さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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フェーベ沖海戦

 

 ヒュウガ級空母『ショウカク』甲板で、発艦要員のアナライザーが右腕を振って合図を送った。

 

 それと同時に電磁カタパルトが始動。対艦ミサイルをこれでもかというほど搭載したコスモタイガーⅡが射出され、飛行甲板を飛び立っていく。

 

 左右に展開した同型艦『ズイカク』甲板上でも同様に航空隊の出撃が始まっていた。ペイロード一杯まで武装を搭載したコスモシャークたちが矢継ぎ早に打ち出され、艦首に搭載された地球仕様の瞬間物質移送機で敵艦隊の直上へと送り込まれていく。

 

 ガミラス戦役でヤマトを苦しめたガミラスの最新鋭装備―――瞬間物質移送機も、今となっては空母に必須の装備として多くの艦に搭載されている。ワープ能力を持たない航空機を片道とはいえ任意の空間へと送り出し、敵艦隊に奇襲するのだ。

 

 従来の砲戦では決して真似できない視覚からの致命的な急襲。これこそが、この大宇宙時代の航空隊の存在意義といえた。

 

 時間断層工廠の利用権と引き換えにガミラスから正式に導入した新技術。産業スパイの持ち出した新技術と地球由来の技術でより精度の上がったそれが、ヒュウガ級の全艦に搭載されている。

 

 攻撃目標は敵機動艦隊―――その中でも優先攻撃目標は43隻のナスカ級と、1隻の敵の未確認超巨大空母。

 

 これらを撃沈、ないし航空機運用能力を喪失させる事。それが航空隊の目的である。

 

 彼我の戦力差は絶望的だ。いくら奇襲とはいえ、航空隊の空爆程度で殲滅できるレベルではない。

 

 そこから先は波動砲を搭載した艦隊の仕事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝ったな、とゲルンは確信していた。

 

 既に土星の衛星タイタン近辺を警備していた敵の2個艦隊が、バルゼー艦隊の放った【煉獄直撃砲】により宇宙の塵と消えた。

 

 今の地球艦隊は脅威である。何せ、あのガミラス(ガミロン)を打ち負かしたヤマト(ヤマッテ)の持つ波動砲よりも強力なものをほぼ全艦に搭載しているというのだ。そんな艦隊と真っ向からやり合えば、命がいくつあっても足りはしない。

 

 しかし、いざ戦ってみればこれだ。

 

 バルゼー艦隊がガトランティス最強であるが故の結果なのだろうが、ゲルンはそれ以上に敵の練度の低さに起因するものである、と考えていた。

 

 何せ、今の地球はガミラス(ガミロン)との戦いで7割の人口を失っているのだ―――矢面に立った軍の人材不足もさぞ深刻であろう。優秀な戦士を育てるのに一体どれだけの年月が必要になるのか。それは毎日のように戦いに明け暮れるガトランティス軍もよく理解している。

 

 ―――今の地球(テロン)には、優秀な指揮官が少ない。

 

 もしあの壊滅した2個艦隊の艦隊司令がもう少し有能であったのならば、自軍の損害を最小限にして遅滞戦闘を展開。地球本星からの援軍が到着するまで持久戦の構えを見せていただろう。

 

 ならば徒に複雑な戦略で挑む必要などはなく、真っ向から火力任せで押し込んでしまえば勝てるのではないか。

 

 ―――いいや、それほど甘い相手ではない。

 

 ゲルンは自分の中に生じた慢心を即座に握り潰した。

 

 なるほど確かにそうなのだろう。しかしガトランティスという新たな敵を前にして、練度の低さという宿痾(しゅくあ)をそのまま放置しているほど地球(テロン)人は間抜けではあるまい。

 

 戦力の無人化、AIの本格導入……練度の低さを補う手段はいくらでも存在する。

 

 それに相手を舐めてかかるなどガトランティスの戦士にあるまじき態度。それはすなわち敵の戦士への冒涜である。全力で挑み、全力で打ち破る。これこそがガトランティスの戦士としての在り方であるし、散っていく敵への最大の賛辞であろう。

 

 己の慢心を恥じつつも艦載機の発艦命令を出そうとするゲルン。

 

 しかしその号令を遮るように、観測員が悲鳴じみた報告を上げた。

 

 

 

 

 

「―――て、敵機直上! 急降下!」

 

 

 

 

 

 なんだと、と言う暇すらない。

 

 アポカリクス級橋頭保型超大型航宙母艦『ラグナロン』の遥か直情―――どこまでも黒い海原が続く大宇宙の一角に、白い光と共に無数の艦載機が転移してきたのである。

 

 無論それはガトランティスのものではない。

 

 地球(テロン)のものだ。

 

「対空戦闘! 全艦各個に回避運動!!」

 

