さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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木星演習

 

 暗く、冷たく、広大な宇宙。

 

 暗黒の海原、その一角に波紋が生じた。

 

 雫が落ちたかのような僅かな波紋―――それは空間に生じた歪みだ。何もない空間へ、本来そこへ存在する筈のない物体が現れる予兆である。

 

 氷の割れるような音はきっと、悲鳴なのであろう。何もない空間へ、無理矢理戦艦並みの質量を捻じ込まれるのだ。たまったものではあるまい―――艦橋の外から響く氷の音を聞きながら、新造戦艦アンドロメダの艦長席に座る山南はそう思った。

 

 ワープには独特の癖がある。ワープ空間の中では平衡感覚が消失し、空中に浮かんでいるかのような、浮遊感にも似た独特の感覚に支配される。中にはその猛烈な違和感に耐えられず、”酔って”しまう乗組員も多いと聞いた。

 

 とはいえ、ワープ機能だってヤマトで得られたデータをベースに改良されている。このアンドロメダのワープもそうだ。ガミラス戦役時のヤマトと比較すれば、サスペンションの固い中古車と最新の高級車ほどの違いがある。

 

 それで”これ”なのだ、ヤマトの乗組員たちもさぞ苦労したのだろう……赤く焼けた地球を背に、キリシマで送り出したヤマト乗組員たちに思いを馳せていた山南の意識を、無機質なAIの報告が現実へと引き戻す。

 

《ワープ終了。機関部、船体各所異常なし》

 

 艦長席の前に、半円状のドームにも似た物体がある。

 

 傍から見れば無機質なオブジェにしか見えないが、しかしそのドームこそが、このアンドロメダの”頭脳”と言っても良かった。

 

 アンドロメダ級に搭載された高性能AI、その”入れ物”である。

 

「了解した。アンドロメダ、周辺索敵を厳となせ」

 

《了解》

 

 アンドロメダ級には、このような高性能AIが搭載されている。ヤマト級4番艦『キイ』でテストされたものをさらに改良、高性能化したものだ。人間のような感情こそ無いものの、言われた仕事は当たり前にこなしてくれるし、人間のようなミス(ヒューマンエラー)もない。

 

 さらには火器管制や索敵、ダメコンの指示に操縦の補助、機関出力の設定などもこのAIが行ってくれる。だから艦橋には艦長である山南の他に、副長、戦術長、通信長の4名のみだ。

 

 このAIの恩恵もあり、アンドロメダの乗員は全長444mクラスの大型戦闘艦でありながら僅か120名という省人化を実現するに至っている。

 

 ヤマトのような長期航海は想定していない(一応は中間での補給さえあればイスカンダルまでの往復は可能である)ものの、省人化の恩恵もあって全乗組員に個室が用意されるなど、居住性の高さにも一役買っている。

 

 それはガミラス戦役で多大な戦死者を出し、慢性的な人材不足に喘ぐ地球防衛軍にとっても好ましいものであった。

 

 もっとも、地球防衛軍としての最終目標は各戦闘艦の完全無人化にあり、このAIによる操艦補助も通過点にしか過ぎない。つまり自分たちもいずれはお払い箱だ―――そう思うと、ガミラス戦役を生き延びた山南としても寂しい思いが込み上げてくるものである。

 

 船乗りが機械に取って代わられる日―――それは果たしていつになるのか。

 

「寂しいものだ。なあ、アンドロメダよ」

 

 思わず、そんな小さな声が漏れ出た。それはすぐ目の前に座る副長の耳にすら届かないほど小さな声であり、誰にも聞こえない程のものだ。

 

 仮にアンドロメダのAIに聴こえていたとしても、”彼女”は何も応えなかっただろう。

 

 乗員との言語によるコミュニケーションが可能なよう、対話プログラムを搭載されているAIではあるが、しかしあくまでも返答するのは戦闘や艦の運航に関する事のみ。プライベートな質問をしても、ただただ定型文(テンプレート)での簡単な返答があるのみだ。

