さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~ 作:往復ミサイル
「父上ぇっ!!」
陣形の再編を終え、父の指揮する前衛艦隊の不利を聞きつけながら戦場へと駆け付けようとしたヴィリム・バルゼーの目に飛び込んできたのは、無数の集中砲火を受けて沈んでいく父の座乗艦『メダルーサ』の姿だった。
分かっている―――ガトランティスにとって戦場での死は最大の名誉だ。
強敵と戦い、宇宙に武勇を轟かせる事こそが彼らガトランティスの戦士の生き甲斐である。そして敵との戦いの中で命を落とす事もまた戦士としての誉。だから父は名誉ある死を遂げたのだ。
そう自分に何度も言い聞かせた。父は無駄に死んだのではない、と。
しかしそれでも、それでもだ。
幼少の頃から自身を鍛え上げ、あんなにも愛してくれた父との死別は、理性ではそう理解していても感情がそれに同調しない。心の奥から込み上げてくる悲しみと怒り、復讐心はまさしく人間が抱くものだ。
ぎり、と拳を握り締める。
「地球艦隊接近!」
すさまじい数です、と観測員が報告を続けた。
数の上ではまだ、ガトランティス側が優位に立っている。アポカリクス級橋頭堡型重航宙母艦『バルゼー』を筆頭に、惑星を攻め落とすにはお釣りがくるほどの数の艦を擁しているのだ。
ならばやるべき事は一つである。
父の仇を討ち、その無念を晴らす。
そして我らバルゼー一族こそがガトランティス最強であると、再びこの遍く大宇宙に知らしめるのだ!
若くしてガトランティスの上級幕僚となる事を許された息子、ヴィリム・バルゼーが吼える。
「破滅ミサイル一斉射! カタパルト旋回!」
アポカリクス級『バルゼー』の船体―――長大なカタパルトを船体左右に備えたそれが、スラスターを吹かしながら回転を始めた。
元々、アポカリクス級にはこのように船体を回転させる機構が備わっている。アポカリクス級は最前線に踏み止まり、その質量と打たれ強さ、そして要塞の如き火力で敵を蹴散らしながら航空隊の前哨基地として活躍する事を期待された艦だ。
しかしその任務の性質上、敵からの集中砲火を受ける可能性は非常に高い。特にその優先攻撃目標となるのは、回避もおぼつかないほど巨大な船体に備えられた飛行甲板とカタパルト、エレベーターである。
そこで用意されたのがカタパルトの旋回機構だった。敵の攻撃を直撃しないアングルへとカタパルトを旋回させる事で他の装甲の厚い区画で攻撃を受け、生命線とも言える飛行甲板を守るのである。
だがバルゼーは、そのカタパルト旋回機構により攻撃的な運用方法を見出していた。
彼の乗るアポカリクス級『バルゼー』の飛行甲板には、びっしりと大量の大型ミサイルが係留されていた。ゴーランド艦隊に所属するアーセナルシップ、ゴストーク級ミサイル戦艦が艦首に搭載していた『破滅ミサイル』である。
カタパルトの旋回が始まるなり、その係留が続々と解除され始めた。
ぐるぐると回転するアポカリクス級のカタパルト。やがて、係留が解除されフリーになった破滅ミサイルたちがその遠心力で外へ外へと放り出され、艦からばら撒くように射出されていく。
十分な距離を取った破滅ミサイルたちが、そのロケットモーターを点火。ごう、と炎を芽吹かせながら加速を始め、敵艦隊へと向かって突っ込んでいった。
ヤマトとの戦闘で、空間が不安定な宙域に撃ち込んだとはいえ空間裂傷を発生させるほどのミサイルである。それが80発―――単独で飽和攻撃をするには十分な数のミサイルが、波動砲艦隊へと殺到していった。
「全艦戦闘配置!」
ミサイルの発射を終えたアポカリクス級とナスカ級たちを庇うように、周囲の後期型カラクルム級の艦列が前に出た。
「艦載機発進!」
その号令と共に、ペイロード一杯に爆装したデスバテーター隊、そして護衛役の格闘戦闘機『イーターⅡ』たちが続々と発艦していった。
ミサイル攻撃を一番最初に行ったのも、無防備となる艦載機の発艦を余裕をもって行うためだ。
一撃で艦を轟沈させ得る大型ミサイルが一斉に80発も発射されたとなれば、敵艦隊にこちらを先制攻撃するという選択肢は事実上消失する。回避するか、迎撃するかの二者択一を迫られるから、艦載機を発艦させているガトランティス艦隊への攻撃は不可能となる。
攻撃は最大の防御、という概念を体現した戦術と言えるであろう。
その甲斐もあってガトランティス艦隊は一切の攻撃を受けることなく、総ての艦載機の発進を終えた。
大型のカナード翼に円盤型のボディを持つ護衛のイーターⅡを先頭に、限界まで武装を搭載したデスバテーター隊が続く。
デスバテーター隊がぶら下げているのは通常の対艦ミサイルではない。より重量があり射程が短く、運用上の制約も多いが、しかしさらに破壊力の高い『空間重魚雷』だ。
