後始末屋の特異点   作:緋寺

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改心した者達

 空腹を感じたため、昼食となった深雪達。食事は電がマルチツールに入れてきており、4人分のおにぎりと、さらには飲み物までしっかり準備。掃除をしている部屋の中で食べるのもアレなので、ひとまず部屋から出る。深海棲艦化も一旦解いた。

 何処か腰を落ち着けられる場所があるかと言われたら、残念ながらそんなところはなく、廊下の壁にもたれかかって腰掛けるくらいしかない。モノだけは何も無いので、この施設は現状生活には本当に適さないと嫌でもわかる。

 

「お、みんな同じようなモンか」

 

 深雪達が周りを見回すと、同じように昼食を摂ろうとしている者達がチラホラ見当たる。

 

 部屋の掃除もそうだが、廊下も掃除しなくてはならないため、そちらを担っている者達が多い。深雪達が室内にいる間に、この広い施設の長い廊下をせっせと掃除していた。

 そのうちの1人が、真実を知った、理解した後に、阿手の側近に喰ってかかった軽巡棲姫である。自分達が暮らしていくこの島の、使うかどうかもわからない施設であっても、今の彼ならば懸命に掃除に手を動かす。

 

「あ、特異点じゃねぇか……」

「んん? ああ、テミスにつくようになったガキの1人か」

「ガキってテメェ……いや、そうだな、俺はガキだった。ようやっと自分が正しいと思ってたことが巫山戯てたって気付いたからな」

 

 一瞬憤慨しかけたが、自分の愚かしさを理解した今、深雪に楯突こうとはしない。頭を掻きながら、大きく溜息を吐く。

 

「あ、特異点だ特異点」

「こんにちは特異点」

 

 軽巡棲姫が深雪と話しているのを見て、他のカテゴリーY達も集まってきた。今や全員がテミス配下。この島のためにやらねばならないことを理解し、嫌がらずに率先して働いていた。

 敵対している時よりイキイキした表情をしており、毛嫌いしそうな掃除であっても楽しそうにしているように見える。支配されて淡々と言うことを聞くより、テミスの下で自由に働く方が楽しいようである。

 

「あー……その、悪かった。俺達、すげぇ迷惑かけたよな」

 

 少し恥ずかしそうに、しかし今言っておかないと今後言えないと思い、軽巡棲姫は深雪達に謝罪。言い方はぶっきらぼうでも、その気持ちが充分に伝わってきた。

 それに続いて、ここに集まってきたカテゴリーY達は次々と謝罪。自分達が何をしてきたかをハッキリ理解した今、まずはうみどりの者達には謝っておかねばならないと感じたようである。

 

「構わねぇよ。お前らだって、あのアホに唆されてたようなもんだ。理解出来てない内はあたしだって文句くらいは言うけどな、そうじゃなきゃ気にしねぇよ」

「……そうか、そうか。なら、よかった。俺はあっちの怖ぇ顔の提督にもボコボコにされたからな……。テメェにもぶん殴られるもんかと」

「そりゃお前が悪い。どうせアレだろ、飯食わせてもらって寝床も貰っておいて、仕事しろって言われたら何でやらないといけないんだって文句言ったんだろ。殴られて当然だ」

 

 図星だったようで、軽巡棲姫は喉を詰まらせたような声を出した。他のカテゴリーY達も同じようなモノだったため、恥ずかしそうに俯く。

 

「別に殴ってほしけりゃ殴るが?」

「勘弁してくれ。俺だって痛いのはもう御免だ」

「そうか、残念だ」

 

 ニッと笑う深雪に、軽巡棲姫は特異点の大らかさを知る。ここまでされたなら、改心したと言われても苛立ちの一つや二つ出してもおかしくない。なのに、もう完全に割り切っている。

 特異点は生まれてまだ少ししか時間が経っていないはずなのに、それ以上に長く生きている自分達より大人だと感心してしまった。テミスと同じくらい尊敬の念が出てくる。

 

「そうだ、お前ら今廊下の掃除してるのか?」

「そうだよー」

「私達は部屋より廊下メイン。何処も汚いみたいだし」

「天井ってやってるか?」

 

 深雪に言われ、そこにいる者達は一瞬思考が止まる。

 

「ちょっと見てみ?」

 

 深雪に穢れが見える眼鏡を渡された軽巡棲姫。しかし、軽巡棲姫は目に仮面が付けられているため、眼鏡がかけられない。どうやって周囲を見ているのかはわからないが、この眼鏡は別の者に渡した。

 そして、それを使って天井を見た瞬間、

 

「きったな!?」

 

 現実を見たことで叫び声が出た。他の者にも眼鏡を渡して見させ、そして同じような反応を引き出す。

 今はひとまず廊下をやろうということで、眼鏡は配布されずに見えている限りを綺麗にしていたようだが、いざ見てみるとここまで酷いとわかる。自分達が掃除してきた廊下はというと、手を抜いているわけでは無いため、そこはちゃんと綺麗。

 

「うわぁ、掃除がどれだけ大切かわかるよコレ……」

「上と下で全然違う。掃除してなかったら、下も上みたいになってんだよね」

「おう、そういうことだ。だから、お前らの掃除はちゃんと出来てるし、今後のためにもなってるってこった。後始末屋はそういうことをやる組織なんだぜ」

 

