さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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関門突破

 

 一条の光と化した陽電子衝撃砲の束が、戦闘衛星のコマのような船体に真正面からぶち当たる。

 

 未だ敵とも味方とも判別できぬ相手からの攻撃に、しかし搭載された最強の盾―――波動防壁は的確に反応してみせた。搭載された波動エンジンからの、艦艇よりもダイレクトなエネルギー供給を受けて発動した重厚な波動防壁は、ヤマトから放たれたショックカノンの一撃の前に堂々と立ち塞がる。

 

 両者が激突した瞬間、地球の衛星軌道上に蒼い光芒が産声を上げた。

 

 受け流され、弾かれた波動エネルギーの粒子が、さながら線香花火のように飛び散る。その輝きは地上からでも観測され、首都の大通りを歩く母親に連れられた子供が、空を見上げながら指差すほどだった。

 

 戦闘衛星のエネルギー供給に関する構造は、何度も述べた通り宇宙戦艦のそれよりも簡略化されている。エネルギー供給は主砲などの武装や火器管制装置(FCS)、波動防壁、それと姿勢制御用のスラスター(モデルによっては波動防壁ではなく別の推進剤を搭載している)へと動力を供給するのみで良く、レーダーなどの設備や艦内照明などといった、余計な部位へのエネルギー供給が無い。

 

 余計な損失が無いという事は、持て余してしまうほど豊富な波動エネルギーを100%使う事ができる、という事だ。故に主砲も波動防壁も、宇宙戦艦に搭載されているものと比較すると、より威力があり、より分厚いものに仕上がる。

 

 だから仮に一対一の戦いだった場合、基本的に勝利するのは戦闘衛星の方なのだ。

 

 その関係は、第一次世界大戦や第二次世界大戦の頃の、戦艦と沿岸砲の関係に似ている。

 

 装甲や主砲などを搭載しつつ、重量制限の中で最適の配置や装備を吟味しながら設計しなければならない水上艦艇に対し、沿岸砲は重量制限という枷が殆どない。だから建造のための設備や運用のための人員、その他の補給体制などが許す限りいくらでも大型化する事ができるのである。

 

 さらには海に浮かべるわけではないから、沿岸砲は揺れない安定した環境から精密な一撃を放てる、という利点がある。

 

 人類が宇宙進出するに至っても、その関係性は変わっていない。

 

 だから戦闘衛星にとっても、この一撃は耐えられる攻撃である筈だった。

 

 ―――ガミラス戦役時のヤマトであったならば、の話だが。

 

 絶対的な防御力を誇る波動防壁―――蒼い光の壁が、唐突に蒼い光に突き抜かれた。それは細く、さながら地獄へと垂らされた蜘蛛の糸の如く細いエネルギーの雫であったが、しかし一度防壁に穴が開いてしまえば、後は決壊までは時間の問題である。

 

 波動防壁が一時的にぶち破られ、突入した蒼い光が戦闘衛星の船体表面を舐め回す。

 

 ヤマトの放った一撃が、戦闘衛星の波動防壁を、一時的にとはいえ貫通した瞬間だった。

 

 ヤマトは強力な宇宙戦艦だ。ガミラスを打ち倒し、蒼い地球を取り戻した人類の希望、そして力の象徴でもあるヤマト。続々と優秀な後続艦が就役している現在ではあるが、しかしイスカンダルへの航海を成し遂げたという偉業の上に、いつまでも胡坐をかいているヤマトではない。

 

 真田の手により、時間断層工廠内部にて大規模改修を受けたヤマトには、アンドロメダ級の建造で培った技術やガミラス由来の技術も惜しみなく投入されていたのだ。

 

 主砲のエネルギー伝達効率は、アンドロメダ級の技術をフィードバックしたことによりさらに向上。追加装備された波動コンデンサーの恩恵で、主砲の威力は実に1.5倍にまで向上している。

 

 しかし―――それは戦闘衛星も同じ事だ。

 

 せっかく防壁を貫通したヤマトのショックカノンであったが、重厚な波動防壁によって威力を軽減されたそれは、戦闘衛星の表面装甲―――ガミラスのミゴウェザー・コーティングによって阻まれ、油面に垂らされた水の如く散らされてしまう。

 

 表面に焦げ目を作る事すら叶わない。

 

 最強の盾を貫通したは良いが、その下に潜んでいた”第二の盾”によって、ヤマトの必殺の一撃は無効化されてしまったのである。

 

 しかし―――衛星本体は守れても、それ以外の設備は簡単には守れない。

 

