さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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出撃、ヒペリオン艦隊

 

 ドビュッシーの『月の光』が緩やかに流れる、薄暗い艦橋の中。

 

 スリットから漏れる紅い光に照らされて、速河艦長は眠るかのように目を瞑っていた。

 

 ―――音楽は良いものだ。

 

 リラックスして聴き入れば心を静めてくれるし、昂っている時に聴けば闘志を燃え上がらせてくれる。理屈ではうまく理解できないが、音楽には人間の”魂”を揺さぶる何かがあるのだ、と彼は考えている。

 

 そういう意味でも、音楽鑑賞を趣味とする事を奨めてくれた山南司令には感謝しなければなるまい。

 

 そう思っていた彼らの下に山南司令からの命令が発令されたのは、すぐの事だった。

 

「……艦長、出撃命令です」

 

「いよいよか」

 

 目をそっと開け、口元に獰猛な笑みを浮かべた。

 

 それはまるで冬眠明けの熊のようだ―――腹を空かせ、これから獲物を狩りに行く大熊の如き獰猛さがその瞳にはあった。コムメダルですら抑え込めないほどの大き過ぎる感情の揺らぎが確かにあった。

 

「岩盤爆破!」

 

 ボボボン、と岩塊に仕掛けられていた爆薬が起爆した。

 

 衛星ヒペリオン沖を浮遊していた岩塊群―――それらが一斉に爆ぜるなり、中から出現したのは黒色に塗装された禍々しい戦艦たちだった。

 

 土星沖海戦勃発に伴い急遽編成された艦隊群―――速河強襲艦隊、通称『ヒペリオン艦隊』。

 

 波動エネルギーに加え位相エネルギーを補助的に用いるという改修が施されたアマテラス級戦艦1番艦『アマテラス』を中核とし、10隻のアマテラス級と2隻の防御型アンドロメダ級、ドレッドノート級、護衛艦で編成された砲戦特化型の艦隊である。

 

《速河、ヒペリオン艦隊は側面より敵を攻撃、中央突破を成し遂げよ》

 

「了解!」

 

 メインパネルに映る山南司令に力強い敬礼を返すなり、速河艦長は艦長席で拳を勢いよく打ち付けた。

 

 ずっと待っていた―――この時を。

 

 如月艦長の仇を討てるこの時を。

 

 目一杯暴れられるこの時を。

 

 忌々しい侵略者を皆殺しにし、血の川と死体の山を築くこの時を。

 

「全艦、波動砲にエネルギー充填!」

 

 スラスターを吹かしながら突撃陣形を構築するヒペリオン艦隊。陣形が整うや否や、全艦の艦首に穿たれた波動砲発射口に蒼い光が宿り始める。

 

 砲口内部のシャッターが解放され、タキオン粒子の充填が開始された。

 

《エネルギー充填、120%》

 

「目標敵艦隊、前衛・後衛艦隊陣形結節点! 対ショック、対閃光防御!」

 

 ゴーグルを着用しながら、思う。

 

 かつてイスカンダルは波動砲で宇宙に覇を唱えた―――自らと同じ過ちを犯さないでほしい、と女王スターシャはヤマトの乗員たちに訴えたという。

 

 それは忌むべき力。

 

 闇雲に使ってはならぬ禁忌。

 

 だが今は、そんな事などどうでもいい。

 

 侵略者を相手に、武器を選んでいられる余裕は今の地球には無いのだ。忌むべき力だろうと何だろうと、そこに武器として存在するのならば使わない選択肢はない。

 

 その力を使った者の1人として、責任を取る覚悟はある。

 

 イスカンダルからの叱責も、如何様な咎もこの身で受けよう。

 

 それだけで―――たったそれだけで、蒼い地球が守られるのであれば。

 

 100年後、1000年後―――遥か後の未来まで、地球人類の栄達が続くのであれば!

 

「波動砲―――発射ァ!!」

 

 カッ、と艦首が一際強烈な閃光を放つ。

 

 宇宙の悲鳴の如き轟音と共に、蒼い閃光が溢れ出た。

 

 錐のような陣形を形成していた艦隊から、一斉に放たれた波動砲。それは星間物質を瞬時に焼き尽くし、邪魔な岩塊をも吹き飛ばし、射線上に蒼いスパークと紅蓮の閃光を迸らせ―――文字通り”宇宙を引き裂きながら”疾駆すると、敵艦隊へと牙を突き立てる直前になって一気に弾けた。

 

 それはまるで、夏の夜空に花火が弾けるのにも似ていた。

 

 爆ぜた蒼い閃光たちがスコールさながらに敵艦隊に降り注ぐ。ガトランティス艦隊の中にはそれを回避しようとバーニアを吹かし、回避運動に転じる艦も見受けられたが、如何せん遅すぎた。

 

 ククルカン級が船体をごっそり抉り取られ、カラクルム級が船体を右舷からぶち抜かれ真っ二つになって轟沈。蒼い爆炎を迸らせながら1隻、また1隻と宇宙の塵になっていく。

 

