さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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老兵、牙を剥く

 

 土星沖海戦開始より3日前

 

 月面 第三バレラス

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白くねえなァ」

 

 ソファにどっかりと腰を下ろして、バーガー大佐はガミラス産の煙草を口に咥えた。ライターを取り出して火を点けようとするが、しかしエネルギー切れしていたのを忘れていたらしい。火花を散らすだけで火が点く気配はなく、バーガーは舌打ちする。

 

 そんな彼に、ミケールは珍しいものを手渡した。

 

 ガミラス製の実弾、その空薬莢で自作したと思われるライターだ。いわゆる『トレンチライター』と呼ばれるものである。

 

 ガミラスの長い歴史の中で、実弾を用いる小銃が用いられなくなったのは随分と昔の事だ。レーザー銃の方が弾速が速く、何より排莢不良(ジャム)という現象に悩まされなくて済む。携行すると重量が増加する事を嫌ったのも使われなくなった要因であろう。

 

 だから今のガミラスでは、ミサイルや魚雷を除く実弾兵器は大方廃れており、そういった兵器は「原始的」と見做されていた。

 

 とはいえ、それでも懐古的にそういった実弾銃を用いるガミラス将官は一定数存在する。ミケールが腰に下げている拳銃もそうだ。今では廃れて久しいガミラス製の回転式拳銃(リボルバー)。大口径の弾薬を用いるそれは、彼女の腰のホルスターで随分と大きな存在感を放っている。

 

 本人曰く「相手がこれでビビって矛を収めてくれればいい」という認識のようで、積極的に使う物とは考えていないらしい。第一、あの50口径のリボルバーはミケールの手には余りにも大き過ぎる。

 

 おそらくそれの弾薬の空薬莢を用いて自作したのだろう。

 

 「相変わらず物好きですな、少将殿?」とかつての仲間―――今となっては歳下の上官となったミケールに笑みを浮かべながら言い、バーガーはありがたく彼女の火を借りた。

 

「無理もないよ、バーガー大佐」

 

 トレンチライターを専用のケースに収め、ミケールは静かに指を組んだ。

 

地球(テロン)にも面子がある。土星沖での決戦はその際たるものだろうし」

 

「そりゃあそうだがよォ」

 

 ふー、と煙を吐き出しながら、しかしそれでも面白くなさそうな表情でバーガーは言う。

 

「俺たちが後方待機ってのはおかしいだろ。ガトランティスの戦力、アレを迎え撃つってんなら俺たちも前線に配置して―――」

 

「―――おそらく()は火星だよ、バーガー大佐」

 

 バーガーの言葉を遮るように放たれたミカエルの言葉に、バーガーも、そして後ろに控えていたクラリスも目を見開いた。

 

「……お前、負けるってのか? あの数の波動砲艦隊が」

 

 隣に座る小柄な同胞は、否定も肯定もしない。

 

 この女(男だったか?)は昔からそうだった、とバーガーは思う。一時的にドメル艦隊に在籍しておりその一翼を担っていたが、昔から観察力が鋭かった。一手二手先を見ているというよりは、まるで「相手が彼女に合わせて動いている」と錯覚してしまうほどであった。

 

 その観察力と戦術判断の鋭さは、かのドメル将軍も一目置いていたほどだ。

 

「地球艦隊は土星沖に戦力を集中している。もし土星が抜かれれば次は火星……無傷で残っているのはガミラス艦隊を置いて他にない」

 

「……ハッ、そりゃあ面白えじゃねえか」

 

 やってやるぜ、と拳を打ち付けるバーガー。

 

 その時だった。彼のポケットの中にある携帯端末がメッセージの受信音を発したのは。

 

「んだよこんな時に」

 

 あ? と端末をチェックするバーガー。

 

 差出人は予想外の人物だった。

 

 山南修―――地球艦隊司令、あの波動砲艦隊を指揮する地球の名将である。沖田艦隊の旗艦キリシマの艦長としてガミラス艦隊と幾度となく砲火を交えた男。シュルツも過去に『手強い相手だった』と評している。

 

 なんでこんなタイミングでこんな人物から、とバーガーは目を丸くした。

 

 彼と全く接点がないわけではない。これまでの合同演習や対ガトランティス戦を見据えた戦略会議でもたびたび顔を合わせているし、何度か話をした事もある。さすがにプライベートな話ではなく、仕事の話だけに留まっているが。

 

 そんな相手からのメッセージを開封したバーガーは、息を呑んだ。

 

 そこにはガミラス語に翻訳されたメッセージが短く記されていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 『そちらのヴァンス・バーレン氏をお借りしたい』、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッ、と閃光が網膜を焼く。

 

 それを検知したアンドロメダの艦橋にある遮光フィルターが動作、乗員たちの視覚に影響を及ぼさないレベルにまで閃光を遮蔽してくれるが、しかしそんな事を気にしている余裕などはない。

 

《アクタイオン、沈みます》

 

