後始末屋の特異点   作:緋寺

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護衛棲姫の才能

 昼食時に深雪達のところで話題に挙がった護衛棲姫は今、吐きそうな程の緊張感に襲われていた。地下施設の大広間、見上げると首が痛くなる程に高い天井。そこの掃除を手伝ってほしいと言われて、拒否することも出来ずにここまで連れてこられていたのだ。

 

 掃除を手伝うことはやぶさかではない。むしろ、細かいことをじっくり自分のペースで自分の世界に入って進めるのは好きな方である。前向きではないにしろ、保護してもらっているという恩、そして失った妹の仇を取ってくれた恩を返すために後始末を手伝ってはいたが、集落の片付けよりはうみどりの雑務を優先し、テミスからの勧誘もどうにか躱していた。

 地下施設の掃除と言われて、それくらいならやれるかと思って了承したら、あれよあれよとこの場所に。広い場所で注目を浴びて、さぁ頼むと言わんばかりにテミスが笑顔で腕を組んでいる。穢れの見える眼鏡をかけているため、印象が少々違って見えた。

 

「え、えぇと……つまり……?」

「アノ天井ノ掃除ガシタイノダガ、我々デハ届カン。ソコデ、貴様ノ艦載機ヲ使ッテ、可能カドウカヲ調ベテホシイノダ」

 

 艦載機を使って掃除。そう言われてもすぐにピンと来なかったが、自分が使うことが出来る鷹のカタチの艦載機を鳥のように扱い、天井にこびりついている穢れが綺麗に出来るかを知りたいということは理解した。

 いくらなんでも無理ではと思いつつも、期待の目で見られてしまい、後にも引けなくなっている。護衛棲姫は息を詰まらせながらも、もうやるしかないという状況に置かれていた。

 上手く出来たら出来たで、ここでしばらくは後始末だろう。出来なかったら出来なかったで失望されるのではとも考える。実際出来ないところでテミスが失望なんてことはしないのだが、ネガティブな護衛棲姫には悪いことばかりがついて回る。

 

 そして、ここにいるのがテミスだけではないのも拍車をかけている。妹のテイアもいるし、他のカテゴリーY達も広間ではないが廊下の窓から何が起きるのだろうと眺めているような状況。

 視線が痛いとは、まさに今のことを言うんだなと、護衛棲姫は内心泣きそうだった。

 

「艦載機……ひとまず出してみます」

 

 腕を前に出すと、そこには鷹匠のように艦載機が現れる。テミスはそれを見てそれだと頷く。

 

「オソラク、空中デ待機モ可能ダ。一度真上ニ飛バシテミテクレ」

「は、はい……」

 

 そして、その艦載機を天井に向けて放るように腕を振るう。すると、艦載機はそれに応じるように一気に上昇していった。見る見るうちに天井へと近付いていき、しかし激突するようなこともなく、ギリギリのところでピタリと止まった後、近場にあった突き出た鉄骨に乗る。

 見た目通り、鳥のような動き。しかし、操っているのは護衛棲姫その人である。

 

「で、出来ましたが」

「ウム。足場ノ掃除ハコレデ可能デアルコトハワカッタ。問題ハ天井ダ。例エバ、雑巾ヲ身体ニ巻キ付ケテ拭ウトイウコトハ出来ルカ?」

「ぬ、拭う? 壁に衝突させるようなモノですよね……で、出来るのかな……」

 

 試してほしいと言われたら、やってみるしかない。出来なかった時に何を言われるかと考えると、ビクビクしてしまう。

 テミスはそれをも察知していた。そのため、緊張している護衛棲姫の背を優しく撫でる。

 

「大丈夫ダ。貴様ナラ出来ル。ソレニ、出来ズトモ余ガ貴様ヲ叱責スルヨウナコトハナイ。安心セヨ」

「と言われましても」

「試サズニヤラナイ方ガ、余程ヨロシクナイゾ。人間ハ、失敗ハ成功ニ繋ガルトイウノダロウ。失敗ヲ恐レテイテハ、前ニハ進メン。ダカラ、ドノヨウナ結果ガ出テモ構ワン。ドチラニセヨ成功ダ」

 

 失敗でも成功だと語るテミス。何もせずにいたら前に進めないが、失敗は失敗したという経験が残り、それ以外の手段を考えるという前進に繋がる。それはやらねばわからないことだ。

 

「進モウトスル者ヲ、余ハ讃エヨウ。成功デモ失敗デモ、ヤルコトニ意義ガアルノダカラナ」

「やることに意義が……」

「ソウダ。ダカラ、マズハヤッテミヨ。失敗シタトテ取リ返シハツク」

 

 これだけ背中を押されたのだから、もうやらざるを得ない。緊張感は最高潮。だが、テミスに支えてもらっていることもあり、少しだけ気が楽にはなっていた。

 成功ならヨシ。失敗でもそれを知れたならばヨシ。じゃあもうやるだけだ。

 

「よ、よし、いきます……っ」

 

 鉄骨に乗っていた艦載機がふっとそこから飛び立ち、天井にゆっくり近付いていく。そして、その背をそっと天井に押し付けた。

 

「あ……」

「ドウダ?」

「くっつけることは出来ましたけど……拭うことは難しい、ですね」

 

 天井に押し付けた時点で、艦載機が動かせなくなってしまった。下がることは出来るだろうが、拭いつけることは出来ない。残念だが、艦載機で掃除するというのはかなり難しいということがわかった。

 だが、テミスは大きく頷く。その結果を否定するわけでもなく、護衛棲姫を責めるようなこともしない。

 