 

 やはり機械か、と山南は1人思う。

 

《後続艦、続けてワープアウト》

 

 AIの報告と同時に、艦橋の前方上部に備え付けられたメインパネルにその様子が映し出される。

 

 空間に波紋が浮かぶと思いきや、それを突き破り、ステルス戦闘機のような艦首が続々と姿を現すや、その表面を覆う氷の衣を脱ぎ捨て、続々と通常空間へ躍り出てくる。

 

 アンドロメダ級―――その同型艦(姉妹たち)であった。

 

 2番艦『アルデバラン』、3番艦『アポロノーム』、4番艦『アキレス』、5番艦『アンタレス』。早期に就役した4隻に続き、新たに時間断層内で建造、完成し実戦配備されたばかりの6番艦『アークトゥルス』、7番艦『アレス』もこの演習に参加している。

 

 どの艦にもこのアンドロメダのAIと同性能のものが搭載されており、それらでの高度なデータリンクや指揮下の味方艦への命令伝達、更には無人兵器の遠隔操作や制御のオーバーライド、他艦の火器管制の補助まで行う事ができる。

 

 波動砲の発射タイミングの連動など、お手の物だ。

 

 遅れてワープアウトしてきた同型艦(姉妹)たちが、アンドロメダの両翼へと展開する。

 

 アンドロメダ級の最大の特徴は、その2つ並んだ波動砲の発射口だ。2基の波動砲による斉射の破壊力は惑星を吹き飛ばしてもなおお釣りがくる上、キイでテストされていた拡散タイプの波動砲の完成型、拡散波動砲の撃ち分けも可能となっている。

 

 そんなアンドロメダ級の中に、艦首の波動砲がハッチで塞がれている艦もあった。

 

 3番艦『アポロノーム』、5番艦『アンタレス』、7番艦『アレス』の3隻である。

 

 彼女らには、波動砲は搭載されていない。その代わり、波動防壁弾と組み合わせる事で遠隔地に巨大な波動防壁を展開させることが可能な波動共鳴装置を、波動砲が搭載されていたスペースに組み込んでいる。

 

 アンドロメダ級の中には、あのように波動砲を搭載しない代わりに波動共鳴装置と波動防壁弾を搭載、艦隊の盾となる『防御型』と呼ばれるタイプが含まれている。

 

 波動砲発射前、エネルギー充填中はどうしても無防備になる。艦首に搭載した重力子スプレッドも、攻防一体の兵器ではあるが防御可能面積が狭く、艦隊の防御は行えないという結論に至った。

 

 そこで波動砲をいっそのこと搭載せず、無防備な艦隊を波動砲発射まで守る事を想定した『防御型アンドロメダ』が考案され、波動砲を搭載した『攻撃型』と並行して配備する事となった、というわけである。

 

 また、防御型アンドロメダは波動砲を未搭載とした分、スペースが空き航空機の搭載数がアップしたことによって軽空母としての運用も可能となったほか、エンジン出力にも余裕が生まれ、主砲の威力や機動力、波動防壁の出力においても攻撃型アンドロメダを上回る。

 

 しかし波動砲という決戦兵器を搭載していないが故に、総合的な攻撃力では攻撃型アンドロメダに遠く及ばない、というのが実情だ。

 

 あくまでも攻撃型との組み合わせで真価を発揮するタイプ、と判断するべきであろう。

 

 後続のドレッドノート級も無事にワープアウトしたのを確認し、山南はふと、艦橋の窓の向こうに見える木星に目を向けた。

 

 朱色と白色のコントラストが美しい木星のガスの中には大赤斑が浮かぶが、しかしその中に、まるで切り裂かれたような傷跡にも見える部位がある事が、ここからでもはっきりと分かる。

 

 ガミラス戦役時、ヤマトが初めて波動砲を発射した場所だ。テストを兼ねたその一撃で、ガミラスの浮遊大陸を跡形もなく吹き飛ばしたのだという。

 