 後始末屋という仕事に誇りを持っている深雪達は、それを伝えると少しだけ胸を張った。グレカーレに至っては、ドヤ顔まで見せつけている。

 

「マジかよ、俺も見てぇ……でもコレ取れねぇんだよチクショウ」

「そうなのか? 縫い付けられてんのか?」

「わかんねぇ。ただ、調査隊の、あー、じんつー? って人から、外せても外さないでくださいって言われちまった」

「ああ、うん、その方がいい。今のお前、あの人とそっくりさんだからな。面倒臭いことになるかもしれねぇ」

 

 自分につけられた仮面を掴む軽巡棲姫だったが、艤装を装備しているようなモノのようらしく、上手く外すことが出来ないようである。

 噂では眼球のところにネジ穴があり、そこに食い込むカタチで装備されているなんてモノがあるらしいが、真偽は不明。これが外れた状態の残骸を見たことが無いため。

 

「天井か……考えてもなかったな」

「ねー。何処もこんななのかな」

「かもしれない。じゃあ、あのでっかい広間の高い天井も汚いのかな」

 

 それを聞いて深雪はハッとする。電達もあっと声を上げた。

 

 あの水爆が設置されていた天井。広間から見れば、手が届くとかそういうレベルでは無い、ビルの何階も上の場所にあるそこ。施設全体がここまで穢れによって汚れているのなら、そこも間違いなく汚れている。

 少しでも穢れが残っているのなら、そこから深海棲艦が現れてもおかしくはない。天井で生まれたら落下死してしまいそうだが、その都度広間に亡骸が落ちているというのも笑えない。

 

「うわ、それ盲点だった。あそこどうやって掃除するよ」

「危なくは無くなってますけど、手は絶対届かないのです」

「うーん……特機や忌雷にやってもらうしかないんじゃない?」

「ええ、グレ様の案が最も有効でしょう」

 

 人の手で届かないならば、届く者を使うのが妥当である。特機や忌雷ならば、天井まで運んでもらえれば器用に掃除してくれるだろう。だが、天井に張り付くということが可能かはわからない。自重で落下は普通にあり得る。

 水爆が接続されていた部分には、少しは自分を支えられそうな持ち手くらいはありそうだが、それ以外はただの平面。

 

「いや、そういや王様が何かやってなかったか?」

 

 だが、軽巡棲姫が何かを思い出したように話す。テミスが天井に対して何か気付いたようである。

 

 穢れが見える眼鏡は現在、かなりの数量産されている。深海棲艦達にも多少は配れるくらいには。テミスも勿論それを貰っており、今は眼鏡をかけた状態で作業をしているようである。

 そんなテミス、何処を掃除するという時に、まず全体どうなっているかを改めて見直して、深海棲艦やカテゴリーYを振り分けていたらしい。軽巡棲姫達も、その指示に従って廊下の掃除をしている。部屋は後始末屋がやっているから、廊下だと的確な指示。

 だが、その中でその天井に気付いたようだ。テミスも今のこの天井の状態は見落としていたようで、広間まで辿り着いて見上げた時にこれは酷いと勘付いた。

 

「アレだよ、飛行機飛ばせる奴使って、上手いこと出来ないか考えてるっぽいぜ」

「うん、いたいた。あの、あの子、片腕に飛行機乗っけて、ブンッて振るって飛ばす子連れてってた」

「そうだそうだ。王様に頼まれて引くに引けなくなってたな」

 

 片腕に乗せて艦載機を飛ばすと聞き、深雪はピンと来る。そんな独特な発艦スタイルは、今の仲間達の中では1人しかいない。

 

「あの時の護衛棲姫か。ビビり屋で、すげぇ後ろ向きな」

「ああ、そいつだそいつ。王様に来てくれと言われた時も、すげぇビビってた」

 

 学校で出会い、屋上から落とされるというなかなかのトラウマを刻まれた、自称引きこもりで陰キャの護衛棲姫。性格上、テミスのような押せ押せの相手は若干苦手にしていそうだが、今回のこの掃除では、空母という性質、さらにはその発艦スタイルと、扱える深海の艦載機の特性──鷹のような挙動──を買われて、今回はキーパーソンに選ばれたようである。

 

「艦娘の艦載機じゃあ、そういうこと出来ねぇ。アイツのだから出来るってことだな」

「なのです。適材適所なのです」

「むしろいてくれてよかったじゃん。いなかったら相当厳しかったよ」

「テミス様の采配も、相変わらず天晴れでございますね」

 

 先んじて配下の情報を知り、今使えそうなことを割り出し、すぐさま行動に移す。相変わらず、テミスの行動は理に適っている。生まれて間もない王が、引きこもりの護衛棲姫の情報をどう知ったのかは追求しない。だが、島のための情報収集は怠っていないようだ。それで面白いのだから言うことは何もない。

 

 

 

 

 

「何かあったら手伝いに行ってやろうぜ」

「なのです。電達なら、煙幕で助けてあげることも出来るかもなのです」

 

 もし必要ならば、煙幕でサポートも出来る。深雪達は、護衛棲姫の頑張りに期待することとした。

 




S-51Jみたいな回転翼機でも難しそうだけど、護衛棲姫の哨戒鷹なら万能に行けそう。
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