後始末屋の特異点   作:緋寺

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汚い部屋

 地下施設の清掃に乗り出したうみどり。テミス率いる深海棲艦達もそれに参加し、人海戦術で早急に穢れを取り払うことを目指す。テミスは、これ以上民を増やさないという英断をしていた。

 そのおかげか、始まった地下施設清掃は、少々賑やかとなっている。うみどりの艦娘だけでなく、手が貸せる深海棲艦、そして元々島に住んでいたカテゴリーYも共に、大体が2〜4人で1組となり動き、部屋から廊下から階段から、出来るところを次々と綺麗にしていく。

 掃除道具もそれ相応に準備されており、この後始末が終わった後でも、その道具はしっかり洗浄された後、集落に提供されることになる。

 

「何処も彼処も穢れだらけだな」

「なのです。廊下はべったりってわけじゃないですけど、降り積もってるみたいに全体的に」

 

 地下施設は、余すところなく穢れで埋め尽くされている。長年の蓄積が埃のように。直接そこに穢れを拭いつけているわけでなくても、例えば靴底に穢れを踏みつけていたような者がそこを歩くだけでも、それが長く続けば穢れは溜まっていく。

 この施設、使われていない部屋がこれまで無かったということに他ならない。ならば何に使われていたかになるが、改造された者達の待機場所だったり、その身体を上手く扱うために学ばせたり、単純に開発した艤装の物置だったりと考えられる。モノらしいモノは見当たらなくても、それまでは適当に置かれていたような跡も見当たる部屋もあるのだ。

 

「側近というか、()()()()ような連中は、この施設で寝泊まり出来たとかあるのかな」

「かもしれませぬ。屋内と屋外で生活の基盤が違いすぎます故」

「そうやって差をつけるところがアイツらしいよねホント。自分はめっちゃくちゃいい部屋作ってあったりして」

 

 などと話している内に、特に穢れが蔓延している部屋をいくつか見つける。保健室の地下ではない場所なのだが、それでも異常すぎる穢れ。そして今でも微かに匂いが残っている。

 血の匂い、そして、ほんの少しの腐敗臭。

 

「ここ、もしかして出来損ないを置いてた部屋か?」

 

 深雪が中を覗くと、そこは酷いモノだった。誰かが住んでいるというような場所とは違う、スペースとしてはかなり広めの大部屋。しかし、部屋として大丈夫かと思える程に汚れており、壁やら床やらにドス黒い血がへばりついているのも確認出来る。

 そしてそれ以上に、部屋の隅などに見える僅かな肉片。出来損ないとなったモノに稀に見られる、身体の内側から蠢く何かに押し出されて溢れた、腐った肉のようなモノ。

 何処かにあるとは思われていたが、ここでそれを発見した。

 

「うーわ、ここ掃除全くされてないじゃん。アレか、掃除したところで出来損ないが勝手に汚すから、もう途中から諦めたって感じかな」

 

 グレカーレはケラケラ笑いながらも心底嫌そうに室内を眺める。そして、それを見つけた。

 

「あ、側近の飛行場棲姫じゃーん。やっぱこういうきったないところに置いておかれたんだねぇ」

 

 その部屋の壁際。視界はクリアにされているが、余計なことを口にしないように猿轡をされ、手枷足枷を着けられて壁に囚われた、阿手の側近の片方、飛行場棲姫の姿があった。

 これまでがどういう状況だったのかはわからないが、一睡もしていないために目が少し血走っており、深雪達の登場に明確な苛立ちを覚えたように目を向ける。

 

 その姿を見たグレカーレは、にんまりと憎たらしい笑みを浮かべて、飛行場棲姫へと近付く。部屋が汚くてもスキップするような軽やかさで、動けないことをいいことに真正面から面と向かって。

 

「いやぁ、ありがとうありがとう。アンタがここにいてくれたから、余計な深海棲艦が生まれずに済んだよ。アンタみたいなヤツでも、ちゃんと役に立つことがあるんだねぇ」

 

 ニヤニヤしながら小馬鹿にするように頭を撫でる。飛行場棲姫はそれをただ睨みつけることしか出来ないが、グレカーレはその視線を見て、余計に笑みを深くした。

 

「あれあれー、すっごく反抗的な目だねぇ。流石、アレだけ言われても自分が正義だって疑わないおバカちゃんだねぇ。わー、偉い偉い。信念を曲げないって凄いことだよー。いくら巫山戯た信念でも、折れないってすっごいねー」

 

 完全に見下しているグレカーレだが、とりあえずそこまで言った後は作業に入る。あまりにも汚いこの部屋は、早々に綺麗にした方がいい。

 

「とりあえず床だな。隅から隅まで綺麗にしていくぞー」

「なのです! 洗剤撒きますね」

「部屋の角などにはよく溜まっておられるよう。重点的に必要でございますね」

 

 持ってきた洗剤を部屋中にばら撒き、そこからデッキブラシで丹念に磨く。部屋の隅は特に強めに擦り、へばりついている穢れをゴシゴシと浮かせていった。

 洗剤はあっという間に黒ずみ、それそのものが洗剤として機能しているかも危うい状態にすぐさまなってしまう。そこはモップを使って拭き取り、穢れを確認。まだダメだと思ったら、薬剤が含まれた洗剤をまた散布。念入りに擦ってはまた洗い流す。

 水分がどうしてもそこから取り除けないため、持ってきたバケツを使ってモップを洗うようにして回収。モップを搾りながら、その黒ずんだ水を見てうえっと舌を出す。

 

