後始末屋の特異点   作:緋寺

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同情の余地なし

 地下施設の清掃は、あの護衛棲姫の艦載機により広間の天井の掃除が可能であることが判明したことで、一気に進展することになる。

 誰の手も届かない場所が、艦載機と特機、忌雷の手で綺麗にされることで、穢れは一層失われていく。その様子に、テミスも力強く頷いた。

 

「素晴ラシイ! 天井ノ清掃ハ、貴様ラニ任セタイト思ウ!」

「は、はぁい……私しか出来なそうなので、頑張ります……」

 

 褒められることに慣れてはいないか、テミスにここまで言われると、恥ずかしげか頬を染める。それでも艦載機がブレないのだから、護衛棲姫の器用さと集中力は筋金入りと言えよう。

 

「サァ、我々モ掃除ヲシヨウデハナイカ」

「ソウダネ。私達ハ手ガ届クトコロカラ、ダネ」

「ウム。血溜マリガアッタ場所ハ、特異点達が綺麗ニシテクレタガ、他モ相当ダ。ココモ、人海戦術ニ頼ルゾ」

 

 自らも率先して動き、かつ、出来ないところは配下を頼る。テミスの王としての器が炸裂していた。人海戦術だって、立派な戦術。今この時は、特に有効な手段だ。テミスには、それを選択肢として認識するだけの力がある。

 配下を使うのも、うみどりの面々に託すのも、この施設を綺麗にするため。今後使うかはわからずとも、そうしなければ後々起きてほしくないことだっね起きかねない。故に、手段も選んでいられない。

 

「余ノ島ニ汚点ナドアッテハ困ルカラナ。サァ、ヤルゾ!」

 

 意気込み充分。1日で終われるとは思っていないが、本当に終わりが見えてきた。

 

 

 

 

 そのまま後始末10日目は無事終了。地下施設清掃に費やした一日だったが、人海戦術もあり、たった一日でもかなりの範囲が綺麗になったと言える。

 作業をいくらか進めてから天井のことに気付いたのは大きなタイムロスとなったのだが、その後も作業をしている者達が力を合わせて、全ての場所を綺麗にしていこうと進めている。

 

「時間はかかったけど、あの部屋は大分綺麗に出来たな」

「なのです。天井は完全に綺麗になりましたね」

「ああ、手間はかかったけど、ちゃんとやれてよかったな」

 

 出来損ないの詰所と思われる部屋は、深雪達4人が力を合わせて丸一日作業をし続けたおかげで、ぱっと見では綺麗になったと言えるくらいにはなっていた。穢れが見える眼鏡を通してみても、天井には一切見えず、壁や床もおおよそ綺麗になっている。深雪が少し気付いたところを拭くことで、それも無くなる。

 

「いやぁ、時間かかったねぇ。それなりに広かったってのもあるけど、よく4人で出来たモンだよ」

「まこと難しい後始末でした。ですが、達成感というものも感じますね」

 

 グレカーレと白雲も、部屋が綺麗になったことで清々しい気持ちを得ていた。ふぅと汗を拭きニッコリ。

 海の上の後始末とはあまりにも勝手が違い、学校を片付けた時ともかなりちがう徹底した穢れ取りの清掃。慣れない作業ではあったものの、初めてでここまでしっかりと出来たなら充分だろう。

 まだここに新たな穢れが発生することは予想出来る。だが、定期的に清掃をすれば、今回みたいな大掛かりな清掃は必要ない。テミスを筆頭とした島民の面々なら、放置ということもないだろう。

 

「よし、じゃあ撤収するか。()()はあのままでいいか」

「いいよいいよ。そのうち調査隊が撤去してくれるって」

 

 アレとは勿論、この部屋に置かれている飛行場棲姫である。掃除の最中も邪魔な時は退かし、今はまた部屋の真ん中に置いて見張りをさせている状態。勿論、飲まず食わずである。

 深雪達に対して恨みつらみを持っているような視線は、この一日で変わることもなく、何故自分がこんな目に遭わなければならないのだという考えが全く失われていない。反省のはの字もないのは、逆に感心した。

 

「やぁ、ここの掃除は大体終わったのかい?」

 

 そんなことを話している時に、たまたま響がここにやってきた。何でも、一応は捕虜の扱いなので、一度くらいは食事を与えておかなければ虐待になってしまうと言う。口ではそう言っているが、食事はどう見てもゼリー状の栄養食品だし、虐待と思っていない口振りである。

 

「アレの口を開くから、聞きたくないこと聞くことになるかもしれない。君達も作業が終わったろう、聞かずに帰った方がいいんじゃないかな」

「まぁ確かにな。アイツの目の前で掃除してんのに、ずっとアレだぞ」

「そういう人間もいるさ。何があっても自分が正義。自分がやることが全部正しい。それ以外は全員愚かと考える、身体が大きく育っただけの幼稚な輩さ」

 

 話しながらも栄養を与えるために猿轡を外そうとする。それが無くなれば、これまで溜め込んだ罵詈雑言を一気に解き放つことだろう。深雪はそんなもの聞きたいとは思わないため、さっさとその部屋から離れることにした。

 

「あ、ミユキ、あたしは後から行くよ。せっかくだから、こいつが何考えてるのか知りたいし」

「物好きだな……」

「へへ、それ程でも」

「褒めてねぇよ」

 

 グレカーレはあえてこの飛行場棲姫がどういう反応をするか見たいと言い、深雪と共に帰るのをやめた。何かあれば響と戻ればいいやとも話す。

 

「グレ様が残るのでしたら、この白雲も残りましょう。このモノに対しては、白雲も気に入らないところがあります。ですが、お姉様、白雲は少々、()()()()()()()()()()()()()

