後始末屋の特異点   作:緋寺

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救出

 地下施設の大空洞の更に地下が発見された。そこにあったのは、施設内の電力を未だに供給し続けている、地熱発電の設備。そして、その電力を使って未だに稼働し続けている、深海棲艦発生抑制装置だった。学校屋上に置かれていたスピーカー型の装置とは違う、内部構造剥き出し状態、つまり、薬漬けにされた妖精さんがそのまま見えている状態で発見された。

 それを見た今の島の王、テミスは酷く気分を害し憤慨。かつてこの島を牛耳っていた先代に対し、強い怒りを覚える。しかし、それを実際にやっていた者は、もうこの世には存在しない。

 

「フン……当然ノ報イダ。先代ガ生キテイル頃ニ余ガ生マレテイタナラバ、必ズヤ息ノ根ヲ止メテイタダロウ」

「……そうですね。コレに関しては、満場一致でした。他の者達は生かして捕えることを目的としましたが、先代に関しては、生かしておく価値も無いと」

 

 神通は沈痛な面持ちで語る。だが、これが失言であることに、すぐには気付けなかった。

 

「先代ノ配下ハマダ生キテイルノカ」

 

 直接的な制裁は出来ないが、その意思に賛同している者達がまだ生きているというのならば、その者達に対してこの悪業を後悔させることは出来る。テミスはそう思い立った。

 決して許せない非道な行いを肯定するのならば、それ相応に罰せられなければならない。それこそ、命を以て償わねばならない程に。

 

「王様、その前にやらないといけないことがあるよ」

「ム?」

「この妖精さん達を救おう。酷い状態だけれど、()()()()()()

 

 響に言われて、テミスはスーッと頭の熱が冷めていく。加害者への制裁より先に、被害者への救助が優先されることは、良き王の資質とも言える。

 

「ソウダ、ソノ妖精達、今ドウナッテイルノダ。余ノ姿ヲ見テモ反応ガ無イゾ」

「細かいことは省くけど、この装置は、妖精さんの楽しいという感情を糧に動いているんだ。だから、この妖精さん達は、強制的に楽しいという感情にさせられてる」

「強制的ニ、ダト……?」

 

 装置に繋がれた妖精さん達をよく見るとわかる。腕には非常に小さいが点滴のようなモノが打ち込まれており、それが伸びる先には得体の知れない液体がある。おそらく、妖精さんにも効果があるような麻薬。それを定期的に送り込まれることで、常に楽しいという気持ちを維持させられ続けている。

 そのせいか、繋がれている妖精さんは、見たことのないような表情をしていた。痩せこけて、虚ろな瞳なのに、壊れたような笑みを浮かべた、正直ずっと見ていたいとは思えない、壊れた姿。生きているとは到底思えない、頭の中だけが死んでいるような、凄惨な現状。

 

「……救エルノカ、コノ妖精達ヲ」

「わからない。でも、ここに繋がったままだと、生きるも死ぬもない」

「ナラバ、ココカラ離シテヤルベキダロウ。今スグ」

「その通りだ。ただし、この装置も止まる。構わないね」

 

 深海棲艦発生抑制装置が止まるということは、この地下施設の中に深海棲艦がまた生まれるようになってしまうかもしれない、ということである。これまでは安全に作業を続けられたこの場が、これ以降安全が一切保証出来なくなるということになる。

 最悪は、この地熱発電の設備が、新たに生まれた深海棲艦によって破壊されることだろう。今の屋外はそもそも電力供給が無いため、ここの発電が失われても何も問題はない。しかし、この地下施設は途端に真っ暗闇となるだろう。それに、空気も薄くなると予想される。

 今後の作業はしにくくなることは間違いない。だが、だからと言って苦しんでいる妖精さんをそのままにしておく理由もない。

 

「構ワン。早ク外シテヤルンダ」

「了解。私もそうしたい。ここがどうなっても構わないからね」

 

 島の王であるテミスがやれというのだ。ならば、すぐにやるのが調査隊。仕えているわけではないのだが、利害が一致しているのだから、それはすぐに対処する。

 

 妖精さんに繋がれている点滴を優しく抜いていくと、妖精さんがビクンと震えた。薬を投与され続けているという状況から抜け出し、ようやく解放されたことで、力無く気を失った。

 響のサポート妖精さんがその妖精さんに近付き、脈を測る。薬を抜いたことで何かあるかと思ったが、サポート妖精さんが小さく頷いたため、すぐに命まで失うということは無かったようだ。

 しかし、このまま置いておいたら、間違いなく命に危険がある。ならば、今は調査よりも先に、この妖精さんの保護を優先するべきだろう。

 

「うみどりニ連レテイクゾ。余ニハ救エン。ダガ、後始末屋ナラバ可能ダロウ」

「そうだね。調査隊でも少し難しい。うみどりなら、今はかなり特殊だ。特機もあるし、いざという時は特異点の力を借りる」

「すぐにでも戻りましょう。予断は許されません」

 

