後始末屋の特異点   作:緋寺

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保証される未来

 深海棲艦達が片付けている集落を少し見学した後は、そのまま学校の方へ。近付いていくともう聞こえてくる。

 

「歌が聞こえるな。那珂ちゃんか」

「なのです。それに……深海玉棲姫の声も」

「頑張ってるんだな、真剣に」

 

 学校のグラウンドを使ってレッスンをしている那珂と舞風。相手は勿論、アイドル志望で昨日早くもデビューをした深海玉棲姫。広い空間を使って発声練習やダンスレッスンを施していた。

 深海玉棲姫も、それを嫌がってはいないどころか、とても楽しんでいる。この歌やダンスが、この島を守ることになるというのもあるが、それを意識せずに単純にやりたいことをやっているということを喜び、それを続けていく。

 

 もしかしたら、深海玉棲姫が深海棲艦の中で最ものびのびと生きているかもしれない。自分の住むところの後始末というのも必要なのだが、このアイドル活動は島のためにも必要なこと。テミスがそれを知り、その活動に専念してもいいと笑いながら許可をしたというのもある。新たな被害者の発生をそれで止められるなら、いくらでもやるがいいと。

 

「あ、深雪ちゃん達、こんにちはー♪」

 

 少し学校に近付くと、那珂がすぐに気付き、手を振ってくる。舞風も同様に。そして深海玉棲姫はというと、今の自分の歌を反芻し、どうすればもっと上手くなれるかを研究しているようだった。深雪達が来たことも気付いていないようだ。

 

「ここで練習してるんだな」

「広いし声が通るしで、のびのびと動けるからね♪」

「身体も動かしやすいし、結構なんでもやれるんだよね」

 

 歌うにも踊るにも都合がいいと、那珂と舞風はニッコリである。

 

「玉棲姫はどうなんだ? 今も真剣みたいだけど」

「いやぁ、素質あるよ本当に。昨日の歌、聴いた?」

「昨日は学校で作業してたから聴いたぜ。まだ始めたてって感じだけど、すげぇ頑張ってるってわかった」

「それそれ! その一生懸命さがすごくいいの。それに、歌声がすっごく綺麗でね、那珂ちゃんじゃ難しい歌にも挑戦出来るかも!」

 

 深海玉棲姫の歌は、那珂も大絶賛。最初からアレだけやれれば充分だし、伸び代しかないと。練習を続ければ、すぐに追いつかれて危機感を持っているということまで言い出した。

 それくらい深海玉棲姫のことを評価しているということだ。那珂は芸能関係には絶対に嘘はつかない。深海棲艦かもしれないが、種族など関係なく、すごいと思ったモノには躊躇いなく称賛の声を上げる。

 

「そりゃすげぇや。熱心だしな」

「本当にね。それに、教えたことをすぐ覚えるんだよね」

「そうそう! ダンスの振り付けもあっという間! 身体がまだすぐに動かないってだけで、やってることはほとんど間違ってないんだよ!」

 

 歌だけでなく、踊りの方もすごいと舞風が絶賛。ダンスを戦闘に昇華出来る程の身体能力を持つ舞風がそこまで言うのだから、深海玉棲姫の地力は本当に凄いモノなのだろう。

 そういうところも姫級の実力なのかと思うが、おそらくそれだけではない。やる気があるから、そしてそれが好きだから、そこまで動くことが出来るのだ。

 

「流石に激しい動きは難しいけど、ステップとかは多分完璧だよ。歌いながら踊るのもそろそろ出来そうだからね」

「激しい動きって、舞風は激しすぎるだけなんじゃ」

「ライブの時もそれなりには動くけどね。でも、タマちゃんはそれについてこれそうなんだよね」

 

 舞風の動きについてこれるというのは相当である。涼しい顔でそこまでやってしまうのだから、それは確かに素質があると言ってもいいかもしれない。

 

「那珂チャン、サッキノ音域ノトコロダケド……ア、特異点」

 

 本当に深雪達が来ていたことに気付いていなかったらしく、その姿を見て少し驚いたような表情を見せた。深海棲艦には輝いて見える特異点を、ここまで来てもわかっていなかったくらいには集中していたようだ。

 

「よう、昨日の歌、聴かせてもらったぜ。めちゃ良かった」

「すごく良かったのです。これからも頑張ってほしいのです」

「うんうん、アレは作業してる時のBGMになっててもイイヤツだったよね」

「まこと素晴らしい歌でした。また披露されるならば、お聴かせください」

 

 4人からベタ褒めをされたことで、深海玉棲姫は途端にアワアワと恥ずかしがり出す。だが、那珂がすぐにその背中を押した。

 

「こう言ってもらえた時は、どうするの?」

「アッ、ファンサービス……! ア、アリガトー……ッ」

 

 ニコッと笑って小さくお辞儀。そして、軽く手を振る。歌と踊りに集中しすぎて、対人での行動がまだ疎か。那珂と舞風は、そういうところも指導している様子。

 

「明日からもまた学校で作業したりすると思うからさ、その時に歌、聴かせてくれよな」

「ウ、ウン、聴キニ来テ。明日モマタ、ヤルト思ウ。那珂チャンノ後ニ、少シ時間ヲ貰ッテ、練習ノ成果ヲ見セルンダ」

「妖精さんにも評判いいんだよね。だから、今後のライブはタマちゃんにも毎回歌ってもらうつもりなんだ♪」

「はは、そりゃいいや。なら明日は絶対に学校で作業しよう。聴きてぇし」

 

 ライブ会場は妖精さんのモノであるため、観客として聴きに来ることは難しいかもしれないが、その歌を聴くだけなら学校にいるだけで叶うため、作業場所を学校優先にするだけで、その歌声を堪能することが出来るだろう。

