さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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ヤマトの姉妹たち

 

《敵艦隊を確認》

 

 アンドロメダのAIが、淡々と告げた。

 

 敵艦隊―――ガミラス艦隊をついに発見したのだ。

 

 先ほどは対艦ミサイルによる先制攻撃を許してしまったものの、地球艦隊の損害はゼロ。高度なAIと精密な火器管制、そして艦対艦ネットワークによる迅速なデータの共有により、ミサイルの全弾撃墜に成功している。

 

 今度はこっちの番だ、と乗員たちの士気が上がっているのを、山南は感じ取っていた。

 

 それはそうだろうな、と思う。

 

 なにせ、アンドロメダの乗員の大半は拡大する放射能汚染から逃れるべく地下深くへと追いやられ、日に日に迫ってくる人類滅亡までのカウントダウンに怯えていた者たちである。

 

 親や上の兄弟の殆どはガミラス戦役で戦死し、ガミラス人を今もなお恨み続けている者もいる事だろう。

 

 しかし今やガミラスは同盟国である。積もりに積もったその恨みを晴らす機会は、もう未来永劫訪れない。

 

 だからこういう演習の場でしか、”やり返す”事は出来ないのだ。殺されていった父や兄弟の仇を討てない代わりに、一方的な勝負にしてやる、という怒気にも似た威圧感を敏感に感じ取りながら、山南は「あまり肩に力を入れ過ぎるな」と戦術長に言った。

 

 アンドロメダの戦術長を務める北条も、冥王星沖で兄を失っていたのだ。

 

「意気込むのは良いが、力み過ぎてはベストコンディションは発揮できん。いいな北条」

 

「は、はい」

 

「武装は演習モード、出力は落とすように。間違えても”友軍艦”を誤って撃沈するような事はするな」

 

 チェックを徹底しろ、と続け、山南はメインパネルを睨んだ。

 

 AIが敵艦隊―――木星の衛星”イオ”を背景に展開する、ガミラス艦隊の数と種類を素早く分析し始める。

 

 AIは地球にあるサーバーと常にリンクしており、最新情報をリアルタイムで更新し続けている。だからこの同型AIを搭載する艦が未知の敵と遭遇すれば、そのデータは瞬時に他の艦にも共有されるというわけだ。

 

《敵艦隊、超弩級戦艦1、重巡洋艦30、軽巡洋艦27、駆逐艦40》

 

 なかなかの数を連れてきたな、と副長が漏らしたのを、山南は聞き逃さなかった。

 

 衛星イオを背に展開するガミラス艦隊は、よく見知った艦が大半を占めている。

 

 超弩級戦艦、とAIが判定したのはガミラス最大の戦闘艦、ゼルグート級。本来は僅か3隻しか建造されなかった大型戦闘艦であるが、ガトランティスの脅威を受けて急遽増産に入ったという経緯を持つ。

 

 他のガミラス艦と同様、緑色に塗装された船体の両舷には、黄緑色に輝くガミラス艦特有の”目玉”がある。

 

 他はガミラス艦としておそらくもっとも有名なデストリア級。ガミラス戦役時、その攻撃力と船体のサイズから、地球では戦艦に分類されていたクラスだ(その後、戦争終結に伴う情報開示に伴い重巡洋艦である事が明らかになり、地球の軍事関係者を驚かせたのは言うまでもない)。

 

 更に目玉を4つ持つ軽巡洋艦相当のケルカピア級、そしてミサイルや魚雷などの実弾兵装が充実したクリピテラ級が艦隊の陣形外縁部を固めている。

 

 航空戦よりも砲戦を想定した艦隊編成だ。

 

(確か……敵の指揮官は”ローレン・バレル”中将だったか)

 

 昨年の合同演習の際に顔を合わせ、食事を共にしたこともある相手だ。落ち着いた物腰で紳士的な人柄だが、物事を正確に見抜く観察力と冷静さを兼ね備えた、山南としてはやり辛い相手だと記憶している。

 

《警告。敵艦隊、陣形を変更。9時方向に変針》

 

「陣形変更? このタイミングでか」

 

 副長が言うのも無理はない。

 

 AIが敵の変化を素早く報告しなければ、山南もこのままお互いに正面から殴り合いつつ搦め手で敵の隙を突くような戦いになるものであると考えていたからだ。

 

 しかし敵将、ローレン・バレル中将はこのタイミングで陣形を変更。アンドロメダ級にドレッドノート級のショックカノンが睨む目の前で、大胆にも左方向へ変針したのである。

 

(なるほど、同航戦か)

 

 お互いに力尽きるまでの殴り合いをご所望である、という考えに至った山南は、やれやれといった顔で頭を掻いた。

 

「司令、このまま密集隊形で突入しますか」

 

「いや、敵は誘っている」

 

「……は?」

 

 言うなれば、手袋を投げられたようなものだ。

 

