後始末屋の特異点   作:緋寺

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鎮魂ノ儀式

 後始末11日目。本日も地下施設の清掃がメインとなるうみどり。本日の休暇はうみねことなっており、順調に行けば明日はみずなぎ、そしてその後にうみどりが改めて休暇となる予定。

 

 その日は朝から少しだけ様子が違った。うみねこがお休みということで、その作業範囲には誰もいないことになる。その間にやりたいことがあると話し出したのは、死者の供養を最優先に考えるクロトである。

 

「うみねこノ提督ニ話ヲ聞イタ。亡骸ガ大量ニ出タトイウ地ヲ、コノ機会ニ一度供養シタイ」

 

 土を掘り返したら出てくる亡骸。実験により失われた島民の無念が、そこには幾重にも積み重ねられて埋められている。

 これまではうみねこがそこを徹底的に後始末していたのだが、今日の休暇までにそれを終わらせることで、今はもうそこには亡骸が無いような現場になっている。見てわかるほどの穢れも少しは薄れている程である。

 

 クロトはその場を一度供養がしたいと申し出た。長年溜め込まれた亡骸、それ相応に存在する無念。それは一度や二度の供養ではどうにもならないレベルになってしまっているだろう。

 

「ええ、わかったわ。それも必要なことでしょう。午前中を使うカタチで良かった?」

「アア、ソレデ大丈夫ダ」

 

 クロトはセレスにお供えなどを頼む。どういったものが良いかはわからずとも、その思いを込めたモノで怨念を鎮めることが出来ればいいと。セレスも快く了承し、すぐに取り掛かった。

 

「特異点、深雪……オ前モ供養ニ参加シテクレ」

「あたしも?」

「アア、コノ島ノ解放ニ特ニ貢献シテイルダロウ。ナラバ、魂モ落チ着クハズダ」

 

 深雪はこの戦いでも特に大きな貢献をしているのだから、魂も深雪にならば恨み辛みを持たない。クロトはそう考え、今回の供養には参列してほしいと願った。

 深雪はそれならと承諾。深雪だけでなく、最後の戦いに赴いた者達は皆参列した方がいいのではと聞くと、それがいいとクロトは出来る者全員に願う。大人数でやるわけにはいかないため、最後の阿手を始末する場にいた、深雪、電、神風、フレッチャーの4人が参列することとなる。

 あとはやはり伊豆提督とイリスも参加。この戦いの指揮をしていた者として、参加しない理由は無い。

 

「テミス、オ前モ参加スルダロウ」

「勿論ダ。カツテノ愚カナ先代ノ犠牲ニナッタ者達ノ魂ヲ鎮メルトイウノモ

 当然王ノ責務デアル。是非参加サセテクレ」

 

 さらには、今後の島を担う者であるテミスと妹のテイアが参加。島のこれまでを憂い、そしてこれからを託されるのだ。これまでの命に対しても目を向け、安らかに眠ってもらいたいと願う。

 

 午前中はそれに使うということで、後始末からは離れるようなモノ。しかし、これもまた、今後のためには必要な儀式であった。

 

 

 

 

 供養の場所は、これまで作業していた港の方とはかなり離れた、むしろ島の逆方向。その戦いの時に島に乗り込んだ時に上陸した場所から、さらに少し山を登ったような場所。

 うみねこの面々の後始末により、そこは荒らされているどころか、かなり綺麗に整地されていた。山の斜面ではあるのだが、一部は坂ではなく平面になっており、そこで供養が出来そうだと考える。

 

「来たにゃあ。多摩も参加させてもらうにゃ」

「僕達も、供養には参加したい」

 

 うみねこ提督の多摩と、みずなぎ提督の梨田提督、秘書艦の玉波が、既にその地に降り立っていた。この島のための供養と伊豆提督から聞いたようで、後始末をしている者達の代表として参加を表明。

 クロトも人数が増える分には何も問題はないと、参加を快く了承する。多ければ多いほど、魂が鎮まるだろうとも説明して。

 

 そこには簡易的な祭壇が組まれ、セレスに作ってもらった供物を並べる。何も無いよりはいいだろうと、クロトは神聖なモノを取り扱うように、慎重に準備をしていく。

 まだ始まっていないのに、既に厳かな雰囲気が流れており、緊張感が漂っていた。

 

「……空気が、重いな」

 

 深雪がぼそりと呟く。これまでの後始末では感じたことのないような、何処か重たい空気。それこそ、この場に怨念が集まってきているような、不思議な感覚。

 

「いいのよ、その感覚で」

 

 そんな深雪を、伊豆提督が肩に手を置いて話す。

 

「これまでにも後始末の時に祈りながら進めてもらっていたけれど、今回はそれ以上に重たい儀式になるわ。それだけ、今回のことをアタシ達が重く受け止めている証拠でもあるの」

「ああ、お前さんの感覚は間違っちゃいねぇ」

 

 後からやってきた昼目提督も、伊豆提督の言葉に賛同するように、深雪の感じ方を肯定している。

 

「重たく感じるに決まってる。ここでどれだけの犠牲者が出たかわからねぇんだ。数で重さが決まるわけじゃあねぇけど、これまでとはレベルが違う。それこそ、ここに無念の魂があって、空気を重くしてるかもしれねぇ。それを感じ取れてるなら、そんだけお前さんがこの事を重く受け止めてるってことだ。いいことだ」

