さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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第十一番惑星前哨戦

 

 カッ、と蒼い閃光が瞬いた。

 

 立ち塞がる星間物質を焼き尽くし、空間を文字通りぶち破りながら直進するその一撃は、さながらサジタリウスの放った矢の如く暗黒の海原を疾駆。ワープアウトするなり火焔直撃砲の発射態勢に入ったメダルーサ級が船体下部に抱えている火焔直撃砲の砲身を、収納する格子状のフレーム諸共ぶち抜いた。

 

 火焔直撃砲発射のため、高エネルギーを一点に集中させていた事も仇となった。エネルギー安定用の力場が損傷により崩れ、行き場を失ったエネルギーの狂乱により砲身が誘爆。メダルーサ級と、その周囲に展開していたラスコー級、ククルカン級複数隻を巻き込んだ大爆発を生じさせてしまう。

 

 どう、と遥か彼方で観測された閃光から敵艦隊への被害を確認するなり、アンドロメダ級の1隻『アルタイル』を預かる北野艦長は即座に第二射の発射を命じた。

 

「方位修正、仰角プラス2度、右3度」

 

《諸元入力完了、全艦連動》

 

「撃て!」

 

 アルタイルの40.6㎝ショックカノンが火を噴く。

 

 護衛のドレッドノート級や護衛艦、パトロール艦、巡洋艦からも放たれた無数のショックカノンの蒼い光が、粘つくような音を響かせながら宇宙空間を直進。射線上に広がる蒼い光の壁へと突進していく。

 

 アルタイルの放った重力子スプレッドだ。

 

 北野艦隊の全艦が放ったショックカノンが重力子スプレッドに命中するや、急激な変化が生じた。

 

 強烈な波動エネルギーの束が1点に結節すると、波動砲とまではいかないものの巨大なエネルギーの奔流へとその姿を変えて、進路上の星間物質を木っ端微塵に焼き尽くしながら直進していったのである。

 

 重力子スプレッドは敵からの攻撃を阻む最強の盾であると同時に、波動エネルギーを用いたビーム兵器を一点に収縮、あるいは逆に拡散させるための媒体でもあるのだ。アンドロメダ級とヤマト級のキイにのみ搭載された兵器であり、理論上は波動砲でも同じ事ができるとされている。

 

 文字通りの、攻防一体の楯。

 

 重力子スプレッドにより一点に集中させられたショックカノンの超遠距離狙撃は、今度はワープアウト直後のナスカ級を直撃。飛行甲板の下に位置する芋虫のような船体を真正面から貫通すると、後続のカラクルム級2隻を掠めて装甲を融解させ中破へと追いやった。

 

《重力子スプレッド、エネルギー安定立21%に下降》

 

「次弾用意。照準セット50、2.5」

 

《速河艦隊、敵艦隊右翼にワープアウト》

 

 続々とワープアウトするガトランティス艦隊に紛れるように、新たに蒼い光が瞬いた。

 

 地球式のワープアウト反応―――亜空間から飛び出した船体に付着する氷を脱ぎ捨てるなり、黒く染まった異形の艦隊がガトランティス艦隊に対し情け容赦のない砲火を浴びせかける。

 

 今まで散々やられた鬱憤を晴らすかのような攻撃は苛烈の一言で、土砂降りのように降り注ぐショックカノンの乱れ撃ちはガトランティスの艦隊を次々に火球へと変えていった。

 

 その渦中で最も多くの砲火を放ち、最も多くの敵艦を轟沈に追いやっているのは他でもない、北野艦長の戦友である速河艦長が艦を預かり、指揮を執る戦艦『アマテラス』。

 

 アンドロメダ級譲りの安定翼までオミットし3連装ショックカノンを増設したその砲火は嵐の如しで、しかし防御型アンドロメダ級かアスカ級の随伴が無ければ息切れの懸念に常に悩まされるピーキーな重戦艦である。

 

