Rance X IF -泡沫の夢-   作:ベール1207

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TURN 3

 あれからも、ランスとホーネットの剣戟はしばらく続いた。結局、ランスが直撃を奪ったのは一度だけだったが、有意義な時間であったことは間違いがない。

 

 二人の戦い(けいこ)が終わり、ホーネットが一度去ると、笑顔のシィルが飲み物を持ってきてくれる。

 

「ランス様、お疲れ様です」

「ああ」

「それにしても、すごいですよランス様! 本気のランス様、あんなにお強かったんですね!」

 

 シィルは、ランスの下でぴょこぴょことしながら、嬉しそうな笑顔でそう言う。

 

「……」

 

 ぽかっ

 

「うっ……」

「今更そんな当たり前のことを言うな! 昔からランス様が最強に決まっとるだろ!」

「ひん、ひん……」

 

 いつも通りのやり取りだ。長年彼らを見てきている人ならば、これも二人の一種のコミュニケーションに過ぎないと分かる。

 

「……でも、やっぱりランス様、今すごい調子良さそうですよね!」

「そうだな。今のスーパーランス様なら、本気を出せば魔人でも魔王でも一瞬でやっちまうぞ」

「ですよね! すごい、すごいです! ぱちぱちぱち」

 

 単純だが、ランスはそう褒められて高らかに笑い始める。これもいつも通りのやり取り。

 

「……ねえ、ランス様」

「なんだ」

「今回も、なんとかなりますよね。ランス様が、なんとかしてくれますよね」

 

「…………当たり前だ」

 

 ランスも、即答はできなかった。絶望的状況を幾度となく突破してきた彼でも、今回ばかりは難しいと分かっているから。

 

 しかし、決して諦めるつもりはない。圧倒的物量差をひっくり返して、最後には自分たちが勝利すると信じている。

 

 これも、いつも通りのこと。

 

「ケイブリスの野郎をぶっ飛ばしたら、まずは生き残ってる女の子を探すところから始めなきゃならんな」

「そ、そうですね……」

 

    ◇

 

 楽しそうに話すランスとシィルから離れている通路の端に、二本の剣が立てかけられていた。

 片方はランスが所有している魔剣ランス、もう片方は、いつも来水美樹と共にいた小川健太郎が所有していた聖刀日光である。

 

 健太郎は、今は美樹と共にコールドスリープ装置に入っているため、日光は現在自分を振るう所有者がいない状態である。

 

「なあ日光。さっきの戦い、見てたか。儂は腰が抜けたぞ。腰無いけど」

「ええ……見てました。私も驚きました。人間は、あそこまで戦えるものなのですね……」

 

 日光は、既にランスに人間の姿を見せていて、万が一の時のために、契約は済ませている。

 ランスとホーネットの手合わせの間は、シィルたちと共に、壁から二人の戦いを見ていた。

 

「あれは調子がいいとか、そんな言葉だけじゃあ片付けられん。この状況で、真面目に戦う気になったか、ホーネットとの戦いの中で何か掴んだか、そんな感じだろうな」

「そうですね……。魔軍が来るのを待つだけと思っていましたが、ほんの少しだけ、期待してしまいます」

「ま……どう足掻いても無理だろうけどな」

「そうかもしれませんが……」

 

 彼なら、一矢報いてくれるかもしれない。詰みの状況だと分かってはいても、誰もがついそう思わせられる。先程までのランスの戦いぶりは、それほどのものだった。

 

 日光も、諦めに近い感情を抱いていたが、今はその心には少なからず闘志を宿らせている。

 

「……私も、戦うことにします」

「戦うって……お前さんを使うやつはいないだろう。心の友は儂を使うだろうし」

「ですから、人間の体になります」

「……あ、ああ。そうね。あんた、人間の姿にも戻れるんだったね。」

 

 日光は、カオスとは違い、自分の意志で人間の姿になることができる。

 カオスがそれを知ったのは最近で、あの時はとてつもなく落ち込んでいた。日光も、この話はカオスにもしづらいことだった。

 

「まあ、いいんじゃないの? じっとしててもどうせ敵は来るんだし」

「ええ。最後の最後、見ているだけと言うのは嫌になってしまいました」

「……儂も、しばらく気持ちよくなれそうにないからな。心の友には魔人の一人や二人、切り刻んでもらわんと困る」

 

 主人公とその奴隷の脇で、()()の覚悟も、既に決まっていた。

 

    ◇

 