「マークちゃんの言う通りよ。そう感じることに意味があるわ。重いと思えるなら、それだけこの島のことを思っているという証拠にもなるわ」

 

 なるほど、と深雪は納得した。そしてちらりとテミスの方を見ると、いつもはなんだかんだ尊大な態度を崩さないテミスであっても、神妙な面持ちでクロトの準備を見ていた。

 テミスもこれを重く見ているということに他ならない。口すら開かず、じっとその光景を見続けている。

 

「準備ガ出来タ。デハ、供養ノ儀式ヲ始メタイト思ウ。私ノスル供養ハ、本来ノ手順トハ違ウダロウ。ダガ、鎮魂ノ思イハ正シク持ッテイルト自負シテイル。皆モ、付キ合ッテクレ」

 

 クロトの言葉に、全員が小さく頷く。

 

 さらにそこに、新たに参列者が。

 

「ごめんなさーい。少し遅れちゃった。クロトちゃん、来たよ」

 

 と、少し軽い声色で加わったのは、那珂である。口振りからして、クロトにお願いされて参加を決めた様子。

 いつもの制服とは違う、黒地の衣装に身を包んでいる辺り、この供養に向ける心持ちが違うことがわかる。

 

「アア、助カル。オ前ハ、鎮魂ノ歌ヲ歌エルト聞イタ。コノヨウナ儀式ダカラコソ、是非トモ披露シテホシイ」

「任せて。ここにはいっぱい悲しい思いをしたヒト達の魂があると思う。那珂ちゃんの歌でそれが鎮まってくれれば万々歳。心を込めて歌うからね」

 

 那珂の付き人のようにやってきた深海玉棲姫も、今回はいつもと違う雰囲気の那珂に緊張感を漂わせる。

 その姿を見た梨田提督が興味深そうにしていたが、今は流石に何も言わないし何もしない。いくら嫁と同じ姿の深海棲艦がそこにいるとしても、この場では自重する。玉波も自分の同じ顔の深海棲艦がこの場に現れたことで小さく反応するが、それでおしまい。話は後からでも出来る。

 

「デハ改メテ、始メル」

 

 静かな空気の中、供養の儀式が始まった。

 

 

 

 

 最初はクロトによる祈祷。祝詞のようなモノは使わない。適当に口にしても、むしろその方が無礼であると思い、ただこの場はもう辛くない、苦しくないと魂に伝え、祈り、玉串を振る。

 見様見真似ですらない、独自の感覚での儀式。しかし、その懸命さは伝わってくる。ただひたすらに、ここにある魂を安らかに眠らせたい。落ち着かせたいという気持ちが強く出ていた。

 

 本人が話していた通り、これは本来の供養とは手順もやり方も全く違うだろう。しかし、強い思いは人一倍だった。

 

「……すげぇ」

 

 なんの気無しに、深雪の口から溢れた。クロトのそれは、ただ『すごい』という言葉でしか言い表せなかった。

 クロトにしか出来ない、鎮魂の儀式。ここにいる犠牲者の穢れから生まれたクロトが行うからこそ、その荘厳さが別格に思えた。

 熟練者から見れば、素人芸だろうし、むしろ死者を冒涜していると憤慨するかもしれない。だが、むしろそれを言う方が無粋というモノ。

 

 深雪くらいの感想が一番いい。ただ、すごい。それでいい。

 

「那珂、頼ム」

「うん、それじゃあ()()()、聴いてください」

 

 那珂がその歌を向けるのは、この場にいるカタチある者ではない。漂っているであろう、魂達。

 

 そして口を開いた瞬間、空気が震えた。

 

「……えっ」

 

 自然と、電は涙が溢れ出ていた。那珂の歌に震わされたのは、空気だけではない。心も震わされた。

 艦隊のアイドルによる、本気の鎮魂歌。海の上でも歌っていたが、今回の歌は全てにおいてレベルが違った。差をつけているわけではない。思いが違うわけでもない。だが、儀式の一環であること、多くの荒ぶる魂に伝えるための歌唱が、それだけ心に響いた。

 

「……素晴ラシイ、何ト優シク、魂ニ響ク声ダ。コレヲ欲シイト言ウノハ、無粋トイウモノ。今ココデ、余ノ心ニ留メテオクダケトシヨウ」

 

 テミスですら、その鎮魂歌には圧倒され、最強艦隊へのスカウトを逆に控えるというほど。那珂の歌は、自分が手に入れるモノではない。自由に羽ばたいてこそ、この歌声になるのだと解釈していた。

 

 歌は少し続き、空気を震わせ続け、そしてそれが終わった時、本当は拍手をしたい気持ちも全員がグッと堪えた。

 

「アリガトウ、那珂。素晴ラシイ鎮魂歌ダッタ。オ前ニ頼ッテ正解ダッタ」

「頼ってくれてありがとうね。那珂ちゃんも、こう言う時に歌えたのはすごく良かった。これで、ここの苦しんでいた魂が安らかに眠ってくれたなら嬉しい」

「キット大丈夫ダ。ソレダケノ力ハアッタ。コノ私ガ保証スル」

 

 クロトも穏やかな笑みを浮かべて応えた。那珂の歌声が、それだけこの緊張感が張り詰める空気を柔らかく解きほぐしたのだ。

 

 

 

 

 鎮魂の儀式はつつがなく終了。クロトも満足が行く供養となった。

 




これで終わりにはならないでしょうけど、島の鎮魂の始まりとしては最高の出だしとなりました。
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