしい。選ばれし妖精さんが楽しみ、その力を注ぎ込むことで起動する装置のために、那珂達が準備中。

 

「今日も那珂ちゃんライブで妖精さんにアガってもらうよ♪ タマちゃんにはお勉強の時間だね」

「ウン、那珂チャンノライブ、ヨク見テ勉強スル」

 

 タマちゃんと呼ばれたのは、深海玉棲姫である、那珂を師事し、うみどりが島から発った後でも装置を起動させられるようにするため、初の深海産アイドルとして日々勉強している。まだ煌びやかな衣装というモノも持っていないが、色違いの夕雲型制服を身に纏い、ぱっと見では深海棲艦のようにも見えない姿で、フンスも意気込みを見せた。

 那珂としても、やる気があればすぐに舞台、というわけにはいかず、少しの間お勉強の時間だと共にレッスンをしている。後始末の仕事から少し離れてしまっているモノの、これは後始末の後に必要なこと。伊豆提督もそちらに尽力してくれて構わないと許可を出している。

 

 後始末そのものが安定してきていることもあるため、手を少し別のことにも回せるようになったということに他ならない。終わりには順調に近付いているということだ。島の未来設計の話題が出ている程なのだから。

 

 その未来設計の筆頭。原住民として島の後始末を手伝い、自らの住処を整えている、王達も昼の休憩としてうみどりに戻ってくる。

 

「……ん? なんか、増えてね?」

 

 工廠厨房で昼食を食べる深雪達も、それに気付いた。ニコニコ笑顔で作業から戻ってきた王、欧州水姫と、それに続く深海棲艦達。そしてその後ろについてきているのは、あの時の駆逐水鬼。さらには──

 

「人数増えてるのです」

「うわ、確実に増えてる増えてる! はー、心入れ替えたのかな」

「ここにおられるということは、少しは考え方を変えたのでしょう」

 

 カテゴリーYが更に増えていた。多種多様だが、その全てが元人間。ついさっきまでは、特異点に反発し、後始末もまともにやらないような連中だったのが一転、王に付き従う者として、後始末を始めたらしい。

 

 グレカーレはケラケラ笑い、白雲は興味深そうに眺めている。その視線を感じたか、少しばつの悪そうな表情を見せるモノの、その考えを変えたことを示すかのように、いの一番に新たな道を見定めた駆逐水鬼が胸を張って前に出る。

 

「……特異点、その、ごめんなさい」

 

 そして、謝罪をしたのだ。これまでは、怒りを露わにするばかりで、話もまともにすることが出来なかったのに、この変わりよう。深雪もこれには流石に驚きを隠せない。

 だが、駆逐水鬼はそこから続ける。

 

「私達は、特異点が平和を壊すとばかり教えられてきた。実際に島が戦争に巻き込まれて、特異点のせいでこんな目に遭ったんだって、そう思ってた。でも……貴女達は、私達の家を、一つも壊していなかったんだね」

 

 戦渦に巻き込まれた集落。しかし、建物を破壊しようとしたことは一度もない。

 本当に平和を壊そうとするのなら、その辺りは容赦なく破壊するだろう。むしろ、効率よく敵の戦力を無くしていくなら、建物なんて破壊して回る。隠れ挟む場所なんて作らない。集落は火の海になっていてもおかしくない。

 それが何一つ無かった。扉が『解体』されているようなことはあっても、家そのものがそのままのカタチで残っている。また戻って来れるように、島を島として残すように。

 

「礼を言う相手が違う。ありゃあハルカちゃん、うちの司令官の指示に従ってるだけだ。つっても、あたし自身も、お前らの居場所をわざわざ奪うことなんてしねぇよ。やらないといけねぇってなったら容赦はしなかったかもだけどな」

「でも、そうやって、敵である私達のことを考えていてくれたんだね。そんなの、魔王なわけが無かった。ちゃんと見て、ちゃんと知って、ちゃんと動いて、初めて理解出来たよ。だから、ごめんなさい。あなた達のことを、平和を破壊する魔王だなんて言って」

