後始末屋の特異点   作:緋寺

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和やかな片付け

 深雪達の散歩は続き、一旦港から別の場所にも向かう。今は何処も作業中なので、そこまで深入りは出来ないのだが、邪魔をしない程度ならば大丈夫だろうということで、適当にブラブラと。

 

「集落の方、少し行ってみるか? 作業の邪魔をしないように、どんな感じで進めてるか見てみるために」

「いいんじゃない? あくまでも遠目で見るってことっしょ。そーいや王様がどんな感じで作業してるか知らないしねー」

 

 2つの集落の内、片方は深海棲艦が、もう片方はこだかの第二世代が、今も後始末をしている。深海棲艦側には、おおわしに保護され、そこから紆余曲折あって改心し更生したカテゴリーY達も手伝いに入っているため、うみどりからの手伝いは不要。こだか側には春星を始めとしたうみどりで保護されたカテゴリーYがサポートに入るのだが、今日はうみどり全体がお休みということで、控えめな作業に落ち着いている。

 

 こだか側の作業は丹陽と共に見ているが、テミス筆頭の深海棲艦側は、今どのように作業しているかは誰も見ていない。とはいえ、誰も何も言わないくらいなので、滅茶苦茶なことはしていないだろう。毎日近海を哨戒するために空母隊が哨戒機を飛ばしていたりするのだが、そこで妖精さんも良しとしているのだから、まともな作業をしていると保証出来る。

 

「あの王様がどんな作業をしてるのか、正直気になる」

「じゃあ、少しだけ見に行ってみるのです?」

「そうすっか。邪魔だけはしないようにな」

「お姉様の案に賛成です。無いとは思いますが、万が一何かよろしくないことをしているようなら、我々で止めましょう」

 

 無いと思うと前置きをして、それでも一回見ておこうと集落へと向かうことにした一行。ヌ級もそちらに向かっているため、また会うことにもなるかもしれない。

 

 

 

 

 集落に近付くと、そこではあらゆる艦種の深海棲艦が出来る限りの作業を進めていた。その中心となっているのは、やはり王であるテミス。戦艦であることもあり、非常に強い膂力を最大限に活かして、大物を運び出すような作業を率先して行なっている。

 そこに続いているのは、あの面倒見のいいリ級とネ級改だ。他のイロハ級にも指示を出しながら、自分達の住処をいいカタチに片付けていた。あのセグウェイに乗ってうみどりに入れられたチ級も、こちらで運搬などをして手伝っていた。

 

「すげぇな、作業がガンガン進んでるぜ」

「家も傷ついていないのです。丁寧ですね」

 

 そして、そこが一番興味深いところ。深海棲艦達の作業は、雑なように見えて非常に丁寧である。自分達が今後住もうと思っているためか、外観にも傷をつけようとせず、中にある出せそうなモノを確実に外に出していき、丁寧に並べている。

 家主の持ち物では無いかと思われるモノは、手をつけることなく綺麗に置いている辺り、元々ここに住んでいた者のことを考えた作業が進められている。

 

「あれ、特異点。うみどりは今日はお休みじゃなかった?」

 

 深雪達の姿が目に入ったようで、作業中の駆逐水鬼が小さく手を振ってきた。

 

「おう、ただうみどりにいても暇だからさ、散歩がてらちょっと様子見に来た。邪魔しねぇように離れて見てっから」

「そうなんだ。ただ片付けてるだけだけどね」

「いや、それが見たいんだよ。特にお前ら」

 

 確かにそうだと駆逐水鬼は苦笑する。いろいろ考えた結果、こちら側に加わることを決めたカテゴリーY達が、まともに作業が出来ているかは見ておきたいと思っても仕方がない。駆逐水鬼もそこは納得している。自分達が簡単に信用されないことをしていたということだって、もう今は理解出来ているのだ。

 そのため、証明出来るように働いていることを、ただ見せるだけ。視線があるからとやる気を変えるようなこともしない。

 

「お前から見てさ、深海棲艦達はどう感じるよ」

 

 深雪のそんな質問に、駆逐水鬼は小さく考える。そして、

 

「人間と何も変わらないよ。自分達が住む場所のために一生懸命働いてさ、ちょっとわかりにくいヒトもいるけど、上手く行ったら笑うし、失敗したら悔しがる。感情の表現が、むしろ人間よりも大きいかも」

 

 ここでの作業で見てきた深海棲艦達の様子を簡単に説明し始めた。

 

 深海棲艦達がここで作業をしているのは、雨露が凌げる場所を確保し、悠々自適に生活するための拠点とするため。自分が住みやすいようにすることが最大の目的である。

 ただ、いくら深海棲艦でも、ぐっちゃぐちゃな部屋では落ち着かないモノばかりらしく、部屋は部屋として成立させて、そこにあるモノはそこにあるままにしていた。例えば、使い方もわからず、今は使いようがないテレビや洗濯機でも、そこにあることに風情を感じているのか、邪魔でなければ外に出さない。逆に、雑然と置いてあるアクセサリーや小物に関しては不要と考えているのか、割と容赦無く外に出している。そもそもこの集落にはそういった娯楽の品が殆どありはしないのだが。

