後始末屋の特異点   作:緋寺

975 / 1160
子供達の未来

 水爆がついに解体されたことにより、うみどりは安心ついでに1日休日を貰うことになった。

 うみどりが先陣を切り、ここからは他の後始末屋も順番に休みを取り、体調管理も視野に入れながらの後始末となる。休みなく仕事をし続けていたら、いつか何処かで倒れてしまうだろう。そうなる前に休むことで、効率をなるべく下げることなく、長く仕事を続けられるようにした。

 

 そんな後始末9日目。うみどりの朝はとても遅かった。なんだかんだ、艦娘達は疲労が溜まっていたのだ。総員起こしがなければ、本来の朝食の時間から大きく外れた時間に目が覚める。

 深雪達も、自分で思っていたよりは疲労が溜まっており、いつもよりも2時間は遅くまで眠ってしまっていた。島の未来が明るくなりつつあることに安心出来たことが、ここまでの熟睡に繋がったのだろう。

 

「……やっべ、すげぇ寝ちまったな」

「なのです。でも、それくらい疲れてたってことなのです」

「だな……自覚無しで溜まってたんだろうな」

 

 深雪と電の疲労の蓄積は、度重なる海中での作業が理由である。ただでさえ負担が大きい深海棲艦化に加え、慣れない場での仕事。そこに最初は伊203に振り回され、その後は常に煙幕を出し続けるような、身体に負荷がかかり続けるような作業のオンパレードである。

 本人達はまだまだ元気だと思っていても、ここまでどっぷり眠ってしまうということは、それ相応に消耗が激しかったということに他ならない。

 

「電は疲れ取れたか?」

「多分、大丈夫なのです。でも今日はうみどりでゆっくりしていようかなって思っているのです」

「だな。他の鎮守府に行くっていうのもあるみたいだけど、ここまで寝ちまうってことはそういうことだもんな。あたしもゆっくりしてっかな」

「それがいいのです。明日も作業ありますしね」

 

 今ある休みは今日一日だけ。遊び歩いていては疲れは取れない。トレーニングなども今日は無くして、丸一日を休息に使おうと2人は考えた。遊ぶにしても控えめに。昼寝などもしてもいい。とにかく、心身共に回復することを第一に動くことをメインとして、今日を使う。

 

 

 

 

 食堂には人はまばら。グレカーレと白雲は既に先に食堂におり、深雪と電の到着に手を振っていた。

 

「グッスリだったねぇ。流石に起こすの気が引けたよ」

「はい、本当にお疲れだった様子。グレ様が悪戯をしようとしたので、この白雲、身を挺して止めさせていただきました」

「おい」

「無防備なんだから役得ゲットと行こうとしたんだけどねー。シラクモが先に起きてたっていうね」

 

 ケラケラ笑っているグレカーレだが、やはりこの2人もいつもよりは遅く目を覚ましていたようである。

 むしろ、いつも通りに起きることが出来た者は一人もいない。伊豆提督ですら少し遅めだったという。肉体労働はしていなくても、裏で責任ある作業を朝から晩まで続けているのだから、精神的な疲労は艦娘以上だと考えられる。

 

「今日はどうすんの?」

「ゆっくりするつもりだ。あたし達思ってる以上に疲れてる」

「それはよろしいことでございます。この白雲、お姉様の快適な休養を補佐させていただきます」

「気張るなよ、疲れるぞ」

 

 話している内に朝食。セレスは相変わらず工廠厨房で腕前を振るっているのだが、こちらの分もしっかり作っているという用意周到さ。それを手伝っているのが、保護された者達。以前は杏が率先して手伝っていたが、今回は珍しく子供達が元気に動き回っていた。

 

「お、珍しいな。こういうところで手伝ってるなんて」

「この子達もいろいろやってみたい年頃なのよ」

 

 北方姉妹に潜水新棲姫とわかりやすく見た目から子供なカテゴリーYの保護者をしているのは、あの離島棲姫である。うみどりで活動するにあたり、あのフリッフリな衣装は動きにくいということで、簡素なシャツとショートパンツに着替え、子供達の世話をしているらしい。

 

「おう、お前が面倒見てたのか」

「まぁね。歳が歳だからやんちゃなのよ。だから、誰かが手綱握らないといけないわ。それが私ってだけ」

 

 言いながら子供達を眺めると、一生懸命配膳の手伝いをしていた。うんしょうんしょと声を上げながら、そこまで多くないがお盆を持って慎重にテーブルまで持っていき、そして溢すことなく置く。

 

「おまちどーさま!」

「あさごはんです!」

 

 深雪のところに持ってきたのは、あの学校で鬼ごっこを興じた北方棲姫と北方姉妹。元気いっぱいな子供達に癒され、深雪はありがとうなと2人の頭を撫でると、えへーと喜んで笑顔を見せ、次の配膳のためにキッチンの方へと向かった。

 

「あれくらいの歳なら、こういうお店屋さんごっことかも楽しいモノよ。しかも、ごっこどころか本当にやれるお手伝いだもの、テンション上がっちゃうのはわかるわ」

「そんなもんか。あたしにはガキの頃ってのが無いからよくわからねぇけど」

「人間の子供はそんなモノなの。そうやって成長……していくのだけれどね」

 

