Rance X IF -泡沫の夢-   作:ベール1207

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おまけ
TIPS


「魔軍が攻めてきました!」

「なにっ!?」

 

 見張りの当番だった兵士の報告を聞いて、サテラが大きな声を上げる。

 

「敵の規模は!?」

「申し訳ありません! 全員で後退してきたため、詳細な規模は分からないです! ただ……少なくはないかと」

「そうか……」

 

 それもそうだ。魔物の軍を相手に戦線を維持できる訳がない。

 

「ホーネットさま、サテラたちも行きましょう!」

「ええ。では手筈通りに」

 

 いずれ魔軍の襲撃があることは分かっていたので、こうなった時の動きはあらかじめ決めていた。

 

 こちらの勝利条件は、魔軍の撃退。これだけでも困難な目標だが、その前提条件として、魔王を奪取されてはいけない、というものがある。

 

 できるなら、魔王がいる詳細な場所も知られたくない。しかし、こちらは少人数のため、守っている場所で、だいたいの予想はたてられてしまうだろう。

 

「では、私はこちらを守ります。他の皆さんは、そちらの通路に。どうか……お願いします」

 

 魔王が眠っているコールドスリープ装置がある大部屋に辿り着かれてしまうと、その時点でこちらの負けが確定してしまう。

 

 その部屋に辿り着くための通路は二つ。敵は必ずそのどちらかを通ってくる。

 そこで、強力な個であるホーネットと、それ以外で別れ、それぞれ通路を守る手筈になっている。

 ホーネットが一人なのは、建物内の戦いの中、他の戦闘員がいると、むしろ邪魔になるであろうからだ。

 

「ホーネット様も、気をつけてください」

「サテラ……こんな無茶な作戦ですが、どうか死なないでください……」

「ホーネット様……」

 

 本当なら、敵軍の情報がもっと欲しいところだが、それは無理な話だ。

 こちらが勝つには、魔軍が撤退するまで、最悪相手が全滅するまで、ひたすら耐える必要がある。

 

 ――たったの十数人で。

 

 ホーネットは、個の能力が抜けていで、強力な範囲攻撃も可能なため、四天王級の魔人が来ない限りは、突破されることはないだろう。

 

 問題はもう片方の通路を担当するチームだ。サテラという魔人がいて、人間ではあるが、強力な者も何人かはいる。

 しかし、それらはホーネットと比べると大きく劣る。

 

 そして、生き残っている一般兵と、戦闘に参加してくれるホルスたちもいるが、彼らでは、魔物兵一体倒せれば上出来という程度の力しかない。

 

「……サテラは死んだりしないです。サテラはホーネット様の親友ですから。絶対に一人ぼっちにはしてやりません」

「サテラ……」

「ホーネット様こそ、危なくなったら逃げてくださいね。サテラは、ホーネット様の命が一番大切ですから」

「……いえ。それはできません。美樹様をケイブリス派に渡す訳には行きませんから」

「まあ、ホーネット様はそう言うと思いましたけど……」

 

 これから、命を落とす可能性がある戦いに(おもむ)くというのに、なんだか微妙な雰囲気になってしまった。これが最後の会話になるかもしれないのに。

 

 どちらも、上手く言葉の整理がつかなかった。いったいなんて言って別れればいいのか…………

 

 

 

「安心しろ! サテラは俺の女だからな。俺様が守ってやる」

「なっ、なななななな――」

「当然のことだ。だからさっさと行け、ホーネット」

 

 突然二人の間に割り込んできたのは、一介の冒険者ながら人類軍をまとめる男、ランス。

 彼の言葉を聞いて、サテラはいつもの様に赤面し、目を開いて彼に怒鳴り始める。

 

「サテラはお前の女じゃない! それにランスはサテラの使徒だろ! 変なこと言うな!!」

「あー、はいはい」

「行くぞ! シーザー!」

「ハイ、サテラ様」

 