 

 意固地だった心が解きほぐされると、こうも素直になれる。深雪は内心驚きつつと、ふっと笑みが溢れた。

 

「わかりゃいいんだよわかりゃ。だから、今までのことは水に流そうぜ。あたしだって、そう言ってくれる奴に追い討ちかけるほど性格歪んでねぇ。わかってくれたなら、ここからはもう仲間だ。それでいいだろ?」

 

 言いながら拳を突き出す。駆逐水鬼は少し驚いたように目を開いたが、改めて小さく笑みを浮かべた。

 

「ええ、これからは後始末に参加させてもらう。よろしく」

 

 深雪の拳に、自ら拳を突き出し、合わせた。仲直りの、これからよろしくという、簡単だが確実な合図だった。

 視野が拡がり、後始末屋の必要性も理解したことで、集落の片付けがどれだけ重要なのかもわかった。自分達の住む島だ。自分達で片付けないでどうするのだと、更生が始まった者達は、ここから力を合わせてこの戦いを進めていくことになるだろう。

 

「こ、これ、ここではこんな美味しいモノ、食べてたの……?」

「深海棲艦がここまでのモノを!? マジかよ、すげぇ……」

「美味しすぎる……何これ……」

 

 他のカテゴリーY達は、早速工廠厨房のお世話になっていた。欧州水姫がセレスに、新タナ配下達ニ振ル舞ッテクレと笑いながら語り、セレスも当然ジャナイと笑顔で配膳していく。本日の献立は、野菜がたっぷりと入ったポトフと、母勢が作ったおにぎり。それを一口食べただけでも、涙が出そうなくらいに感動していた。

 

「……お前ら、向こうでどんな飯食ってたんだよ」

「あっちの艦では、必要最低限しかもらってない。私達が文句ばかり言ってたから、あっちの怖いおじさんも文句言うなら食わなくていいんだぞって。でも、そんな私達にもオカズとご飯はあったんだから、今考えたら物凄く譲歩してくれてたんだってわかるよ」

「怖いおじさんて。でも、あの人は強面なだけでやってること滅茶苦茶真面目だからな。正しくないことをしたら、相応に返してくるだけだぜ」

「うん、すごく理解出来た。私達が、どれだけ馬鹿なことをしてきたか、今更だけど」

 

 昼目提督も鬼ではない。食事抜きという私刑に処すことなどせず、最低限の三食と寝床は用意してくれていたようだ。だが、それにすら文句を言っていたというのだから、今でも意固地になっている連中は、自分達がどれだけ譲歩されているのかがわかっていない。

 逆に、自分達の愚かさを理解した者達は、今のようにうみどりから最高の食事を振る舞われる。モノ自体はそこまで変わらないかもしれないが、作業の後、そして心を込めて作られたモノということで、その味は普通のモノの数倍は美味しく感じられた。

 

「……おの王様に出会えなかったら、多分ずっと意固地になってたと思う」

「ああ、春星から聞いた。地主のオッサンに似てるんだって?」

「そう、姿形はまるっきり違うんだけど、影がチラついて見えるんだ。私はあの、地主のおじさんに恩がある。でも、そのことすら、ついさっきまで、忘れちゃってた。それを思い出させてくれたのは、本当に……ありがたいね」

「そうか。ならよかったじゃねぇか。今後はアイツと島で共存だ。アイツはまぁおかしなことしない限り大概を受け入れてくれる。正直、すげぇと思うよ。アイツがこの島の特異点だ」

 

 駆逐水鬼は、そうかもしれないと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 死の島を新たな生きた島へと戻すために生まれた、島一番の地主の魂を引き継いだ王。それは、特異点の目からしても、新たな特異点だと感じられる程だった。

 




深雪や電とは違う、この島の特異点。
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