深雪達の散歩も佳境に。深海棲艦達の集落から始まり、学校、出入り口のエレベーターと来たら、そのまま行けるのはもう片方の集落、もしくは山方向の獣道になる。散歩でわざわざ獣道に行くのもどうかと考えて、深雪達は素直に道らしい道を下っていった。
適当に歩くだけでも見つけられるモノは数多くあり、それこそここまでに出会ってきた仲間達との会話からも、未来を見据えるモノから、今を楽しむモノまで多種多様。
「この島、いい方向に進みそうだよな」
「なのです。もうあんなことにはならないと思うのです」
この島の未来は、今のところ安泰だと断言出来る。この島を良くしていこう、新しいカタチに変えていこうと考える者達が、今も力を合わせているのだから。
「でも、あの地下の施設があるからねぇ。あそこどうすんだろ」
「水爆の脅威は失われましたが、施設そのものが何をしでかすかわかりませぬ」
「だよねぇ。今は深海棲艦出てきてないけどさ、歌の力で抑え込めてるのかな」
グレカーレからの問題提起。島の表側には見えていない、敵の本拠地である地下施設。未だにテミス達は足を踏み入れていない、この島の根幹。
今でも稼働している電源もさることながら、グレカーレは深海棲艦が出てきていないことも少し疑問視している。
今はあの地下施設に歌の力、屋上の発生抑制装置が効いていると考えているが、地上にのみ効果があり、地下には別途装置が用意されており、今でもそれが稼働している可能性があるのだ。調査隊はその可能性を見ているが、これは一部の者しか知らないこと。
「まだまだ楽観的には行けねぇってことか」
「実際どうなのかはわかんないけどね。あたしはちょっと思っただけ」
「本当なら全部ぶっ壊したいところではあるよな」
物騒だが、この島を新たなカタチに生まれ変わらせるなら、地下施設なんて無い方がいいため、全てを破壊してしまった方がいいだろう。だが、電力供給などを管理し、島全体のライフラインも牛耳っていそうなのも地下施設である。それがあるなら、島に住む者達の生活をよりうまくサポートしてくれるだろう。
負の遺産であっても、使い方次第ではいいことに活かせる。それをここからは考えていく必要があるかもしれない。
その地下施設。基本的には調査隊が徹底した調査をしているのだが、かなり広いこともあり、些細なことも見逃さないようにすると、予想以上に時間がかかってしまうモノである。響達の他にも調査隊が入っているが、それでも見つけられるモノ見つけられないモノが出てくる。
阿手の研究結果の持ち出しは何とか完了しており、隠し部屋などがないかもほぼ確認は出来ていた。残された資材などはもう無く、まだ片付けられていないようなところもほぼ無い。
最後の戦いが行われた阿手の亡骸がある隠し部屋は真っ先に片付けられているし、その痕跡はどこにも無いように後始末もされている程だ。戦闘の名残で崩れた壁なども、調査に支障が出るということで退かされている。それ以外の部屋も少しは触れられていた。
「この1週間で、大概見て回ったと思うけれど、まだ他に気になるところはあるかい」
何度目かの最深部確認を終え、響は仲間に問う。白雪は常にハッキングを行なって施設内に潜り込めそうなシステムがないかを確認し、神通は周囲に目を配り続けて少しでも気になるところがないかを確認している。
だが、ここまで時間をかければ、もう見えていないところはないと言えるところまでは来ている。他の仲間達を使ってクロスチェックも怠らず、出来そうな調査は全て終えたと言えるところまではきていた。
それでも、まだ疑いは止めていない。本当に全て終わったかと言われれば、実はまだあるのではという疑心暗鬼が止まらない。
ここの持ち主の性格から考えると、慎重だが狡猾、自分に繋がるモノは徹底して痕跡を残そうとせず、しかし確実に周りに影響を与えようとしてくるからタチが悪い。
「壁の中に何かあるとか、隠し部屋の類は全て探したと思います。不自然なスペースも、調べ切れたでしょう」
「途中でムーサさん達にも会いましたが、新たに生まれた深海棲艦が呼びかけに応じた、なんてこともなかったみたいですし」
白雪と神通も、疑いはしながら、しかしもう探せそうなところはないと感じていた。これ以上の同じ場所の調査は時間の無駄になるだろうとも。
「一部破壊もしましたからね。なので、次に確認しないといけないのは、中央の大空間です」
神通ですら、少し嫌な顔をした。中央の空間、戦場としてまともに戦える、地下の中でも特に大きな空間。水爆が取り除かれた今、そこも徹底的に調べなくてはならない。
その前から調べてはいる。床に何か埋め込まれていないか。不自然な造りをしていないか。それこそ響達だけでなく、調査隊一同が一度は確認している。血溜まりの掃除が完全に終わっていないとはいえ、見られそうなところは全て見ているはずだった。
