後始末屋の特異点   作:緋寺

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それぞれのやりたいこと

 陸軍チームが大本営へと帰投し、うみどりは本格的に休息の時間となる。援軍としてうみどりに出向してきている者達も、今日はゆっくりと心身共に休める時間。

 部屋に戻って趣味に没頭する者、疲れない程度にトレーニングに励もうとする者、もう一眠りと惰眠を貪る者、様々な選択をする中、深雪達がとった行動はというと──

 

「……何するよ」

 

 こういう時にどう暇を潰せばいいのかがピンと来なかった。大寝坊するくらいには眠っているので、眠気は飛んでいる。朝食後、工廠で話をしたこともあり、目もすっかり冴えている。トレーニングも流石にやめる。そこで疲れては元も子もなく、トレーニングを趣味としているわけでもないのだ。

 軍港にいる時は、観光などいくらでもやることはあった。普段の後始末業務の時は、現場の移動中ならそれこそトレーニングとかで身体を鍛えている。しかし、今回は連続で休みが取れるわけでもないため、疲れないようにというところが前提になってくるため、何をしようと考えてしまうわけだ。

 

「休むってことは、疲れることはしない方がいいよな」

「なのです。となると、疲れない程度にお散歩でもしますか?」

 

 となるとやれそうなことはそういうことくらい。歩き回って疲れるようなことはせず、しかし気分転換に少し散歩をするというくらいである。

 幸い、うみどりが停泊するためということもあって、港周辺はしっかり後始末が行き届いているため、その辺で彷徨いても、誰かの後始末の迷惑にはならない。むしろ、工廠厨房をより爽やかに使えるようにするために、艦娘どころか深海棲艦、カテゴリーYまでもが率先して片付けた程である。誰だって汚いところでご飯を食べようとは思わないものだ。

 

「大分スッキリした場所だよねー。あんまりこーゆーところを知らないってのはあるけどさ。軍港とはまた違う場所だ」

「はい、民の漁港だからなのでしょう。必要最低限、居住区を別に置いているため、建屋も少ないのでしょうね」

 

 うみどりから下り、港を少し歩いて回ると、やはりその違いがよくわかった。この辺りに人が持ち家で生活しているというよりは、この港を職場として活用している。あくまでも漁港であり、港町ではない。島の出入り口として存在している。

 とはいえ、何も無いわけではない。何やら簡易的ではあるが宿泊が出来そうな家屋があったり、人々が集まって話が出来るくらいの組合の会館のような場所もあったりする。ここで生まれた深海棲艦達は、そういうところにも住むという考えを持っている。

 

「ただ、やっぱりちょっと慣れないところはあるね」

 

 グレカーレが苦笑しながら指を差した先。そこには、さも当然のようにこの港でのんべんだらりとしているヌ級がいた。

 最初にいた場所が商店であり、外に出たい、散歩がしたいと話していたくらいだったので、この広い港はお気に入りスペースとなっているようだ。

 

 人々が住んでいた漁港に、見た目からして明らかに深海棲艦である存在が、我が物顔で闊歩している姿というのは、なかなか見慣れるモノではない。いくらうみどりで友好的な深海棲艦を保護していたり、見た目が深海棲艦に変えられてしまった者と共に生活していたとしても、風景に溶け込むようなことはないのである。

 

「オ、ヤッホー。散歩?」

 

 そんなヌ級、非常に軽いノリでのっしのっしと歩いてくる。こうやって対話が出来る深海棲艦は貴重とも言え、そこはやはり妖精さんを取り込んでいるからと考えられる。

 ただ生まれただけのラ級とは意思疎通が出来ず、姫級にまで進化すると対話が可能。しかし妖精さんを取り込むと大きく話が変わり、ヒトの姿をしていなくても意思疎通が可能になる。

 深海棲艦はつくづく不思議な生物だと、深雪は口には出さないが思っていた。

 

「おう、お前もか?」

「ヌキューハ時間アルトキハイツモ散歩。ココハ広クテ好キー」

 

 やはりその広さが良いらしく、港のど真ん中に寝そべったり、適当に動き回ったりと、この小さいが広い世界を堪能しているようだ。

 

「ん、あの時の臭いももう感じないね。良かった良かった」

「デモ、アノ時ノゴ飯ハマタ食ベタイナー」

「やめときなよ。美味しいかもしれないけど、また何かあるかもしれないんだから」

 

 グレカーレは最初にヌ級に会った者なだけあり、少しどころか大分気安い。甲殻で覆われてる頭部のあたりをペチペチ叩いており、ヌ級自身もそれを喜んでいる。仲がいいのはいいことだと、それを誰かが止めることはないし、むしろ推奨するまである。

 

「ヌ級は何処に住んでんの?」

「ヌキューハ適当ダヨー。ソノ時ソノ時デ好キニヤッテルー」

「あはは、そーゆーのもいいかもね。1つのところに留まらないってのも、自由で楽しいでしょ」

「ソーソー。ヌキューハ広イトコロデ自由ニ楽シムヨー。ア、デモ仕事ハ手伝ウヨー」

「いいね、ちゃんとデキてる」

 