 サテラは自分の作成したガーディアンであるシーザーを連れ、ランスと口論をしながら、自分の行くべき場所へと進む。

 

「あ、ホーネット様! サテラは絶対に戻ってきますから! お気をつけて!」

「……ええ」

 

 ホーネットは、サテラの去り際の言葉に、小さく頷き応える。

 未だにサテラと、その使徒であるという男が口論をしているのが見える。正確には、まだ使徒ではないのだろうが。

 

 ホーネットは、最初こそランスに最悪の印象を抱いていたが、共に時間過ごし、共に戦う内に、彼のいい所も理解してきたと感じている。

 なにより、ランスと一緒にいるサテラが本当に幸せそうに見えたから。

 

「サテラ……本当に、良い使徒を持ちましたね」

 

    ◇

 

 「おいランス! ホーネット様に対してあの態度はなんだ!!」

「……」

「そろそろお前もサテラの使徒になった自覚というものをだな……」

 

 自分の使徒(仮)であるランスを叱りつけながら、現在も味方が交戦しているだろう場所へと急ぐ。

 

「あー、はいはい。分かった分かった」

「本当に分かってるのか!? 全く、お前は何度言ったら……」

「んなことよりサテラ。近いぞ」

「……そうだな」

 

 戦闘の音が聞こえてくる。敵は近い。

 もう少し道なりに行くと、交戦している味方と敵である魔物たちが見えた。

 

 どう見ても、こちら側が劣勢だった。

 屋内のため、敵が進軍して来られる数に限りがあるとはいえ、そもそもの総兵数が違いすぎる。倒しても、倒してもまた奥から湧き出てくる。

 

 個としての能力も当然違う。

 人間が魔物の兵にかなうはずがなかった。たった数十人の戦力で、まだ戦線が崩壊していないことが既に奇跡だった。

 

 サテラたちがやってくるまで、こちらの戦力の中心となっていたのはミラクル。ほかの兵士たちは、複数人で一体というのが限界だろう。

 

 既に、息絶えているものたちが何人もいた。その人間の中には、サテラですら知っている顔ぶれもいる。

 

「……っ」

「あいつら……ふざけやがって!! 行くぞ、シィル!」

「あっ……は、はい! ランス様!」

 

 激昂したランスは魔剣を構え、魔物の群れへと突っ込んで行く。シィルもその後に続く。

 

「シーザー!! サテラたちも行くぞ!!」

「ハイ サテラ様」

 

 サテラとシーザーもランスに続き、ミラクルと、既に数少ない戦闘中の兵士たちに合流する。

 

「おぉ、来たか。ちょうどいい。余が一人で耐えるのは、そろそろ限界であったぞ」

「ヒーローは遅れてやって来るのだ! 後は俺様に任せておけ! ランスアタァァァーーック!!!!」

 

 挨拶と言わんばかりに、ランスが自身の必殺技であるランスアタックを放つ。それだけで、数十の魔物たちが吹き飛び、敵には動揺が走る。

 

「がははははは!! お前ら、俺様に続け!」

 

 ランスたちが来ても、数で負けているのは変わらない。それでも、ランスが放った一撃は、残り少ない兵たちの、決して小さくはない絶望を取り払った。

 

 ――まだやれる。

 

「……ランスは不思議なやつだ。あんなにクズで、変態なのに、みんなランスについてく。なぁ、シーザー。あいつ、なんなんだろうな」

「……ソウ、言ワレマシテモ」

「ランス…………本当にすごいやつだ」

 

 数は圧倒的に負けているとはいえ、大きな戦力が加わった今なら、まだ巻き返せる。

 皆、そう信じて戦い続けた。

 

    ◇

 

 戦況は一転して、こちらが優勢となり始めていた。

 新たに加わった戦力が、一般の魔物兵など相手にならないほどの強力な戦力だったからだ。

 