 波動砲の閃光が宇宙の闇に溶ける事には、はっきりと確認できるほど大きな突破口が敵艦隊のど真ん中に穿たれていた。

 

 だがしかし、まだだ。

 

 まだ殺し足りない。

 

 ヒペリオン艦隊に引き続き配属され続けているアンドロメダ級『アルフェラッツ』と『アイテール』が、艦首に2基搭載された波動共鳴装置をフル稼働。波動砲の一斉射撃でエネルギーを使い果たした全艦に急激なエネルギー充填を行うと、速河艦長は次の命令を下す。

 

「全艦、ハイパー放射ミサイル発射!」

 

 その命令を受け、アマテラス級の補助エンジンから船体をぐるりと取り囲むように搭載された”パイロンリング”にマウントされた新型ミサイル―――『ハイパー放射ミサイル』が放たれる。

 

 アマテラス級や他の防御型アンドロメダ級、ドレッドノート級も搭載されたパイロンリングからそれらを放ち、敵艦隊の傷口に第二の矢を射かけていく。

 

 波動砲の集中砲火の混乱から辛うじて立ち直りつつあった敵艦隊に、ハイパー放射ミサイルは情けも容赦もなくその牙を剥いた。

 

 最初に犠牲になったのは、波動砲の余波を受け装甲表面を真っ黒に焼かれたカラクルム級だった。生き残った対空兵器で迎撃を試みるものの、肥大化したオタマジャクシを思わせるそれの弾頭は異様に堅い。ガトランティス軍の対空ビームを受けた程度では爆散せず、そのまま古代魚を思わせる船体に弾頭を潜り込ませる。

 

 瞬時に爆発は、しない。

 

 不発弾か―――カラクルム級の艦長が胸をなでおろしたその瞬間に、急激な変化は起こった。

 

 ミサイルが縮むかのように収縮するなり、信管が動作。

 

 遥か1000年後の未来―――土星宙域で生じた空間裂傷、そこから吹き出し太陽系を死の宇宙に変えた”未知のエネルギー”が、至近距離で敵艦内部に直接吹き付けられたのだからたまったものではない。

 

 重装甲を誇るカラクルム級が爆沈。同じようにミサイルの直撃を受けたガトランティス艦も1隻、また1隻と轟沈へ追いやられていく。

 

 これこそがフィオナより供与された新兵器、”ハイパー放射ミサイル”であった。

 

 彼女らのやってきた1000年後の未来、その際役の原因となった空間裂傷内部のエネルギーを充填し敵艦に直接叩き込む恐怖の兵器。未知の勢力【ディンギル】が用いていたというそれをリバースエンジニアリングし、ごく少数ではあるがこの時代の地球に供与したものだ。

 

 ミサイルを撃ち尽くした艦が相次いでパイロンリングをパージ。身軽になるなりメインエンジンにオレンジ色の光を迸らせ、傷の癒えぬガトランティス艦隊へと突進していく。

 

 目標は敵の前衛艦隊と後衛艦隊、その陣形の繋ぎ目。ここを分断し敵の前衛艦隊を山南司令率いる主力艦隊と戦わせ、撃滅したのちに後衛艦隊を殲滅。白色彗星へと迫るという段取りになる。

 

 これはそのための一手だ。ここが上手くいかなければ、何もかもおしまいである。

 

「全艦突撃! 主砲発射用意!!」

 

 獅子の如く吼えながら、ちらりと艦長席に貼り付けた妻子の写真に視線を落とした。

 

 妻子の元へと逝くのならば、胸を張っていこう。

 

 父ちゃんこんなに頑張ったんだぞ、と。

 

 土産話の1つや2つ……いや、それでは全く足りない。

 

 ―――大戦果を!

 

 この宇宙の争いの歴史に、燦然と輝くような大戦果を!

 

 山南の放った獣―――速河という男は、とにかく血に飢えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小癪な」

 

 伏兵が居たのか、と、戦艦『メダルーサ』の艦橋でヴィル・バルゼーは眉をひそめた。

 

 メインパネルに視線を上げるが、大した規模ではない。おそらくはヴィル・バルゼー率いる主力打撃艦隊と、息子のヴィリム・バルゼー率いる後衛艦隊の分断が目的なのだろう。

 

 巧みに偽装し間髪入れずに波動砲を斉射、更に追撃を加え突破口を構築―――その手腕を見るに、相手の艦隊司令もかなりのやり手なのであろう、とヴィル・バルゼーは笑みを浮かべる。

 

 ―――もったいない。

 

 地球(テロン)ではなく我々ガトランティスの戦士として生まれていたのであれば、さぞ宇宙に武勇を轟かせる大戦士となっていただろう、と相手の力量を心の中で賞賛する。

 

 今からその命を刈り取ってしまうのが、実に惜しいほどに。

 

「敵艦隊の規模は」

 

「はっ。戦艦36、巡洋艦48、駆逐艦多数」

 

