後始末屋の特異点   作:緋寺

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夜の不安

 地下施設の掃除も始めた深雪達がそこから出てうみどりに戻ると、外はもう暗くなってきている。深海棲艦発生抑制装置の調査と改良に来ていた工廠班も、こんなに時間かかっていたのかと驚いていたくらいである。ダウナー飛行場姫は相変わらずだるいだるいと言い続けていた。

 

「結構時間使っちまったんだな。工廠厨房も賑わってるじゃねぇか」

「なのです。皆さんいっぱい作業してたんですね」

 

 うみどりの面々もある程度はこちらに来ている。食堂で食事する者もいるが、あえてこちらを選ぶ者も少なくはない。

 

 本日は休日だったはずなのだが、何だかんだで休日返上となってしまい、休んでいた者は結局後始末を始めていた。そのため、洗浄を終えた者達の姿もチラホラ見える。

 

「あたし達も洗浄行こうぜ。ずっと掃除してたわけだしな」

「だねぇ。なんだかんだ汚れちゃってるし、早くお風呂入りたーい」

「グレ様も一生懸命されていましたからね。かくいうこの白雲も、風呂へは行きたく存じます。汗ばんでしまっております故、お姉様の隣に立つ者として身体を清めとうございます」

 

 地下施設の中はやたらと快適にされているため、掃除をしていても温度が苦痛ということもなく、悪臭が漂うということもなかった。発電施設が稼働し続けている間は、換気も非常によくされているようである。そのおかげで、環境だけは良い。

 とはいえ、そういう場所でも活動をすれば暑くもなる。空気がこもって不快ということがないだけ。掃除を続けていた4人は皆、しっとりと汗ばんでいる。風呂に入りたいという要望も当然というもの。

 

「その前に、状況だけ聞いておこうぜ。妖精さん、どうなったか」

「なのです……きっと大丈夫だと思うのですが」

 

 地下施設を見に行くことになるきっかけとなった、薬漬けの妖精さん。今も治療中であり、安定はしていても目が離せない状況。だが、それの答えは工廠厨房で腕を振るっているセレスが知っている。

 

「流動食ミタイナモノナラ食ベルコトガ出来タノ。ダカラ、後ハユックリト休ムコトデ回復ハスルト思ウワ」

 

 まだモノを噛む力などは戻ってきていないようだが、点滴だけでなく、食べることで栄養を取り入れることが出来るようになったというだけでも朗報。妖精さんの回復力の強さの賜物なのか、ここの治療が非常にいい効果を発揮しているのかは定かではないが、それが出来るようになったのならば、また一つ峠を越えることが出来たと思える。

 しかし、体内の薬を全て排出すること、そして一番厄介な中毒症状の存在は、未だに拭えていない。今は良くても、明日はダメという可能性もまだあるのだ。予断を許さない状況はまだまだ続く。

 とはいえ、急にその貴女の灯火が消えていくようなこともないと断言されているため、そこだけは安心である。ゆっくりと時間をかけて元に戻っていけばいい。うみどりならば、それを全力でサポートし続ける。

 

「あとは……地下で何も出ないこと、だな」

「難しいかもねぇ。あの一番わかりやすいところは掃除したけどさ、他にも絶対ヤバいところあるっしょ」

「電も、何か忘れているような気がしているのです……穢れが酷いところ……」

 

 地下施設で深海棲艦が発生しそうな場所、穢れが濃く存在していそうな場所が、他にもあったのではと考える。

 施設に潜入した時、学校の配膳室からエレベーターを使って地下に降りていった。そこから進んで進んで、あの広間に辿り着くまでに、何を見ていたのかを思い出す。

 

「……保健室の下」

 

 そして、そこに至った。保健室のベッドがエレベーターになっており、地下に大量の忌雷が群がった部屋。部屋ごと砲撃で破壊したはずだが、それでも付着している血がまだ残ってしまっていたくらいに汚れていた場所。あそこにはまだ後始末の手が届いていない。

 ムーサ御一行が生まれていないかの確認で地下施設に入っているが、あくまでも確認だけのため、後始末までは行き届いていないのだ。その時は装置が機能していたが、状況も変わっている。

 

「もしかしたら、あの場所で生まれてしまっているかも……」

「あり得る話だよな。なら、今すぐにでも確認しに行かねぇと」

「ソノ必要ハ、ナイ!」

 

 話している後ろから、相変わらずの尊大な声。その主は、やはり島の王、テミスである。

 

「テミス、行かなくていいってどういうことだ」

「ソノ話、余ハ先ンジテ聞イテイタノダ」

 

 胸を張って話すテミスだが、その手には工廠厨房で提供されている大盛りの焼きそばがあるため、どうも面白い雰囲気がついて回る。なお、このテミス、既に箸が使えるようになっているという順応っぷり。他の深海棲艦はフォークで食べているのだが。

 

