地下施設の謎を解くため、特異点に煙幕を使ってもらうようにお願いをしようとした調査隊だったが、煙幕は負荷が高いこともあり、あまり頼りたくないというのが本音。
そこで思い立ったのが、『電探』の存在。それを持っているのは、知らぬ間にテミスがスカウトして最強艦隊の一員となっていた、改造された元秘書艦組の1人、熊野。9日目の昼からは、熊野の『電探』を使い、地下施設内を隈なく調査するという方針で進めていくことになった。
そしてそれにはテミスもついてくる。配下を危険に晒すようなことはしないと、共に謎を知るために足を進めた。
「あたし達も行った方がいいかな」
「いえ、深雪さん達は今日は休息の日ですので、こちらで済ませておきます。もし熊野さんの『電探』でも難しいなら、また力を貸してください」
「あいよ。必要ならまた言ってくれ」
「なのです。いつでも力になるのです」
熊野が所属しているのは今やうみどりではなくテミスの最強艦隊。休憩時期もテミス達に合わせるようなので、うみどりに保護されていると見せかけて、既に集落での寝泊まりが始まっているレベル。
元秘書艦4人は、事が事なので、後始末が終わった後にどういうカタチで維持するかはまだ考えている最中。うみどりで保護をし続けるにしても、治療の手段が見つかるまでは扱いが非常に難しい。
それならば、安全を確約されているようなこの島にいてもらった方がいいだろう。今の島はそれくらいの扱いをしてもいい。治療出来ることが判明したら、その時に改めてここから出てもらう、もしくはこの島に艦娘として滞在してもらう。
「それでは、落ち着いたらいきましょう。響さん、そちらは──」
と話している内に響の方を見ると、セレスにボルシチのレシピをしっかり教えている最中だった。それだけではなく、郷土料理についても少し詳しく。セレスもうんうんと頷きながらメモをしているようなので、話はとても盛り上がっていたようである。
昼休み明け、調査隊と熊野、そしてテミスは、地下施設へと向かう。一番入りやすいところである山の中にあるエレベーターを使い、一気に地下施設の最奥、あの大きな空間のところまで向かった。
テミスは、こんなところがあったのかと驚いていた。集落とは全く違う文明の発展の仕方。ここだけ近代的、いや、集落が前時代的に見える。
「ナンダココハ……」
「この島を牛耳っていた、貴女にとっては
「先代……カ」
テミスはあまり嬉しくない顔をしていた。それは当然のこと。この地下施設を見る限り、先代は民を蔑ろにし、私腹を肥やしていただけの外道であったことがすぐにわかる。
「先代ハココデ何ヲシテイタノダ」
「身勝手な研究を。民を実験台に食い潰し、命を粗末に扱い、そしてそれを全て、特異点がいるからという妄言で言い逃れをし続けていました。仲間を傷付け、反省もなく」
「そのくせ、最後は命乞いをしたよ。容赦なく始末したけれど」
神通に加え、阿手の最期を知っている響が隠すこともなく言い放つ。始末されたと聞き、テミスはなるほどと納得。
「民ヲ自分ノタメダケニ食イ潰ストハ、王ノ風上ニモ置ケン。革命ヲ起コサレ、罰セラレテモ文句ハ言エン。言イ逃レナド以テノ外ダ。自ラノ行イハ、自ラデナケレバ始末出来ンノダ。ソレヲ全テ他ノ者ニサセルトハ……呆レテ何モ言エンナ」
阿手が始末されたことを当然だと吐き捨てるテミス。そこに地主の魂が含まれていたとしても、話していることは全う。当然のことを当然と言っているだけ。
「ナラバ、余ガヨリ良イ島ニ変エネバナラヌ。楽シク生キルタメダ。余モ、民モ」
「皆がそうであればいいのですけどね」
「全くだよ。見習ってほしい人間が多すぎる。深海棲艦の王がここまで考えられるというのに」
テミスの生き様は、人間であっても参考にしなくてはならないほど高潔である。尊大であり寛大である王は、その存在そのものが指標になり得る程である。
「さて、ここが現場だ。何処かに何かあるだろうか。熊野さん、よろしく頼むよ」
響に言われ、熊野が小さく頷く。すると、ここにいる仲間達の脳内に、熊野の『電探』の情報が一気に拡がった。
以前は仲間の位置を認識して、敵の判別が可能になるように反応を見せていたが、今回はこの地下空間のマップ。わかる限りの情報を、壁すら透かして確認している。床の合わせ目まで見える程の精度は、目だけで確認していた調査隊には出来ない芸当である。
「すごいね……もっと早く気付いていればよかった」
「私達が発見した隠し部屋も、これならすぐに見つけられていましたね」