 挙句の果てにはカラクルム級の無防備な横腹に衝角での突撃を敢行、全長555mという格上の相手すらも割り箸同然にへし折って突き進む戦友の姿に、さすがの北野艦長も口元に苦笑いを浮かべる他なかった。

 

 ―――あの男ほど、「殺しても死なないんじゃあないか」と思える奴もいない。

 

 そして、だからこそ危うく感じてしまう。今まで生還してきたからといって、今日も死なないとは限らないのだ。

 

 戦争とはそういうものである。出撃前まで食事を交えながら他愛もない話をしていた戦友が、その日のうちには帰らぬ人となる―――そんな地獄はガミラス戦役で嫌というほど経験してきた。

 

 このガトランティス戦役でも、だ。

 

 防大14期生も、今では北野と速河の2人だけだ。

 

 これ以上喪いたくない―――北野艦長の根底にあるのは、そんな想いである。

 

「あの猪武者共に当てるなよ、照準厳となせ」

 

「主砲照準、全艦連動!」

 

「撃て!」

 

 正確無比な砲撃が迸り―――第十一番惑星沖を、蒼い光が切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 調子に乗っている敵をぶち殺す事ほど、胸の奥に渦巻くストレスを発散させるものはない。

 

 胸に装着したコムメダルを煌めかせながら、速河艦長は好戦的な笑みを浮かべていた。フィオナとかいう得体の知れない女から贈られたそれは、戦闘に余計な感情を”調律”しノイズとして消去してくれる。しかし心の奥底から、決壊したダムより溢れ出す激流の如く迸るこの感情は、戦いを欲するこの感情までは消し去れない。

 

 コムメダルの処理が追い付いていないのだ。

 

 だが、そんな事は速河艦長にとってはどうでもいい事だった。

 

 こうして地球を脅かす敵を血祭りにあげる事ができれば、それでいい。

 

 5年前―――地獄のガミラス戦役で成し遂げられなかった事ができるならば、それでいい。

 

 今度こそ地球を守る事ができれば、敵を殺す事で背後の無垢な命を守る事ができれば、それでいいのだ。

 

「取り舵8、艦首上げちょい。進路修正から3秒後、艦首波動衝角最大展開」

 

 アマテラスの黒い船体に設けられたスラスターが、蒼い光を迸らせる。

 

 全長460m―――原型となったアンドロメダ級よりもやや大きな船体が、しかし駆逐艦もかくやという小回りを見せた。

 

 波動エンジンの恩恵は大きい。これまで光の速さを超える術を持たなかった地球人類を新たな高みへと導いたそれは、炉心内部で余剰次元を展開する事でエネルギーを得ている。

 

 余剰次元とはすなわち、5次元より上の観測困難な次元だ。それらは無数に折り畳まれた状態で周囲の空間に存在しているとされており、波動エンジンはその余剰次元を波動炉心内部で展開―――すなわち瞬間的に宇宙を生み出す事で、その莫大なエネルギーを動力源としている。

 

 その従来の核融合エンジンを鼻で笑うほどのエンジン出力は、それまで出力不足で運用困難だった陽電子衝撃砲を決戦兵器ではなく主砲として運用可能なレベルにまで戦闘力を引き上げ、ヤマト単独でのイスカンダルへの航海を可能としたものだ。

 

 それだけの力があれば、負ける気はしない。

 

 メダルーサ級の5連装大型徹甲砲塔が旋回。肉薄するアマテラスを迎撃するべく砲口で舳先を睨むなり、どどどう、とそこから火焔直撃砲にも用いるビームを射かけてくる。

 

 緋色の渦輪を纏いながら飛来するそれが、艦橋付近に展開した波動防壁をぶち破った。しかし鉄壁の守りを打ち崩したそれは、波動防壁の下に補助的に底まれていた位相装甲によって破砕エネルギーを打ち消され、装甲表面を舐めるだけに終わる。

 

 送電されてくるエネルギーの出力に不安があるため攻撃兵器には用いず、装甲用として補助的に用いるばかりのそれ。過信はしていなかったが、しかし十分な防御能力を持っているといえた。