「―――第二艦隊、【衝撃砲】を以て敵艦隊を迎撃せよ」

 

 兵力分散は、原則として愚策である。

 

 しかし物量ではこちらが勝っているし、第二艦隊を構成するカラクルム級はこれまでの妥協の産物のような艦ではない。

 

 本来の仕様通りに建造された、『後期カラクルム級』に属する艦艇群である。

 

 これまでは地球側の波動防壁に悩まされ、防御性能の差から撃ち負けてしまう事例が多発していたが、これからはそれも無くなるであろう。

 

 せめて、衝撃砲のお披露目の相手として壮絶な最期を遂げられる事を名誉とせよ―――顔も名前も知らぬ敵艦隊の司令にそう語り掛け、ヴィル・バルゼーは目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵艦隊の一部がこちらに向かってきます」

 

 薬師寺副長の報告に、速河艦長は眉をひそめた。

 

 敵艦隊の数は戦艦48隻―――たったのそれだけだ。戦艦のみで構築された打撃艦隊のようだが、しかしヒペリオン艦隊よりも数が少ない上に火力も劣っている。そんな艦隊で足止めさせようというのか。

 

 舐めた真似を、と憤る一方で、しかし冷静に分析もしていた。

 

 ―――なぜこの艦隊にあの程度の艦隊を差し向けたのか?

 

 本当に足止めだけを期待しての事か、それとも数的不利を覆せるだけの”秘密兵器”でも搭載しているのか。

 

 一旦様子を見るべきでは、という慎重論を、しかし速河艦長は真っ先に握り潰す。

 

 もう既に艦隊は最大加速に入っているし、今ここで減速し後退しようものならば敵の前衛と後衛、双方から集中砲火を浴びる羽目になってしまう。それならばいっそのこと突撃して当初の予定通り敵艦隊の陣形分断を図り、反対側から離脱するべきだ。

 

 奇襲効果が薄れる前に、迅速に行わなければならない。

 

「全艦砲撃開始!」

 

 40.6㎝ショックカノン砲塔が、蒼い光の矢を放つ。

 

 アマテラスが最初に放った一撃を合図に、後続艦も次々にショックカノンを放ち始めた。

 

 アマテラス級に搭載されているのは60口径40.6㎝3連装ショックカノン砲塔―――ハヤカワ・インダストリーの手による長砲身タイプである。取り回しに難があるものの、そのエネルギー収束率と速い弾速から貫通力の極めて高い主砲として、一部艦艇に搭載されているものだ。

 

 それが速射砲の如く、それでいて精度の高い一撃を叩き込んでくるのである。

 

 迎撃に出た後期カラクルム級の1隻が光の雨を浴びて爆発、制御を失い黒煙を曳きながら力なく墜落していく。

 

 しかしガトランティス側もやられっぱなしではなかった。

 

 カッ、と艦橋に搭載された砲身が桜色の閃光を放った。

 

 ガトランティスのビームの色は緑色である。これまでとは違う攻撃はアマテラスの艦橋でもしっかり補足されており、それを見た速河艦長は目を細めた。

 

 次の瞬間、アマテラスの隣を掠めた桜色のビームが後続の防御型アンドロメダ級『アイテールを直撃した。

 

 あっという間の出来事だった―――アイテールの波動防壁が即座に反応、蒼い輝きとスパークを散らしその一撃を弾いたかと思いきや、アイテールを直撃したエネルギー弾はリング状に変形。アイテールの船体を包み込むかのように広がると、一斉に内側へと締め付けるかのように殺到したのである。

 

 バキン、とガラスの割れるような音と共にアイテールの波動防壁が粉砕され、船体がひしゃげる。

 

 装甲の断裂面から炎を芽吹かせ―――防御型アンドロメダ級『アイテール』が轟沈、宇宙の塵と消えた。

 

 

 

 ―――何だ、今のは。

 

 

 

 目を見開いた。

 

 脳が現実を受け入れる事を拒んでいるかのように、ほんの数秒だけフリーズした。

 

 信じられない光景だった―――波動防壁を搭載したアンドロメダ級が、それもエネルギー伝導率の余裕から通常型のアンドロメダ級よりも強力な波動防壁を展開できるアイテールが、ただの一撃で轟沈に追いやられてしまったのである。

 

「あ、アイテール、轟沈!」

 

「言われんでも分かる!」

 

 有り得ない―――目を見開く速河艦長の目の前で、今度はドレッドノート級『デザリアム』が桜色のビームに被弾。

 

 先ほどの再演だった。波動防壁が反応すると同時にビームが船体を包み込むかの如く広がって、締め付けるかのように内側へと殺到。耐圧限界を迎えた波動防壁が破砕され、船体が潰れるように破損し爆沈していく。

 

「波動防壁、突破されています!」

 

 ―――敵の新兵器。

 

 たった48隻の艦隊を差し向けてきた理由が、今わかった。

 

 たかがヒペリオン艦隊を殲滅するのに、48隻で十分なのだ。

 

 

 

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