後始末屋の特異点   作:緋寺

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公認技術者

 地下施設の深海棲艦発生抑制装置を学校屋上の装置とリンクさせるために、長い長いケーブルを作っていくことになった工廠班。睦月が運んできた資材をダウナー飛行場姫が軽く触れると、『工廠』の力を使って『開発』を実行。スルリと出来上がったのは装置に接続するためのケーブルである。

 学校屋上の装置と、妖精さんに装備してもらう装置、その間を接続するためのケーブルの形状は、ヘッドフォン型を提供した時に理解しており、今でもしっかり覚えているため、今このタイミングでも普通に作製可能。

 

「そんなさらりと作れるモノなのですね」

「明石に教え込まれたよ。これは使い続けている内に、いつ壊れてもおかしくないから、いつでも開発出来るようにってね。ほい、これ見様見真似でいいから作って。ああ、中間端子も作っておくから」

 

 フレッチャーは現在、明石の『量産』状態。簡易的なモノならば『開発』が出来る。ダウナー飛行場姫のように、資材があれば完全な新作を世に送り出せるわけではなく、そこに例があるのなら完全に再現出来るというイメージ。『量産』を持つが故に、『開発』でも『量産』が得意という、冗談みたいな力を得ている。

 フレッチャーは刻一刻と同じモノを作り続けていく。ケーブルを1本作り、中間端子を1つ作り、を繰り返し繰り返し進めていく。それだけでも充分な戦力である。

 

 その間にダウナー飛行場姫はケーブルを通す先を考えていた。地下と屋上を繋げるというのは、流石に規模が大きすぎる。一直線に出来るわけでもなく、そもそもここに来るためにエレベーターを使わなくてはならない程に深い。フレッチャーに作ってもらっているが、ケーブルが何本いるかもわからない。多すぎても困らないため、今は延々と作ってもらう以外に選択肢はないだろう。

 

「あそこの階段は開けっぱなしにした方がいいな、多分。何があったかすぐに見えるってわけじゃあないところにあるし」

「睦月も同意するにゃし。閉めたらケーブル通すのも大変になりそうだし」

「というか、この上の場所、何に使えばいいのさ。何かあった時の緊急避難先? 核シェルターにでも使えるかね」

「強度はどうなのでしょう。強そうではありますが」

「壁は硬そうなのね。ここに降りてくるまでの床の厚さが壁にもあると思えば、ある程度の爆発とかは回避できるかも?」

 

 地下施設の構造をちょくちょく考えて、ひたすら延長ケーブルを生産していく内に、少なくとも階段を上って広間に出られるくらいの長さには達した。この時点でもう数十mはくだらない長さとなっている。

 

「うーん……これ途中に電力供給できるハブ作るか。安定して上まで持ってけない気がする」

「じゃあ、この電気も上の方にまで持っていく感じにゃし?」

「そうなるね。まぁ電力を持ってくのはそこまで難しくないでしょ。取り扱いは注意だけど。これ、今から全部やるのは無理だな。明石に相談しないと」

 

 地下施設の構造だけでも、もう少し解明しないと、うまく繋ぐことは出来なそうだとダウナー飛行場姫は語る。この発電施設だけで島の電源全てを賄っていたのならば、何処かに屋外への供給が可能になるシステムがあるはずだし、スイッチングが出来る場所もあるはずだ。学校なども電気が供給されれば、さらに住みやすくなるだろう。

 

「ひとまずケーブルは絶対必要だから、作るだけ作って置いておけばいいよ。接続しないで階段の上まで引っ張っていく感じで」

「どう固定しますか?」

「あー……どうすっかなぁ……。ピンで止められるようなことはないし、埋め込むとメンテナンス性が悪くなるし……。ひとまずは床に這わせといて。端っこに寄せておけば引っ掛かることもないでしょ」

 

 後のことも考えた配置は絶対に必要である。今でこそ床になるが、最悪壁に養生テープで貼り付けることまで考えた。見栄えは確実に悪いが生きていくためだ。そんなことを考えている余裕はない。

 

 

 

 

 しばらく発電施設での作業が続き、一旦キリをつけて広間に戻ってくる工廠班。解析からケーブル接続までをある程度終わらせたため、ここからは明石と相談してからと考えて戻ったところ、深雪達による広間の後始末もほぼ終わりを迎えていた。そこにあった血溜まりはぱっと見では何処にあったかもわからないくらいに綺麗になっており、今は拭き掃除中。

 水気をそのままにしておいても穢れが発生しかねないため、乾拭きまでする徹底振り。しかし、広間全体にそれを施すのは今ではないと、血溜まりのあった場所だけを重点的に行なっていた。

 

「お、戻ってきたな。首尾はどうよ」

「まぁ悪くないけど、すぐにどうにか出来るようなとこじゃあなかったかな。明石と相談がある」

「だよな。アンタがもう素人って言えるところにいないのはわかるけど、それでも一番知識あるヒトから話聞いときたいもんな」

「そゆこと。あーホントだるい。見れば見るほど、ここ作ったヤツの性根の悪さがわかる」

 