 少し憂いのある目を見せる離島棲姫。

 

「あの子達、やっぱり悲しいとか辛いとかその辺りの感情が壊れちゃってるわ。いっつも笑ってる。いっつも楽しそうにしてる。でも、家族がこの島で殺されてることを理解していても、それに対して涙も流さない。そんな状態で、まともに成長出来るのかしらね」

 

 保護者目線で見ているためか、子供達の将来を案じている。今は深海棲艦の身体であるため、成長も何もあったモノではない。この離島棲姫も、今のまま年月だけ重ねることになるだろう。

 こちらはある程度成熟した状態、常識的な部分も全て知った上で今の姿であるが、子供達は大人の勝手で心を壊され、身体も今以上に変わらないカタチに変えられ、そして結果的には放っておかれている。人間なのに、人間の社会に馴染めなくされている。

 

「あ、ごめんなさい。せっかくの休みなのに気持ちを重くして。せっかくのイケメンが台無しになっちゃう」

「いや、でもそれはマジで大事なことだ。あいつらがまともに生活出来るかって言われたら、正直なんとも言えねぇよな」

 

 今でこそ楽しそうにうみどりで生活しているが、ずっとここに置いておくことも難しいだろう。

 そもそも、深海棲艦の姿である時点で、人間社会に戻ることなんて出来やしない。事情がどうであれ、それを全ての人間が受け入れられるかと言われたら、それは非常に難しい話。排斥されることも容易に想像出来る。

 

「私は、姿を戻せないなら、この島で過ごすのもいいかなと思ってる。何も手伝わずに棲家だけ貸してというのはちょっと気が引けるけど」

「まぁ……そうなるか。あの王様なら、高笑いしながら許すと言ってくれそうだしな。暮らすようになってから島に貢献すればまだいいと思う」

「畑仕事とかするのです?」

「それくらいしかないかしらね。あと、私なら王様に違った文化とかは提供出来そうだけど」

 

 今この島にある文化は、那珂が深海玉棲姫に教えているアイドルというモノくらい。あとは食文化くらいだ。それ以外となると、本当に趣味の話。外交により手に入れることになるのかもしれないが、深雪達が軍港都市で知った娯楽の類。

 

「それに、子供をのびのびと過ごさせるなら、うみどりよりも広い島がいいと思うしね。勉強なら、誰かが教えられるでしょう。私は流石に教員免許とかは持ってないけど」

「だな。ありがたいことにここには学校も……いや、その学校をあの王様が城にするっつってたか」

「勉強なんて何処ででも出来るわ。家の中でもいいし、何処かに集まることが出来ればそこが教室よ。外でもいい」

 

 子供達のための未来計画も考えている離島棲姫。このまま身体が成長出来ないとしても、頭の中、感情や頭脳は育てることは可能だ。ならば、閉塞的な場所かもしれないが、生まれ変わったこの島で生活をする方が、確実にいい方向に行く。

 戦いが終わった後のうみどりはどうなっているかわからない。ならば、今は先が明るい島の方が、生活という面では優秀だ。深海棲艦の姿でも咎められず、むしろ深海棲艦が当たり前のように暮らしており、そこに第二世代の艦娘まで加わるのだ。楽しく成長出来ることは約束されているようなモノ。

 

「深海棲艦の姿でも受け入れてもらえそうな場所って他にある?」

「あたし達がよく行く軍港なら多分大丈夫だと思うけど、そこくらいしか思いつかないな」

 

 軍港都市は大規模に事件に巻き込まれているため、その辺りには寛大だ。しかし、そこには旅行客も多々いるため、そちらに対しての視線は考えねばならないことになる。

 そういう負担を考えるなら、最初からこの島での生活を第一に考えた方が気持ちは楽だろう。ここでなら、そういう不安を考えずに済む。

 

「子供達には変な負担は与えたくないでしょ。なら……やっぱりここがいいのかなって思うわ」

「確かにな……多分ここ、何処よりも平和になるぞ。外から何か言われない限り」

「私もそう思う。だから、あの王様と話してみようと思うわ。子供達と一緒に、ここに住みたいんだけどって」

 

 離島棲姫は小さく微笑む。それが子供達のためになるならと。

 

「で、お前はどうなんだ? ここに住むっての、受け入れられるのか? お前にだって、その、ここには嫌な思い出があるだろ」

 

 深雪の質問は当然である。離島棲姫だって、この島で起きたことの明確な被害者なのだ。それでも、ここに住むことを良しと出来るのか。

 対する離島棲姫は、全く問題ないとむしろ笑みを強くする。

 

「私がやりたいことは、どんな土地でも出来るもの。大丈夫大丈夫。むしろ、ここの王様が面白すぎるから、最後まで見届けたいまであるわ。この島のことを本にして出したいくらいよ」

「そ、そうか……それならいいんだけどな」

 

 離島棲姫は離島棲姫で、何か違う未来設計があるようである。深雪はこれ以上そこには触れようとしなかった。

 

 

 

 

 うみどりで保護されたカテゴリーYも、少しずつ先を見始めている。もし身体が元に戻らなかったら、という少々ネガティブな考え方が主体となってしまっているが。

 




面白い離島棲姫、子供達の保護者を務めていたことにより、何処か落ち着いた感じになっているけど、本質は変わらない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。