 アンドロメダのAIが淡々と報告する。メインパネルでは今の砲撃で船体の後ろ半分を捥ぎ取られたアンドロメダ級の34番艦『アクタイオン』が爆沈、土星の環を前にして宇宙の塵へと姿を変えていった。

 

 戦力の2割がこの短時間の戦闘で失われた―――艦長席にある現有戦力を表示しているディスプレイには、撃沈ないし戦線離脱した艦の艦籍番号と名称が紅く表示されている。

 

 アンドロメダ級を複数失ってしまった事は手痛い損失と言っていいだろう。この後に白色彗星との戦闘も控えているし、その前にはあの巨大空母を中核とした後衛の艦隊も突破しなければならないのだ。

 

 一部の艦が反転しているのを見て、山南司令は目を細めた。反転しているのはいずれも尾崎艦隊所属のエイジャックス級。無人の駆逐艦である。

 

 少しでも敵艦に対して反撃し、攻撃の意思を挫こうとしているのか、あるいは目くらましを期待しているのかは定かではない。

 

 しかし直後にまた後方の空間に例のビームが転送され、3隻のエイジャックス級はまとめて煉獄の炎に呑み込まれていった。

 

 とはいえ、まぐれ当たりを期待した長距離ミサイルやショックカノンの砲撃は有効であるらしい。先ほどまでいやらしいほど正確に、艦隊の陣形を置く深くまで抉るかの如く飛んできた煉獄直撃砲の精度は目に見えて下がっていた。

 

 為すべきは為した―――後は天に委ねる他あるまい。

 

「司令、間もなく”カッシーニの隙間”に出ます!」

 

 カッシーニの隙間―――土星の輪にある隙間の事だ。よく見ると土星を取り囲んでいる輪は1枚ではなく、離れている部位が存在する。

 

 これが『カッシーニの隙間』と呼ばれる部分だ。

 

 岩塊や氷塊の密度が薄れる。しかし少し進めば、土星の内側に広がる輪へと再び突入する事になる。そちらはより密度の高い岩塊や氷塊が浮遊する難所だ。

 

《敵艦隊、土星の輪に突入》

 

 メインパネルにガトランティス艦隊の姿が映った。土星の環にある氷塊を舳先で押し退けて、敗走を続ける地球艦隊へと狙いを定めている。

 

 中央の旗艦と思われる双胴型の戦艦にぶら下がっている砲身が、紅い煉獄の業火を思わせる光を放ち始めた。

 

 息を呑む。

 

 果たしてどう転ぶか。

 

 勝利の女神は、どちらに微笑むのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵艦が煉獄直撃砲を放った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 土星の環に、異変が生じたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「煉獄直撃砲、発射準備完了!」

 

 双胴型の舳先から渦輪のように広がるエネルギー波。船体下部にぶら下がる煉獄直撃砲の砲口には、はちきれんばかりの勢いで充填されたエネルギーが拘束されている。

 

 照準は逃走する敵艦隊の陣形中央―――通信量からして旗艦と思われる戦艦の後ろ姿に合わせられている。バルゼーが発射を命じれば、それだけでこの戦いは決着がつくであろう。

 

 ゲルン提督率いるプロキオン方面軍が撃ち破られたのは想定外であったが、この戦いもこれで終わりだ。

 

「ふっふっふ……地球艦隊もこれで最期だな」

 

 また一つ、この宇宙にガトランティスの、そしてバルゼー一族の武勇を轟かせる事になったと満足しながら、バルゼーは発射を命じた。

 

「煉獄直撃砲、発射!」

 

 カッ、と閃光が迸る。

 

 その時だった―――艦が大きく揺れたのは。

 

 まるで巨人が剛腕で艦を鷲掴みにし、怒りの感情のままに激しく揺さぶっているかのようである。艦橋では立って操作していた人員が投げ出され、艦内の壁に叩きつけられもした。

 

 揺れているのはバルゼーの座乗するメダルーサだけではない。

 

 後続のラスコー級やククルカン級、カラクルム級も同様だった。突如として生じた宇宙気流に激しく揺さぶられ、中には味方同士で激突してそのまま爆沈する艦すらあった。

 

「なっ、何だ!?」

 

「気流です、宇宙気流が!」

 

「くっ……火焔直撃砲を!」

 

「ダメです、気流が激しくコントロール不能!」

 

 ここにきて、バルゼーは己の失策を悟った。

 

 周囲に浮遊しているのは岩塊だけではない―――氷塊もかなりの割合で含まれている。

 

 煉獄直撃砲は、火焔直撃砲に利用されるエネルギーコアを5基直列に搭載して放つ戦略級兵器である。それ故に生じる熱量は単純計算で5倍にも達し、流れ弾が土星の衛星タイタンを掠めた際はその放射熱だけで地表の氷が一斉に融解、水蒸気爆発を連鎖させ天変地異とも言える惑星規模の気候変動を生じるまでに至った。

 

 そんなレベルの熱量を発する兵器を、これだけの氷塊が浮かぶ宙域で発射すればどうなるか。

 

