さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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地球防衛艦隊、出撃

 

「正気かね、山南司令?」

 

 モニターの蒼い輝きが煌々と照らす中、山南司令は重々しく頷いた。

 

 狂気の沙汰、と言われるのは百も承知だ。傍から見れば一世一代の大博打に見えない事もないだろう。しかし今の地球の状況と、想定される敵の規模を考慮すれば止むを得ない決断であり、同時に最も合理的な一手とも言えるであろう。

 

 百戦錬磨の猛者たる山南だからこそ、そう確信できる。

 

「―――現状の防衛体制では、ガトランティス艦隊を食い止めることはまずできますまい。敵が第十一番惑星を通過、土星沖を経由して地球へ雪崩れ込むのが明白であれば、現状の艦隊の分散配置はむしろ危険と断言するものであります」

 

「しかし、万一敵が別のルートから攻め込んで来たらどうするつもりだ」

 

 芹沢の顔に、深い皺が刻まれた。

 

「敵の別動隊がいたら、土星沖以外の防衛ラインは丸裸だ。旧式の戦闘衛星くらいしかまともな抵抗戦力がなくなるんだぞ」

 

「承知の上です。それに、敵は土星沖以外の進撃ルートを持たない」

 

「……確証があるのか」

 

「ええ、あります」

 

 モニターを操作して、山南は説明を続けた。

 

「第十一番惑星から内側は我々の庭です。ご存じの通り、各惑星、各衛星の拠点にはワープ阻害装置が配備されています。中にはアステロイドに偽装したものまで」

 

 モニターに別のウィンドウが表示され、巨大なパラボラアンテナを彷彿とさせる装置の姿がいくつか表示された。

 

 ワープ阻害装置の発振器だ。これで全ての宇宙艦に対し、ワープ先の座標を狂わせる事で太陽系内部でのワープを阻害しているのである。太陽系内でのワープを封じているわけではないためワープ自体は可能だが、転送先の座標がズレにズレ、射程距離内であれば全く別の星系へとワープアウトしてしまう可能性すらある。

 

 太陽系内での正確なワープには、司令部からの誘導が必須となるというわけだ。

 

 これのおかげで、敵にいきなり地球軌道までワープされてしまう恐れもなくなっている。

 

「あの白色彗星が敵の”天体兵器”である事が確実となった以上、敵が敢えて搦め手として別方向から攻め込んでくる可能性はなくなったと言えるでしょう。あれだけの性能なのです、最悪の場合白色彗星を突撃させるだけで勝敗はつく」

 

「……」

 

「それに加え、ガトランティス人は過去の武士のような気質を持っています。強敵との戦いをむしろ望んですらいる。ならば兵力を分散させこちらの防備を薄くしての突破をするなど、彼らからすれば”つまらない戦い”に外なりますまい。仮に彼らの気質や民族性を考慮しなかったとしても、太陽系内での正確なワープは不可能なのです。わざわざ通常空間を、太陽系の反対側まで回り込んでまで包囲するメリットはないと考えられます」

 

「……君が、そこまで言うのなら」

 

 よろしいですね、と確かめるように藤堂長官の方を見る芹沢。藤堂は腰の後ろで手を組んだまま、鋭い目つきで首を縦に振った。

 

 防衛軍の長官からお墨付きを得た―――そう判断するなり、山南は告げる。

 

「では、防衛計画は私に一任させていただきます」

 

 敬礼し、踵を返す山南。

 

 防衛軍本部の会議室を後にすると、廊下でアンドロメダの副長たちが待っていた。

 

 彼らに案内され、外に停車してある車まで足を運ぶ。後部座席に腰を下ろしてシートベルトを締めた山南は、今になって自分の乗った車が最近流行りのエアカーではなく、タイヤで走る古めかしい車である事に気付いた。

 

 こんなカビの生えた代物がまだ軍用車として残っていたのか、と感心すら覚える。

 

「今回の作戦、ガミラスは出張ってくるでしょうか」

 

「むしろこちらから協力を打診するつもりだ」

 

 正気ですか、と言わんばかりに副長がバックミラー越しに山南を見つめてくる。

 

 彼の懸念も痛いほど分かる。防衛線にガミラスが参加し、地球防衛に多大な貢献を果たしたとなれば彼らの影響力は無視できないほどにまで増大するだろう。そしてその一方、地球の新たな力の象徴である波動砲艦隊は単独で母星を守り切れなかったものと認知されてしまう事になる。

 

 そうなってしまったら最後、ガミラスがどんな無理難題を地球へと押し付けてくるか分かったものではない。

 

「……副長、メンツだけで地球が守れるほどこの星の運命は軽くはないぞ」

 

 軍帽を目深にかぶり、そう告げる。

 