V字型の編隊を組み、地球艦隊へと殺到していく航空隊。
土星沖海戦の第2ラウンドのゴングが鳴った瞬間だった。
《警告。大型ミサイルの後方より敵機大編隊、接近》
アンドロメダのAIが淡々と告げ、メインパネルにおびただしい量の敵航空隊の姿が映し出される。
総数―――およそ1500機。
投入可能な攻撃隊のほぼ全てを投入してきたのだろう。護衛役と思われる敵の格闘戦闘機(あまり見ないタイプだ)にすら対艦ミサイルを搭載している辺り、敵も死に物狂いでかかってきているに違いない。
「司令、我が方も艦載機を出して攻撃しますか?」
副長が立ち上がって意見具申する。
幸い、艦隊にはまだ複数の防御型アンドロメダ級が健在だ。彼女らは波動砲を搭載しない代わりに波動共鳴装置を搭載しているのだが、波動砲ほどシステムが大がかりではない事からスペースに余裕が生まれており、専用設計の空母ほどではないが「軽空母」を名乗れるほどの艦載機搭載数を誇る。
ちらり、と隣を航行する防御型アンドロメダ級『アポロノーム』に視線を向けた。
いつでもいけるぞ山南、と艦長の安田の声が聴こえるような気もする。が、しかしだ。
「―――構う事はない」
航空隊には航空隊を―――海戦のセオリーを敢えて無視するかのような決断に、副長は目を丸くした。
「目標はあくまでも白色彗星の撃滅だ。全艦密集隊形を取って直進せよ」
《了解。全艦に伝達。対空戦闘用意》
「対空戦闘よーい!!」
「ショックカノン、通常モードからエアバーストモードへ」
「コスモスパロー発射始め、
決死の対空戦闘が始まった。
艦隊から艦隊空ミサイル『コスモスパロー』が一斉に発射され、破滅ミサイルの一団へと向かっていく。
やがて土星沖は、紅蓮の炎に彩られた。
空間の安定性如何では空間裂傷を発生かねないほどの威力を持つ破滅ミサイルに、迎撃用のコスモスパローたちが真正面からぶち当たる。堅い弾頭が砕けるなり次々に爆発し、その衝撃波が遠く離れた地球艦隊さえも揺るがした。
宇宙が悲鳴を上げるかの如き爆発―――その花園を背景に、無数の編隊が突っ込んでくる。
先頭を進むアンドロメダの主砲が火を噴いた。それを合図に隣のアポロノームも、他の艦も次々に砲撃を始める。
捻じれながら飛翔するショックカノンの閃光。その陽電子ビームの束が敵航空隊へと届く寸前で炸裂、蒼く輝く爆風がデスバテーターやイーターⅡへと叩きつけられる。
ショックカノンの『エアバーストモード』だ。
対空用の射撃モードである。艦のAIがレーダーと連動して敵との距離を確認、砲身中間部にある増幅器で設定する事により任意の距離でエネルギーの収束を解除し爆発させる、という機構である。
飽和攻撃を仕掛けてくるであろうガトランティスに対抗するために開発されていたそれが、想定されていた状況にぴったりと噛み合った瞬間であった。
爆風をもろに受け、抱えていた空間重魚雷もろとも砕け散るデスバテーター。重武装故に回避もままならず、まるで自分から突っ込んでいくかの如く爆散していく。
辛うじて弾幕を回避したイーターⅡが艦隊の前方へと躍り出た。しかし即座に尾崎艦隊所属のエイジャックス級無人駆逐艦が立ちはだかり、ショックカノンの速射でイーターⅡを撃墜。波動砲艦隊を航空隊から守り抜く。
発射されたミサイルや空間重魚雷を追尾するパルスレーザーの紅い光。撃ち抜かれた空間重魚雷が艦隊に届く遥か手前で爆発。波動砲艦隊には傷一つつかない。
1500機もの航空隊を動員しても、地球艦隊に損害を与える事は出来なかった。
相手の心を折るには、あまりにも一方的過ぎたのだ。
「こ、航空隊が全滅させられました!」
悲鳴じみた報告に、アポカリクス級『バルゼー』の戦闘指揮所内がざわめいた。
80発もの破滅ミサイルに加え、1500機にも達する航空隊を投射したのである。これだけの戦力を叩きつけてもなお、1隻も損害を与えられないとはどういう事か。
何と不甲斐ない、とバルゼーは憤ったが、しかし出撃に際しパイロットたちの訓練にも立ち会っているしその武勇も耳にしていた。あの1500機の航空隊の中には、かのガミラスとの戦いで戦果を挙げ大帝から勲章を得るという名誉を授かった戦士もいた筈だ。
それがこうもあっさりと―――取り返しのつかない大損害を被った事に拳を握り締めながらも、しかしバルゼーの心は折れていない。
むしろ滾る。
そうだ―――あの父を、ガトランティス最強の先代バルゼーを打ち破った敵なのだ。むしろ1500機の航空隊
ここから先は総力戦である。自らの血肉を削り、骨を砕かれながらも相手の喉笛に牙を突き立てるような、そんな戦いだ。痛みに、そして身を削られる恐怖に先に屈した方が敗北する血戦なのである。