 

 

 

 

 明日の予定を決めつつ、深雪達の散歩はさらに先の方へ。学校に入ることはせず、道をただ歩いていくと、ここでの戦闘が終わった時に外に出た通路の場所に辿り着く。ここから先は地下施設直通のエレベーター。散歩で行くような場所ではないためスルー。

 ここは外部から見えないように偽装されているため、周りに木が多い。それもあってか、既に後始末の手は届いている。それこそ雨の日の翌日の作業で、この辺りにも残骸や肉片などが出てきていてもおかしくなかったからだ。

 

「綺麗になったもんだよな、ここも」

「なのです。穢れはどうしても取れてなさそうですけど」

「そこはな、長年の積み重ねのせいで酷いことになってんだし」

 

 事実、この周辺の穢れはとんでもないことになっている。ベッタリとこびりついた穢れが、地面だけでなく木にも満遍なく拡がっており、その木自体が穢れの温床となってしまっているほど。

 ここの穢れをどうにかするには、木の伐採まで必要ではと考えているが、その木を後からどうするかという問題もある。穢れまみれの木は、燃やしても何かが出てきそうだし、そもそも何処で燃やすのだという話にもなる。学校のグラウンドでキャンプファイヤーなどと言っても、立ち昇る煙は穢れまみれ、なんてことだってあり得るのだ。

 

「木はある程度は切っちまいそうではあるよな」

「この辺を開拓していく感じ? 最終的には王様がテッペンにお城建てたりして」

「山頂から島を見下ろし、管理する。あの方ならば、それを望むかもしれませんね」

 

 この島の象徴になりかねない城。そんなモノが建つかもしれないと想像すると、それはそれで面白かった。

 城と言っても、そこまで大それたモノではなく、少し大きめの家というくらいになるのだろうが、だとしてもそこにあるかどうかで話が変わってくる。

 それこそ、何処にいてもわかるような少し高めの塔のようにして、時には灯台のように灯りでも見せれば、島の皆を安心させつつ、見ているぞと知らせることも出来る。

 

「そこはテミスさんの考えに任せるのです」

「だな。あの学校の改造だけで満足するかもしれねぇ」

「あたしは学校をホテルみたいにするのは楽しそうって思うなー。場所だけはいっぱいあるもんね。無駄な改造がされてるけど」

「そこさえどうにかしてしまえば、住むには余裕がある場所でございますね」

 

 などと話していると、その出入り口のエレベーターが突然音を立て始める。誰かが乗って地上に上がってきているということに他ならない。

 

「お、誰か地下施設に行ってるんだっけか」

「調査隊の皆さんは今もあの場所を調べていますよね」

「なら、一回引き揚げてきたのか?」

 

 だが、その予想は少し外れていた。そのエレベーターから出てきたのは、また違う深海棲艦。

 

「ア、ミンナコッチノ方ニ来テタンダ」

「奇遇かも、ですね」

 

 ムーサと副官ル級、そして高波である。話せないル級も、深雪達を見て一礼する。

 

「ムーサ、こんなとこで何してんだ?」

「コッチノ方ニ生マレチャッタ同胞ガイナイカナッテ、散歩ガテラ探シテタンダヨ。イナカッタケドネ」

 

 ムーサはフィールドワークで声をかけ続け、未だに飢餓感に襲われている深海棲艦がいないかを探している。姫級の声かけは、イロハ級なら呼び出されて来るということも証明されているため、それを繰り返していた。

 また、忌雷の匂いを嗅ぎ取れる能力もかなり重要であり、地下施設で()()()()()()がある場所などを瞬時に判断し、それを調査隊に伝えるなんて役割も担っている。ル級と高波はただの付き添いみたいになってしまっているが、ムーサのモチベーション維持とストッパーという非常に重要な立ち位置であるため、これは皆肯定的。

 

「多分モウイナイヨ。コレ以上増エナイカナ」

「あの歌の装置もしっかり効いていると思うかも、です」

「そっか、そりゃあ安心だ。うみどりがマジでパンクしちまう」

 

 ムーサが歩き回ってそれを保証してくれるのだから、信用度も高い情報。救える者は救えた。そしてそれ以上増えない。今はそれで充分だろう。

 

「そういや、ムーサもこの島に住むのか?」

 

 深雪は素朴な疑問をぶつける。ムーサも純粋な深海棲艦であるため、この島に住む理由はいくらでもある。

 だが、ムーサはまだそこのところは考えることが出来ていないという。理由は非常に簡単。

 

「私ハココデ生マレタワケジャナイシネ。同ジ深海棲艦デモ、チョット感覚ガ違ウンダヨ」

 

 副官ル級も高波に振られると小さく頷く。仲間意識はあるが、この島に強い拘りがあるわけでもない。むしろうみどりの方が故郷と言える場所。セレスと似たようなモノである。

 

「最後ハココニ落チ着クカモシレナイケド、ソノ時ニ考エルコトニスルヨ。今ハ出来ルコトヲヤッテク感ジカナ」

「そりゃあそうか。先のことはまだわからねぇことだらけだもんな」

「ソーユーコト」

 

 未来設計が進む島でも、まだ先の見通しが無い部分もある。今から未来のことを考えすぎても仕方ないと、ムーサは今を見続けているだけ。それも間違いでは無い。

 

 

 

 

 島の安全性も保証され、より平和な島に向かっている。問題は山積みでも、危険性はもう無いと言えるだろう。

 




そろそろタマちゃんにもアイドルとしての名前をプレゼントしないとね。
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