そう、隠し部屋に関しても、熊野にとってはスケスケである。ほんの僅かな隙間から、その奥までを見てしまうほどの超高感度。完全に閉じ切っている隠し部屋は何処にもない。それを感知している。
そして、それを発見した。
「……地面だったか。気付くことが出来なかったのは悔しいね」
その隠し部屋の入り口は、この広い地面にあった。ぱっと見では気付けない。端も端。壁と床の境目に、見えないように隙間がある。よく見ればタイル張りのように見えて、そこだけは蓋状になっている。
下には無いだろうなどと話していたが、それが間違っていたのは少々悔しい。響は小さく溜息。
「ム、何ヤラ汚イ地面ガアルヨウダガ、コレモ戦闘ノ痕跡カ」
「ああ、あれはここで敵を始末した跡だよ。その経緯は……今はいいか。王であっても、それは別に知らなくてもいいことさ。先代の配下が、さらにその部下を蔑ろにした報いを受けたのさ」
「ソウカ……余モコウナラヌヨウ、王トシテ振ル舞ワネバナ。配下ニヤラレル程、恥ズカシイコトハナカロウ」
「私もそう思うよ。いい王は裏切らないし裏切られない。私としては、君にその心配はないと思うけどね」
「ホウ、見ル目ガアルデハナイカ」
テミスが王としての矜持を語っている内に、神通と白雪がその地面の隙間の方に向かう。当たり前だが、見た目からその蓋を開けられそうな場所はない。しかし、熊野の『電探』にはお見通しである。
「ここ、専用の工具があれば開けますね」
「出来ますか?」
「響さんなら。アナログは私でなく響さんですよ」
壁と地面の境目、巧妙に隠された操作盤。熊野のおかげで、それも見落としなく発見出来る。
響がそこに対して何やら工具を取り出すと、何やら弄った後、テコの原理のようにぐっと持ち上げる。すると、パコッと小気味良い音を立てて蓋が開く。
「ここからは白雪の仕事だよ」
「はい、任せてください」
操作盤が外に現れたのなら、ここからはハッキングの時間。繋げられそうな端末を見つけて、白雪がタブレットを接続。タンタンと軽く操作するだけで、地面が音を立てて動き出した。動く地面の上に乗っていたテミスがウオッと驚くが、その程度で入り口がどうにかなるような造りでは無い。
そして現れたのは、さらに下に続く階段である。その奥に何があるかも『電探』でわかっているのだが、直に見てみないとわからないところは多い。
「これだけ広い空間を、よくもまぁ隠し通せたものだ」
「戦闘の振動も届かないように、分厚く造ってありますね。それに、強度も相当高いです」
「深海棲艦の艤装の金属を使っているようだね。未知の合金だと考えていいだろう」
数mの厚みがある地面を階段で通過して、下りていった先にあったモノは、広大な発電施設。
「地熱発電ですね。ここまで地中深くなら、それが一番手っ取り早いでしょう」
「だね。今でもガンガン回ってるじゃないか。そりゃあここも電気がついたままだよ」
そこで行われていたのは、地熱発電。阿手が死んだ今でも、何も変わらず動いたまま。電力供給は一切止まること無く、蓄電すらされている程。本当に抜け目がないと設備を見て溜息が出た。
「これは今はそのままにしておきたいところだけれど……奥にまだ何かあるね」
「ウム、嫌ナ雰囲気モシテイルナ」
そしてその発電施設のさらに奥。『電探』で既に見えている、発電とは無関係な異物。調査隊はもう、その正体がわかっている。
「……やっぱり、こちらにもあったか。電力が供給されているから、未だにまともに動いてしまっている」
深海棲艦発生抑制装置。その
つまり──
「……残酷な装置だ。直に見ると特にそれを感じる」
妖精さんが、生きたまま装置に接続されていた。
「……何ダコレハ」
それを見たテミスが、拳を握り締めて震える。あまりにも残酷な装置の現実を目にしてしまい、明らかな怒りに震えている。
「何ダコレハ! 先代ハ、コノヨウナ下劣デ巫山戯タコトヲシテイタノカ!」
「……はい、これがこの島の闇です。かつての王を気取った愚者が長年かけて島を穢し続けた者の所業です」
「許セン……妖精モ余ノ臣民ダ。コノヨウナ扱イヲスルナド言語道断! コノ王ガソノヨウナ愚カ者ヲ始末シテヤル!」
「既に始末はされています。落ち着いてください」
「チッ……ナラバコレガ先代ノ巫山戯タ忘レ形見ダトイウノカ! 何ヲ考エレバ非道ガ出来ル!」
「それは私達が知りたいよ。心の底からね」
テミスの憤慨は当然の感情。深海棲艦だからとか、そういうものではない。皆が同意し、しかし今は落ち着いてほしいと全員で宥めた。
未だ残る島の闇に、新たな島の住民は怒りを持つ。そこから、改めて島を良くしていこうと決意する。
テミスはいい王様になれる。