 

「さっきさ、これはいらないって家の中から箪笥を持ち出してたんだよ。深海棲艦に仕舞うモノなんてないし、それだとただひたすら部屋の場所を取るだけだし」

「ああ、そりゃあ空っぽの箪笥は、邪魔な奴には邪魔だもんな。他にも外に出すモンはあるとは思うけど」

「まあまあ。で、その時にね、いらないモノなのに、ちゃんと傷つかないように慎重に出してたワケ。そんなモノ、壊してから外に出せばいいのに」

「まぁ、その方が作業が早く終わるか」

「で、壊せばいいのにって言ったら、モシカシタラ誰カ欲シガルカモシレナイダロって、後のことちゃんと考えてたんだ。自分は使わなくても、他の誰かが使うかもしれないって。で、その箪笥は今も綺麗に残ってる。で、多分だけど忌雷の寝床とかになるね」

 

 使い道は違うが、しかし有効活用するのならばどのように使っても構わないだろう。既にそれは、ここに住む者達のモノ。やりたいようにやればいい。

 

「あとちょっと面白かったのが、深海棲艦にもベッド派と布団派がいたことかな」

 

 笑いながら話す駆逐水鬼に、深雪もプッと噴き出す。

 

「マジかよ。そういうとこあんのか」

「あるある。王様はベッド派なんだけど、リ級さんだっけ、あの人は布団で寝たいって言ってたんだよね。畳の上で」

「深海棲艦もあたし達と同じってことなんだな。一気に親近感湧くじゃん」

「だよね。私達もだよ」

 

 そういう人間臭いところを見せられたことで、より深海棲艦に愛着、親近感が出てくる。ただでさえ面倒見が良かったり、仲間のことを大切に思っている面々だ。そういうところでさらに心待ちを理解出来ると、仲間意識が強くなるというものだ。

 

「だから、ベッドは一応家から出さないようにして、でも自分はここに住むって決めたヒトで必要ないなら出すってことにしてるんだ。欲しかったら他の家にベッドを持ち込んじゃったりね」

「はは、すげぇや。拘りとかあんだな」

「割と強いよ、人間みたい」

 

 むしろ、この島で生まれたからこそ、そこまで人間臭いのだろう。侵略という考えが失われ、代わりに飢餓感を手に入れ、それも満たされたのならば、あとはもうどのように生活するかになるのだが、そこで人間や妖精さんの要素を取り込んでいるのなら、そうなってしまうのも想像が出来るというモノである。

 むしろ、方向性がバラけない分、人間よりも妙なところで拘りを見せてくるまである。陽の光が入る方向から、カーテンの色まで、自分はコレがいい、いや、自分はアレがいいと主義主張を語り合う。

 

 そして少し驚くべきことが、深海棲艦同士で拘りをぶつけ合って喧嘩のようなことが起きていないということ。同じ家に住みたいとなった場合、どちらか片方が住むではなく、じゃあ両方とも使えばいいというところでサクッと落ち着くというのだ。

 今のこの段階になるまでに、共食いなどの恐ろしい事件が起きたりしているのだが、落ち着きを取り戻すと種族の中でも温厚で穏やか。如何のぶつかり合いを共生でさっさと切り抜ける。それを否定しないのだから素晴らしい。

 

「この島は、すごくいい場所になるよ。元島民の私達が、そうなるって思えるくらいだから」

「だな。でもお前ら、元島民じゃなく、今も島民なんだろ。じゃあ、お前らもいい島に出来るように頑張れよな」

 

 深雪に言われて、少しハッとした表情を見せる。だが、そりゃそうだと微笑み、当然だと胸を張る。

 

「王様のためにも、この島を私達の手でも良くしていくよ。……つい最近まで、そんなことも出来なかったし、わからなかったんだよね」

「仕方ねぇよ。でも、今が出来てるならそれでいいだろ。前のことはもう気にすんな。今なら誰も咎めねぇよ」

「……そっか。ありがと」

 

 あの過去を思い出して、少し俯きかけるが、今が良ければ構わないと深雪に言われて、そうかと思い直して前を向いた。そして、謝罪ではなく感謝の言葉が出た。

 過去のことは水に流してくれると言っているのだから、そこにいつまでも固執していては、水に流してもらった意味が無くなる。だからこそ、ここからはこの集落での働きで反省と更生を見せていく。充分すぎる恩返しだ。

 

「オーイ、チョット手伝ッテクレーイ」

「わかったーっ。それじゃあ、行ってくるよ」

「おう、頑張れよ。あたし達も余裕が出来たら手伝うぜ」

「うん、必要になったらお願いするよ」

 

 駆逐水鬼は深海棲艦に呼ばれたことで元気に駆け出していった。

 

「変わったな、アイツ。すごくイイ方向に」

「なのです。やっぱり、こういうのの方がいいのです」

「だな」

 

 

 

 

 作業をしている風景は、非常に和やかである。見ていて飽きないくらいに。

 




深海の集落は、本当に和やかで穏やかになっています。楽しい場所にもなるでしょう。
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