さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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『煉獄』

 

 ガトランティス艦隊の目と鼻の先で、蒼い閃光が瞬いた。

 

 唐突に生じたそれは眼前にあったラスコー級とククルカン級の艦列をまとめて呑み込むなり、バルゼー艦隊の陣形を縦断するように奥へ奥へと突き進んでいく。射線上の敵艦を影すら残さずに消滅させ、掠めた艦の装甲を融解させながら駆け抜けていく波動砲の一撃。

 

 遥か彼方、最大望遠の映像で瞬く波動砲の輝きに、新城艦隊旗艦『インフェルノ』の艦橋内で歓声が上がった。

 

 無理もない。

 

 新城艦隊と直江艦隊は、元々は尾崎艦隊と3個艦隊を組んでローテーションで土星宙域を守備する任務にあった。

 

 激戦が予想され、艦隊旗艦以外にも複数のアンドロメダ級があてがわれる速河艦隊や、最新鋭の波動共鳴装置を搭載した防御型アンドロメダを旗艦に頂く北野艦隊。そして無人艦隊のテスト運用を行う尾崎艦隊のアクエリアスのような最新鋭艦は、新城、直江両艦隊にはあてがわれていない。

 

 代わりに与えられたのは鹵獲されたガトランティスの艦を地球仕様にアップグレードしたものだった。

 

 周囲が波動砲艦隊だの地球の切り札だのと持て囃されている陰で、彼らは冷や飯を食わされていたのである。

 

 地球に余裕がないのも分かる。こんな土星の隅に追いやられ、定数外同然の艦をあてがわれて有事の際にいざ戦えと言われても、と憤る気持ちも理解できる。

 

 そんな日陰者同然だった彼らがやっと、やっとの事でガトランティスを相手に戦果を挙げたのだ。それも敵艦隊の中では最精鋭とされているバルゼー艦隊に。

 

「油断すんな、陣地転換急げ! 敵はすぐ撃ち返してくるぞ!」

 

 鹵獲型メダルーサ級『インフェルノ』の巨体がスラスターで押し上げられていく。

 

 その3秒後、前方に空間振が生じた事をオペレータが報告。それから間髪入れずに目の前の空間が渦を巻き、そこから太陽のフレアを思わせる極太のビームが転送されてきた。

 

 敵の火焔直撃砲の応射だ。こちらの空間振、あるいはエネルギー反応を逆探知して撃ち返してきたのだ。

 

「駆逐艦マイアーレ、小破!」

 

「砲身冷却まであと30秒!」

 

「エネルギー転送缶、動作正常!」

 

 新城艦長は眉間に皺を寄せた。今こそが反撃する絶好のタイミングだというのに、肝心の波動砲の砲身の冷却が間に合っていない。

 

 インフェルノの船体下部、オリジナルのメダルーサ級が火焔直撃砲を収納しているスペースには、時間断層工場内部にて製造過程でエラーを発生させ、生産ラインから弾かれた規格外のドレッドノート級の船体が、余計な機能の撤去や砲身冷却装置の追加などの改造を受けた上で波動砲の砲身としてセットされている。

 

 元々が規格外、エラー個体という事なのだろう。外付けの冷却装置があるとはいえ、冷却があまりにも遅すぎる。

 

「艦長―――」

 

 オペレーターが何かを報告しようとした次の瞬間だった。

 

 唐突に艦橋の窓の向こうに血のように紅い光が生じ―――それから目の前が真っ暗になったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「し、新城艦隊が!」

 

 直江艦隊旗艦『フソウ』の艦橋で、電探手が顔面蒼白となりながら悲鳴じみた声をあげた。

 

 突然の事だった―――先ほどまで艦隊の戦法として、いつでも補助に入れるよう後方で待機していた直江艦隊の前方で戦っていた新城艦隊の全艦の反応が、レーダー上から完全消失(・・・・)したのは。

 

 どう、と直江艦隊の頭上を血のように紅い極太のビームが突き抜けていく。それは頭上の衛星タイタンを掠めると、ガスで覆われたタイタン表面を大きく引き裂いた。

 

 タイタンの大気圏内に存在する水、メタンやエタンなどの氷。凄まじい熱を放つビームが衛星を掠めて無事で済むはずもなく、途端にに生じたのは惑星規模の天変地異も同然の変化だった。

 

 水、エタン、メタンで構成されている氷が一瞬で蒸発して水蒸気爆発が連鎖的に生じ、大量のガスが破片を含んだ状態で宇宙空間まで放出。更にタイタンの大気圏内部で惑星規模の嵐が生じ、メタンの爆発的燃焼が連鎖。衛星表面をうっすらと覆っていたガスがみるみるうちに地獄のような赤褐色へと変貌を遂げていく。

 

 鹵獲型カラクルム級重戦艦『フソウ』に搭載されたAIが《タイタンの大気組成の急激な変化を確認。大規模な地殻変動を観測》と報告するが、直江司令にとってはどうでもいい事だった。

