阿手の側近に再三、平和のために変わってみないかと訴えてきたが、何度言っても無駄であることを察したことにより、ついにテミスも見捨てることとなった。
カテゴリーYの子供達も、側近とはまた違う大人のカテゴリーYも、この側近達からは離れ、完全な孤立無縁。それでも自分達が正しいと言い続けているのだから、筋金入りだと、昼目提督は逆に感心していた。
「テメェらすげぇな。ここまで言われて、ここまでされて、それでも自分が正しいと思える根性がすげぇよ。まぁ、ここまで言われてもわからねぇってことは、正真正銘のアホなんだろうけどな」
側近達は何かを言おうとしたようだが、昼目提督はその言葉を封じ込めるように首を掴んで引き寄せた。
「まさかテメェら、多数派が少数派を力で抑え込んでるとか言うつもりじゃあねぇだろうな。そんな都合のいいこと考えてんじゃねぇぞ。テメェらは多数でも少数でもねぇ、犯罪者なんだよクソ共。反省したなら情状酌量を考えてやったが、テメェらはもうダメだ。今から何を言おうと変わらねぇ。テメェらには手のひらも返させねぇからな」
今から反省しましたもうしませんと言っても、薄っぺらい嘘であることは誰が見てもわかること。この2人は心からの反省が絶対に無い。さらには、反省したところで島に置くつもりもないのだから、既に居場所が無い。
テミスが見捨てたということは、誰でも受け入れられるこの島ですら受け入れられないということ。辛くても、嫌でも、この島で暮らすことは不可能である。
「テメェらの運命は二択だ。大本営で然るべき処置をされて、罪を突きつけられて死ぬか、ここにいる連中を人間の姿に戻すための研究に使われて死ぬか。もしかしたらどちらもかもしれねぇな。罪を言い渡された後、死ぬまで研究に使われるんだ。奇しくもテメェらがやってきたことをテメェら自身で味わうことになるな」
当然言い返そうとする。こちらがやって罪なのに、お前らがやって何故正当化されるのだと。言わずとも昼目提督にはわかった。だから、何かを言われる前に突きつける。
「オレ達ゃ国の法に則って、隠れてやるわけでもなく、ルールに従ってテメェらを拷問にかけてるだけだ。国の機関を通して、正式に書類もあげて、感情論無しでテメェらに対しての罪状を突きつけて、法で決まったことをやってるだけだぞ。コソコソともしねぇ。無差別に人の命を奪うこともしねぇ。何か文句あるか」
あるだろう。自分達は正しいと思っているのだから。正しくないのに。
「まぁ、テメェらは幸い人間じゃねぇからな。法を通すことなく殺すことも出来る。なんてったって、テメェらは深海棲艦、本来なら人類の敵だ。王様みたいに共存を目指して直接交渉してくるような善意の塊でもない、周りを利用することしか考えてない、ただの悪人だ。いや、悪人と呼ぶのも勿体無ぇ、人じゃねぇからな。でも、譲歩に譲歩を重ねて、オレ達ゃテメェらを人として扱ってやってんだ。そんなこともわからねぇか」
わかるわけがない。何故なら、自分達が一番だから。優遇されて当然だと思っているから。その時点で何も言えることはないのだが、昼目提督は丁寧に説明している。
「いいか、テメェらはテメェらを高次の存在だ、誰よりも上位にいる偉大な存在だと思ってるかもしれねぇけどな、この世界はテメェらのことを、最下層の底辺、淘汰されるべきクソ虫だと判定してるんだ。虫と一緒にするのも烏滸がましい。テメェらにはもう必要のない法で裁いても、これまでやってきたことを鑑みても、そして今の態度も、全部見て、そうなってんだよ。意見が通らなきゃガキすらも睨みつけるようなクズが、まともに扱ってもらえると思ってんのか? 全部が全部、テメェらには価値がねぇっつってんだ。その価値を作るために、研究に使ってやるっつってんだよ。ようやく人様の役に立てるんだぞ。むしろ喜べよ」
コレだけ言われても、自分達が今どういう状況に立たされているのかを理解出来ていない。死ななきゃわからないだろうが、死んでもわからないだろう。
「ガキ共は王様に任せる。折れた大人は話を聞いてから王様に判定してもらう。だが、テメェらはもうその必要もない。しっかり送り届けてやるよ。地獄にな」
そして、側近2人の頭同士を強く打ち付けることで気絶させた。普通の人間なら死ぬような衝撃でも、深海棲艦の身体であり、自己修復まで備えているのだから、死にはしない。都合のいい身体だと昼目提督は笑いもしなかった。
「鳥海、タブレットあるか」
「はい、持ってきてますよ」
昼目提督はすぐに連絡を始める。相手は大本営、瀬石元帥。
「うす、ちょいといいですかい」
『君も儂の胃を痛くするタイプ?』