 こんな自由主義なヌ級でも、仕事はしないとこの島には置いてもらえないということを自覚して、程よく仕事をし、程よく自由を満喫するというスタイルを取っているようだ。それが一番ストレスの溜まらない生き方なのだろう。

 そんなヌ級に対して、強要する姿が見えないあたり、そもそもヌ級は仕事自体もしっかりやれていると思われる。お調子者だが、やることはキチンとやる、そういうところは、深海棲艦の中でもいい立ち位置を確立出来ているのだろう。

 

「ヨーシ、ジャアソロソロ仕事ニ戻ルヨー。ミンナモ散歩楽シンデネー」

 

 思い立ったように動き始めるヌ級。気まぐれなように見えて、しかし確固とした意志で動いている。

 

「いやぁ、あの子は楽しいねぇ」

「左様ですね。まるでグレ様のよう」

「おっと聞き捨てならないね。あたしと何処が似てるってのさ」

「やることはやる、しかし、自分の時間は大切にする。その意志を崩すことはない。そういうところ、ですかね」

「……言い返せないね、うん」

 

 ここで生まれた深海棲艦の中でも指折りの特殊な個体だが、少し真面目で、少しお茶らける。そして、少し気まぐれ。何処か、グレカーレと通ずるモノを感じた。だから気が合うのかもしれない。

 

 

 

 

 ヌ級を見送った後は港でブラブラ。すると今度は奥の方からクロトが現れる。今はうみどりの立ち入り禁止区域ではなく、外に出ているらしい。うみどりで生活している時と同様巫女服姿のため、ぱっと見では非常に異質に見える。

 

「あれ、外にいるなんて珍しくね?」

「他ニモ供養ヲシナクテハナラナイ場所ガ沢山アル。今ハ、何ヤラ戦闘ガアッタ場所ニ行ッテキタ」

 

 クロトが先程までいたのは、以前三隈達が2人の飛行場姫も戦闘を行なった役場の場所。戦闘も終わり、後始末が大分進んでいるため、そこで供養の儀式を簡易的に行なっていたのだという。

 

 あの場所の戦闘では、今でこそ『舵』が失われたために改心しているダウナー飛行場姫が、『連射』と見紛う程に弾を惜しみなく使った戦い方を披露している。三隈はそれを、()()()()()()()()()()()()()()()()()と予想しており、当人に聞いたところ、その予想はまさに大正解だった。あまりにも残酷な戦術。しかも、そこには死者の苦しみが渦巻いている可能性は非常に高い。

 そこから考えると、クロトの供養をその地で行うというのは間違ってはいない。むしろ、何処ででも必要であるとすらかんじる。

 

「そっか、そりゃあこの島なら何処も彼処も必要だよな」

「アア。ダカラうみどりデ必要ガ無イ時ハ、外デ供養ヲスルコトニシタ。ヤラネバナラナイ場所ハ、数エ切レナイ程アルカラナ」

「相変わらずすげぇよアンタ」

 

 深雪のみならず、電達もクロトのその行いを高く評価し、すごい、素晴らしいと絶賛である。死者を弔うということは、後始末屋では残骸に祈るくらいしか出来ていないことを考えると、ここでしっかりと島の犠牲者を供養出来ることはとてもありがたい。

 

「私ハコレカラモココデ供養ヲ続ケルツモリダ。ココニハソウセネバナラナイ場所ガ多スギル」

「だよな……犠牲者がいすぎる」

「慰霊碑ヲ建立スルタメニモ、ソノ場所ハ何度カ供養スルツモリダ。マタ皆デ立チ会ッテクレ」

 

 この地に慰霊碑を建てる。その予定は後始末が終わらない限りは難しい話だったのだが、それもまたこの島の未来が見えるようになってきた今ならば、そのことについても考え始めてもいい頃合い。

 慰霊碑もまた、供養を考えているクロトの管轄になるようで、何処に建てる、どのように管理するなども考えている。勿論、その際にはうみどりの協力を得て、素晴らしいモノを作り上げようとしている。

 

 出来上がるまではうみどりは島に滞在するのだから、建立のための供養も必ず立ち会うことになるだろう。全員は流石に多すぎるが。

 

「ああ、必ず立ち会う。それこそ、この島を解放した奴として、あたしは責任を持ってその供養に付き合うよ」

「電もなのです。出来る限り、みんなで」

「アア、ソウシテクレ。人数ハ多イニ越シタコトハナイ」

 

 クロトは小さく微笑み、うみどりへと戻っていった。

 

 

 

 

 人それぞれ、この島でやることはある。思うところもいくつかあるが、それでもそれはみんなのやりたいことだ。

 




休日、他の者達の生き方フェイズに入ります。まずはヌキューとクロトから。
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