後始末屋の特異点   作:緋寺

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工廠班、地下へ

 一方、うみどり。薬漬けにされた妖精さんが運び込まれ、治療が続いている。工廠の奥で行われている処置は、まずは生命維持を最優先。これまで死なないギリギリくらいにまでにされていた栄養などを与え、そこから薬を少しでも抜く作業に入っている。

 しかし、急激に与えすぎても身体が追いつかない。入渠ドックを妖精さんのために使うにしても、そこのところはしっかりやらなければ、逆効果となりかねない。

 戦場で傷付いたのとは訳が違う、長い時間の蓄積と、普通ならありえない障害みたいなモノ。慎重に行かねば、その命は潰えてしまう。

 

「地下施設に接続されていたということは、屋内と屋外で、深海棲艦発生抑制装置の範囲が違うということになります。なので、治療が安定したら、そちらの調査に行かなければなりません」

 

 妖精さんから目を離すことはせず、しかし意見は伊豆提督に伝える明石。

 屋外の装置はもう完全に安定したため、誰かの妖精さんに接続してもらい、楽しんでもらえばいい。それはもう、その装置に関わった者なら誰でも可能なこと。那珂や舞風、深海玉棲姫も、ステージの用意は可能である。

 だが、地下施設内には届いていないとなると、そもそも装置自体を改良する必要も出てくる。二箇所の装置を交互に動かすというのも、なかなかに面倒な話だ。メンテナンス性も考えると、やはり一箇所で全ての場所を賄えるようにした方がいい。

 

「ええ、アタシも妖精さんの治療に専念するわ。アナタにしか出来ないことをやってちょうだい。この島のためにも」

「了解です。ここで新たに深海棲艦が発生するとなると、また後始末が増えますからね。最優先は妖精さんですが、終わり次第行きます」

 

 さらに仕事が増えたことになるのだが、明石はイキイキとしていた。元来、明石は仕事が多い方が燃えるタイプ。それも、これまでにないタイプなら尚更である。

 

「主任、どうですか」

 

 妖精さんの様子は妖精さんが一番わかる。機材で数値化はしているが、同じ妖精さんである主任に様子を聞くが、まだ予断を許さない状況であるのは変わりなく、主任もいつになく真剣だ。

 考えて、やれそうなことはすぐに行動に起こし、そして様子を見る。誰よりもこの妖精さんの心配をしているのは、間違いなく主任である。

 

 主任は小さく首を縦に振り、今のままでひとまずは大丈夫であることを伝える。命は潰えない。しかし、置いておくことは出来ない。このまま安定するまでは様子を見続けなければならない。

 

「少しの間は離れられません。その間は、あの地下に誰かを置くことをオススメします。仮説ですが、深海棲艦は視線のある場所では生まれません」

「……そうね、一時的にだけれど、地下施設に滞在してもらうことは必要かもしれない。でも、全部の部屋を網羅するのは流石に厳しいわね」

「なるべく早いうちに、学校屋上の装置をバージョンアップします。アイドル達の歌声が、地下施設内届くように」

「それくらいならやってこようか?」

 

 と進言したのは、明石の助手として働いているダウナー飛行場姫だ。装置の改造に関わっているため、その構造は多少は理解している。妖精さんに快適にいてもらうための周辺機器のデザインばかりをしていたが、ここで本題の方にも首を突っ込むことを考えた。

 

「出来ますか?」

「やらないといけないのは、外付けで妖精さんの楽しいエネルギーを地下施設にまで流し込む装置を作るってことだよね。私、アンタの隣で作り方見てるし、昨日だってメンテに付き合ってる。あと、アンタが徹底的に教え込んできたでしょうよ。やれないことはないと思うけどね。まぁ、壊すくらいなら放置して帰ってくるよ」

「では、お願いします。私は今、手が離せません」

「はいはい、だるいけど必要ならやるよ。これ以上増えた方がもっとだるいだろうし。とりあえず、地下にあるっていう装置見てきた方がいいね。規格が違ったらだるいから」

「そうですね。可能なら、屋上と地下の装置を接続してください。ケーブルが届くかはわかりませんが」

「地下の電力が島中に行ってたっぽいし、繋げられるんじゃない? 知らんけど」

 

 手をヒラヒラ振りながら、ダウナー飛行場姫は工廠から出ていく。伊豆提督から、必要な人員を用意すると言われ、それは欲しいと踵を返した。それは流石にダウナー飛行場姫の力では難しいため、伊豆提督を頼る。

 

「大丈夫ですよハルカちゃん、今は私と主任で見ておきます。島の方に力を注いでください」

「わかったわ。それじゃあ、後はよろしくね」

「はい、お任せください」

 

 まだ安定しない妖精さんだが、明石と主任の力があれば、このまま命の灯火が潰えることはないだろう。伊豆提督は少し不安を覚えながらも、一度工廠の奥から出ていった。

 

 その後、集められた人員は、資材運びのための睦月、明石の『工廠』を『量産』したフレッチャー、そして、未だに地下施設にある穢れの温床となりかねない血溜まりを掃除するための者達。それがあるせいで深海棲艦が発生しやすくなっているだろうから、少しでも可能性を減らすためにも、掃除は必要。

 深雪達は自主的にそれに参加すると宣言し、伊豆提督は申し訳無さそうに、しかし感謝しながらよろしく頼むことになった。

 

 

 

 