 つまらぬ意地を張ってそのまま母星が滅亡するとなれば、それこそ末代まで語り継がれる愚将となってしまうであろう。山南はそんな事を望まないし、多くの地球人類もそう思っている筈だ。

 

 既に、山南は個人レベルでガミラス側と接触している。

 

 バーガー戦闘団のバーガー大佐と個人的なコネを築く事ができたのも、全てはヤマトのおかげと言えるだろう。イスカンダルからの帰り道、ガトランティスの遠征軍との戦闘で共闘した縁である。

 

 そんな他者との”縁”を結ぶのがヤマトという(フネ)の不思議な力だ。

 

 そして今、彼の助力もあって第三バレラスにいるバレル中将とのパイプも構築しつつある。さすがに肩を組んで酒を酌み交わす友人、というレベルまではいかないが、お互いに立場と利害関係は理解しているつもりだ。

 

「今回の戦闘、ガミラス側からも兵力を借りる」

 

「司令!」

 

「だが戦闘の主役は我々だ。そして万が一……土星沖が突破される(抜かれる)事があれば……」

 

 ―――火星の守りは彼らに任せる事になる。

 

 その言葉を、山南は直前になって呑み込んだ。

 

 まるで土星沖は負け戦になると思っているかのような発言と受け取られかねない。こんな変なところで「土星沖は負け戦になる」というつまらぬ噂が立ってしまえば、参加する将兵の士気にも関わるであろう。

 

 「あくまでも保険だよ」とフォローするように続けたところで、ごう、と宇宙戦艦のエンジン音が外気を揺るがす。

 

 これは波動エンジンではなくアンドロメダ級の補助エンジンだな、と思いながら空を仰ぎ見ると、2隻の宇宙戦艦がゆっくりと降下してくるところだった。

 

 北野艦隊旗艦『アルタイル』と、速河艦隊旗艦『アマテラス』の2隻だ。第十一番惑星放棄の命令を受けて地球へと帰還、これより時間断層工場での補給と修理を行うところなのだろう。

 

 市街地への騒音被害に配慮し、波動エンジンではなく補助エンジンたるケルビンインパルスエンジンでのみ航行しているところに、北野の几帳面さが垣間見えた(速河だけだったら遠慮なく波動エンジンを吹かしている筈である)。

 

 今回はあの2人のような中堅層にも、死地に立ってもらう事になる。

 

 せっかくガミラス戦役の地獄を生き抜いた命を無下に散らすつもりは毛頭ない。しかし、これは戦争なのである―――最悪の場合は、覚悟しなければならない。

 

 ゆっくりと時間断層工場の竪穴へ降下していく2隻の後ろ姿を見ながら、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土星での一大決戦を前に出された休暇の意味を、速河はよく理解していた。

 

 次の一戦は熾烈を極める―――それこそ、ガミラス戦役のそれが可愛く思えるほどだ。

 

 もしかしたら死ぬかもしれないから、身辺整理をしておくように―――休暇の意味をそう理解するのに時間はかからなかった。

 

 「俺はヤマトでテレザートに行った弟の事を考える事にするよ」と同行を断った北野に見送られ、速河はリニア新幹線に乗って北海道の地を訪れていた。

 

 元より宿舎には安酒の酒瓶くらいしか置いていない。それは全部部下たちに振舞ったし、もうあそこには何も残っていない。

 

 ただ心残りがあるとすれば、それは最期に墓参りくらいはしていきたい、というものだ。それに従弟の拓也に預けたハクビシンのミカが元気にやっているかも気になるものである。

 

 タクシーに乗って実家に向かうと、家の中には拓也とミカがいた。臆病で気難しい性格のミカは特定の人間にしか気を許さず、世話を頼んだ部下は威嚇してくるハクビシンにビビりながら餌をあげていたものであるが、ミカもミカで拓也が速河と同類だと認識しているのだろう。まるで飼い猫のように身体を擦りつけたり、ごろんと転がってお腹を見せたりと懐いている様子だ。

 

 すんすん、と鼻を鳴らして、ミカがこっちに駆け寄ってきた。

 

「がうっ」

 

「おー、久しぶりだなぁミカ。元気してたか?」

 

「ぴぃ」

 

 鼻を速河に押し付けながらすんすんと鳴らすミカ。やはり匂いは覚えているのだろうな、と頭を撫でていると、私服姿の拓也もやってきた。

 

「久しぶり、力也さん」

 

「やあ拓也君」

 

「今日は休み?」

 

「ん、今日だけかな。明日にはまた新都に戻らないと」

 

 下手をすれば、これが最期になるかもしれない。

 

 死ぬつもりはない。が、腹を括らないわけでもない。

 

 心残りが無いよう、済ませる用事は今日の内に済ませておかなければ。

 