 

 新城艦隊が、消えた―――。

 

 新城艦隊を消滅に追いやったのは、今しがた頭上を通過していったあのビームだ。流れ弾が掠めただけで衛星タイタンにあれほど甚大な影響を与える兵器―――さながら波動砲である。

 

「し、司令」

 

「さ、散開、散開だ! 密集するな、一網打尽にされるぞ!」

 

「艦隊周囲に小ワープ反応!」

 

 敵の切り札と思われる砲撃に威圧される直江艦隊の周囲に、複数の光が生じる。

 

 白く発光するガスを纏いながら、船体を高速で錐揉み回転させてワープアウトしてくるガトランティス艦隊。ラスコー級を戦隊旗艦とした”切り込み艦隊”だった。

 

 ラスコー級の艦列が、お椀のような砲塔を回転させて緑色のビームを射かけてくる。元が鹵獲艦である上に十分な出力の波動防壁も搭載できなかった鹵獲型ククルカン級がそのうちの1発に被弾し、火の手を上げながらよろよろと左舷へ離脱していった。

 

「応戦! 撃ち返せ!」

 

 後手に回った直江艦隊。しかし戦意が衰えたわけではない。

 

 ごうん、と甲板に据え付けられた2基の48㎝3連装ショックカノン砲塔が旋回。蒼い閃光を渦巻かせ、サジタリウスの矢の如く敵艦を深々と抉って轟沈せしめる。

 

 直江艦隊旗艦『フソウ』は、元を辿れば第十一番惑星沖の戦闘で鹵獲した前期型のカラクルム級重戦艦を鹵獲、地球仕様に改造したものである。

 

 これまでのガトランティスには無かった重装甲と、船体前面にびっしりと搭載された武装の数々。それは敵艦隊と真っ向から”殴り合う”ためのものだ。元よりそのようなドクトリンを構築していた地球艦隊は同級の戦力化は容易いと判断し、すぐに改造を試みた。

 

 その結果がこの鹵獲型カラクルム級重戦艦『フソウ』である。船体の回転砲塔は撤去され、宇宙戦艦ヤマトに搭載されている48㎝砲から三式弾の運用能力を省いた簡略型の主砲を搭載。艦橋砲も地球仕様の無砲身型30㎝ショックカノンに改められ、無数の陽電子ビーム砲を敵艦隊へとばら撒く怪獣のような戦闘艦へと生まれ変わっている。

 

 直江艦隊には同型艦の『ヤマシロ』も配属されており、共にヤマトと同じく喫水線下を赤く、船体上部を黒く塗り分ける塗装が施されていた。

 

 緑色のビームが扶桑を打ち据えるが、しかしこっちは全長555mの戦艦だ。所詮巡洋艦の砲撃如きではびくともせず、むしろショックカノンの槍衾に船体を余さず撃ち抜かれ、無残な有様になったラスコー級が爆散していく。

 

「敵艦隊との距離を詰めろ!」

 

 艦長席で直江司令が叫んだ。

 

「敵艦隊と近距離で撃ち合っていれば、向こうだって誤射を畏れてさっきのビームを迂闊に撃てない筈だ」

 

 生き残った直江艦隊が危惧しているのはそれだった。

 

 あの火焔直撃砲以上の威力を誇る敵の新兵器―――戦闘中だった新城艦隊を一撃で消滅へと追いやったあの兵器の存在が、敵艦隊へと迂闊な手出しができない最大の要因となっている。

 

 ならば、と直江司令は腹を括った。

 

 敵艦隊との乱戦に雪崩れ込めば、ガトランティス艦隊は友軍誤射を警戒し迂闊にあのビームを撃つわけにはいかなくなるだろう。

 

 無論、味方ごと撃ってくる可能性はある。そもそもガトランティス人は地球人やガミラス人とはメンタリティが根本から異なるのだ。彼らにとっては戦闘とは己の良きる場所であり、強敵との戦いや戦の中での死は最高の栄誉。生きて虜囚となるのは最大の屈辱である。

 

 しかし彼らには、この土星沖を抜けた後にも火星沖、月面、そして地球という防衛ラインが待ち受けている。地球では今頃、大量の艦隊が戦時増産体制で生み出され続けているだろう―――土星沖海戦で仮に勝利を収めたとしても、その勢いが地球まで続くかどうか。

 

 したがって迂闊な戦力の浪費は、彼らも忌避するはずだ―――直江司令はそう踏んでいた。

 

 後に戦いが控えているというのに、自ら手駒を減らすような事はするまい、と。

 

 フソウの主砲に撃ち抜かれたククルカン級が錐揉み回転しながら艦橋の上を通過して爆発。塔状の艦橋を爆炎で照らし出す。

 

 肉薄してきたククルカン級が光子魚雷とビームを射かけてくる。扶桑の巨体に何度も振動が走るが、しかし全長555mの巨体と質量が容易な轟沈を許さない。副砲の20.3㎝連装ショックカノンがビームを連続で叩き込んで、不躾な敵艦を火の玉へと変える。