「調査隊ノ響トイウ艦娘ガイルダロウ。奴ガ、手ヲ回シテイル」

「響ちゃんがなのです?」

「ウム。何デモ、今調査隊ガ確保シテイル先代ノ側近ヲ使ッテ、ソノ場所ヲ見晴ラセルソウダ」

 

 仮説の話ではあるが、人の目があるところに深海棲艦は生まれないというモノがある。それを活かして、あの側近達を特に生まれそうな場所に配置し、発生の抑制に使おうと考えたようだ。

 

 他の者達はもう折れているため、テミスを慕って後始末に参加するようなこともしているが、側近2人は何も変わらなかったため、軍港鎮守府に連行されることになっている。しかし、その手続きというものが必要なため、最低でも本日中に連れていくということは出来なかった。

 その間も文句タラタラで自分が正義、一番と考えているような輩を維持しなくてはならない。仕事もせず、資源だけは消費し、そのくせ害しか与えないような存在をそのままにしておくのも、おおわしではそろそろ限界だった。特に昼目提督の堪忍袋が。

 

 そこから、響が提案したのは、地下施設の監視役である。保健室地下の場所もそうだが、明らかに穢れが強く、発生抑制装置の管轄下で無くなったことでいつでも生まれてしまいそうという場所に縛り付け、後始末が出来るようになるまでそこにいさせる。

 ヒトの目があることから、そこでは深海棲艦は生まれない。仮説が間違っており、もし生まれてしまったら、残念ながら目の前にいる側近は殺されてしまうだろう。

 つまり、役に立つように置きつつ、最悪生まれてもそのまま極刑というわかりやすい状況を作り上げたわけである。

 

「……アイツ酷いこと思いつくな」

「でも、めっちゃいいじゃん。どうせ何もしないでご飯だけ食べて、それにすら文句言うようなダメダメな奴らなんだから、そういうカタチで役に立ってもらおうよ」

「そりゃあそうなんだけどな。可哀想とも思わねぇし」

 

 グレカーレはケラケラ笑っているが、なかなか残酷なことをするなと深雪は苦笑する。

 

 今頃、地下施設のその場所に、あの側近達は首輪なり手枷足枷を着けられるなりして、絶対逃げられないようにしてから放置されているのだろう。もしかしたらそこで深海棲艦が生まれてしまうかもしれない。もしかしたら別の場所で生まれた深海棲艦がその部屋までやってきてしまうかもしれない。そんな恐ろしい状況から逃げられないようにされる。

 手続きが終わるまでは完全に放置だろう。早いとこの一晩だろうが、遅いと数日はかかる。そんな状況で、誰かと話すことも出来ず、恐怖をずっと味わわされるとなると、下手をしたら精神に異常をきたす可能性もある。

 これまではなんだかんだ守られている場所に置いておかれていたが、それすらない。調査隊が殴る蹴るはしても命までは奪わないというところから、確実になめくさっていたところに、突然確実な死の恐怖がやってきたのだ。いくら側近達でも、耐えられる保証はない。

 

 もし何事もなく解放されたとしても、これまでどれだけ優遇されていたのかを理解することになるはずである。それでも変わらないだろうと誰もが思っているが。

 

「ダガ、アノ地下デ同胞ガ生マレタ時ノコトヲ考エネバナルマイ。スグニ食事ヲ用意シテヤラネバナ。飢エテイルダロウ」

「だな。生まれた時にそこに飯があれば、それ食って少しは理性取り戻してくれるか」

「どうでしょう……まず置いておくご飯って大丈夫なのです? パンとかなら少しは日持ちすると思うのですが」

 

 そこは流石に難しい話である。食糧を置いておくにしても、どう置いておくか、何を置いておくか、何処に置いておくかと、考えねばならないことが多い。

 外道な手段だが、事前に対策が行われていたコレまでとは違う。その時その時でいろいろ対応しなくてはならない。

 

「ソコハマタ考エルトシヨウ。生マレタノナラバ、余ガ当然受ケ持ツ。任セテオケ」

「そりゃあ任せるしかないぜ。あ、それで思い出した」

 

 ここで地下施設での作業の話を伝える。テミス配下となった忌雷達に、地下施設の作業の手伝いを任せられないかと。特に、最初に見つかった肥大化した忌雷あたりは、大きくなっていることもあり、作業効率が良いのではとも考えられる。

 

「オオ、アノ技術者ガ必要トシテイルノカ。ナラバ行クヨウニ伝エテオコウ。奴等モ新タナ仕事ヲ得ラレテ喜ブダロウ」

「マジか。いいね、仕事貰って喜べるなら」

「我ガ島ノ民ハ、島ヲ良クスルタメニ気合充分ナノダ。余ガ誇ル素晴ラシキ臣民ヨ」

 

 なおのこと胸を張って語るテミスに、皆気分が良くなってきた。

 

 

 

 

 対策も万全。あとは、何も起きないことを祈るのみである。

 




置き物としての利用が一番いい側近s。
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