 アポカリクス級『ラグナロン』の各所、びっしりと据え付けられた小型の回転砲塔たちが土砂降りのような勢いで地球の航空隊―――コスモゼロ改『ブラックバード』の編隊に緑色のビームを射かける。

 

 アポカリクス級1隻だけでも十分すぎる密度の弾幕だが、それに他の艦も加勢したのだからたまったものではない。

 

 1機、また1機と緑色の対空ビームに射抜かれて、炎上するブラックバードたち。それでも一部の機体が対艦ミサイルを一斉に放ち、その直後にビームの直撃を受けて大破。宇宙の塵へと変貌していく。

 

 数発の対艦ミサイルが、しかし対空砲火による迎撃も虚しくラグナロンの対空砲塔群や飛行甲板を直撃した。ミサイルは甲板で待機していたデスバテーターたちを吹き飛ばすと、彼らの対艦ミサイルに相次いで誘爆。たった数発のミサイルが生み出したとは思えぬ光芒がラグナロンの飛行甲板上で瞬き、艦載機を射出する電磁カタパルトがあっという間に使い物にならなくなってしまう。

 

 捨て石となる無人航空隊の攻撃から間髪入れずに、続けてコスモタイガーⅡたちが転送された。

 

「!!」

 

 立て続けに放たれる対艦ミサイルのつるべ撃ち。迎撃の砲火が上がるが、先ほどの無人機による攻撃で数を減らした対空砲で出来る事は限られていた。数発のミサイルが緑色の火線に捕われ爆散するが、しかし多くのミサイルがアポカリクス級やその他のナスカ級へと降り注いで相次いで炸裂。船体各所で火の手が上がる。

 

 被弾したナスカ級がコントロールを失い、護衛のラスコー級と衝突して一緒に沈んでいく。

 

 真っ二つに折れて轟沈するナスカ級、格納庫まで火の手が上がり小さな爆発を煌めかせながら爆沈するナスカ級……プロキオン方面軍は、僅か数分の内に阿鼻叫喚の地獄に包まれた。

 

 船体両舷を掠めるように飛び去っていく敵航空隊。そんな彼らと入れ違いになるかのように、今度は艦隊直下に白い閃光が瞬き―――より大型の攻撃機、『コスモシャーク』の編隊が転送された。

 

「カタパルト旋回!」

 

 ゲルンが唾を飛ばしながら叫んだ。

 

「急げ、甲板を回せ! 無事な下部飛行甲板だけでも守るんだ!」

 

 ゴウン、とアポカリクス級『ラグナロン』の船体に変化が生じた。

 

 扁平な2枚の飛行甲板で船体を上下から挟む構造のアポカリクス級。その船体が、まるでフライ返しで目玉焼きをひっくり返すかの如く―――艦尾の艦橋ブロックを除いて、ぐるりと回転したのである。

 

 既にミサイルを発射していたコスモシャーク隊は、未知の巨大空母が見せた意外な機能に目を丸くしていた。

 

 アポカリクス級は船体上下に片側2本、合計4本の滑走路を持っている。それにより艦載機を同時に発艦、あるいは上層の飛行甲板で発艦、下層で着艦と使い分ける事で航空機の効率的な運用が可能になっているのだ。

 

 そしてその巨大な船体の飛行甲板は、同時に船体を守る装甲としても機能している。

 

 万一敵の攻撃で上部、あるいは艦底部の飛行甲板が大破してしまっても、こうやって使い物にならなくなった飛行甲板を敵の攻撃に晒させる事で盾とし、健在な飛行甲板を守る事も出来るのだ。

 

 欠点は船体側にある推進部が、カタパルト旋回の際に艦橋の正面を横切る事だろう。一応は艦橋には耐熱処置を施してあるが、それでも長時間推進部の熱に晒されると融解する恐れがある。

 

 それ以外にも、この回転機構により艦内の重力ブロックの構造が複雑化している事も挙げられ、大気圏内での運用には制約が生じてしまっている。

 

 とはいえ、今は期待通りの性能を示してくれた。

 

 ぐるり、とミサイルの飛来する方向へ晒された上部の飛行甲板。相次ぐ誘爆と被弾により甲板表面は滅茶苦茶に破壊され、カタパルトも損傷し使い物にならなくなっている事が分かるが、被害はそれだけだ。多数の破孔が刻まれてもなお格納庫まで達したミサイルは一発もなく、その堅牢さを見せつけるかのようである。

 

 ミサイルを多数受け、アポカリクス級の腹が閃光に塗り潰される。それでもなお、空母としての機能は健在だった。

 

 アポカリクス級『ラグナロン』の側面を抜け、焦るように頭上で旋回するコスモシャーク隊。健在な飛行甲板の上では無数のデスバテーターがずらりと並んでおり、発艦の時を今か今かと待ち受けている。

 

 既にミサイルは全弾使い果たした。

 

 機銃掃射を敢行しても止められる筈がない。

 