 

 このまま、このまま乱戦を維持できれば。

 

 そしてあわよくば山南艦隊の到着まで持ちこたえる事ができれば。

 

 襲い来る敵艦を1隻、また1隻と撃沈しながら奮戦する直江艦隊。もしかしたら生き残れるかもしれない、という希望は確かに芽生えつつあった。

 

 同時に敵艦のデータ―――特に新城艦隊を一撃で消滅させた敵艦隊の新兵器の映像は、既に地球司令部にも山南艦隊にもAIを介して転送されている。仮にここで全滅する事があっても、自分たちの死は決して無駄にはならないのだ。

 

「司令、敵旗艦に発射反応―――」

 

 ―――まさか。

 

 味方ごと撃つのか。

 

 やるつもりなのか、敵は。

 

 無駄と知りつつも回避を命じ、されど直江司令は己の死をはっきりと知覚した。

 

 艦橋の窓の外に生じた、血のように紅い光。

 

 地獄の炎―――さながら煉獄のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メインパネルに投影される敵艦隊の威容を見て、キイの西村艦長は顎髭を指先で弄りながら目を細めた。

 

 土星の衛星フェーベから10万宇宙キロ。

 

 なんたる数か、と思う。

 

 確認されているだけでもナスカ級空母が43隻、ラスコー級やククルカン級に至ってはもう数えたくないほどだ(AIが冷酷にそれぞれ36隻、148隻であると突きつけてくる)。

 

 しかしそれ以上に、キイの乗員たちが釘付けにされているのは敵艦隊中央に位置する、未知の超巨大空母であった。

 

 全長は明らかに1200mに迫っているであろう。巨大なミサイルを2つ横に並べたような船体構造で、その上下に楕円形の扁平な飛行甲板を接着したような形状をしている。最も後部からキリンの首の如く上へと伸びているのが艦橋なのだろうか。

 

 飛行甲板の上には、既に爆装したデスバテーター攻撃隊がずらりと並んでいる。飛行場のように長大で、左右両舷にそれぞれ2基ずつ備え付けられた長大な滑走路。十分な距離が確保できるが故にカタパルトの類は搭載されていないようだ。

 

 何もかもが規格外の空母の姿に、艦長は思う。

 

 ―――こんな機動艦隊が土星沖に集結したら大惨事だ。

 

 敵艦隊の規模から想定するに、仮にこの艦隊から攻撃隊が発進した場合、山南艦隊には述べ5000機にも匹敵するほどの航空隊が襲い掛かるであろう。

 

 それを防ぐためにも、ここで確実に敵を潰さなければならない。

 

「―――キイより全艦に通達。全艦、全攻撃隊を敵艦隊撃滅に差し向けよ」

 

 

 

 

 

 出し惜しみはしない―――初手から全力で攻撃隊を差し向け、敵艦隊を撃滅する。

 

 




鹵獲型カラクルム級重戦艦

全長
・555m
全幅
・100m

武装
・48㎝3連装ショックカノン砲塔×5
・30㎝4連装ショックカノン砲塔×3(艦橋砲)
・20㎝連装ショックカノン砲塔×8(副砲)
・艦首魚雷発射管×8
・その他対空火器多数


 度重なる第十一番惑星での戦闘で鹵獲されたカラクルム級(前期型)を鹵獲し、地球仕様へと改めた鹵獲艦。今作の時間断層では内部での経過時間がより早い代わりにコアとなっているコスモリバースシステムの『稼働時間』が存在し、定期的なクールダウンが必須となっている事から、地球は需要の高い兵器にリソースを集中投入せざるを得ず、それ以外の補助兵器や鹵獲艦などは時間断層の外にある工廠で改装を行った。

 これまでのガトランティスに類を見ない重装甲の艦であり、明確に敵戦艦との『殴り合い』を想定して建造された同級は地球側のドクトリンとも合致していた事から、武装の選定はすぐに決まった。
 主砲として採用されたのはヤマト級の48㎝砲から三式弾の運用能力を省いた簡略型であり、艦橋砲には計画中止となった【過去のコンゴウ型やムラサメ型に波動エンジンを搭載し再生産する】という旧式艦再生産計画のために改造されていた無砲身型ショックカノン砲塔を流用。設計期間の短縮のために既存の武装を流用し、波動砲などの決戦兵器の搭載は見送られた。

 波動砲のような”目玉兵器”は無いが、地球側の改修によりより効率的となったエネルギー伝導に加え、エネルギー消費の激しい大型武装を省いた事により機関出力には余裕が生まれており、ショックカノンの威力に関してはヤマト級と遜色ないレベルに達している。

 同級は2隻が整備されて実戦投入されており、新城艦隊の後詰としての運用が期待された直江艦隊にそれぞれ『フソウ』『ヤマシロ』の2隻が編入されている。

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