さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
「司令、敵の隊列が乱れました!」
副長からの喜々とした様子の報告に、山南司令も不敵な笑みを浮かべた。
敵は見事に誘いに乗ってくれた。そしてガミラス側も期待通りの戦果を挙げ、立った一発のドリルミサイルで戦局をひっくり返してくれた。
バーガー戦闘団―――2199年の航海で、ヤマトを最も苦しめたと言われているガミラス最精鋭ドメル艦隊の実質的な生き残り。フォムト・バーガー大佐の下で苛酷な訓練と実戦を経て鍛えに鍛え上げられた彼らの実力に偽りはない。
退役間近だったヴァンス・バーレン氏を再び鉄火場に放り込む事になってしまったのは申し訳ないと思っていた山南司令。あとで地球の酒でも手土産に礼を述べに行くとしよう、と思っていた彼の乗艦アンドロメダのすぐ隣を、仕事を終えて身軽になった1機のガルントが通過していく。
艦長席から立ち上がりガルントを敬礼で見送るなり、山南司令は命令を下した。
「よし、全艦反転! 砲戦用意!」
これまで逃げの一手だったアンドロメダがスラスターを吹かし反転を開始。それに呼応するように、生き残った艦隊も続々と反転を開始した。それと並行して甲板上のショックカノン砲塔を旋回、宇宙気流と煉獄直撃砲の誘爆で大混乱に陥っている敵艦隊に対し狙いを定める。
「砲撃開始!」
「撃ちーかたー始め!」
仰角を上げたショックカノンの砲口が、蒼い光を放つ。
コンデンサから砲身中間部のエネルギー増幅器を経て放たれた蒼い閃光たち。捻じれるような軌道で飛翔したそれらは互いに絡みつき、やがては1つの閃光へと変貌してガトランティス艦隊へと殺到した。
煉獄直撃砲の砲身を切り離して事なきを得た戦艦メダルーサ。その右舷にアンドロメダの放ったショックカノンが命中し、装甲が吹き飛んだ。爆発が爆発を呼び、船体が右へと傾斜していく。
他の艦の砲撃も、これまでの鬱憤を晴らすが如くガトランティス艦隊へと叩きつけられた。被弾したカラクルム級が火達磨になりながら墜落していき、ククルカン級が蜂の巣になる勢いで滅多打ちにされていく。中には被弾した旗艦メダルーサを庇おうと前に躍り出てきたカラクルム級も見受けられたが、ドレッドノート級の戦隊が放つ土砂降りのようなショックカノンの掃射に耐えかね爆沈。船体を真っ二つに叩き折られながら土星の環へと没していった。
もはや完全に戦闘の主導権は逆転していた。
ガミラス戦役の時とは違う、もう地球艦隊は負けないのだ―――ガミラスとの戦いで辛酸を舐めさせられた地球艦隊の矜持と使命感が、今の彼らを突き動かしていた。
いち早く体勢を立て直したラスコー級の戦隊が果敢に反撃してくるが、しかし地球艦隊の勢いを止めるには至らない。1隻、また1隻と蒼い閃光に船体を真っ向からぶち抜かれて爆沈する艦が相次いだ。
艦隊の進撃を援護しようというのだろう、パトロール艦を嚮導艦とした水雷戦隊も切り込みを始めた。小柄な船体を生かした高機動性を生かしてガトランティス艦隊の対空砲火を掻い潜るや、魚雷の一斉発射で混乱するバルゼー艦隊を横合いから盛大に殴りつけられたのである。
533㎜対艦魚雷を至近距離から1ダースほど浴びたカラクルム級の古代魚じみた船体が、下から突き上げられるように激震。被弾のダメージと爆発の衝撃によって全長555mにも達する大戦艦の
まさに阿鼻叫喚の地獄だった。
撤退も出来なければ反撃も出来ない。決死の覚悟で主砲を射かけても友軍の足並みがそろわず、それに対して地球艦隊は完璧なまでの統制射撃でいやらしく火力を捻じ込んでくるのである。
そして何より、艦隊決戦の決め手であった煉獄直撃砲を喪失したとあっては最早バルゼー艦隊に成す術はない。
艦隊に含まれていた他のメダルーサ級が火焔直撃砲を発射しようとするも、バルゼーと同じ轍を踏む結果になった。火焔直撃砲が発する熱で周囲の氷塊を融解させてしまい、煉獄直撃砲ほどではないものの小規模な宇宙気流を発生させて更なる混乱を招いてしまったのである。
まるで今のバルゼー艦隊は、広大な宇宙で「溺れて」いるかのようだった。
そしてそんなバルゼー艦隊に、更なる反撃が始まる。