 ランスとシィルは少し会話をした後、二人で壁際で休憩をしていた。

 

「ランス様……本当に勝てるんですか?」

 

 シィルは、未だ不安の色を隠せていない。いくら信じていると言っても、不安なものは不安なのだろう。

 それに今回に関しては、戦力差が絶望的すぎている。勝ち目がほぼ無いに等しいのは、誰もが分かることだろう。

 

 ぽかっ

 

「しつこいっ!!」

「ひんっ……」

 

 ランスもその気持ちが分からないわけじゃない。でも、今はそれを言ってほしくはない。自信がどこかに行ってしまうかもしれないから。

 

 しかし、それに関してはほとんど心配はないと言える。今まで、自分に自信を持ち続けてきたランスの気持ちは、既にほとんど固まっているから。

 

「……俺たちは勝つんだ。絶対に勝つ。負けるのは有り得ないことなんだ。」

「……」

「だから、俺様の奴隷がそんなこと言うな」

「ランス様……」

 

「安心シロ ランス守ル サテラ様ノ命令」

 

 突然話し始めたのは、サテラが作ったガーディアンであるシーザーだ。シーザーは、ランスが起きてからずっと、ランスの目が届く場所でランスを見ていた。

 

 サテラが死ぬ前に、ランスを守ってほしい、という命令を受けて、命令の更新がされていないのだろう。

 

「なんでこの俺様が、お前みたいなボロ人形に守られなあかんのだ」

「……黙レ ランス シーザーヨリ弱イ」

「ああ? んなわけないだろ、しばくぞお前。」

 

 ランスが立ち上がり、歩き出しても、シーザーはやはりついてくる。

 

「ああーー、気持ち悪い! おまえついてくんな!」

「ソレハデキナイ。ランス 守ル サテラ様ノ命令」

「……ちっ」

 

 こんな図体のでかいものに付きまとわれるのは、ランスとしては、鬱陶しくて仕方がなかった。

 

 ――まったく、サテラも面倒な命令を遺してくれたものだ。

 

「ランス」

「ああ? なんだよ」

 

 シーザーは、ランスに声をかけると、その場に(ひざまず)いた。紛れもない、忠誠を示す姿勢だった。

 

「なっ……」

「えっ」

 

 ランスもシィルも、それには驚きを隠せなかった。それも当然だ。

 シーザーはサテラによって作られ、サテラにのみ忠誠を誓ったガーディアン。敵対していたこともある。

 

 それどころか、シーザーは自分の主人がランスによって酷い目に合わされているのを見てきた。

 そんなシーザーが、そのランスに忠誠の姿勢をとっているのだ。

 

「……ランス、オマエト出会ッテカラ サテラ様ハ イツモランスノ話バカリダッタ」

「……」

「敵ナノニ、ランスノ話ヲスルサテラ様ハ ドンナ時ヨリ 楽シソウダッタ」

「……サテラは、俺様にメロメロだったからな」

 

 実際そうだったと思う。サテラは何をされてもなんだかんだランスのもとへやって来るし、何をしても本気で嫌がりはしなかった。

 

「ランス、オマエハ嫌イダガ 感謝モシテイル」

「……は?」

「オマエト出会ッテカラ、サテラ様ハ 本当ニ幸セソウナ顔ヲ 見セテクレルヨウニナッタ」

 

 シーザーはガーディアンだが、作られてから長い年月が経っているため、自我が芽生えている。

 以前は、ただ会話ができる程度だったが、こんなことを言い出すようになると、もはやただの生成生物ではなくなっているように感じる。

 

「ソレニ、サテラ様ノ、最後ノ命令ダカラ」

「……」

「ランス、オマエト共ニ 戦ウ」

 

 命令なのだから、ランスを守るのはシーザーにとって、当然なことなのかもしれない。

 だが少なくとも、今のシーザーが本音を押し殺して振舞っているとは思えなかった。

 

「……ふん。仕方ない。今はどんな小さな戦力でも惜しいからな。足手まといにはなるなよ」

「……」

 

 ランスも、今は認めざるを得なかった。

 

 

「……イヤ、デモ ランス、シーザーヨリ弱イ」

「お前しばく!!」

 

「あー! ちょっと、ランス様〜!」

「え? ちょ、心の友ぉーー!?」

 

 ランスは日光と話をしていたカオスを拾い上げ、シーザーに斬りかかった。

 

 その後、二人は互角の戦いを繰り広げていたが、しばらくすると、そこを通りかかったミラクルに静止されたらしい。

 

 

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