 ならばいっそ特攻するか、とパイロットたちが悲壮な決意を固めたその時だった。

 

 土星の衛星フェーベ―――その陰から大きく回り込むようなコースで飛来したショックカノンの光が、流星の如くガトランティス艦隊へと降り注ぎ始めたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《挟叉を確認!》

 

「諸元、全艦連動!」

 

 機動艦隊所属の巡洋艦『モガミ』の照準データが、他の巡洋艦や護衛艦、パトロール艦へと一斉に伝達された。

 

 ごうん、と星空を睨む20.3㎝連装ショックカノン砲塔。単縦陣を組む『ミクマ』『スズヤ』『クマノ』に搭載されたショックカノンが同一諸元で照準されたのを確認するや、愛宕の艦長は砲撃命令を下した。

 

「主砲一斉射! 撃てぇッ!」

 

 カッ、と砲口に蒼い光が燈る。

 

 一斉に発射されたショックカノンの蒼い輝き。捻じれながら飛ぶそれは互いに絡み合い、巨大な流星となってフェーベを掠めるようなコースで飛翔した。

 

 変化が生じたのはそれからだった。

 

 まるで見えざる巨大な手が光をつかんで 捻じ曲げたようにも、あるいはレーザーで指示された目標目掛けてホーミングしたかのようにも見える―――ショックカノンがぐにゃりと”曲がった”のだ。

 

 原理はいたって単純明快である。土星の衛星フェーベの放つ重力を利用して陽電子ビームを曲げる事で、旧い時代の榴弾砲の如くビームでの曲射をやってのけたのである。

 

 ガミラス戦役末期、今は亡き沖田艦長が生前に書き残していたという惑星の重力を用いてのビームの曲射。理論だけだったそれが、ガトランティス戦役末期の今になって実戦で用いられたのだった。

 

 衛星の重力圏を用いたスイング・バイ。普通ではありえない挙動で放たれたそれはサジタリウスの矢さながらに宇宙を駆け抜けると、今まさに航空隊を発艦させようとしていたアポカリクス級『ラグナロン』の飛行甲板を斜め上から深々と抉った。

 

 身動きの取れない航空隊に出来る事など何もなかった。降り注ぐショックカノンの砲火を前にあっという間に消滅し、航空隊から守り切った筈の飛行甲板が火の海と化す。

 

 その無残極まりない光景を、ゲルン提督は血走った目で見つめていた。

 

 こんな事は有り得ない―――数ではこちらが勝っていた筈だ。それがどうして……。

 

 しかし現実は、より非情で悪辣であった。

 

「艦隊前方に空間跳躍反応!」

 

「……っ」

 

 蒼い光が瞬いた。

 

 両舷に2隻ずつ、合計4隻の護衛艦を接舷した状態でワープ空間から顔を出したのは―――ヤマト級戦艦『キイ』に率いられた、ヒュウガ級の波動砲戦隊だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「重力アンカー、解除!」

 

 ガガガンッ、と火花を散らしながら、拡散波動砲発射態勢に入ったキイをここまでワープさせてくれた護衛艦たちが切り離されていく。

 

 後続のヒュウガ級たちも同様だった。艦載機を全て発艦させ、身軽になっているのをいい事に戦艦とは思えぬ挙動でキイに追随するや、整流板で仕切られた波動砲の発射口に蒼い光を輝かせ始める。

 

 航空隊に奇襲を受け、フェーベの重力圏を用いた艦砲射撃で滅多打ちにされた敵艦隊。よもや今度は波動砲艦隊が目の前にワープアウトしてくるなどとは夢にも思わなかったらしい。

 

《エネルギー充填、120%》

 

「目標敵機動艦隊。対ショック、対閃光防御!」

 

 艦橋の遮光フィルターが動作した。艦橋要員たちが対閃光用のゴーグルを着用したのを確認し、西村艦長は「発射10秒前!」と声を張り上げる。

 

「10、9、8、7、6、5―――」

 

 キイに気付いたガトランティス艦隊が、必死になってビームを射かけてくる。緑色のビームがキイの周囲を掠め、隣に展開している空母『ホウショウ』の船体を打ち据えて小さな爆発を起こすが、その程度ではホウショウは怯まない。

 

 空母とはいえ、原型となったのは仮にも戦艦である。戦艦はそう簡単に沈まないのだ。

 

「3、2、1―――波動砲、撃てぇい!」

 

 カッ、と波動砲の砲口が輝く。

 

 機関部内で突入ボルトが勢いよく突入。充填されたエネルギーが呪縛から解き放たれるや、明確な破壊の意思を持ったタキオン粒子の束が一気に解き放たれる。

 

 キイを筆頭とする波動砲艦隊から放たれた拡散波動砲たち。それらは進路上の邪魔なククルカン級やラスコー級を融解させながら疾駆し―――ゲルン艦隊の目と鼻の先で、花開くかのように拡散した。

 

 

 

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