艦隊の観測員が下方からの高エネルギー反応を報告した直後だった―――土星の輪、その中でも特に岩塊とガスの濃度が濃い一帯から蒼い光が漏れたかと思うと、そこから一斉に放たれた拡散波動砲の斉射がバルゼー艦隊を真下から突き上げたのである。
山南艦隊とは別の艦隊の出現に、バルゼー艦隊は更なる大混乱に陥った。
拡散波動砲を受け、次々に撃沈されていくカラクルム級の艦列たち。
真っ二つに叩き折られ、あるいは火達磨になって墜落していくカラクルム級たちの骸。それを尻目に土星の輪から浮上してくるのは、黒く染まった波動衝角。
ヒペリオン艦隊旗艦、アマテラスだった。
敵艦隊の分断という大役を果たして離脱していた彼らが、艦隊の再編を終えて再び戦場へと馳せ参じたのである。
「一番乗りだ! 行けぇッ!!」
艦長席に拳を叩きつけんばかりの勢いで叫ぶ速河艦長の怒声が、アマテラスの艦橋内に響き渡った。
バルゼー艦隊の中央突破を果たしたヒペリオン艦隊。しかしその損害は甚大で、突破を終えた彼らは離脱し応急修理を受けつつも北野艦隊の支援を受けて艦隊を再編。更には地球の時間断層で建造され”出荷”されてきたばかりの無人型ドレッドノート級を戦力として組み込み、再び戻ってきたのである。
舳先で土星の輪を突き破るや、ここぞとばかりにショックカノンを乱れ撃ちするアマテラス。その隣から浮上してきた北野艦隊旗艦『アルタイル』も主砲の砲身を左右へと向け、交互撃ち方で弾幕を張りながら上昇。無防備なバルゼー艦隊の下腹を喰い破らんと突撃していく。
しかしアマテラスの船体には、先ほどの戦闘で受けた損傷の傷跡が痛々しく残っていた。破孔部や大破したショックカノン砲塔は切り離し、パッチ溶接で傷口を塞いだだけの粗末極まりないダメコンではあるものの、今はこれで十分なのだ。
この後に控える白色彗星の事を考えれば、今は波動砲が撃てる艦が1隻でも多く必要なのだから。
《敵旗艦特定》
アマテラスのAIが、スリットを紅く発光させながら報告する。
メインパネルに投影されたのは、無防備にも速河艦隊に下腹を晒しては前部甲板に装備された固定式のビーム砲で応戦を試みる敵艦だった。通信量が確かに他の艦とは桁違いである。
そんな獲物を、速河力也という暴力の擬人化とも言える男が見逃すはずがなかった。
「波動防壁、艦首集中展開! 目標敵旗艦!」
どう、とメインエンジンが一際強い炎を放った。それと同時に艦首に波動防壁が集中展開。蒼い光をこれでもかというほど纏いながら、アマテラスが敵旗艦目掛けて上昇していく。
それに呼応するかのように、先ほどの戦闘で幸運にも1隻も喪失艦を出す事の無かった他の9隻のアマテラス級たちもそれに倣い始めた。加速を始めるや艦首に波動防壁を集中展開。主砲をショックカノンから三式弾に切り替えるや、ショックカノンのエネルギーすら推力に回して敵艦隊へ突撃を仕掛ける。
旗艦を守ろうとククルカン級やラスコー級、果てにはカラクルム級まで立ちはだかってくるが、しかし覚悟がガンギマったアマテラスは……いや、アマテラス級の10姉妹たちは止まらない。
邪魔なククルカン級を撥ね飛ばし、ラスコー級を叩き潰し、ついでにナスカ級をぶち抜いていった。
ビームに被弾しても、アマテラスは決してその足を止めない。
艦橋の窓越しに、敵が明らかにこちらを”畏れた”のが分かった。
―――それがどうした。
にい、と笑みを浮かべながら速河艦長は敵旗艦を睨む。
―――先に喧嘩を売ってきたのはそっちではないか。
ならば地球人の恐ろしさを、波動砲艦隊の威力を骨の髄まで知らしめてやる。
アマテラスの前に立ちはだかったカラクルム級の舳先が、最大戦速で突っ込んでくるアマテラスの突撃に屈した。艦首が割れ、船体が抉れ、全長555mの大戦艦を艦首から艦尾まで貫通するアマテラス。
爆沈する敵艦の閃光を背に受けながら、ついにバルゼーの座乗艦メダルーサの真下まで迫った。
「しばくぞオラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
ごしゃぁっ、と装甲のひしゃげる音。
敵の操舵手も無能ではなかったらしい―――スラスターが焼け付くばかりの勢いで全力噴射した事もあって、直前でメダルーサはアマテラスの舳先を逃れようとしていた。しかし完全回避は叶わず、アマテラスの波動衝角はメダルーサの左舷を大きく抉っていく。