「
艦隊の後方で待機していた『カラル級奇襲型次元潜航艦』たちが、命令を受けて一斉に次元潜航を開始した。
まだ手はある。打つ手がなくなったわけではない。
「”インフェルノカノーネ”発射用意!」
「了解、カタパルト旋回開始!」
アポカリクス級の艦首、大型ミサイルのようにも見える2基の衝角が緑色の光を放つエネルギーを充填し始めたかと思いきや、スラスターを吹かしながら旋回を開始した。
「インフェルノカノーネ1番、2番、交互撃ち方始め!」
カッ、と艦首が緑色の光を解き放つ。
インフェルノカノーネ―――進路確保用の圧縮破砕高エネルギー砲である。
アポカリクス級の船体は全長1240m、全幅960mにも達する。それだけのサイズになれば航行の際に障害物による航路の選定を行わざるを得ず、運用に大きな支障が生じてしまうのは自明であった。
そこで用意されたのが、邪魔な障害物を破壊し進路を確保するための高出力ビーム砲である。
そのために装備されたのがこのインフェルノカノーネだ。本来は2基同時に斉射する事で前方の障害物を破壊するのだが、しかしバルゼーはカタパルトの旋回機構と組み合わせ、片方を発射している間にもう片方をエネルギー充填と冷却を行わせる事で絶え間ない連続射撃を行うという、設計者が想定していない独自の運用方法を編み出していた。
地球艦隊に向かって伸びていくインフェルノカノーネの閃光。直撃すれば如何に波動防壁搭載艦と言えどもひとたまりもあるまい。
艦隊を守るように、地球艦隊の無人型駆逐艦―――エイジャックス級が前に出る。
着弾したインフェルノカノーネが、油に弾かれる水滴の如く弾け飛ぶ。しかしすぐに波動防壁の防御限界が到来し、エイジャックス級たちは3隻まとめて木っ端微塵に吹き飛んだ。
インフェルノカノーネの掃射が、立て続けに地球艦隊を襲う。
北野艦隊所属のアスカ級たちが波動防壁弾を発射。2、3枚重ね掛けし、どうにかインフェルノカノーネを防ぎきる。
しかし破壊の牙は、着実にその足元に迫っていた。
艦隊を守るべく波動共鳴装置をフル稼働していたアスカ級の1隻「まみや」の左の横っ腹に、ガトランティス軍の空間重魚雷が突き刺さったのはそれからすぐの事だった。
アポカリクス級橋頭保型重航宙母艦
全長
・1240m
全幅
・960m
武装
・530㎜巨大回転砲塔×10
・360㎜大型回転砲塔×26
・ドラム式ビーム発射システム×4
・艦対空防空ミサイルシステム×36
・近接防御火器×88
・障害物破砕用高エネルギー砲『インフェルノカノーネ』×2
艦載機
・デスバテーター(攻撃機)
・イーターⅡ(格闘戦闘機)
・破滅ミサイル(オプション)
※それぞれペイロード以内で搭載可能。今回はデスバテーター800機、破滅ミサイル80発
ガトランティス軍が開発した超巨大空母。大量の航空戦力を投射、更にその防御力と圧倒的な火力で最前線に居座り続ける事で航空戦力の維持と火力支援を行う目的で設計されたとされている。その任務の性質上、常に敵からの苛烈な砲火に晒される最前線に展開するため、ガトランティス軍の中でも特別に強力な火力と防御力を与えられており、艦単独での戦闘力も極めて高い。
最大の特徴が船体もろともカタパルトを旋回させる機構を持つ事である。これは1240mの巨体では敵からの攻撃を回避する事も難しいであろう事が想定されたために用意されたものであり、カタパルトを旋回させ装甲の厚い部位で敵の攻撃を受ける事で飛行甲板を守る用途を想定していた。
しかし想定通りの使い方をしたゲルンはともかく、バルゼーは遠心力を用いた破滅ミサイルの散布及び発射に加え、インフェルノカノーネ交互撃ち方に用いるなど想定外の使用方法を編み出している。
本来は父の方のバルゼーに与えられる筈だった艦であるが、彼がメダルーサに愛着を持っていた事から息子のヴィリム・バルゼーへと与えられた。プロキオン方面軍旗艦を含め、複数隻が既に就役している。
インフェルノカノーネ
アポカリクス級の艦首に搭載された障害物破砕用の高出力ビーム砲。2つ並んだミサイルのような艦首ブロックがそのままエネルギーの増幅装置となっており、機関部と直結したデバイスによりエネルギーを転送。高出力ビーム砲により進路上の障害物を粉砕する事が出来る。
2門で斉射するのが基本であった筈だが、バルゼーはカタパルトを旋回させながら1門ずつ交互に撃つ事で絶え間ない連続射撃を繰り出すなど、設計者が想定していない使用方法で地球艦隊と交戦した。
なお、設計者曰く「このような使用方法は旋回用のシャフト部に多大な負荷をかけるうえ、複数の文明のソフトウェアをツギハギしている関係上いつエラーを起こすか分からないためやめてほしい」との事である。