「ああ……なるほどな」

「白雲の汚い部分、今はお姉様にお見せしとうございませぬ。ですので」

「昼前にそれにちょっと愚痴ったろ。それは聞いてんぞ」

「お恥ずかしい。ですが、白雲はまだまだ溜まってしまっているのです」

 

 白雲も飛行場棲姫に対して言いたいことがまだまだあるようだ。それは確実に罵詈雑言。深雪には見せられないような汚い言葉も出てしまいそうだから、深雪達には先に帰ってもらって、その間に発散する。

 グレカーレは親友であるため、その姿を見せてもいいが、深雪は姉であり敬愛する相手。出来ることならば、見てもらいたくない。

 深雪は白雲の意思を尊重し、わかったと理解して部屋から離れた。電も嫌な思いをわざわざすることはないと深雪についていく。

 

 部屋に残ったグレカーレと白雲、そして響は飛行場棲姫の猿轡を外した。

 

「……っ、このような扱いをして」

「人権とでも言いたいのかい? 人でもない君が」

 

 ゼリー状の栄養食品を口に捩じ込んで無理矢理飲ませる。食べさせないのが虐待になると言いつつも、食べさせ方も虐待にしか見えない。

 

「何度も言っているし言われているだろう。自分から人間を辞めておいて、ここぞとばかりに人間だと主張するのはとても惨めだよ。君は既に法の外にいる存在だ。君が何と言おうと……いや、むしろ君が自分で言うじゃないか。高次の存在だと。人間を超えていると。その超えた力で好きに抜け出せばいい。そうなったなら私は諦めて、叛逆性のある存在として必ず始末する」

 

 ゼリーが全て飲み込まれたとわかり、口から離す。

 

「君達の前で、君達が汚くした部屋を、君達が悪と蔑む特異点達が、ここまで綺麗にしてくれたんだ。何か感謝の一つも無いのかい?」

 

 響がそう聞いても、飛行場棲姫からは減らず口ばかりが出てくる。

 

「誰が掃除しろと頼んだ」

 

 本当にそれを言うとは思わなかった。響は苦笑し、それは嘲笑へと変わる。

 

「なら君はここで現れた深海棲艦に食い殺されても文句が無いんだね。つまり、死にたいという願望があるわけだ。これは傑作だね。なら、気分よく軍港に送ることが出来るよ」

「え、コイツら軍港に連れてかれるの?」

「ああ、冬月と涼月に、カテゴリーYを人間に戻すための研究に使ってもらうことになってるんだ。今は手続き中。それが終わったら、コレともう1人は晴れて軍港鎮守府で研究に使われることになる。よかったね、君達自身が平和の礎になれるんだ。素晴らしいことじゃないか。君達が壊そうとした平和だけれどね」

 

 冬月と涼月の名前が出たことで、グレカーレと白雲は思わず噴き出す。あの2人の手にかかって研究されるということは、もう人権も何もあったモノでは無い。

 

「あっははは、そっかそっかぁ。いやぁ、それはいいね。最高」

「ええ、あのお二人ならば、きっと平和の礎として、その栄誉を与えてくれるでしょう」

「なお、それまでの経緯は見ないものとする。そーいや、あの元元帥がどうなってんのか知ってんのかなコイツら」

「知らないだろうね。だから、自分の行く末もまともにわからないからここまで粋がっていられるんだろう」

 

 原の名前が出ると、飛行場棲姫は少し表情を変えた。かつて海賊船の戦いで失われた、阿手の同胞。ほぼ不死の力を持っていることは知っているようだが、それが今どうなっているかは当然知らない。

 

「まぁ、それは軍港に辿り着いてから知ればいい。あの場で、あの二人に会って、初めて絶望すればいい」

「何言ってんのさ、貢献出来るんだから絶望じゃなく希望っしょ。コイツらだって平和を目指してんだから、願ったり叶ったりじゃないの?」

「左様でございます。人々を平和の礎と宣い、その命を軽んじていたのです。自分の命を捧げることくらい、覚悟の上でしょう」

 

 グレカーレも白雲も、飛行場棲姫に少々嫌味のある笑みを向けた。愚か者の行く末を嘲笑うように見え、しかし同情しているようにも見えた。

 

「いいかい、ここまでされても、まだ君は優遇されているんだ。それを当たり前だと思っちゃいけない。君は自分のことを上位の者だと思っているようだけど、この程度の拘束を抜け出せないようで上位だなんて言えないね。そんなこと、()()()()()()()()()()()

 

 聞き捨てならないことを言った気がしたが、そこでツッコむのはやめておいた。そこにいちいち反応していては疲れるだけである。ただでさえ後始末をした後なのだから。

 

「どれだけ見ても、どれだけ聞いても、どれだけ知っても、特異点は悪かい?」

「……当然だ」

「なら、しばらくこのままでいいね。私達が悪ならば、悪のように振る舞おうか。もう食事も持ってこない。君を生かすことも考えない。何も文句はないよね。だって、私達は悪なんだろう?」

 

 肩をポンと叩いて、ニッコリと笑う。そして、そっと鼻眼鏡をかけて離れた。力いっぱいの侮辱に、グレカーレも白雲もぶふっと噴き出した。

 

「最後にとても為になることを教えてあげよう。正義の反対は、別の正義だ。だから、特異点は君達に理解出来ない別の正義であって、悪ではないのさ。だが、君達は紛れもなく悪だからね。そのことは忘れないように」

 

 頭を撫で、子供扱いしてから去っていった。グレカーレと白雲も、徹底的に下に見たその扱いに清々したように部屋から離れる。

 

 

 

 

 残された飛行場棲姫は、それでも変わらないだろう。故に、もう誰も同情しない。

 




もう側近ズが登場することはないでしょう。
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