ベキベキと装甲の潰れる音。
爆発が艦尾や機関部にまで伝播して、メダルーサの左舷にあるエンジンノズルが紅蓮の炎を吐き出す。
速河艦長は敵の大将の首を討ち損じた事をこれ異常なほど悔しがりながらも、そのままバルゼー艦隊を真上へと突破していった。
この突撃で、バルゼー艦隊の損耗率は9割にも達した。
「提督、我が艦隊は壊滅状態です! もう本艦しか……!」
「おのれ……ッ」
濛々と黒煙を吐き出しながら離脱に転じていたメダルーサの艦橋で、バルゼーはメインパネルを睨みつけた。
もはや大帝から預かったあの大艦隊の姿は見る影もない。
皆やられてしまった。敵艦隊の策と反撃、そしてあの猪武者の如き黒い艦隊の突撃で。
後方の息子の艦隊はというと、ようやく陣形の再編を終えて救援に向かっているようだ。このまま合流して共に敵艦隊を撃滅すれば、大帝への申し訳も立つであろう。
そこまで考えが至ったところで、バルゼーは首を横に振った。
―――そうまでして生きながらえるものか。
自分はガトランティスの戦士であり将校である。ガトランティス人とは常に戦いと共にあるものだ。強敵との戦いの中で討ち果たされるのであれば、それが一番の名誉である。我が身可愛さに逃げ帰るなど腑抜けの所業。
それも、ガトランティス最強の名を欲しいがままにしたバルゼー一族の者が逃げ帰ったとあっては末代までの恥ではないか。
ならば、と彼は腹を括った。
せめて、1隻でもいい。
あの艦隊旗艦だけでも道連れにする。
「―――こうなればあの旗艦だけが標的だ。砲撃用意!」
進路を反転するメダルーサ。前部甲板に備え付けられた申し訳程度の固定式ビーム砲塔が、緑色の光を発し始める。
彼の座乗艦メダルーサは、良くも悪くも煉獄直撃砲の運用のために割り切った装備をしていた。
通常のメダルーサ級に搭載されている、外見的特徴でもある5連装大型徹甲砲塔はオミット。代わりに外付けの冷却装置とセンサー、そして自衛用となる固定式の連装ビーム砲塔が搭載されているだけであり、後部甲板にある回転砲塔も飛行甲板も片っ端からオミット。外付けの冷却装置やエネルギーコンデンサに差し替えられている。
つまりメダルーサは、煉獄直撃砲を失えばただの駆逐艦程度の火力しか持たない脆弱な艦なのである。
しかしそれでも、勝ち目がないと分かっていたとしてもやらねばならない。
これこそがガトランティス戦士の本懐、あるべき姿なのだ。
戦の中に生き、戦の中で死ぬ。
これほど幸せな事はない、と自分に言い聞かせながら、バルゼーは命じた。
「砲撃始め!」
固定式ビーム砲が火を噴いた。
スペースを取らないために回転機構もなく、それ故に連射速度では他の艦に劣るそれ。射程距離ギリギリで放たれたビームは減衰を繰り返しながらも何とか地球艦隊までは届き、しかし命中はしない。
アンドロメダの灰色の装甲を、緑色に照らすだけだった。
その間にもショックカノンの雨は無慈悲に降り注ぐ。
地球艦隊の8割が無人艦だ。有人艦からのコントロールとAIの補助で稼働しているため、動きは単調ではあるが戦力としては貴重なものである。特に、ガミラス戦役で多くの軍人を失った地球防衛軍としては。
血も涙も無ければ情けもない無人艦なのだから、相手が満身創痍であろうと手加減はしない。
無論、有人艦もだ―――侵略者にかける情けなど微塵も持ち合わせていなかった。
スコールさながらに降り注ぐショックカノン。1発、また1発とメダルーサを捉えては艦が激震し、船体各所に火の手が上がっていく。
メダルーサの放った砲火が1発だけ、アンドロメダを捉えた。しかし波動防壁に弾かれてしまい、これといった損害も与えられない。
その返礼なのだろうか―――アンドロメダから放たれた一撃が、メダルーサの艦橋の付け根をぶち抜いた。
船体を真正面から貫通するかのような一撃に、限界に達するメダルーサ。装甲の隙間から炎を芽吹かせ、爆発を繰り返しながら沈んでいった。
「死して大帝にお詫びを……」
爆発の破片を浴び、力尽きたバルゼー。
主がそうであったように、メダルーサもまた炎に包まれた。
沈んでいくメダルーサを尻目に、地球艦隊は次なる標的をアポカリクス級率いる後衛艦隊へと向ける。
土星沖海戦は、まだ終わっていない。