さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
もう、居ても立ってもいられなかった。
北野誠也ともあろう男が、未だかつてここまで心を乱された事があっただろうか。冷静沈着、戦場では決して私情を挟む事なかれ。それを徹底してきたつもりではあったが、しかし迸る衝動が理性の檻を突き破った頃には、半ば反射的に総旗艦アンドロメダとの回線を繋いでいた。
艦長席から立ち上がり、メインパネルに映し出された山南の姿に向かい敬礼する。
山南も何となく察していたのだろう―――いきなり北野から通信を繋がれた事に驚く素振りを見せるどころか、むしろ安堵しているかのように口元に優しい笑みを浮かべ、しかし目の鋭さはそのままであった。
「山南司令」
《―――北野》
その声音も、どこか優しく思えた―――次の世代を担う若者に、総てを託そうとするかのように。
《許す。心に従え》
「……ありがとうございます」
通信を切るなり、北野は光芒煌めく宇宙を睨みつける。
あそこで今、戦友が戦っている。敵艦隊の分断という最も危険な任務を帯び、文字通り死に物狂いで戦っているのだ。
しかしあと一歩、あと一歩及ばない。
死にかけている戦友に救いの手を差し伸べる事に、いったいなんの咎があろうか。
きっとここで傍観に徹していたら、北野は後で後悔するだろう。
戦友であり防大14期生の同期、如月を第十一番惑星で失ったあの時のように。
「速河艦隊の離脱を支援する。全艦最大戦速! 砲雷撃戦用意! これ以上無駄に死なせるな!」
どう、と北野艦隊旗艦『アルタイル』のメインエンジンが橙色の炎を吹き上げた。それに呼応するように周囲の艦隊もメインエンジンを点火。推力を一気に上げながら、敵艦隊へと向かい突進していく。
アステロイドベルトへと突入するや、邪魔な隕石を波動防壁で押し退けていくアルタイル。艦橋の向こう側で蒼い光が煌めく度、ジャガイモのようにごつごつとした隕石が殴られたかのように払い除けられていった。
「敵艦隊、射程圏内!」
「撃ち方始め!」
「撃ちーかたー始め!」
ショックカノンが火を噴いた。
砲身の中間部にある増幅装置によりエネルギーを増幅されたそれらが、まるで鋭い槍の刺突さながらに空間を駆け抜けていく。やがて3つのビームが互いに絡み合い1つの閃光と化すや、速河艦隊に衝撃砲を放ち続けていたカラクルム級の背中を盛大にぶち抜いた。
戦車のように正面装甲を分厚くする一方で後方の装甲は薄くなっているのだろう。背後から予想外の砲撃を受けたカラクルム級の古代魚のような船体が叩き折れると、蒼い炎を吹き上げながら爆沈。宇宙の塵へと姿を変えた。
「波動防壁弾!」
ボシュ、と艦首発射管から放たれる防壁弾。弾頭部からフィラメントが伸びるや、波動共鳴装置からの活性共鳴波を受けて蒼い光を発し、ガトランティス艦隊から放たれるビームを受け止めた。
「全艦右90度回頭、左砲戦。交互撃ち方!」
「ヨーソロー、主舵90!」
艦首のスラスターから蒼い炎を吹き上げて、アルタイルとその指揮下の艦隊が一斉に右回頭。左脇腹をガトランティス艦隊に向ける格好で展開する。
敵に対して投射する面積は広くなってしまうが、しかしこうする事で後方に配置された第三、第四砲塔も動員した砲撃が可能になるのだ。敵艦隊の向こう側に速河艦隊が展開している都合上、波動砲は使えない。ミサイルと主砲で何とかするしかないのだ。
交互撃ち方を命じた事で主砲はひっきりなしにビームを放ち続ける。砲身が砲撃を終えるや隣の砲身が火を噴き、そして端の砲身がショックカノンを放って―――といった具合に、砲火が絶えず放たれる。