 一斉に融解した氷塊が水蒸気爆発を連鎖させ、土星の輪の中にいたガトランティス艦隊はその影響をもろに受ける結果となってしまったのである。

 

 一方の地球艦隊はカッシーニの隙間に達していたから、全くと言っていいほど影響はない。

 

 敵艦隊の司令は最初からこれを狙っていたのだ。

 

 だからこちらに背を向けて、敗走する”ふり”をしていたのである―――それを鬼の首を取ったようにまんまと追いかけてしまったのだ。バルゼー艦隊は。

 

 しかもそれだけでは終わらない。

 

 まさしく青天の霹靂、としか言いようがなかった。

 

 突然の宇宙気流で混乱するバルゼー艦隊―――その旗艦メダルーサのすぐ目の前に、巨大な1機の重爆撃機が転送されてきたのである。

 

「なん―――」

 

 それは地球の機体ではなかった。

 

 ガミラス製の重爆撃機【ガルント】―――元々は民間用の機体であったそれには、しかしガミラス軍所属を意味するマーキングがしっかりと記されている。

 

 なぜガミラスの機体が、と考えるよりも先に、背筋が凍り付いた。

 

 ガルントの放ったドリルミサイルが切り離され、ロケットモーターに点火。メダルーサ目掛けて至近距離で放たれたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いったいいつになったら退役させてもらえるのやら。

 

 老体となったヴァンス・バーレンは、軍との契約期間が2年ほど延長されてしまった事に不満を抱いていた。そろそろ退役して故郷へ帰り年金生活と洒落込みたかったのだが、何が悲しくてこんな辺境でガトランティス(ミドリムシ)を相手に戦わなければならないのか。

 

 それも地球(テロン)側からの指名で、だ。

 

 名指しで指名されたという事はそれなりにこちらの技量を評価している、という事でもある。いずれにせよ、地球(テロン)の庭先で恥を晒すわけにもいかない。

 

 第一、契約期間が延長され退役できなくなったのは全部ガトランティス共のせいだ。コイツらが同盟国を侵略しなければこんな事にならなかったのである。

 

 全部ガトランティスが悪い。

 

 年金生活を返せ。

 

 故郷での隠居生活を返せ。

 

 というより休暇を返せ。

 

 それを思えば腹も立つというものだ―――敵艦を見ていると怒りが湧いてくる。

 

 高齢者であるが故に高血圧が気になるが、そんな事も言っていられない。惑星シュトラバーゼの煮え滾るマグマの如く怒りを噴出させながら、バーレンは操縦桿の発射スイッチを押し込んだ。

 

「プレゼントだ、受け取れぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!」

 

 がごん、と機体が一気に軽くなった。

 

 搭載されていたドリルミサイルが放たれたのだ。かつては民間の掘削用装備だったそれは七色星団でのヤマトとの戦闘で反撃に利用されこそしたものの、その有効性から軍の兵器として量産が決定されていた。

 

 もちろん、内部に侵入できないよう先端の開口部は塞がれている。

 

 バーレンの怒りを乗せたドリルミサイルはこれ以上ないほど正確に、バルゼー艦隊旗艦メダルーサが抱えていた煉獄直撃砲の砲口を直撃。排熱も終わっていないその砲口を抉りながらどんどん奥へと侵入し、エネルギーコアへと迫っていった。

 

 怒り狂ったように反撃のビームが飛んでくるが、バーレンには当たらない。

 

 鼻歌を口ずさみながら機内に持ち込んだ酒を呷り、彼はすっきりした顔でバーガー艦隊の元へと帰投していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、何をされた!?」

 

「て、敵の大型ミサイルが煉獄直撃砲の内部に!」

 

「何だと!?」

 

 切り札を封じられた―――それだけではない。

 

 敵のミサイルは不発弾などではない。ドリルを搭載したミサイルなのだ。そのままゴリゴリと砲身を削りながらどんどん奥へと向かっている。

 

 その奥にあるのは5基直列に接続されたエネルギーコア。そんなものの目の前で起爆されたらいったいどんな大惨事になる事か……!

 

 想像しただけで、バルゼーは顔を青くした。

 

「き、切り離せ!」

 

 焦りながら命じ、煉獄直撃砲の砲身切り離しを命じるバルゼー。

 

 巨大な砲身が切り離され、後方へと流れていく。

 

 それが艦隊の陣形中央まで流されていったのと、中枢にまで達したドリルミサイルが起爆したのは同時だった。

 

 行き場を失ったエネルギーが四方八方へと伸び、太陽のフレアのような紅いエネルギーがあらゆる方向へと伸びていく。味方の艦を貫くだけでは飽き足らず、やがて砲身は恒星の如き大爆発を引き起こした。

 

 巻き込まれたカラクルム級が船体を融解させられ、ククルカン級たちが影すら残さず消失していく。

 

 たったの一発。

 

 退役の機を逃した老兵の怒りの一撃が、戦局を見事にひっくり返した瞬間だった。

 

 

 

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