 広間を見回して、その片付きっぷりに驚くダウナー飛行場姫。素人目に見たら、もう片付いていると断言出来るくらいには綺麗。

 ただ、その一箇所が綺麗、という見た目ではある。他の場所にはどうしても埃が積もっていたり、汚れらしきモノが付着していたりとわかりやすい。

 

「元凶になりそうな場所は綺麗になったぜ。さっきまでヤバいくらい穢れがあったんだけど、今はそれも無いからな」

「薬を撒いて、水洗いして、洗剤で洗って、水洗いして、拭いて、薬を撒いて……の繰り返しだったのです」

「だる……そりゃあここでは滅多なことじゃ命奪わないわ」

 

 戦いで命を落とすということは、そういうことなのだと実感する。なるべくなら命を奪いたくない。それは、後始末の困難さが嫌でも上がるからだ。海上ならばこうはならないが、ここは陸。水で流すだけではどうにもならないため、穢れまみれの水分はしっかりお持ち帰りである。

 

「装置は完全に止まってんだよねぇ。じゃあ、いきなり深海棲艦出てくる可能性あるってこと?」

「そりゃあね。発電施設壊されないこと祈るしかないね」

 

 グレカーレからの質問もしっかり対応。ダウナー飛行場姫は今ここではチーフスタッフ扱いである。

 

「ここにはここ以外の部屋もあります故、何処かに突如現れてもおかしくありませぬ。そうなった場合は」

「勿論、まずは何か食わせる。ここで生まれるヤツは、腹減らして生まれるって話だからな。ちゃんと腹膨らましゃ、話も通じることはわかってんだ。あの王様もそうすると思うぜ」

「ならば安心でございますね。いえ、現れないことが最も安心なのですが」

 

 地下施設のこの広間に来るまでにも、いくつも部屋はあった。この広間からでも見える場所に部屋の入り口は多数見える。それに、海に繋がる通路が何本もあることもあり、そちらにも部屋はある。

 そういう目が届かない場所こそ、深海棲艦が生まれてしまいそうな場所。仮説として、人の目がない場所で生まれるというものがあるので、それに準ずるならば、今まさに生まれている可能性もある。

 

 次この場に来た時に荒らされていないことを祈るのみだ。

 

 

 

 

 掃除も終わったため、一旦地上へ。なんだかんだで既に夕暮れ時となりつつあり、そんなに長く作業していたかと驚いてしまう。しかし、濃厚な作業であったことは間違いない。

 

「最低ここまではケーブル延ばす必要もあるかな。いや、ひとまず学校まででいいか。確か学校にも地下に降りれるところあるんだよね。そこ通して屋上まで持ってくことになるか……屋上のケーブル自体を一回外伝いに持ってきて、なるべく近くで接続すればまだいけるかな……明日はライブの日だから、それはそれで一回やってもらって、でも少しくらいは地下に影響を……」

 

 だるいだるいと言いながらも、ダウナー飛行場姫はここでのケーブル配置などをしっかり考えている。明石に相談する前に、一度どうすれば効率的かを想定しておいて、明石にどうかとお伺いを立てるようである。

 

「すっかり技術者だな」

「だるいけど、私しかやれそうなヤツがいないからね。それに……」

 

 ダウナー飛行場姫は、何処か清々しい顔をしている。

 

「最初は罪滅ぼし感覚だったけど、今は割と楽しいかな。私のやりたいこと、こういうことだったかもしれない」

 

 そんな言葉に、深雪達はニッと笑う。

 

「いいことじゃねぇか。じゃあ、ここでもやってけそうだね」

「王様にも、最強艦隊云々言われたよ。謹んでお受けいたしますって言っといた。アレでしょ、ある程度したら、明石もフレもここから離れるでしょ。だったら、私しかやれるヤツいないじゃん。ならやるよ」

「はは、そりゃあいい。アンタになら任せられるぜ」

 

 既にテミス公認の技術者として認定されているらしく、王の名の下に最強艦隊の一員にスカウトされ、それを受けているようだ。艦隊とはいうものの、彼女は陸上施設型、細かく言えば艦ではないのだが、王は懐が深すぎる。

 

「だからこそ、今のうちに整備しやすいように考えておかないとね。後からだるいことになってほしくないし。グチャグチャになってたら、私は片付けを放棄する自信がある」

「嫌な自信だな。でも、そうならないようにしないとな。他の連中にも手伝わせたらいいんじゃね?」

「意思が通じるなら助手でも雇うかね。なんかめっちゃやる気のあるヌルヌルが多いけど」

 

 おそらく救われた忌雷達のこと。

 

「忌雷を助手にするの、オススメしとく。あたし達が使ってる特機もだけど、整備とか普通に出来るぜ」

「なのです。それで人を救ったこともあるのです」

「へぇ、ならやってもらうかなー」

 

 忌雷達の就職先も決まりそうである。

 

 

 

 

 ダウナー飛行場姫の腕前が、今後の島の運命に直結している。だが、心配は要らなそうだ。

 




テミス、抜け目なし。
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