 そしてその痕跡は、あの人類存亡を懸けた血戦から4年経った現在においても、木星の表面に生々しくその痕跡を残している。

 

 演習に参加するのはアンドロメダ級7隻に加え、時間断層内で建造されたドレッドノート級、初期ロットとなる28隻。その後方に駆逐艦30隻、パトロール艦4隻、護衛艦12隻、そしてガミラスから供与されたガイペロン級多層型空母、その地球仕様が5隻。

 

 復興した地球、その軍事力を象徴する最高戦力である。

 

 司令部としてはこの艦隊を大宇宙に喧伝し、地球の力をアピールしたいという思惑があるのだろうが、しかし山南もその地球の方針を冷ややかに見つめる1人でもあった。

 

(まるで小動物だ……)

 

 小動物の中には、自分の身体を大きく見せて相手を威圧する種も存在したという。

 

 今の地球もそうだ。こうやって背伸びをして力をアピールしているが、その実情はかなり厳しい。この大艦隊だって地球防衛軍の各拠点から強引に抽出した戦力だ。だから各惑星の駐屯地や宇宙基地には、殆ど艦艇は残っていない。

 

 だが、ここで反対の声を上げよう、という考えは山南には無かった。

 

 山南としては現状を利用し、十分に力をつけてから影響力を行使する事で今の状況を変えていこうという考えだ。まずは現実を味方につけてから、動き出すのはその後である、と。

 

 ―――しかし、土方はそれを良しとしなかった。

 

 イスカンダルとの約束を反故にした連邦政府を糾弾しようとする彼は、山南でも止められなかった。

 

 その結果土方がどうなったか―――第十一番惑星、ガミラスから明け渡された辺境の星への左遷、である。

 

 そろそろ彼を乗せたパトロール艦が地球を発つ頃だな、と思った山南の耳に、AIの音声と電子音が飛び込んできた。

 

《警告。10時方向に重力反応》

 

 来たか、と目を細めた。

 

 油断も隙もあったものではない―――余裕があれば艦長席で紅茶でも楽しもうと思っていた山南だが、しかし”相手”はそれを許してはくれないらしい。

 

「全艦対空戦闘用意」

 

《了解。対空戦闘用意。全艦データリンク》

 

 AIが命令を復唱するや、両翼に展開していた艦隊が動いた。

 

 総旗艦たるアンドロメダを中心に、円を描くような陣形―――輪形陣へと移行したのだ。

 

 それと並行し、パルスレーザー砲塔や主砲の40.6cm陽電子衝撃波砲塔、そして船体の各所に搭載されたミサイル兵器が一瞬でアクティブになる。

 

 全艦の迎撃態勢が整ったところで、遥か前方―――10時方向の空間に白い光が生じたのを、山南は見逃さなかった。

 

 アンドロメダのAIがすかさずメインパネルに投影、最大望遠でそれを映し出す。

 

 ミサイルだ。

 

 ガミラスの対艦ミサイル―――それを、瞬間物質移送機を使用して地球艦隊の近くへと送り込んできたのだ。

 

 ワープ機能を持たぬ艦載機を敵艦のすぐ近くへと送り出して奇襲する事が可能な、ガミラスの瞬間物質移送機。ガミラス戦役時、最新鋭だったと言われるそれも、今となっては多くのガミラス艦、そして地球の艦にも普及し、ありふれた装備となっている。

 

 本来は艦載機を送り出すためのそれを、ミサイルによる長距離攻撃に転用したのだ。敵の指揮官はなかなか頭の切れる男らしい―――艦長の帽子を目深に被った山南は、交戦的な笑みを一瞬だけ浮かべた。

 

「対空戦闘、ECM展開。”コスモスパロー”発射始め」

 

《了解、コスモスパロー発射始め。斉射(サルヴォ)

 

