さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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タイタン沖の戦い

 

 

 西暦2204年 4月12日

 

 地球沖 月軌道

 

 

 

 

 

 

 

 

 灰色の地表をバックに、複数の艦隊を引き連れた”アルデバラン”の巨体が迫ってくる。

 

 月面基地を母港とするアルデバランの”主力第二艦隊”だ―――とはいっても、今回の土星沖海戦を受けて艦隊編成は平時のものから臨時編成へと変更されているため、アルデバランは現時刻を以て第二艦隊旗艦の任を解かれる事となる。

 

 アンドロメダ、アルデバラン、アポロノーム、アキレス、アンタレス―――最初期に建造されたアンドロメダ級の”フライト1”に属する旗艦級が一堂に会するのは、これが最初で最後であってほしいものだと山南は願う。

 

 既に月軌道には、凄まじい数の地球防衛艦隊が集結しつつあった。

 

 波動砲搭載艦だけを数えても800隻以上―――無人艦隊、及び小型波動砲を搭載した艦を数に入れるのであれば、その総数は1000隻を超える。

 

 メインパネルに映し出される地球艦隊の威容。

 

 ちらりと視線を左舷へと投げかけると、旧式のムラサメ型宇宙巡洋艦を改装した広報用の宇宙艦が、艦載型の大型カメラをこちらへと向けていた。甲板の上では宇宙服姿のクルーたちが、これから土星沖へと出陣していく波動砲艦隊に大きく手を振っているのが見える。

 

 きっと今ごろ、地球を背に出撃する大艦隊の姿は地球全土に―――そしてガミラス大使館にも放映されているだろう。新都メガロポリスのメインストリートのモニターにこれ見よがしに映し出され、多くの民衆が声援を送っている姿が目に浮かぶ。

 

 手隙の者は左舷に敬礼、と命じて少ししてから、副長がそっと席を立ちあがり報告した。

 

「司令、全地球防衛艦隊発進完了しました」

 

「うむ」

 

 これから始まるのは一世一代の大決戦だ。

 

 この戦いに―――地球の運命が懸かっている。

 

「司令、地球防衛軍本部より入電」

 

「読んでくれ」

 

「はっ。発、地球防衛軍本部。宛、地球防衛艦隊全艦。【異星人トノ艦隊決戦、地球艦隊未ダ勝利ノ試シ無シ。マシテ波動砲艦隊ノ活躍ノ試シ無シ。諸君、歴史ヲ生ムベシ】……以上です」

 

 ふう、と息を吐く。

 

 確かにそうだ―――地球艦隊は未だ、異星人との艦隊決戦に勝利した試しはない(火星沖のあれは痛み分けに近いものだった。間違っても完勝、大勝とは言えない)。

 

 そして波動砲艦隊が、この数の艦隊が実戦を経験した前例もない。

 

 この一戦は歴史に刻まれるであろう―――勝者が地球、ガトランティスのどちらであったにせよ、だ。

 

「全艦へ達する。人類の興亡、この一戦にあり。諸君の奮闘を期待する」

 

 これで幾分か士気が上がればいいのだが。

 

 内心そう思う山南へ、アンドロメダのAIが告げる。

 

《艦隊右舷、機動艦隊旗艦”キイ”が先行します》

 

 メインパネルを見上げた。

 

 地球に帰還していた唯一のヤマト級戦艦”キイ”が、今回の戦いでは機動艦隊の旗艦を務める事となっている。指揮下にはガミラスから供与された改ガイペロン級航宙母艦『アカギ』、『アマギ』、『カガ』、『ソウリュウ』、『ヒリュウ』の5隻に加え、ドレッドノート級をベースにしたヒュウガ級航宙母艦『ショウカク』、『ズイカク』、『タイホウ』、『ホウショウ』の4隻も艦列に加わっている。

 

 そしてそれらを複数の巡洋艦、護衛艦、駆逐艦にパトロール艦が手厚く守っているという隙のない布陣だ。

 

 今回の戦闘においては、ガトランティス艦隊は主力艦隊とは別に未知の巨大空母を中核とした機動艦隊(プロキオン恒星系に待機していた艦隊と見られる)を用意している事が判明している。

 

 このまま馬鹿正直に殴り合いに行けば、艦載機にタコ殴りにされてしまうだろう。

 

 そうなる前に機動艦隊を撃滅―――間に合わなくとも、機動艦隊で敵の機動艦隊を釘付けにし、艦隊決戦に横やりを入れられない環境を整える必要がある。

 