元々、アンドロメダ級やドレッドノート級の主砲はヤマト級と比較すると速射性を重視した設計となっている。ガミラス艦やガトランティス艦を撃破するにはヤマト級の主砲では威力が過剰すぎると判断されたため、その分のキャパシティを連射に割り振り火力の効率化を図ったのがアンドロメダ級の主砲なのだ。
ただでさえそれなのだから、交互撃ち方の弾幕たるや尋常ではない。砲撃を受けるガトランティス艦の中には「敵の速射砲の砲撃を受けている」と誤った情報を報告する艦も現れ、背後からの奇襲もあって盛大に混乱した。
《警告、敵後衛艦隊より増援が接近接敵まで180秒》
「捨て置け! 今は正面の敵を優先せよ!」
―――さあ、戻って来い速河。
こんなところでくたばるお前じゃあないだろう、と生き残った唯一の同期を信じ砲撃を継続する北野艦長。
やがて敵の艦列を突破した黒いドレッドノート級の1隻が、噴煙を纏い船体を右に傾斜させながらも離脱してきた。船体のいたるところに破孔が穿たれており、どれだけの熾烈な砲戦を生き抜いてきたのかが伺える。
遅れて駆逐艦が、巡洋艦が、被弾し炎上したドレッドノート級を曳航しながら北野艦隊の上方を通過。アマテラス級の何隻か(艦首に”アマノイワト”と”アラハバキ”の記載がある)が離脱の寸前で進路を反転。後続の友軍を逃がすべく全力で砲撃を継続している。
アマテラスは、と北野が案じたその時だった。
何度も被弾し火達磨になったアマテラスが、機関部に被弾し大破したアンドロメダ級『アルフェラッツ』をロケットアンカーで曳航しながら、友軍艦の支援を受けてやってきたのは。
指揮官とは常に一番先に戦場に駆け付け、戦場を去る時は一番最後―――あの男はこんな時でも、自分の信条に殉じたのだろう。
心配させやがって、と笑みを浮かべながらも悪態をつき、しかし北野は心の底から安堵した。
これ以上、友人を失わずに済んだのだ。
「アルフェラッツ、機関部に被弾の模様!」
「!!」
後方に控え、友軍艦の防御とエネルギー補給を担当していたアルフェラッツにも、ついに敵艦隊の魔の手が迫った。
波動防壁を切った事で無防備になった船体に、敵艦の放った緑色のビームが立て続けに命中してしまったのだ。左舷後方、ちょうど上下の補助エンジンの間の辺りに連続して被弾を許してしまったアルフェラッツの速度が目に見えて鈍る。
《アルフェラッツより入電。【我ニ構ワズ前進セヨ。サラバ】》
「ロケットアンカー発射!」
え、と川端戦術長が目を丸くする。こんな時に何を、と思ったところで、平手打ちを浴びせるかのように「照準、アルフェラッツ艦首!」と速河艦長の怒号が飛び、すぐさまロケットアンカーの照準をアルフェラッツに合わせた。
発射されたロケットアンカーがアルフェラッツの艦首に食い込んだ。ぎぎぎ、と船体の軋む音を響かせながら、アマテラスがアルフェラッツを曳航し始める。
「前方よりカラクルム級!」
「全門斉射ァ!!」
どどう、と残ったすべての主砲が三式弾を放った。
古代魚のような形状のカラクルム級、その艦首にまとめて4発の三式弾がめり込む。ごごん、と重々しい音と共にめり込んだそれは遅延信管を動作させると、敵艦の鼻っ面を盛大に吹き飛ばす。
しかし敵艦はその程度では沈まない。爆炎を纏いながらもまだ機能している艦橋砲をひっきりなしに放ち、アマテラスにも5、6発のビームを射かけてくる。
「第6砲塔大破!」
「怯むな、撃ち返せ!」
いち早く装填を終えた第3砲塔が三式弾を放った。直撃こそしなかったが左舷の安定翼を吹き飛ばし、敵艦を左舷へと傾斜させる。
「近接戦闘!!」
船体左舷の隠匿式パルスレーザー砲塔が展開。手を伸ばせば届きそうなほどの距離を通過していくカラクルム級へ、血のように紅いパルスレーザーを浴びせかけた。
相手は戦艦である。貫通し撃破するまでには至らないが、小型の砲塔やレーダー、センサー類といった艤装を相次いで破壊。敵艦の戦闘力を大きく削ぐ。