 響達はその妖精さんを優しく抱えて、すぐにこの場から出ていくことにした。一刻も早く、薬漬けにされた妖精さんを運ばねばならない。

 

 

 

 

 出来る限り早くうみどりに向かった結果、薬漬けの妖精さんは命を失うことなく到着することが出来た。休息中の艦内は一同騒然。とんでもない物的証拠が運び込まれたということで、突如大忙しとなる。

 

「なんて酷いことを……まずは生きる為に必要なモノを全部あげないと。モノを食べるのは難しいかしら」

「食べられないなら、点滴でどうにかするしかないわ。主任、あったわよね」

「無くてもそれはスグに作ります! 『工廠』の力をここで使わなくてどうするんです!」

 

 伊豆提督、イリス、そして明石の主任がすぐさま迎え入れる準備を始めた。妖精さんにどのように治療を施すかは、妖精さんである主任が先導。しかし、薬漬けという余程のことがない限り妖精さんには起こり得ないことが起きてしまっているせいで、正確な治療方法はまだ何とも言えない。

 少なくとも、今は死ぬギリギリにされているため、栄養補給から。モノが食べられるのが一番だが、可能な限り出来ることをしていく。

 

「妖精サンノタメノ料理、作ッテオクワ。流動食ガイイワヨネ」

「お願い、セレスちゃん。栄養たっぷりで食べやすいモノを」

「エエ、任セテチョウダイ。スグニデモ作ルワ。貴女達モ手伝ッテ」

 

 ラ級姉妹も事の重大さに気付き、セレスの指示に力強く頷く。工廠厨房は一時的に停止。妖精さんのために全力を尽くす。

 

「ハルカちゃん、あたし達の力、必要なら言ってくれ!」

「いつでも煙幕使うのです!」

「ええ、危なくなったらお願い。こればかりは、特異点の力も借りるかもしれない。絶対に死なせはしないわ」

 

 深雪と電も、ここでは躊躇いなんてしない。しかし、特異点の煙幕は効果が強すぎる可能性もある。まずは工廠で出来る限りをやって、それでも手に負えない場合は、特異点の力である。

 

「深雪ちゃん、特機は使わせてもらうわ」

「ああ、好きなだけ使ってくれ! 寄生で治すことは出来ないと思うけど、何やらせてもいい!」

「ありがとう。妖精さんより器用なところがあるから、手を借りたいの。よし、それじゃあ、奥まで連れていくわ!」

 

 妖精さんは工廠の奥へ運ばれていった。ここからは、専門家の手で救ってもらうしかない。

 

「……余ガ救ワレロト願ウノダ。救ワレテモラワネバ困ル」

 

 テミスはその姿をずっと目で追っていた。もう自分ではこれ以上何も出来ない。それがわかっているのだから、後を託した。

 血が出そうなくらいに拳を握り締めて、その怒りを表に出さないように。

 

「……大丈夫だ。絶対救ってもらえる」

「こんなことで命を失うなんて、酷すぎるのです。電達も願います」

「ああ、特異点の願いだ。必ず叶うぜ」

 

 そんなテミスの隣には、深雪と電がいた。その優しい願いを聞きつけて、それが叶うようにと願う。煙幕を撒いているわけではない。それでも、特異点が願っているというだけで、それは叶うと信じられる。

 テミスは、そんな2人の言葉に、ふっと小さく笑みを浮かべた。

 

「ウム、王ノ願イヲ、皆ガ叶エル。国トシテ、コレホド素晴ラシイコトハナイ。ダカラコソ、余ハ民ノ願イヲ叶エルタメニ、力ヲ尽クスノダ」

「……すげぇな王様。それが堂々と言えるだけでも、王様の器だよ」

「当然ダ。余ハ、コノ島ノ王ナノダカラナ」

 

 胸を張って語るテミスに、改めて王の器を感じた。ここでの行動力、一度感情を見せたが、こういう場では怒りを露わにせず、冷静に自分が出来ないことはしない。動ける時は率先して動き、動けない時は迷惑をかけない。王以上に人格者として大きい評価に繋がる。

 この島を任せるに相応しい存在。そう断言出来るほどに。ただ面白いだけではない。

 

「……調査隊、先ノ話、聞カセテモラウゾ。先代ノ配下ガ今ノ生キテ残ッテイルソウダナ」

「ああ、その件だね。知ってしまったなら、隠しておく必要もない。話すよ」

 

 それは、今もおおわしで尋問を受けている阿手の側近のこと。昼目提督に散々な目に遭わされているのだが、それでも全く改心をしない徹底した者達。ある意味、阿手の持つ意思を継いでしまっている者達。

 テミスにとっては、それだけでも不倶戴天の敵となり得る存在。今の怒りをぶつけるに相応する存在である。

 

 

 

 

 テミスはそれを知った。そして、王であるが故に──行動に移した。

 




Dies irae
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