「すげぇなコレ。どれだけ長い間掃除してなかったんだよ」

「ここまで汚いのを見るのは初めてなのです。集落でもこんなところなかったのです」

「人の手が入っておられましたから。この施設は余程掃除が嫌いな者が管理していたのでしょう。もしくは、自分の周り以外に興味がないか、でございますね」

 

 出来損ないが詰まっていたような部屋は掃除しても無駄だったのかもしれないが、だとしてもこれは異常である。

 

 その掃除中、猿轡を噛まされているため話すことが出来ない飛行場棲姫がうんうん唸っているように聞こえる。目の前で掃除をする特異点達に物申したそうにしているようだった。

 無駄なことを聞いている暇があるなら、後始末をより進めていきたいというのが本音。しかし、喧しいというのもあって気が散る。

 

「どうする? 一度ぶん殴って気絶させておく?」

 

 艤装の剛腕をブンブン振ってやる気満々なグレカーレ。艤装も装備していない飛行場棲姫がそれで殴られようモノなら、下手したら死ぬ程のダメージが入ってしまうだろう。自己修復があったとしても、今の耐久力が人間並みなのだ。

 

「やめとけ、そんなことでまた部屋を汚されたら堪ったモンじゃねぇよ」

「それもそうだねぇ。でも、こんな状況でコイツ、何言いたいんだろ。あたし、ちょっと気になっちゃうなー。多分シグレはわざわざ猿轡外してまで口論してるんだろうなー。ニコニコしながら」

 

 その光景が目に浮かぶようだった。口論をするために近付いて、言い負かすために話させる。そして、胸倉を掴んで殴るかのように正論を並べ立ててボコボコにする。しかも逃がさない。反論を失わせてから、反論を求める。惨めであることを自覚させ、それでも上から叩き潰す。呪いの発散のために、そこまでやるだろうと予想出来た。

 

「あたしは外してやんなーい。モゴモゴうるっさいけど、自分の言いたいことが相手に伝わらないのに、言いたいこと言ってるんだよねー。こういう輩は、無視されるのがいっちばん気分悪いんだろうからね。今はこうやって絡んでやってるけど、それは惨めな姿をいっちばん近くで見てやるためだからね。はー、いい気味だねぇ」

 

 意地悪く笑みを浮かべて飛行場棲姫から離れていく。どんな状態であっても、自分の意思を周りに伝える手段だけは与えない。惨めに蠢いて、惨めに呻いて、それでおしまい。

 

「うえ、天井にまで穢れが付いてんだけど。流石に届かねぇぞ」

「大人の姿になっても、デッキブラシ届かないのです」

「電様は大人の姿でも、その、身長がそこまで高くなるわけではありませぬ。お姉様が大人になり、誰かを肩車してようやく、でしょうか」

「多分な……とりあえず深海棲艦の姿になるとして、だ」

 

 深雪はすかさず深海棲艦化。身長が伸びるため、これで天井までのリーチが出来上がる。しかし、それでもまだ天井が高くて届かない。無駄に大きな部屋なせいで掃除に一苦労。そんな広い部屋であっても、天井までへばりつく穢れの存在に驚きを隠せない。

 

「よーし電、肩車だ」

「なのです!」

 

 少しでもリーチを伸ばすため、電も深海棲艦化。その状態で肩車をすることで、ブラシが届くようになる。

 

「届いたのです!」

「よし、磨け磨け!」

 

 ここからは特異点の独壇場。ムラなく磨けるようにバランスを取りながら、天井を片っ端から磨いていく。穢れはこれによって失われていき、より綺麗な部屋になっていく。

 

「おー、流石はミユキとイナヅマ、しっかりやれてんねぇ。あたし達だとどうしても届かないからねぇ」

「グレ様の腕に乗せていただければ……いえ、届きませぬ。やはりお姉様の身長が無ければ無理でしょうね」

「だねぇ。あたしは艦娘の中でもタッパが無い方だし。イナヅマも今の姿になればシラクモよか大きいくらいかな?」

「はい、少しではありますが。やはり、大人の姿というのは強みでございますね」

 

 白雲は深雪を、グレカーレは電を、役得役得とニコニコしながら眺めていた。この場でしか見られない肩車という非常なレアなシチュエーション。2人とも、それが見られたことがとても嬉しいようである。

 

「電、バランス大丈夫か?」

「大丈夫なのです。深雪ちゃん、もう少し右お願いするのです」

「あいよー」

 

 仲良く掃除をしていく2人。それに対して、飛行場棲姫は憎そうに目を向ける。それを見逃すわけもなく、グレカーレはその視界を封じた。

 

「アンタに何かをどうこう言う資格は無いからね。自分がやったことが悪いことだってわからないようなヤツ、何言っても、何やっても無駄無駄。まさかアンタ達が目一杯汚したところを掃除してもらって、感謝の言葉も無いわけ無いよねぇ? あ、無い? だろうねぇ、アンタ達は礼儀も知らないクズだもんね。ありがとうって言うのが恥だと思ってるタイプかな? ヒュー、子供以下だねぇ」

 

 ニヤニヤしながら小馬鹿にするグレカーレは、コレまででも特にノリノリだった。

 

 

 

 

 掃除は続く。深海棲艦の発生をどうにか止めるため。

 




肩車をすることにより、特異点合体艦みゆづまになるのだ。
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