キンジとネモの共依存   作:はちみつレモン

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第2話

ネモから離れて磯を歩く。空は抜けるように青く晴れていた。清浄な風邪には排気ガスはおろか有害物質の気配が全くせず、一呼吸ごとに肺が洗われるようだ。海は波打ち際では、太陽光に象牙色の砂浜を透過し、沖は光の屈折でエメラルドグリーン、外海はコバルトブルーと美しいグラデーションを見渡す限りに描いている。ネモと戦った砂浜とは違う砂浜に移動する。殴り合いで砂の偏りがあるわけでもない平坦で綺麗な砂浜だ。水はけのよい砂は早朝の雨を吸い込み、日差しで蒸発させ、快い歩き心地になっている。後ろを見ると、島の森が見えた。

 

空、海、浜、森。どこを見ても言葉にならないほど美しい。時々理子と一緒に見ていた映画やアニメで、このような景色が描かれているのを見たことがあるが、こうして自分がその場に来て見るのは初めてだった。自分以外の声がしない。しばらくの間、ただ突っ立っているだけだったが、さきほどのネモとの争いを忘れさせてくれ、穏やかな気持ちを思い出させてくれた。密林と砂浜の境界にある木々にはいくつかの鳥が鳴いている。鳥の視線がこちらをむいていた。

 

(なんて言ってんだろうな)

 

自分の姿を見ると、この美しい光景とは反対だ。所々服が破けているし、血が付いているし、海に入ったから濡れているし…ある意味不細工だ。思わず笑ってしまう。全く笑いどころじゃないのに笑ってしまうとは、自分でも何で笑ったのか分からない。もしかしたら自分が想像している以上に、自分は追い込まれているのではないかと思ってしまう。

 

あてもなく歩く。携帯電話を取り出すが、圏外だ。ローミング先の通院会社で国を判別できるかと期待したが…携帯電話を閉じてポケットにしまう。今はとにかく街が人家を探そう、どこか船が着ける波止場があるはずだ…海岸沿いに進もう

 

海岸沿いに進んで歩いたが、街どころか人家すら見当たらない。洞窟や植物はかなりあるのに、人が見つからない。そのまま歩き出したところに戻ってしまった。砂浜に沿って進んでも人がいない以上、密林の中に入るしかない。歩いて10歩ぐらいで、そこは砂浜とは全く違う光景だ。蔓植物に幹を覆われた樹木、密集して生えた大きな扇形の草葉、地表にウネウネト出て罠のように足を躓かせる板のような根、雨にぬかるんだ土のせいで極めて歩きにくい。

 

さっきの観光地っぽい外観から、一気にサバイバルっぽい外観へと早変わり。邪魔な蔓をナイフで切りながら散策する。虫も沢山いて、縄張りに入ってきた俺を攻撃しようと機会を伺っているようだ。耳もとで羽の音が聞こえる。ナイフを振って威嚇するが、体力が更に少なくなっていく。もしこのまま暗くなれば、間違いなく俺は…いやそれを考えるのは後だ。

 

「!」

 

足跡を見つけた。近くで見ると、ブーツのような足跡だ。歩幅も小さく、女性のように見える。

 

「誰か…いやこれ」

 

ネモが履いていたブーツとこれが当てはまるか脳内で照合すると、かなりの確立で一致した。思わず溜息が出る。ついさっき景色を見て心を綺麗にしたのに、一瞬でここまで暗い気持ちにさせるとは…そこは認めてやるぜネモ。

 

泥まみれの汗だく状態で林を抜けると、岸に出た。ここにも足跡が1つも無い美しい砂浜があり、蟹が何匹かちょこちょこと横歩きをしている。

 

「可愛いな」

 

ここに来る前のいつもの時間、横になって動物が愛嬌を見せている時と同じ気持ちになった。やはり小動物の癒しは計り知れない。浜には所々木々からはみ出るように岩場が伸びており、複数の入江を形成している。その一か所ごとが自然にパーティションされたプライベートビーチに出来そうだ。周囲を探すと足跡を見つける。足跡の土を触ると柔らかい。ついてからそこまで時間が立っていない。第一村人発見と思い、ホッと息を尽きながら歩くと

 

「…」

「…」

 

お前かよ。その言葉が喉元ギリギリで出てきたが、急いで胃の中に戻す。向こうも俺に気付くまでは「助かった」と見た事のない明るい顔をしていたが、俺だと分かった瞬間すぐに陰のある表情でぎろりと睨んでくる。ネモは俺と違い、行儀よく軍装を整えている。それだと苦しくないのかと思っていると

 

「遠山キンジっ! 貴様は私の近くを歩くなっ!」

 

大股でナイフを振り回し怒鳴りながら近づいてくる。ナイフの切っ先には枝がついており、俺と同じようにナイフで邪魔な枝や蔓を切っていたようだ。こいつと同じことをしていたと思うと、溜息が出る

 

「溜息をつきたいのは私だ! いいか愚かで乱暴で淫らがましい獣よっ、高潔な私の半径10㎞以内に侵入することを禁じる! もしもその圏内に踏み込んだら、貴様を射殺する! 分かったか!」

「お前から近づいてきたらどうすればいいんだよ」

「…~~~!」

 

国家学位が高校中退に負けた瞬間であった。俺を睨みながら「ううぅ〜」と強く唸っている。一周回ってこいつアホなのかと思えてきた。どう返すのかと国家学位さんの反応を見ると

 

「そもそも詰められるようなことをするなっ!」

 

そっぽをむいてどこかに歩き出した。初めてネモに口論で勝ったかもしれない。俺はよっしゃぁと拳をぐっと握っていた。自分の顔を見れないが、多分笑顔だった。

 

結局は渡場を見つけることができなかった。次に探すとしたら、ヘリポートか通信施設だ。高潔(笑)なネモ様から近づくなと言われたし、出てきた陽を避けるため、再び密林に入る。太陽の向きで方角を確認しながら、邪魔な蔓を切って、転ばないように足下にも注意を向けて、蛇行しながら歩く。植生は日本のものではない。杉や檜が全く無い。四苦八苦しながら歩き続けると、足元に火成岩が増え、植物も減ってきた。岩山になっている辺りには水蒸気と思われる煙も見られる。

 

登山を続け、山頂に至る。東西南北あちこちに目を向けるが、一目でこれはやばいと気付いた。どこにも建物が見当たらないのだ。通信施設も、ヘリポートも、電波塔も、車道も、歩道も、家すら見当たらない。森と岩と砂浜しか見当たらないのだ。ここ以外に高いところはない。つまり現時点で一番高いところから見る景色でこれなのだ。

 

俺の額に、暑さではない汗が滲む

 

ここは絶海の孤島

 

無人島だ

 

 




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