 ミゴウェザー・コーティングが施されていなかった姿勢制御用のスラスターを焼かれた戦闘衛星は、被弾した衝撃を受け止める事が出来ず、突き飛ばされたかのように軌道を変更し始めたのである。

 

 幸い地球への落下コースではなかったが、ぐるぐると不安定な回転を始めたとあっては、ヤマトを満足に砲撃する事も出来ない。

 

 制御を失った地球の守護者が、徐々にヤマトを攻撃可能な軌道から遠ざかっていく。

 

 破壊するつもりで放った一撃でも、現宙域から放逐するのが精一杯だった。

 

 しかし、これで良かったのかもしれない。

 

 いずれにせよ、これで道は開かれたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大気圏離脱、主翼収納、と島の声を聴きながら、古代はメインパネルに映る戦闘衛星をいつまでもじっと見つめていた。

 

 雪からの報告では、既に向こうに搭載されている主砲(ヤマトの主砲を3連装から連装に減じたものだ)の射程外にまで遠ざかっているという。

 

 制御する術を失い離れていく戦闘衛星を見上げていた南部が、思わず小さく漏らした。

 

「ヤマトの本気の一撃を受けて、まだ原形を保っているなんて」

 

 南部の驚きは、古代も抱いていた。

 

 前部甲板に鎮座する第一、第二砲塔、そして第一副砲の一斉射を一点に集中させたのである。しかもその主砲はアンドロメダ級の建造で培った技術の一部をフィードバックして効率化、更に外付けの波動コンデンサーで増幅した一撃だった。

 

 標的がアレではなくガミラス艦であったならば、一撃で轟沈どころか蒸発していたに違いない。それほどの威力の砲撃を真っ向から受けてもなお原形を留める兵器……そんなものが、今この瞬間にも時間断層工廠で建造され、外付けのブースターを搭載して宇宙軌道へ打ち上げられている。

 

「恐ろしい兵器だ」

 

「古代、逃げるなら急ごう。衛星軌道上にはあんなのが500基もウヨウヨしてるって聞いたぞ」

 

「そうですよ古代さん。中には波動砲を搭載した戦闘衛星もあるって……」

 

 島と古代に促され、古代は首を縦に振った。

 

 最大戦速、と島が号令を発する。徳川の復唱が返ってきてから、ヤマトのメインエンジンが一際強烈な光を放った。

 

 後方に大きく広がる地球がどんどん小さくなっていく。

 

 しかし、まだ安心はできない。地球が制海権を失い、太陽系内部にまでガミラスの侵攻を許していたのは4年前の話だ。今では太陽系内部は完全に地球の庭で、しかもガミラスから譲り受けた『第十一番惑星』もその版図に新たに加わった事で、より勢力を増している。

 

「月面基地、動きありません」

 

 レーダーで周辺警戒を続ける雪の言葉に首を縦に振り、古代は思う。

 

 ともあれ、これで最初の関門は越えた。

 

 問題は―――この先に、さらに大きな関門が待ち構えている、という事だ。

 

「……木星圏を脱出するまでは、油断できんぞ」

 

 真田の言葉に同意し、メインパネルを見上げる古代。先ほどまで戦闘衛星を映し出していたそれは、今では太陽系内の図を表示していた。ヤマトの現在位置が、青い点でハイライト表示されている。

 

 そして木星の周辺には、赤くハイライト表示された範囲があった。

 

 今日は地球防衛軍とガミラス太陽系方面軍の合同演習―――その舞台に選ばれたのが、木星沖である。

 

 アンドロメダ級はもちろん、就役したドレッドノート級や護衛艦、駆逐艦、パトロール艦、そしてヤマト級の姉妹艦たるムサシとシナノも、その大規模演習に参加していると聞いている。

 

 太陽系に迫るガトランティスの脅威に対抗するための、より一層の練度向上が目的である、と司令部は謳っていた。だが実際のところではそうではないだろう、という思いが古代の中にはある。

 

 今の地球は張子の虎だ。

 

 少しでも自分の存在を大きく見せ、虚勢を張ろうとする小動物のようだ。

 

 それをアピールするため、地球は殆どの拠点から守備艦隊を引き抜いて演習に向かわせる―――司令部に勤務する友人から聞いた話は、どうやら本当だったらしい。

 

 ヤマトが堂々と月軌道を横切っていったのに、月面基地が何のアクションも起こす気配がないのがその証拠だった。普段であれば月面駐留艦隊がすぐにすっ飛んでくる筈なのに、月はまるで人類がそこに至るよりも昔の時代のように、しんと静まり返っている。

 

「ワープで一気に抜けられないんですかね」

 