 戦術長の命令をAIが復唱するや、アンドロメダの船体両舷、ちょうど第一砲塔と第二砲塔の左右に設置されたバルジが展開、そこからミサイルが撃ち上げられる。

 

 コスモスパローと呼ばれる、最新鋭の艦対空ミサイルである。

 

 ヤマトの煙突に搭載されていたSAMを参考に改良、ガミラス側の技術も応用して完成した代物だ。

 

 装薬の爆発で船外へと押し出されたミサイルは、後部に搭載されたロケットモーターの輝きをこれ見よがしに宇宙空間で煌めかせながら、進路を変更しガミラス側のミサイルへと向かっていく。

 

 同じように他の艦からもコスモスパローが撃ち上げられ、やがて木星沖に紅い光が乱舞した。

 

 ミサイル同士が激突、爆発したのだ。

 

 しかし、全弾撃墜とはいかない。ガミラスのミサイルも莫迦(バカ)ではないのだ。

 

 地球のミサイルに喰らい付かれる対艦ミサイルが多発したものの、一部はS字型に回避運動を取り、コスモスパローの矛先をやり過ごしていたのである。

 

《トラックナンバー163から189、撃墜。残存数7、コース依然変わらず》

 

「主砲、撃ち方始め。タイプ”エアバースト”、別命あるまでタイプ同じ」

 

《了解、主砲撃ち方始め。タイプ、エアバースト》

 

 素早く旋回したアンドロメダ級の主砲が仰角を修正、騎士の槍を思わせる長砲身から蒼い閃光を撃ち放つ。

 

 捻れるような軌跡を刻みながら放たれた蒼い閃光は、接近するガミラスのミサイルへと向かって真っすぐに伸びていく。

 

 ヤマト級の主砲よりも小口径となっているアンドロメダの主砲。それはヤマト級の主砲は確かに強力ではあるが、しかし敵艦への攻撃に対しては威力過剰で非効率という判断から、アンドロメダ級の主砲は小型のものとなっている。

 

 威力は落ちるものの、搭載された波動コンデンサーにより十分な威力は確保している。

 

 が、それよりも恐ろしいのは波動スーパーチャージャーが可能とした速射と、AIの火器管制による精密な砲撃である。

 

 艦隊へと迫るミサイルを、蒼い光が飲み込んだ。

 

 閃光の中で一瞬で黒い影となったミサイルが、爆発する間もなく蒸発する。

 

 敵艦隊からのビーム攻撃を察知した後続のミサイルが回避運動を取り始めるが、しかしミサイルの眼前まで迫り、そのまま左へと逸れていくはずだった波動エネルギーの奔流が、ミサイルの至近距離で急に炸裂し、ミサイルを呑み込んだ。

 

 至近距離での爆発を受ければたまったものではない。あっという間に外装を剥がされ、炸薬に誘爆したミサイルが2つ目の閃光を生み出し、地球艦隊に戦果を献上する結果となった。

 

 アンドロメダの主砲に搭載された、”エアバーストモード”と呼ばれる機能だ。

 

 砲撃の際、砲身中間部に搭載された変換器を介して敵までの予測距離から炸裂までの時間を設定する事で、接近中の敵機やミサイルに直撃せずとも、至近距離でショックカノンを炸裂させ撃墜する事が可能な、いわゆる空中炸裂弾である。

 

 かつてのイージス艦の主砲や戦車砲で使用されていた技術を、ショックカノンというビーム兵器で再現した代物だ。

 

 回避しようにも波動エネルギーの爆発で防壁を形成されては接近どころではない。いかにガミラスのミサイルが複雑な回避運動を取る事が可能であっても、波動エネルギーの爆発に進路そのものを塞がれてしまっては意味を成さないのだ。

 

 全てのミサイルが撃墜された、という報告を聞いた山南は、艦長席で静かに命じた。

 

「全艦、砲雷撃戦用意。今度はこっちの番だ、一気に決めるぞ」

 

 

 

 

 

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