「手が届かないような壁などに何か埋め込まれていたりしませんよね」
「そこは見たんじゃなかったかい? 嫌がらせにこういうところにも仕掛けてきそうだって」
「結果、監視カメラがいくつか埋め込まれていましたしね」
壁全体に監視カメラが埋め込まれていたことは確認済み。それがあるから、阿手は隠し部屋からある程度は動向が確認出来ていたようである。と言っても死角は多く、本当に大まかな部分がわかればいいというところ。
「隠し部屋もなかったね」
「ええ、全方位に脱出口を造られていたのは笑うしかありませんでしたが」
「そのせいで隠し部屋を造る場所も無かったのかな。見えている通路以外は、中央から行ける場所は無かった」
「アレ以上地下に続く隠し階段とかもありませんでしたね」
「これ以上掘るのは断念したのでしょうか。かなり深いですし」
中央の空間は、それだけで完結した場所であることは、調査隊の中では満場一致。何のためにこの大空間を造ったのだろうというのも、実験によって生まれたモノをテストするための頑強で広い空間を欲していたからということはわかっている。
戦闘訓練などをここでしているのならば、余計なモノをそこに設置するようなことはないかと納得は出来る。いくら狡猾な阿手であっても、自分自身を危険に晒すような配置はしない。
「司令官と鳥海さんの調査は何処まで進んだんだっけ?」
「半分を超えたところですね。膨大なデータを一つ一つ読み解いていますから、むしろあの数を2人で半分終わらせたというだけでも恐ろしいですよ。あの速読は私には出来ません」
「本当だね。しかも、合間合間に捕虜の尋問もやってるんだろう? 真似出来ないよそんなこと」
阿手の研究結果の調査も、今折り返し地点まで来たという。鳥海のタブレット3つ同時使用による速読を以てしても、そのあまりにも多い資料を読み解くのにはそれだけ時間がかかる。気になるところが出てくれば、そこで一度作業が止まるのだから仕方ない。
そして、遅くなる理由はもう一つ。尋問だ。阿手の側近である重巡新棲姫と飛行場棲姫には、より重点的な尋問が進められている。最も知る者の口を割らせようと、人には言えないようなこともしていたりするのだ。
「私達は私達で出来ることを進めましょう。とはいえ、そろそろここでは出来ることが無くなってきたのは確かですけれど」
「だね。頼りたくないけれど、一度深雪と電に手伝ってもらうかい?」
「煙幕で隅々まで見てもらうということですか? 一度やってもらった方がいいかもしれませんね。頼りたくはないですが」
煙幕ならば、これまでの調査の見落としを何か見つけてくれるかもしれない。それに、簡単には触れられないようなところにも入り込んで、何かを見つけてくれるかもしれない。
九割九分の調査は自前でしているが、最後の一分を特異点の力に頼るというのは、決して悪いことではないだろう。第三者による確認は、いくらあってもいい。観点が変わるなら尚更頼るモノだ。
見る者が見れば、それは堕落の始まりだなんて言いそうだが。
「明日にでも、うみどりに頼みに行ってみるかい。地下施設の最後の仕上げをしてほしいって」
「ですね。今はお休み中ですし、わざわざやってくれとは言えませんよ」
「それに、別の場所の後始末をしているだろうしね。学校の方をやり始めたみたいだよ。手が空いたらお願いするって感じかな」
「手が空くかなんてわかりませんけどね。後始末屋の仕事、盛り沢山ですし」
あくまでも後始末屋の作業を尊重し、自分達でやれることは自分達のみでやる。頼れる者には頼るが、基本は頼らない。それが調査隊の方針であり、適材適所の作業を徹底している。
「それじゃあ、一度戻ろう。いい加減、この地下施設に篭っているのは気分が良くないよ」
「ですね。昼食時にもなりますし、今回はうみどりの工廠厨房にお邪魔させてもらいますか」
「いいね。あちらの食い扶持を勝手に食べてしまうみたいで背徳的だ」
「そういう意味で言ったわけじゃないんですけど」
なんやかんやありながらも、調査隊は地下施設から一度外に出る。その際も、また何か生まれていないか、まだ何か見落としていないかを注意し続けて。
地下施設もついにはもう安全であろうという判断がされそうになっている。しかし、見落としが無いかは常々気にしている。
特に、深海棲艦発生抑制装置に関しては、まだ何処かに仕込まれていそうなのだ。それが本当にないことを確認するまでは、調査隊の仕事は終わらない。
長いこと時間をかけて、複数の目で同じところを何度も確認して、ようやく何もないと言えそうだけれど、まだわからないっていう疑心暗鬼を常々持ち続けています。