 太田がメインパネルを見上げながら呟くと、島が首を横に振った。

 

「無理だ。お前だって知ってるだろ、太陽系内にはワープ阻害用のジャミング装置がびっしり展開されてて、ワープするには司令部からの誘導が必要だって」

 

「知ってますけど……不便なもんですねぇ」

 

 これさえなければ、今頃はワープで一気に長距離を移動し離脱しているところだったのだが、しかし島の言う通りそうもいかない。

 

 火星のフォボスとデイモス、土星のタイタン沖やエンケラドゥス、木星のイオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト……そういった各惑星の衛星にも防衛軍の拠点があるが、そういった拠点には太陽系内でのワープを阻害するジャミング装置が配備されている。

 

 もし敵対勢力が太陽系へと攻め込んできた場合、一気にワープで地球本星まで突破されるのを防ぐためだ。だから地球を攻略するためには、太陽系外縁部から順番に拠点を突破しなければならない。

 

 それは友軍艦のワープまで阻害してしまうため、太陽系内でのワープには司令部からの承認と誘導が必要になる。

 

 つまり、司令部と敵対する事となった今のヤマトは、少なくとも太陽系の外に出るまではワープすることができない、という状況に陥っている。

 

 しかもヤマト拿捕、あるいは撃沈命令を受けるであろう地球艦隊は、司令部のバックアップを受けて隙にワープできるという特権まであるのだ。

 

「各員、対空警戒を厳に」

 

 艦橋から戦闘部署に命じつつ、古代は続ける。

 

 微かな空間の歪みも見逃すな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦闘衛星E-07、軌道を外れました」

 

「姿勢制御スラスターが全基破損した模様」

 

 オペレーターたちが淡々と報告する間にも、戦闘衛星はゆっくりと攻撃可能軌道を離れつつあった。

 

 波動防壁は確かに動作した。波動エンジンからのダイレクトなエネルギー供給を受けた波動防壁はヤマトの主砲の一斉射を弾き、受け流す事には成功した。しかしヤマトの主砲の威力が予想以上だったのか、それとも南部の狙いが精密で、一点に集中して撃ち込まれる事を想定していなかったのか(おそらく両方だろう)、波動防壁は一時的にとはいえ破られ、ミゴウェザー・コーティングで守られた本体を波動エネルギーの余波で炙られることとなった。

 

 ガミラスから供与されたミゴウェザー・コーティングは、いわゆるビーム兵器に対する防御手段だ。装甲表面に塗布することにより、エネルギー弾を弾きやすくする―――地球艦隊の高圧増幅光線砲が弾かれ、通用しなかったことは記憶に新しい。

 

 しかし、いくらミゴウェザー・コーティングで守られていると言っても、本体に搭載されているスラスターやセンサー類が脆弱である事は変わりない。波動防壁の内側へと侵入した波動エネルギーの余波はその閉鎖的な空間の中で暴れに暴れ、衛星の各所にある姿勢制御スラスターを全基破壊するという、恐ろしい結果を生み出したのである。

 

 これではもう、軌道変更してヤマトへ攻撃をかける事も出来ない。

 

「他の衛星を呼び出せ! 最寄りの衛星は!?」

 

「大型衛星Z-67が展開していますが、到着まで15分の見込みです」

 

 大型戦闘衛星―――ショックカノンではなく、波動砲を搭載した大型の戦闘衛星である。地球圏へと接近する敵勢力を射程距離外から砲撃、アウトレンジ攻撃で殲滅するというドクトリンの元に建造された代物だ。

 

 現在、地球軌道に展開する戦闘衛星群のうち、3割がこの波動砲搭載型の衛星である。

 

「遅すぎる! そんな事ではヤマトに逃げられてしまう! 月面艦隊と航空隊は!?」

 

「月面艦隊及び航空隊は、木星沖での合同演習に出撃中です」

 

 なんというタイミングの悪さか、と憤る芹沢。握りしめた拳がぶるぶると震えている彼の隣で、藤堂は少し安堵していた。

 

 確かに命令違反は軍隊として許される行為ではないが―――彼らが命令を違反してまで飛び立ったのには、何かそれなりの理由があるのかもしれない。ならばここは彼らの好きな通りにさせてみるのも一つの手ではないだろうか。

 

 ヤマトの乗員たちに理解を示し始めた藤堂の隣で、しかし顔に泥を塗られ怒り狂う芹沢は、恐ろしい命令を下すのだった。

 

 

 

 

 

「至急アンドロメダに通達! ヤマト捕獲、ないし撃沈を命じろ! 今すぐにだ!!」

 

 

 

 

 

 

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