さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
「ふむ……敵もなかなかやるようだ」
側面から現れた敵艦隊に中央突破を許し、息子のヴィリム・バルゼー率いる後衛艦隊と分断された旨の報告を受けたヴィル・バルゼーは顎に手を当てながら不敵な笑みを浮かべる。
衝撃砲さえあれば抑え込めると思っていたが、どうやら敵はそれすらものともせずに突破を果たしたらしい。
《父上、今すぐ進撃速度を落としてください》
戦艦『メダルーサ』の艦橋、メインパネルに映し出されるのは焦った様子のヴィリム・バルゼーの顔だった。
息子は後衛艦隊旗艦、アポカリクス級橋頭保型重航宙母艦『バルゼー』で指揮を執っており、父たるヴィル・バルゼーの後方から航空機による支援を行う事を任務としている。しかし両艦隊がこうして分断された挙句、後衛艦隊の先鋒が波動砲で手痛い損害を被ってしまった今、当初の予定通り進軍する前衛艦隊に対し陣形再編を必要とする後衛艦隊の進軍速度に差が出てしまっていた。
ヴィル・バルゼー率いる前衛艦隊が、息子のヴィリム・バルゼー率いる後衛艦隊を置き去りにしている形だ。
しかし―――ヴィル・バルゼーは息子の要求を一蹴した。
「たわけ、その必要はない」
《しかし父上!》
「息子よ、そこで父の戦いぶりを見ていろ。我らガトランティスの何たるかを戦で示してみせよう」
《父上―――》
通信を切った。
―――滾るではないか。
拳を握り締め、抑えきれない闘争心に全身の血肉を沸き立たせながら、ヴィル・バルゼーはこの最高の戦いの舞台を与えてくれた大帝ズォーダーに感謝した。
年齢的にそろそろ退役も考えていたヴィル・バルゼー。人生の最後を締めくくるのに、地球侵攻という最高の戦いの舞台が待っている―――かつてない強敵、そしてその先に待ち受ける蒼く美しい惑星。
何ともそそるではないか。
そうだ、自分はこのために生まれてきたのだ。
戦うために生まれてきたのだ。
ならばこそ、本能に従い戦うまで。例え戦の中で死すとも、それこそガトランティスの戦士としての本懐ではないか。
「―――地球艦隊の中央を突破する。全艦隊集結せよ!」
拳を振り上げ、迸る闘争本能の赴くままに命じた。
メダルーサを先頭とする前衛艦隊の艦艇たちが、船体各所のスラスターを吹かせて陣形を密集させて来る。カラクルム級が、メダルーサ級が、ラスコー級が、そしてククルカン級たちが艦の間隔を狭め、巨大な円錐型の陣形を構築するのにそれほど時間はかからなかった。
数ではこちらが勝っている―――そしてバルゼー艦隊には、大帝より賜った”新兵器”もあった。負けるはずがない。
「敵艦隊、陣形を変更」
前方に対峙する地球艦隊がその陣形を変えた。
複数の単縦陣から、旗艦を中心に横へと大きく展開するような陣形へ―――波動砲の発射隊形、その予兆である。
地球艦隊のドクトリンは第十一番惑星へ二線級部隊を断続的に襲撃させたことで、ガトランティス側も把握している。地球艦隊はああやって艦隊を左右上下に大きく展開、波動砲の一斉射撃を以て敵艦隊を撃滅するのだ、と。
その投射される火力たるや凄まじいもので、彼我の戦力差が3~5倍に達していても油断はできない。むしろ波動砲でその数的優位をひっくり返してくる事が日常茶飯事である、と。
―――読み通り。
バルゼーは歯を剥き出しにするほどの笑みを浮かべた。
やはりそうだ―――敵艦隊の指揮官は、密集隊形をとったこちら側が艦隊の中央突破を目論んでいると判断したらしい。
拡散波動砲を搭載する地球艦隊にとって、密集隊形を取っている敵艦隊ほど美味しいカモはいまい。エネルギーを充填して放つだけで敵は閃光と化し、戦いは最低限の労力で終わる。
この後に後衛艦隊と白色彗星の攻略が控えている地球艦隊としては、効率的に戦いを終わらせたいという本音が透けて見えた。
「―――【煉獄直撃砲】用意」
命じるや、戦艦メダルーサが船体下部にぶら下げている巨大な砲身―――メダルーサそのものよりも遥かに巨大な砲身のスリットに朱い光が燈った。
通常のメダルーサ級が装備する、火焔直撃砲の比ではない。まるで全長555mにも達するカラクルム級を複数隻束ね、そのまま砲身に作り変えてしまったようなボリュームがある。
これを装備するためだけに、メダルーサは通常のメダルーサ級と比較して様々な装備を外していた。特徴的な艦首の5連装大型徹甲砲塔もオミットされ、船体もエネルギー輻射熱から守るためによりシンプルに、そして何層にも渡って耐熱コーティングを施されている。
しかしそれだけの代償を支払った価値が、この兵器にはある。