 キイは―――そしてこのためにかき集めた空母はその要だ。

 

 作戦宙域へとワープしていく機動艦隊を敬礼で見送り、山南は声を張り上げた。

 

 

 

「全艦ワープ準備! 目標、土星宙域!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出撃していく地球艦隊の威容は、山南の予想通り大々的に報じられていた。

 

 テレビでも、インターネットニュースでも、動画サイトや配信サービスでも、だ。どのチャンネルやサイトでも、地球を背に出撃していくアンドロメダを始めとした波動砲艦隊の威容が映し出され、市民たちの大歓声を浴びていた。

 

「頑張れよー!」

 

「頑張ってー!」

 

 月軌道を越え、続々とワープしていく虎の子の波動砲艦隊。

 

 地球人だけではない。地球を訪れていたガミラス人たちも、ガトランティスという共通の敵に対しての勝利を期待せずにはいられなかった。

 

 今や地球は立派な軍事大国だ。

 

 たった1隻でガミラスを打ち負かした宇宙戦艦ヤマト―――それ以上の性能を持つ波動砲搭載艦が1000隻もあるのだ。如何にガトランティスが強大であろうとも、負ける道理がない。

 

 しかし、そんな熱狂の中で不安そうな視線をモニターに投げかける人影が、確かにそこにはあった。

 

 第十一番惑星で救助されたガミラス人の少女―――”イリィ・ポジェット”。

 

 出撃していく宇宙戦艦は、どれもガミラスの戦艦より大型で高性能なものばかりだ。

 

 だが―――その堂々たる威容の中に、ヤマトの姿が無い。

 

 あの時、自分と弟を助けてくれた地球の(フネ)、宇宙戦艦ヤマト。

 

 黒と赤のツートンカラーが特徴的なあの宇宙戦艦の姿がそこには無い。

 

 それが、それだけが異様なまでに不安に思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《地球防衛軍本部は土星沖でのガトランティス迎撃作戦を実施すると発表しました。既に1000隻を超える大艦隊が土星沖へとワープし―――》

 

《専門家によると、勝敗は決まったようなものとの事です。波動砲は一撃で惑星を破壊する事が可能な威力を持っていて―――》

 

《一方のガトランティス艦隊には波動砲に匹敵する兵器がないため、戦闘は一方的なものとなるのでは―――》

 

「……はぁ」

 

 携帯端末でどのサイトを見ても、頼りになるのか分からない自称軍事専門家の話ばかりが出てきて、速河拓也はうんざりしていた。

 

 勝てるかどうか。それも確かに気になるところである(負ければガミラス戦役の再来だ)が、それ以上に心配なのは親戚で兄のように慕っていた力也の安否だ。

 

 彼が指揮を執る戦艦アマテラスはどこにいるのか。無数の艦列が織り成す、やたらと難易度の高い間違い探しのような光景。画像を何枚もスワイプしたりダブルタップして拡大しながらアマテラスの姿を探すが、画像に映っているのはどれも灰色に塗装されたアンドロメダ級やドレッドノート級ばかりだ。

 

 時折色の違う戦艦が見え、今度こそアマテラスだと思って拡大すればそれは蒼い塗装のアルデバランやアポロノームだった、という事が既に何度も起こっている。

 

「よっ、拓也」

 

「ああ、土門君」

 

 屈託のない笑みを浮かべてやってきた友人の土門は、「何だよまたニュース見てるのか?」と問いかけながら携帯端末の画面を覗き込んできた。

 

 土門の家は『土門電子』という小さな会社だ。ハヤカワ・インダストリーの子会社の1つで、時間断層内での電子装置のメンテナンスなどの作業を請け負っているという。

 

「ちょっとね……力也さんの(フネ)、どこにいるのかなって」

 

「ふぅん」

 

 果たして無事に帰ってきてくれるのか。

 

 もう嫌なのだ―――これ以上、自分の知っている人間が帰らぬ人となるのは。

 

「大丈夫さ、きっと」

 

「だよね」

 

「ああ。地球はもう、二度と負けない」

 

 土門の言葉に背中を押され、拓也は心の中を振り払う。

 

 それもそうだ、と納得したのと同時だった。

 

 新しく更新された画像に、ワープに入る直前の戦艦”アマテラス”の姿を見つけたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球艦隊出撃の10時間前

 

 土星圏外縁部

 

 

 

 

 

 

 暗黒の海原を、翡翠色の舳先が切り裂いていく。

 