「そういえば力也さん。俺、新しい友達ができたんだ」

 

「お、そうか。よかったなぁ」

 

「うん。”土門君”っていうんだけど」

 

 土門、と聞いてまさかなと速河は思った。時間断層工場の運営に関わっている企業の1つに”土門電子”という会社がある。ハヤカワ・インダストリーの子会社で、時間断層を用いたビジネスで莫大な富を築いていると聞いている。

 

 それは良いのだが、時間断層ありきの経営には少し危うさも覚えた。万一時間断層が消滅するような事があったら、会社はたちまち立ち行かなくなるのではないか、と不安になる。

 

「俺、高校出たら防衛大学に行こうと思うんだ」

 

「……マジで?」

 

「え、ダメ?」

 

「……いや、ダメとは言わないが……その、何だ。艦隊勤務になると長期間家を空ける事になるから、もし彼女とかいるんだったら宇宙戦艦に乗るのは止めといた方が良いぞ」

 

「えぇー? 俺アンドロメダ級に乗って見たかったのに」

 

「絶対ダメ! 一般公開の体験乗船で我慢しなさい」

 

 あはは、と笑い合いながら、思う。

 

 思えば今は亡き妻、サクヤもよくこんな自分についてきてくれたものだ、と。

 

 長期間に渡る艦隊勤務で家を空け、その孤独感から他の男と関係を持ってしまい離婚へと発展……というケースは、宇宙の船乗りの間では珍しくはない。実際、ガミラス戦役で死んでしまった同期の中にはそれが原因で破局を迎えてしまった者も何人かいた。

 

 けれどもサクヤはずっと、速河の帰りを待ち続けてくれていた。戦争が始まり、絶望的な毎日の中でも、娘のシズルを立派に育ててくれた。

 

 自分なんかには不釣り合いなほど立派な妻だったと、今でも思う。

 

 だからこそ、戦争が終わったらそんな彼女に報いようと思った。欲しいものは何でも買ってやるつもりだったし、行きたい場所にも連れて行ってやるつもりだった。やりたいようにさせてやるつもりだった。

 

 しかしそれも、もう叶わない。

 

「でも、夢を持つ事は良い事だ」

 

 ぽん、と拓也の頭の上にそっと手を置きながら言った。

 

「こんな時代だが、希望は捨てるな。辛い事の後にはきっと良い事があるさ」

 

 もしかしたらコレが遺言になるかもしれない―――そう思うと、口から発する言葉の一つ一つにも責任が宿るような気がして、速河は目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《艦隊司令部より出航許可が出ました》

 

「了解。これより出航する―――両舷前進微速」

 

「微速前進、0.5」

 

 どう、とケルビンインパルスエンジンのノズルに炎が燈った。

 

 水柱を吹き上げて、地球防衛軍艦隊総旗艦『アンドロメダ』の全長444mの巨体が前へ前へと押し出されていく。

 

 見送る将兵たちに答礼を返しつつ、山南は視線を対岸にある桜の木へと向けた。

 

 今は4月だ―――咲き乱れた桜が、春の風の中で花弁を散らしている。

 

 舞い散る桜色の花弁に見送られながら、アンドロメダに遅れて他のドレッドノート級も次々に出港し始めた。補助エンジンの推力で新都の艦隊基地を離れ、沖に出てからメインエンジンに点火し一気に上昇するのだ。

 

 アンドロメダの巨体が波に揺さぶられ、艦橋が激しく上下する。飛沫が前部甲板に降りかかり、艦橋の窓の向こうで束の間だけ虹を描いた。

 

《メインエンジン点火、10秒前》

 

 アンドロメダからの報告を聴きながら、艦長席にあるモニターを見た。

 

 既に地球防衛軍の艦隊は月面へと集結しつつある。月面基地を出撃する艦隊とも合流してから、アンドロメダの指揮の下土星沖へと展開する手筈だ。

 

 既に土星の衛星エンケラドゥス沖では、エンケラドゥス守備隊の一翼を担う新城艦隊と直江艦隊の2個艦隊が展開中である。艦隊の展開前に土星沖にガトランティス艦隊が出現しても、足止めくらいはできるであろう。

 

《メインエンジン、点火》

 

「”アンドロメダ”、発進!!」

 

 ぐんっ、と巨体が持ち上がった。

 

 ステルス機を思わせる形状のアンドロメダの舳先が空を睨み、武装を満載した巨体が空へ空へと舞い上がっていく。

 

 目指すは決戦の舞台、土星沖。

 

 そこで倒すべき敵を迎え撃つのだ。

 

 一世一代の大決戦―――そして遥か1000年後まで禍根を遺す事となる戦いが、幕を開けようとしていた。

 

 

 

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