「煉獄直撃砲への回路開け」
「エネルギー転送缶、動作正常」
砲口部にあった4基の爪のようなユニットが回転を始め、砲口の内部に血のように紅い光が燈り始める。
艦首のエネルギー転送缶から朱色の渦輪が生じ、火力投射の準備は整った。
「ふっふっふっふっ……発射!」
カッ、と閃光が瞬く。
はちきれんばかりの勢いまで充填されたエネルギーが、しかし発射された傍から転送され、空間の遥か彼方まで溶けていった。
「一挙に殲滅する。拡散波動砲発射隊形!」
敵艦隊が密集隊形を取った、とAIが知らせるなり、山南司令は違和感を感じながらも拡散波動砲の発射準備を命じた。
総旗艦『アンドロメダ』を中心に、アルデバラン、アポロノーム、アキレス、アンタレスがそれぞれ率いる艦隊が集結してくる。上下左右に大きく広がるように陣形の再編を済ませるなり、波動砲発射口のシャッターを解放し、波動砲艦隊の舳先が敵艦隊を睨んだ。
火焔直撃砲による火力転送も警戒しなくていい―――ヤマト級と比較して、アンドロメダ級やドレッドノート級の波動砲は射程距離が長い。シミュレーション結果では火焔直撃砲のおよそ1.2倍の射程があるとされているため、エネルギーの充填中に火焔直撃砲のつるべ撃ちを受けるような事にはならない。
しかし、だ。
何かがおかしい。
顎髭を指で撫でながら、山南司令は頭を回転させていた。
―――敵も第十一番惑星の戦いで地球艦隊のドクトリンを見ている筈だ。
密集隊形を取れば拡散波動砲の餌食になる、と学習していてもおかしくはない。敵が戦いの度に全滅し、その情報が本隊へ正しく伝えられていないというのであれば話は別だが、通信技術が発達し、宇宙戦艦が光を超えた速度で航行するようになった大宇宙時代の全盛にあって、そんなおかしな話があるとも思えない、というのが実情であった。
何かあるのではないか。
地球艦隊に足を止めさせ、この波動砲発射隊形を取らせたい思惑がある……?
「全艦、波動砲へのエネルギー注入用意!」
「了解!」
「アンドロメダ、敵艦隊の動きに変化は?」
《依然として陣形に変更なし。密集隊形を維持したまま前進してきます》
これが、この違和感が全て杞憂で済めばいいのだが。
《警告。敵旗艦に発射反応あり》
「ん?」
発射反応―――この距離で?
距離を見誤ったか、と山南司令は一瞬考える。今はまだ敵艦隊は拡散波動砲の射程にすら入っていない。火焔直撃砲がそれ以下の射程距離となっている以上、今この距離で撃って当たる兵器はガトランティス軍には存在しない筈だ。
波動砲の発射態勢を見てまぐれ当たりを期待した砲撃でもしたのか。いや、地球侵攻に投入されるという事は敵艦隊は最精鋭である筈だ。そんな新兵のような愚を犯すとはとても思えない。
ならば、何だ。
この背筋に走る悪寒はいったい何だというのか。
エネルギー充填73%、という報告を聴きながら山南司令が目を細めた次の瞬間だった。
カッ、と艦橋の窓の外で強烈な紅い光が生じた。何もない空間からいきなり現れたそれは、直視すれば網膜を焼き尽くし失明に追いやるほどの光と熱を帯びながら、地球艦隊へと食らい付いた。
「アルデバラン大破! アキレス、アンタレス、沈みます!!」
悲鳴じみた副長の報告。
今の攻撃をもろに受けたのだろう、アキレスは影も形もなかった。その真上に展開していたアンタレスもあのビームによる攻撃を受けて艦底部を大きく融解、火達磨になりながらアンドロメダの右舷を横切るように墜落していくと、波動砲発射準備中だったドレッドノート級の船体に衝突。2隻まとめて沈んでいった。
今の攻撃の余波でも受けたのだろうか―――アルデバランの艦尾が炎に包まれていた。上方から艦底部までを貫通されたらしく、第三、第四砲塔が跡形もないほど融解し火の手が上がっている。
メインエンジンもアレでは使い物にならないだろう。補助エンジンを点滅させながらなんとか姿勢制御を図っているが、艦内で爆発の連鎖が続いているらしく、脇腹や環境の周囲の装甲が吹き飛び、いつ爆沈するかも知れぬ一触即発の状態である事が一目で分かった。
その光景は、アンドロメダの艦橋要員たちの心を折った。
初期に就役したアンドロメダ級の姉妹艦たち―――地球復興の象徴、そして何より軍事大国としての地球の象徴だったアンドロメダ級の初期ロット艦が、さしたる抵抗も出来ず撃沈されるという光景は正直、受け止めがたいものがある。
防御型アンドロメダ級の『アテナ』、『アネモイ』、『アレス』、『アガメムノン』の4隻が前に出た。艦首の魚雷発射管から波動防壁弾を一斉射するや、2基搭載されている