「痛くなっちまうかもしれねぇですね。阿手の側近以外は折れました。ガキ共は更生を始めてます。で、このクソ虫共をどうしようかって話なんですが」
気絶している側近2人を画面に映す。何処からどう見ても深海棲艦であり、人間ではない。それを考慮すると、普通ならどうすればいいのか迷うところ。
『……ふむ、罪状から考えれば死罪は免れん。じゃが、本来ならば法で裁くことも出来ん』
「ですよね。なので、トシパイセンの鎮守府に送っちゃいけねぇですか。カテゴリーYを人間に戻す研究はどうしても必要ですから、こいつらで研究すりゃいいと思うんですが」
『保前君のところか。確か今、原さんの首もそこにあったのう』
「ええ、あそこのイカレ工作艦達がぶっ壊しちまったって聞いてますがね」
瀬石元帥は少し考える素振りを見せる。そして、
『うむ。それでよかろう。うみどりに置いておくのも可哀想じゃし、こぞって研究したがる冬月と涼月がおる。成果が出るかはわからんが、研究してもらうに越したことはない』
「うす、了解です。ならこちらで送り届けます。裁判とかどうします?」
『どうであれ、陸には持っていかねばならん。軍港経由でこちらで引き取ってもいいし、軍港での裁判でもよかろう。保前君にはまた苦労をかけるが』
「あのヒトも胃がヤベェことになってますね。ご愁傷様です」
昼目提督がガハハと笑い飛ばすが、瀬石元帥は他人事でもない。微かに胃が痛んだようにも思えた。
「ム、人相ノ悪イ男、其奴ガ、人間側ノ王カ?」
昼目提督がタブレットに向かって話しているのを見て、興味深そうに近付いてくるテミス。その隣には、多摩の姿もあった。報告の仕事は終わったのだが、テミスという例外中の例外を見たことで興味が湧き、少し話をしていたようである。
人相の悪い男と称されて苦笑する昼目提督だが、否定はしなかった。そして、タブレットをテミスの方へと向ける。
「元帥閣下にゃ。多摩達の頭張ってる王様みたいなもんにゃあ」
「ホウ、ヤハリカ。ナラバ、挨拶クライハシテオカネバナ。余ガコノ島ヲ統ベル王、テミスデアル。ヨロシク頼ムゾ、人間ノ王」
『うむ、儂は王というわけではないんじゃが、島の維持に関しては儂に一任されるじゃろうから、君にとって見れば儂が王なんじゃろう。よろしく頼みますぞ、島の王』
深海棲艦が島を統率することに対して、瀬石元帥は否定的ではなかった。共存を目指す、平和を求める深海棲艦。それならば、任せることが可能だろうと考えて。
しかし、島が深海棲艦の楽園となると、世間体が非常に悪い。深海棲艦は侵略者、それを意図的に野放しにしているようなモノだ。一般人には知り得ない情報として隠蔽しつつ、サポートもしてあげたいところ。
戦う必要がないのならば、余計な戦いは避ける。資源も有限なのだ。それに、テミス達が戦いを求めていないのだから、どういうカタチであれ、共に支え合い、平和を享受するべきと考える。
『そちらの子供達は、君が更生するということになるのかの』
「更生カドウカハ知ラヌ。シカシ、此奴ラハ自ラ余ニ下リ、共ニ歩ムコトヲ選択シタ。コノ島デ、共ニ生キル。ソノタメニハ働イテモラウ。ソレハ全員ガ理解シテイル」
「それはマジっす。今も島の後始末を手伝うようになってるんで」
アレだけ反発していた子供達が、ここまで懐いている。その事実に、瀬石元帥はテミスのカリスマ性を知る。
『なるほど、では、君にそちらの者達は任せようかの。共に島の復興をしてほしい』
「言ワレズトモ。後始末屋ト共ニ、出来ルコトヲ進メテイル。皆ノヤル気モ漲ッテオルワ。ソウダロウ、皆ノ者!」
テミスの号令に、子供達は歓声を上げる程である。瀬石元帥は苦笑しつつも、これならば統率者として力を振るってくれるだろうと信じることが出来た。
『ならば、こちらの手続きはやっておこう。その島は自治区として認定されるように動く。それに、うまく援助出来るように持っていきたいのう』
「助カル。軌道ニ乗ッタラ、コチラカラモ何カ返ソウ。貰ッテバカリデハ余ノ沽券ニ関ワル。ドレダケ時間ガカカルカハワカランガ、必ズ恩ヲ返ソウ」
『その気持ちだけでも充分じゃよ。だが、その時を待たせてもらおうかの』
ここで突っぱねることなく受け入れることで、瀬石元帥はテミスの信頼を勝ち取った。
大本営と島が上手く繋がり、これからの平和が約束される。あとは後始末さえある程度終われば、心配事も無くなるだろう。
島の未来は明るい。もしかしたら、人間も行き来するような素晴らしい島となるかもしれない。
元帥と王が少しでも会談出来たことで、島の未来は大きく前進しました。今後もまたいろいろとやることになるとは思うけど、取っ掛かりが出来たのは大きい。