 それはさながら、宇宙という海原を飛び越え群れる飛蝗(バッタ)の群れにも見えた。遥か昔、無数のサバクトビバッタが大規模な群れを成し、農作物を食い荒らして猛威を振るった事があったという。

 

 もしこの光景を目にする地球人がいれば――――そして歴史に明るい人間がいれば、きっとそれを想起するはずだ。

 

 ガトランティスも同じようなものである。

 

 宇宙という砂漠を飛び越え、知的生命体の住まう星を侵略してはその版図を広げてきた。そしてその矛先が、蒼く蘇ったばかりの地球へと向けられただけの事だ。

 

 艦隊の陣形の先頭を進む1隻の戦艦―――メダルーサ級殲滅型重戦艦1番艦『メダルーサ』の艦橋の中で、この”バルゼー主力打撃艦隊”を率いるガトランティス最強の名将【ヴィル・バルゼー】は静かに闘志を昂らせていた。

 

 このバルゼー主力打撃艦隊は、そうそう簡単に投入される戦力ではない。

 

 捨て駒同然の部隊による散発的な攻撃で敵の脅威度を査定し、想定される抵抗が苛烈なものである、と大帝ズォーダーが評価した惑星に対してのみ出撃を許される精鋭中の精鋭だ。

 

 最近は下級の艦隊ばかりが出撃しており、下手をすれば隠居するまで出番はないのではないかという、戦と名誉を貴ぶガトランティス人には耐えがたい仕打ちが待っているのではと肝を冷やしたヴィル・バルゼーであったが、そんな最中に伝えられた地球侵攻作戦はまさに彼の待ち望んでいた戦いであった。

 

 とはいえヴィルも高齢である。本人は”生涯現役”を掲げているものの、そろそろ後進に―――息子の”ヴィリム・バルゼー”に艦隊を譲ってもいいだろう、とも考えていた。

 

 ならば退役する前に一つ、戦場に新たな武勇を打ち立ててからでも遅くはあるまい―――そしてその相手はガミラス相手に勝利し大艦隊を整備している軍事国家、地球。相手に取って不足はない。

 

 滾る、実に滾る。

 

 彼の身体を流れるガトランティス人としての血が、戦士の気質が、そして細胞の1つ1つが苛烈な戦いを欲していた。

 

 老いさらばえた肉体と同じように、彼の乗る戦艦『メダルーサ』も老朽艦だ。

 

 今となっては量産が軌道に乗ったカラクルム級によって隅に追いやられているが、メダルーサ級も艦隊旗艦として相当数が建造された。今となっても火焔直撃砲という火力投射艦として第一線で戦っている。

 

 この戦艦メダルーサは、そのメダルーサ級戦艦たちの1番艦―――最も旧く建造されたネームシップである。

 

 度重なる近代化改修を受け、既に就役時の面影はない。特徴的だった5連装大型徹甲砲塔も撤去されており、補強フレームと複合センサー、そして連装ビーム砲塔がそこにあるばかりである。

 

 本命は、船体下部にぶら下げられている巨大な砲身。

 

 遮蔽用シャッターすらぶち抜くほどの砲身―――それこそが、この戦の決め手だ。

 

「土星宙域まで、5万宇宙キロ」

 

「空母艦隊司令、ゲルン提督より入電です」

 

「……ようし、繋げ」

 

 艦長席に座ったまま鷹揚に応じるや、メインパネルの一角に機動艦隊を指揮するゲルン提督の顔が映し出された。

 

《お呼びですか、バルゼー総司令》

 

「ゲルン、そろそろ土星空間だ。第一警戒態勢に入る」

 

 やっとか、と言わんばかりにゲルンの口元に笑みが浮かんだ。

 

「君との交信もしばらく断つ事になろう。作戦を指示しておく」

 

 ここから先は通信に制限が生じる―――敵にこちらの通信を傍受されたり、通信そのものを察知される事により活動を予測されるのを防ぐためだ。

 

 戦闘が始まるまでは艦対艦レーザー通信による短距離通信に留められるであろう。

 

 つまりこれは、奇襲である。

 

「敵の主力は第七衛星タイタンにある。土星空間に入り次第攻撃を開始しろ。叩き潰すんだ、一気にな!」

 

《はっ!》

 

 腕をサッと振るうようにして(ガトランティス式の敬礼だ)通信を終えるゲルン。

 

 それが合図だったかのように、バルゼー艦隊から見て右舷に位置するアポカリクス級橋頭保型超大型航宙母艦【ラグナロン】が、全長1240mという巨体のいたるところにスラスターの光を煌めかせて緩やかに変針。それに従うように、無数のナスカ級やラスコー級たちも回頭して別行動に移る。

 

 幸い、敵は土星の衛星タイタンとエンケラドゥスに集結している。

 

 主力はタイタンだ―――まず最初に航空攻撃をかけ、敵の足並みを乱してから艦隊決戦へと雪崩れ込むというのが、バルゼーの目論見である。

 

 相手は虎の子の波動砲艦隊。

 

 地球よ―――この猛攻、どう退ける?