「ナルホドナルホド、ソレハ仕方アルマイ。ダガ、今ノ貴様ノ操作デ、1ツイイコトガワカッタ」

「いいこと、ですか……?」

「ウム。拭ワナクテモイイ。ギリギリノトコロデ待機サセテミヨ」

 

 触れないところで待機しろと指示され、護衛棲姫は天井に押し付けていた艦載機を少し下げ、少し隙間を空けてピタリと止まる。

 艦娘の艦載機との大きな差がココだ。空中での挙動が飛行機どころか鳥をも超えている。ドローンよりも完璧な精度で、そこで完全に浮かんでいる状態だ。

 

「ヤハリ、ナ」

「何がやはりなのでしょう……」

「貴様、才能ガアルゾ。余ニハソレガ出来ン」

 

 言いながら、テミスは徐に手を天高く振り上げると、護衛棲姫が使っているような艦載機が1機飛び立つ。形状としては殆ど同じ、鷹のような艦載機だ。

 護衛棲姫はそれを見てギョッとした。同じモノ持ってるなら、王様がやればいいじゃないかと。わざわざ自分を連れてくる必要なんて無かったではないかと。

 

 しかし、テミスの説明はここからである。

 

「見テオレ。余ノ艦載機ヲ」

 

 護衛棲姫の艦載機の真横に来たテミスの艦載機。同じようにその場に止まろうとしているようだが、決定的に違う部分があった。

 それが、艦載機の大きなブレである。護衛棲姫の艦載機はその場にピタリと止まってあるが、テミスの艦載機はガタガタと前後左右に揺れ、忙しなく震えているようにも見える。

 

「コレガ余ノ限界ダ。チナミニ、テイアモ同ジデアル」

「ウン、アソコマデピタリト止メルコトハ出来ナイネ」

 

 同じように、テミスの少し後ろに待機していたテイアも艦載機を飛ばすが、結果はテミスのそれと同じ。少しは落ち着いているようだが、揺れは確認出来る。

 

「同ジモノヲ使ッテモ、使イ手ニヨッテ差ガ出ルノダ。貴様ハ我々ノ中デモ、トップノコントロール力ヲ持ッテイルトイウワケダナ」

「え、そ、そんなこと……」

「謙遜ハヤメヨ。貴様ガ自分ヲ貶メルコトハ、ソレ以下ノ我々ヲ貶メルコトニ繋ガルコトヲ知ルベキダ」

 

 そう言われて、護衛棲姫は息を呑んだ。自分がそこまで出来ていないという言葉は、時に他者をも下げる行為に繋がる。謙遜は、時に人を傷付ける。そんなこと、考えたことがなかった。

 

「貴様ノアノコントロール力、集中力ノ賜物デアロウ。コレマデノ作業モ、黙々トヤッテイタノハ余モ知ッテイル」

「え゛っ、み、見てたんですか」

「配下ノ行動ハ全テ目ヲ通スノガ王ノ在リ方デアル。貴様モ余ノ配下デアルカラナ」

 

 誰もそんなこと言ってないと反論しそうになったが、今はそこではない。うみどりで活動している深海棲艦、ただその身体になってしまっただけの者も含めて、その行動に全て目を通していると言い出した。その上で、護衛棲姫のその集中力に目をつけ、今回の作業を頼もうと考えたようだ。

 同じモノを持っているテミスやテイアでも、あそこまでの超精度で艦載機をコントロールすることは出来ない。だが、それが出来る者がいるのならば、ここからの作業効率は一気に上げられる。

 

「貴様、艦載機ハ同時ニイクツマデ扱エル」

「えっ、た、試したことないです」

「ナラヤッテミセヨ。出セルダケダ」

 

 言われるがままに、艦載機を次から次へと出していく。本来の護衛棲姫の搭載数は52。だが、この護衛棲姫は慣れていないというのもあるか、14機で一旦打ち止めとなっていた。

 その艦載機、上に飛んでいき、全機が空中で完全に静止した。1機だけでもガタつくテミスやテイアから見たら、それはもう神業レベルのコントロールである。しかも、これだけの事を()()()()()()()()やってのけているのだ。

 

「素晴ラシイ! ヤハリ余ノ見込ンダ通リダ!」

「えっ、えっ」

「貴様ノソノ集中力、余ガ持タヌ才! ココデ活カサズシテドウスル!」

 

 満面の笑みで護衛棲姫をベタ褒め。流石にここまで言われると、護衛棲姫は恥ずかしさも出てくる。

 

「艦載機ニ忌雷カ特機ヲ乗セ、空中デ作業サセル。余ノ艦載機デハ難シイガ、貴様ナラバ可能ダ」

「忌雷を乗せる!?」

「重量ナドモ、我々ノ艦載機ナラバ考エズトモ良イ。ムシロソレハ余ガ試シテイルカラ、確証モアル。ダカラ、安心シテ扱エ」

 

 肩をポンと叩き、そして綺麗なサムズアップ。王とは思えない気さくな態度。

 

「……わ、わかり、ました。やってみます……」

「ウム! 実ニ素晴ラシイ!」

 

 テミスの高笑いに、護衛棲姫はビクッと震えるが、頼られることが嫌というわけではなかった。少しだけ前向きに、この状況を変えられるくらいに、力を使う。せっかくなのだから。

 

 

 

 

 護衛棲姫のこの力により、天井の掃除は驚くほど効率が良くなる。時間はかかれど、出来ないことではないことが実証されたのだ。

 




むしろその才覚をここまで見定めていたテミスもすごいよ。
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