 

 ごしゃあ、とアマテラスの波動衝角がメダルーサ級の艦橋を横合いから轢き潰す。

 

 突進するアマテラスを食い止められなかった代償を命で支払う事となったメダルーサ級。他の速河艦隊の艦艇も旗艦の勇戦に習うように、波動衝角を用いた体当たり攻撃でガトランティス艦隊を次々に沈めていく。

 

 この宇宙でも類を見ない、体当たりを多用する突撃戦術。

 

 北野からは『脳筋』と揶揄される事もあるが、しかしやられる側はたまったものではないだろう。

 

 被弾も恐れずに突っ込んでくる艦隊が体当たりしてくるのである。その心理的圧迫は相当なものだ。

 

 ともあれ、それが速河艦長の計算の上に成り立つ戦術なのか、はたまたその場のノリでたまたまそういう結果になったのかは定かではない。それは艦長のみぞ知る事だ。

 

 ショックカノンでククルカン級を吹き飛ばし、艦橋で吼える速河艦長。しかしそんな彼に水を差すように、メインパネルに北野艦長の顔が映し出される。

 

《速河、そろそろ後退しよう。防衛ラインを一段階引き下げ戦力の再編を》

 

「なに?」

 

 眉間に皺を寄せ、メインパネルを睨みつけた。

 

「臆病風に吹かれたか? 北野誠也ともあろう者が」

 

《馬鹿、あくまでも決戦の舞台は土星宙域だ。ここで無用な浪費を繰り返すよりは、最低限の損害に抑えつつ効率的に―――》

 

「ここで打撃を与え敵の士気を挫けば時間は稼げる。踏み止まるべきだ」

 

《間もなく白色彗星が太陽系に侵入する。あんなもの、1個艦隊で止められるレベルじゃないんだぞ!》

 

「ハッ、撤退するならすればいい。俺はここでガトランのミドリムシ共を血祭りにあげ続けてやるさ。白色彗星だかなんだか知らんが、そんなもん波動砲の一撃がありゃあ―――」

 

 ゴゴゴ、と宇宙空間が揺れた。

 

 地震―――などではない。

 

 空間振だ―――宇宙空間そのものが揺れているのだ。

 

 それはまるで、本来その場には存在しない筈の大質量を強引に捻じ込まれ、宇宙空間がその苦痛に耐えかね絶叫しているかのような、そんな禍々しいものだ。

 

 アマテラスとアルタイルのAIが空間振の異様な数値と、巨大質量のワープアウト反応を検出した旨を報告する。

 

 その一瞬後だった。

 

 なおもガトランティス艦隊と砲火を交える速河・北野艦隊の目の前に、菱形の模様を幾重にも重ねたかのような……どこか西洋の魔法陣を思わせるワープエフェクトが出現したかと思いきや、その中心部からじわりと”白い闇”が滲み出たのは。

 

 それは瞬く間に巨大なガス帯を形作り、やがては木星に匹敵する規模の巨大彗星の姿を成す。

 

 ―――白色彗星。

 

 第十一番惑星が、何の変哲もない石ころに見えてしまうほど巨大なそれは、対峙する者たちの心を容赦なく折った。

 

「北野、ゴメン」

 

 柄にもなく、情けない声を速河は絞り出す。

 

「前言撤回―――無理だわこんなん」

 

《警告。白色彗星表面のガス帯に変化あり。重力傾斜危険域、増大を開始》

 

「転舵反転、急速離脱!」

 

《全艦ワープ準備! 急げ!》

 

 重力傾斜の危険域が増大するという、自然界では絶対にありえない現象―――艦に搭載したAIが淡々と告げる事実を目の当たりにし、北野と速河は脂汗を浮かべた。

 

 通常、彗星や天体の重力傾斜が急激に増大する事など決して有り得ない。だから重力圏から距離を取っていれば天体の重力の影響を受ける事など無いのだ。

 