共鳴装置をフル稼働。艦隊の前方に16層にもなる分厚い波動防壁を展開し、敵の正体不明の砲撃から艦隊を守ろうと努力を費やす。
直後、再び閃光が瞬いた。
血のように紅い破壊エネルギーの濁流。それはダムを決壊させるかの如く波動防壁弾を真っ向から呑み込むと、薄っぺらい紙を撃ち抜く銃弾の如く防壁弾の層をあっさりと貫通。その後方で波動共鳴装置を稼働させていた4隻のアンドロメダ級を呑み込んだ。
装甲が一瞬で赤熱化、融解し、ビームに触れるまでもなく4隻のアンドロメダ級が蒸発。更にビームの射線上に居た数隻のドレッドノート級も同じく巻き込まれたか、ビームが纏うフレアに船体を貫かれ相次いで爆沈。アンドロメダの艦橋に続々と被害報告が上がってくる。
「……アンドロメダ、弾道は?」
《確認できません》
「―――敵の射程は、我が方の倍もある」
なるほど、これが狙いか。
やっと先ほどまで感じていた違和感の答え合わせが済んだところで、山南司令は拳を握り締める。
火焔直撃砲を超える兵器、といったところか。射程も威力も段違いで、それどころかエネルギーの充填すら気取らせないほどのステルス性を併せ持った敵の決戦兵器。
密集隊形で波動砲の発射準備を誘発、地球艦隊の足が止まったところでそれ以上の射程のこれで連続砲撃を行い損害を与える―――敵の指揮官はやはり愚か者などではないようだ。むしろ地球艦隊の動きを読み、狡猾なまでに火力を捻じ込んでくる厄介な相手と言える。
味方艦の爆沈する閃光で艦橋が照らされる中、副長が叫んだ。
「司令、拡散波動砲を!」
「ダメだ、この距離ではまだ敵に届かん!」
三度目の砲撃が飛来、ドレッドノート級の一団を呑み込んだ。
「これが、敵の決め手か……!」
もはや背に腹は代えられない。
手のひらに爪が食い込むほどきつく拳を握り締めて、山南司令は立ち上がった。
「全艦直ちにエネルギーの充填を注視。進路反転180度、土星の環へ後退せよ!」
「司令、逃げるのでありますか!?」
「このままでは犬死するだけだ、撤退する!」
艦首のスラスターを吹かしながら反転していくアンドロメダ。それに倣うように砲火を生き延びた他の艦も進路を反転。艦尾を大きく損傷し大破したアルデバランも、巡洋艦2隻に曳航されトランスワープで離脱していく。
しかし敵は攻撃の手を緩めない。執拗にあの”超”火焔直撃砲を放ち、その度に艦隊の戦力が大きく削られていった。
錐揉み回転しながら隕石に衝突し爆沈するドレッドノート級。その爆炎を一瞥しながら、山南司令は次なる一手の準備を始めた。
「……副長、後方に控えているバーガー戦闘団に通達。”プランBに移行する”と伝えろ」
「司令、それは……!」
「言ったはずだぞ、副長」
ガミラスに借りを作るのか、と咎めるように言う副長の言葉を遮り、山南司令は告げる。
「メンツだけで守れるほど地球の運命は軽くはない、と」
煉獄直撃砲
火焔直撃砲が地球艦隊に対し効果が薄れた事、波動砲を標準装備した宇宙戦艦が増産されている事を脅威と見たガトランティスが新たに開発した決戦兵器。
既存の火焔直撃砲をベースに、徹底した欠点の洗い出しと火力の増強を図ったのがこの煉獄直撃砲である。火焔直撃砲に搭載されていたエネルギーコアを5基直列に接続、更にエネルギーの充填を敵に察知されないようエネルギー放射遮蔽システムを備えているが、これは断片的に再現された”静謐の星”惑星シャンブロウの遮蔽技術が用いられている。更に敵に攻撃が見破られた際に備えて【偽装した複数の転送座標を同時に相手に送りつける】というフェイントじみたシステムも搭載しているため、火力も含めた相手への心理的圧迫は凄まじいものとなる。
しかしそれ以上に恐ろしいのがその威力と長射程である。衛星タイタンを掠めた際は地表の氷を一瞬で融解させるどころか水蒸気爆発の連鎖を発生させ、惑星規模の天変地異を引き起こし、16層にも及ぶ波動防壁弾すらものともしない破壊力であった。加えて射程はアンドロメダ級の拡散波動砲の倍(※地球艦隊の波動砲は火焔直撃砲の1.2倍の射程という設定)にも及んでおり、これにより一方的なアウトレンジが可能となっている。
本編では新城・直江両艦隊を全滅に追いやったほか、アルデバラン大破に加え、アンドロメダ級アキレス、アンタレス、アレス、アガメムノン、アテナ、アネモイの合計6隻を轟沈に追いやっている。
だが欠点もあり、その重量ゆえに装備の大幅な削減が必須となる事、加えて自身のエネルギー輻射熱から船体を防護するためのコーティングが必須になる事など、”装備に合わせた改造”が必要な事もあって運用には大きな制約が生じている。