 それに、敵の総兵数も思ったほどでは無さそうだった。相手の軍は息切れして始めていて、その兵も、こちらの強力な戦力に対し、逃げ腰になっているのが分かる。

 

 敵の兵数が少ないということは、これは本隊ではない可能性が高い。

 

「ランス、今日は勝てそうだな」

「ふん。このランス様が戦ってやってるんだ。そうでないと困る」

「ただ、ランス……敵の数が明らかに少ない」

「そうだな。あいつらはこんなもんじゃない」

「今日の敵は偵察に来ただけなのか、それとも……ホーネット様がいる方に数が多く向かっているか、のどっちかだろうな」

 

 一度に進軍できる数が限られる屋内で、片方に戦力を集中させることは考えづらいが、決してありえないことではない。

 

 もしかしたら、ホーネットがいる方に、魔人のような強力な戦力が向かっているかもしれない。

 

「敵ももう残り少ない。さっさとこいつら倒して、ホーネット様に加勢するぞ」

 

 今回の敵の目的は、とりあえずの偵察という可能性が高いが、それでもサテラは、ホーネットの戦況が気になって仕方がなかった。

 

「……ん? おい、心の友」

「なんだ」

「感じるぞ。おーー、感じる感じる」

「あ?」

 

「――魔人、いるぞ」

 

 魔剣カオスは、魔人が近くにいると、それを感じ取ることができる。

 消耗が激しく、限界を迎え始めているこちら側にとって、その報告は死刑宣告に近いものだった。

 

「……けっ」

 

 ランスですら、いつものような強気な返事をすることができないでいる。

 

「魔人が来ているか……余とて神ではない。そろそろ限界が近いぞ」

 

 ここまでずっと戦い続けてきたミラクルも、既に体力が底を尽きそうになっているようだった。

 

「おーーー、なんかやっぱりこっち来てる感じする。それもめちゃくちゃ強そうなやつ。そろそろ近いかも」

 

 絶望的な状況だった。

 

 しかし、元より背水の陣。サテラたちは決して逃げることはできない。

 

「びびるな!! サテラだって魔人だ、魔人が一体いても勝てる!」

 

 サテラだって自信があるわけじゃなかった。でも、諦めたわけじゃない。

 それに、今は戦うしかない。

 

「……ふん。なんでサテラなんぞにそんなこと言われにゃならんのだ。俺様がいれば勝てるわ。そうだな、シィル」

「は、はい!」

「……余も人の上に立つものとして、役にはたってみせよう」

 

「……頼もしいな」

 

 一般の魔物兵はもうほとんどが、倒されているか、逃げ出しているかのどちらかだった。

 後は、今こちらに向かっている魔人をどうにかできれば、こちらはなんとかなるだろう。

 

 ――どうにかできれば。

 

「……心の友、もう来るぞ!」

 

 3メートル以上はあるであろう巨体が見えた。

 この世界において、一体だけの存在が確認されている最強生物――トッポス。

 

 しかし、その腹部には異物が取り付いている。それは赤い眼をもった紫色の宝石。

 

「クケケケケケケケケ!!!!!」

 

 ――魔人レッドアイ。

 

 ランスはもう既に三度対峙している、因縁深く出会いたくなかった魔人が現れた。

 

    ◇

 

「シーザー、よく聞け」

「ハイ、サテラ様」

 

 レッドアイとの戦いを前にして、サテラがシーザーへと声をかける。

 

「もし、この戦いで私に何かあったら……」

「サテラ様 シーザーガ 守リマス 安心シテクダサイ」

「いいから聞け」

「ハイ……」

 

 自分の主人が今までになく真剣な表情だったため、シーザーはうなずくしかなかった。

 

「いいか、もしこの戦いで私に何かあったら、シーザーはシーザーの思った通りにするんだ」

「……」

「――命令だ」

「ハイ 分カリマシタ」

 

 これが、サテラからのシーザーへの最後の命令になった。

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