 

 迫る戦いの気配に、バルゼーは笑みを隠せないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土星宙域 衛星タイタン沖

 

 新城艦隊、直江艦隊(タイタン、及びエンケラドゥス守備隊)

 

 

 

 

 

 

 ワープアウト反応、と観測員が報告するなり、新城艦隊旗艦『インフェルノ』の艦内に緊張が走った。

 

 太陽系内にはワープ阻害装置がある。だから敵艦隊は土星や火星の防衛ラインを飛び越えて、いきなり地球を攻撃するような事は出来ない。

 

 しかしあくまでも転送先の座標を乱すだけだから、ワープ自体ができないという事ではないのだ―――まだ誤差が小さい範囲での小ワープを何度も繰り返してきたのだろう、敵の進撃速度は新城艦隊の予測より3時間も早いものだった。

 

「ついに……ついにこの時が」

 

「山南艦隊、到着までまだかかります」

 

「……地球司令部に通信。”我、タイタン沖ニテ敵ト遭遇セリ”と」

 

「はっ」

 

「全艦戦闘準備! ”波動直撃砲”、発射用意!」

 

 若手の新城艦長が命じるや、艦隊旗艦『インフェルノ』の二股に別れた艦首のエネルギー転送缶が青い渦輪を生じ始めた。

 

 戦艦インフェルノはガトランティスから鹵獲したメダルーサ級を地球仕様へと改装した鹵獲艦だ。ガトランティス式の武装や粗末な電子制御システムはあらかた撤去され、どれもこれもが地球仕様へと改められている。

 

 艦首の遮蔽シャッターが解放され―――内側からせり出してきたのは、波動砲の砲身だった。

 

 建造途中で規格を外れ製造ラインから弾かれたドレッドノート級の船体。それから各種武装と艦橋を撤去し、純然たる”波動砲の砲身”として転用したものだ。

 

 それを瞬間物質移送機を使って、敵艦隊の眼前に波動砲を転送する―――ガトランティスの火焔直撃砲に着想を得た『波動直撃砲』。それが新城艦隊の切り札である。

 

 その射程距離は火焔直撃砲以上。

 

 山南艦隊の到着まで3時間―――それまで持ちこたえれば、新城艦隊の勝利である。

 

「エネルギー充填、120%!」

 

「波動直撃砲―――発射ァ!!」

 

 波動砲の砲身に転用されたドレッドノート級の船体が、蒼い閃光を迸らせる。

 

 衛星タイタン沖での戦闘の火蓋が、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





改メダルーサ級鹵獲型戦艦『インフェルノ』


全長
・505m
全幅
・130m

武装
・波動砲(ドレッドノート級船体流用)
・艦首瞬間物質移送機×2
・40.6㎝ショックカノン砲塔×5(前部甲板に2基、後部甲板に3基)
・艦首速射魚雷発射管×9
・対空火器多数


 度重なる戦闘で鹵獲したメダルーサ級からガトランティス式の武装や電子制御装置を撤去、地球仕様の装備を搭載した鹵獲型戦艦。第十一番惑星や太陽系外縁部での散発的な戦闘で地球側は多数のガトランティス艦を鹵獲しており、それらを戦力として積極的に取り込み活用している。本艦もその一環として改装・実戦投入された。

 特に武器システムやレーダー、各種センサーは地球仕様の高品質なものに全て改められている。解析を担当した南部重工やハヤカワの技術者たちは、元の装備について『何だこの原始人が組んだようなソフトは』と散々な言いようであったという。
 改装後の武装の命中精度は飛躍的に向上した他、火焔直撃砲を模倣した新兵器『波動直撃砲』の評価試験も兼ねて製造ラインより弾かれたドレッドノート級の未完成船体を流用、波動砲の砲身として装備している。

 新城艦隊、及び直江艦隊はいずれも鹵獲したガトランティスの戦艦で構成されており、衛星タイタン沖での衝突はガトランティス製兵器同士の戦闘となった点において研究の対象となっている。


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