どん、と敵艦の艦橋の付け根に三式弾がめり込む。
アマテラスが曳航している、死にかけのアルフェラッツからの砲撃だった。
艦橋を根元からぶち折られ、火達磨になったカラクルム級がアルフェラッツの左舷を擦るようにして後方へと抜けていく。派手に火花を散らせながら通過したカラクルム級は後方の空間で爆散、四方八方に火の手を伸ばして宇宙の塵と化した。
「北野艦隊です!」
薬師寺副長からの報告で、速河艦長は目を見開いた。
敵艦隊の向こう側―――後方で蒼い光芒が煌めくのがここからでも見える。嬲り殺しにされていくヒペリオン艦隊を見かね、援護に来てくれたとでもいうのだろうか。
真相がどうであれ、戦友にカッコ悪いところは見せられない。
自分の返り血に塗れた顔で、速河艦長は獰猛な笑みを浮かべた。
突っ込んでくるカラクルム級を体当たりで弾き飛ばし、脇腹をヒームで撃たれ傾斜しながらも、しかしアマテラスは止まらない。
「艦長、残るは本艦だけです!」
「アマノイワト、アラハバキ、アマツクメが援護してくれています!」
一足先に離脱した艦の中で、損傷が軽微だったアマテラス級たちがショックカノンで援護してくれている。蒼い閃光がカラクルム級を撃ち抜いて爆散、花道さながらに突破口を彩った。
「―――敵艦隊、突破!」
艦橋の中が歓声に沸いた。
一度は覚悟した死が遠ざかっていく。
何より、あの規模の敵艦隊を突破するという大役を果たした達成感が艦隊の士気をこれ以上ないほど高めていた。
曳航していたアルフェラッツの離脱を味方の巡洋艦に任せ、身軽になったアマテラスも反転。エネルギーをコンデンサ内の位相エネルギーから波動エネルギーに切り替えて、敵の後衛艦隊を睨む。
突破を果たした以上、このまま逃げても良い。
しかしそれでは敵もすぐに”傷口”を塞いでしまうだろう。より長く苦しんでもらうにはもう一押し必要だ。
「拡散波動砲、発射用意!」
波動砲発射口内のシャッターが解放された。
紅く塗装された発射口内に、蒼い光が着々と充填されていく。
北野艦隊所属のアスカ級たちが後方に展開、共鳴装置を使ってエネルギーの充填を補助してくれる。充填率のパーセンテージが凄まじい勢いで上がっていき、発射口からは既に蒼い光が溢れていた。
「エネルギー充填、120%!」
「対ショック、対閃光防御!」
接近してくる後衛艦隊からの砲火が、ついにアマテラスにも及ぶ。しかし緑色のビームたちは唐突に放たれた重力子スプレッドに阻まれて、アマテラスまでは届かない。
北野艦隊旗艦『アルタイル』による攻撃だった。
艦首の共鳴装置をフル稼働させ、エネルギー充填を補助してくれる北野。隣にやってきたアルタイルの艦橋では、窓越しに北野が不敵な笑みを浮かべていた。
そんな彼に敬礼で応じ、速河艦長は命じる。
「波動砲―――撃てぇい!!!」
カッ、と蒼い光が迸った。
空間をぶち割らんばかりの勢いで、波動砲が前方の宇宙空間へと捻じ込まれていく。邪魔な星間物質や敵艦の残骸を瞬時に焼き尽くしながら疾駆したその閃光たちは、ヒペリオン艦隊を追撃するべく後衛艦隊から放たれた増援を瞬く間に呑み込むと、アポカリクス級を旗艦とする後衛艦隊の目と鼻の先で炸裂。拡散し無数のビームがスコールさながらに降り注いだ。
カラクルム級が、メダルーサ級が、ナスカ級が、後衛艦隊の先頭を進んでいた艦隊が次々に被弾し消滅。制御を失ったカラクルム級が後続のラスコー級を巻き込む形で衝突、まとめて沈んでいく。
敵艦隊の中に大混乱を刻みつけるや、速河艦長は勝ち誇ったように拳を振り上げた。
「こりゃあ今夜は美味い酒が飲めそうだ……よーし全艦離脱! 勝ち逃げだ!」
反転し離脱、ワープしていく速河艦隊。
指揮下の艦が全て無事にワープしていったのを見届けてから、旗艦アマテラスもワープに入った。