 地下施設に来るのは、最後の戦い以来となる深雪達。エレベーターで何度も往復することになるが、それでも全員があの広場に辿り着いた時、例の血溜まりが見えて嫌な気持ちになる。

 

「あの肉の塊は撤去したけど、血だけはまだ残ってんな」

「電達は、アレを掃除すればいいのです」

「そのためにモップとか持ってきたわけだしねー」

 

 モノの片付けなどはこれまでもしてきたが、後始末として床の拭き掃除というのは初めてである。

 持ってきたのは、穢れを消し去る薬と、それを使って作られた専用の洗剤。痕跡を完全に消すために、普通の洗剤や蒸留水、あとはアルコールなどの消毒液も大量に持ってきている。

 

「そんじゃ、私はもっと下の方にある装置見てくっから、そこの掃除はよろしく」

「あいよ。あたし達にゃ出来ねぇことだから、頼むぜ」

「はいはいだるいだるい」

 

 ダウナー飛行場姫と共に、苦笑しながらついていくフレッチャー。そして睦月も資材を持って奥へと向かった。

 

「よし、じゃああたし達は、ここの掃除だ。休日返上してんだから、徹底的に綺麗にするぞ」

「なのです!」

「最後は煙幕でトドメとかになるかな」

「必要ならば凍らせることも致しましょう。……体液を凍らせたら綺麗に剥がれるとかありませんか」

「それだとありがたいんだけどな」

 

 早速掃除を始める深雪達。血溜まりに洗剤をばら撒きながら、デッキブラシでゴシゴシと擦り、モップで洗剤を拡げながら綺麗になるように拭いていく。へばりついた体液は簡単には無くならないが、少しずつでも失われてくれるなら良しとしなくてはならない。

 

「マジで厄介だな。こういう後始末はこれまでにやったことねぇよ」

「だねぇ。拭くってより、拭き取るって感じでやらないとダメだこれ」

「グレ様、ここはモップで挟み込んで持ち上げるというのは如何でしょう」

「やってみよっか。シラクモ、そっちからお願ーい」

 

 四人がかりで掃除をすることによって、ある程度は綺麗になっていく。黒ずんだ水がジャバジャバと出てくることになるのだが、それも一滴残らず回収するように。

 

 

 

 

 地下の地下まで下った工廠班は、そこに広がる光景を見て、変な笑いが出た。

 

「……これだけの発電施設を自分のためだけに使ってたってわけだ。巫山戯てんねぇまったく」

 

 ダウナー飛行場姫はそんなことを呟きながらも、話に聞いていた深海棲艦発生抑制装置の方へと向かう。その足に迷いはなく、フレッチャーと睦月は少し驚いた。

 

「何処にあるか、見当ついてるにゃし?」

「まぁね。こういうのは大概、この空間のど真ん中に送ってのが相場でしょ。ほら」

 

 歩いていった先。通路が入り組んでいるわけではないが、発電設備のおおよそ中央に、妖精さんが取り外された装置がそのまま残っていた。当然だが今は動いていない。コアであるパーツが失われているのだ。電力は供給されていても、装置としては機能していない。

 

「んー……電力はそのままここから掻っ払って、でもシステム自体は地上から繋ぐか。無線でどうにかするのは無理だよなぁ。ここって外と通信出来ないんだよね?」

「はい、地下は外部と隔絶しています。なので、無線なども難しいかと」

「有線しかないか。クッソ長いケーブル作るところから始まるかも。それなら構造も何もあったもんじゃないし、アンタでも作れるでしょ」

「おそらく。私の力は本来の『工廠』から1ランク落ちていますが、簡易的なモノでしたら作り出すことが可能です」

「そりゃ頼もしい。全部私がやるってなったらだるすぎるからね。助かるよ」

 

 話しながらも構造を確認し、システム自体は学校屋上のそれと全く同じであることはわかった。そうなれば、あとはエネルギーの送信が可能なケーブルなどを、ただひたすらに作っていくことになるだけ。その前に、どれくらいの長さが必要かも考えているようだが。

 

「な、なんか詳しいにゃし。前からそーゆーことやってたの?」

「うんにゃ、やってないよ。この島、私達に技術を渡すの極端に嫌ってたし」

「なのに、そんなにやれるの?」

「あの明石が、私が『工廠』使えるって知った途端に滅茶苦茶教えてきたから。おかげで嫌でも手伝えるよ。指示も要らなくなっちゃった」

 

 へへっと苦笑しながら、ダウナー飛行場姫は装置を細かく見て、ケーブルの接続先などを考えていた。

 

 睦月は少し教えられたくらいでここまで出来るようになっているダウナー飛行場姫に驚いていた。実は天才なのではと。

 だが、ダウナー飛行場姫はそれを完全に否定する。明石が教えるのが上手いんだと。

 

「わからんところがあったら、明石に聞くつもりで進めるかな。んじゃあ、ケーブル作り、始めるかね」

「了解です。お任せください」

「資材はいっぱいあるのね。ガンガン使ってほしいぞよ」

 

 

 

 

 ここからは屋上と地下の装置を繋ぐ長い長いケーブル作り。だが、『工廠』の力があれば、それも簡単に出来るだろう。ただひたすら、同じことを繰り返すだけ。体力の前に精神が音をあげそうである。

 

 




妖精さんの楽しいエネルギーは、現在ヘッドフォン型の装備を通して、ケーブル伝いに拡張されています。なら、そのケーブルを長く長くしてやれば、地下にだって届くかも。エネルギーを電子信号に変換しているのなら、それで行ける。
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