 川から離れていれば落ちる事がないように。

 

 しかしあの白色彗星は違う。安全域にいても、重力傾斜の危険域が任意のベクトルに伸びてくるのである。それはまるで大河が意思を持ち、安全域にいる人間を呑み込まんと水柱を伸ばしてくるかのような異様な光景だった。

 

 重力波の干渉を受け、アマテラスの船体が軋む。

 

 その遥か後方では、白色彗星から伸びた反物質ガスが、触手さながらに速河艦隊へと迫っているところだった。

 

 アマテラスの後部に搭載された3連装ショックカノンが火を噴き、接近してくるガスの1つを吹き飛ばす。しかし水面を切り裂いてもすぐ水が流れ込んでくるかのように、白色彗星のガスもすぐに元通りになって牙を剥いてくる。

 

「速射魚雷!」

 

 撃てぇ、と悲鳴じみた号令と共に、速河艦隊の艦尾速射魚雷が一斉に放たれた。

 

 爆炎の壁を形成、接近してくるガスの一団を押し留める。

 

「ワープしろ、急げ!」

 

「第二波来ます!」

 

「速射魚雷、続けて一斉射!」

 

 指揮下の艦が次々にワープしていく中、無防備な姿をさらす友軍艦を庇うようにアマテラスだけは踏み止まり続けた。

 

 戦場に駆け付けるのは一番最初、戦場から去るのは一番最後―――速河力也という男が掲げる、彼なりのポリシーであり指揮官たる者のあるべき姿であった。

 

 ガス帯の一団を薙ぎ払うなり、アマテラスは再び舳先を白色彗星へと向けた。

 

 ワープで離脱する地球艦隊を目にし、ここぞとばかりにビームを射かけてくるガトランティス艦隊。鬼の首を取ったかのような反転攻勢もお構いなしに、白色彗星はガスを伸ばし友軍の艦もろとも粉砕。自軍を巻き込む事も厭わずに攻撃してくる。

 

「拡散波動砲、発射用意!」

 

《了解。エネルギー充填開始》

 

 波動砲口のシャッターがゆっくりと開き、タキオン粒子の充填が始まった。

 

 ガトランティスのビームが船体を掠めるが、しかし位相装甲がダメージを許さない。波動エンジンとは違い、外部からエネルギー供給を受けるそれは、波動砲の発射準備中はエネルギーを回せないという制約を受けないのだ。

 

 だから今のアマテラスは、多少ならば強気に波動砲の発射を強行できるというわけである。

 

《エネルギー充填、120%》

 

「目標、敵艦隊及び彗星ガス帯」

 

 発射10秒前、と宣言したのと、アマテラスの船体に振動が走ったのは同時だった。

 

 指揮下の艦隊をワープさせ終え、アマテラス同様に殿の役を買って出た北野艦長のアルタイルが、アマテラスの船体にロケットアンカーを引っかけたのだ。

 

 アマテラスを牽引しながらもワープ準備に入るアルタイル。駆けつけてくれた戦友の行動に感謝を示しつつ、速河艦長は吼える。

 

「―――波動砲、撃てぇッ!」

 

 カッ、と蒼い光が弾けた。

 

 獣の咆哮にも似た轟音。拘束から解き放たれた波動エネルギーの奔流が、星間物質を瞬く間に蒸発させ、撃沈した敵艦の残骸を消滅させながらガトランティス艦隊へと迫っていく。

 

 メダルーサ級やククルカン級をまとめて呑み込んだそれは、白色彗星から伸びるガス帯の鼻先で拡散した。

 

 降り注ぐ波動エネルギーの束が、白色彗星の発する反物質ガスを次々に吹き飛ばしていく。

 

 波動砲を放ち終えたアマテラスは、そのままアルタイルと共にワープに入った。ロケットアンカーで牽引された状態で亜空間の内部へと引きずり込まれ、第十一番惑星沖には再び静寂が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 土星沖での決戦は、着実に近づいていた。

 

 

 

 

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