 ガミラスからの決闘の申し出―――向こうに手袋を投げる風習があるかは定かではないが、ここで真っ向からの戦いを挑むのも一興であろう。

 

 山南としても、ガミラス人にここで一泡吹かせてやりたいという思いはあったし、それにゼルグート級も改良を受けているとはいえ、ヤマトに負けた艦でもある。

 

 最新鋭のアンドロメダと比較しても、十分に勝てる相手であると言えた。

 

「全艦左90度回頭、右砲戦用意」

 

「は、はっ」

 

《左90度回頭、右砲戦用意。全艦に伝達》

 

 ゴウ、と重々しい音を立て、アンドロメダの巨体が左を向き始めた。船体各所に搭載されたスラスターが青い炎を吹き上げて、全長444mの巨体をゆっくりと、しかし従来の艦と比較して非常にしなやかに方向転換させていく。

 

 アンドロメダに続き、アルデバランも進路を変更し始めた。

 

「装甲の厚い艦を前面に展開。水雷戦隊は後方に待機、敵の陣形が崩れた瞬間に突入せよ」

 

《敵艦の主砲、本艦を指向》

 

 ゼルグート級の甲板で旋回する、無砲身の490mm陽電子ビーム砲の砲塔がメインパネルにアップで映し出された。

 

 それに呼応するかのように、ゼルグート級の両舷に備え付けられた”目玉”の光が、黄緑色から黄色へと色を変えていく。ガミラス艦が戦闘モードに入ったのだ、と山南が思い至った頃には、AIの《敵艦発砲》という無機質な声が艦橋に響いた。

 

 アンドロメダの艦橋のすぐ前を、赤い陽電子ビームが突き抜けていく。

 

「司令、反撃を!」

 

「まだだ、まだ引き付けろ」

 

「しかし!」

 

「アポロノーム、アンタレス、アレスに通達。波動防壁弾発射。コースはマーク20アルファに設定」

 

《了解》

 

 敵の砲火が飛び交う中で、艦橋のクルーの中で取り乱さず落ち着いているのは山南だけだ。

 

 副長を始めとする他の3名は、先制攻撃を許したからと反撃を急ごうとしている。その焦る姿を見ながら、無理もない事だ、と山南は思う。

 

 山南や沖田たちがガミラス軍と絶望的な戦いを繰り広げている間、彼らは軍に志願し訓練を受けているか、艦を指揮するための教育を受けている段階だったのだ。ガミラス艦の恐ろしさは資料映像の中でしか知らず、今日が初めてガミラス艦と砲火を交える日なのだから無理もない。

 

 しかし、もう少しスマートにはやれないものか。そこまで求めてしまうのも酷な話だろうか、と山南は考えながら、目深に被った帽子の下で溜息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球防衛軍の人材不足は思ったよりも深刻である、という事は、アンドロメダ級の3番艦であり、波動砲を持たぬ”防御型”として建造されたアポロノームを指揮する安田も察していた。

 

 彼は知り得ぬ事だが、アンドロメダの艦橋のクルーも敵の先制攻撃を受けた時点で狼狽していたのである。それが演習用に限界まで出力を落とし、命中したとしてもミゴウェザー・コーティングで弾かれる程度の威力であったとしても、だ。

 

 敵からの砲撃を受けてもなお、落ち着いているのはガミラス戦役を生き抜いた数少ないベテランの乗組員や指揮官だけである。

 

《アンドロメダより命令伝達。波動防壁弾の発射をリクエストされています》

 

 アポロノームのAIが報告しながら、メインパネルに波動防壁弾の弾道をハイライト表示する。ちょうど艦隊の右側面、土砂降りのようなガミラスの陽電子ビームが飛来する方向へコースを変えるような格好だ。

 

 新兵器のお披露目という意味合いもあるのだろうな、と安田は思った。

 

 敵の砲撃は射程距離ギリギリでの砲撃だ。だからなのだろう、精強無比を誇るガミラス軍であっても、一向に砲撃が命中する気配はない。

 

 揺さぶりをかけているのだ。相手の指揮官、ローレン・バレル中将は地球側の実情をよく知っている。一時期はガミラスの地球大使の候補に名が挙がっていたほどの相手だ。

 

 翻訳機を使わずとも流暢な地球語を話す事からも、彼の地球についての知識量は相当なものと見ていいだろう。

 

 相手はこちらの乗組員が若手ばかりで、実戦を知らない者が多い、という事を見抜いている。だからわざと当たらないような距離で砲撃を開始し、揺さぶりをかけているのだ。焦らせ、視野を狭め、ミスを誘発する。何とも狡猾な手である。

 

「艦首発射管、1番開け。波動共鳴装置、回転を最低回転から1200rpmへ」

 

《了解、艦首発射管開きます。諸元入力開始》

 

 蒼く塗装されたアポロノームの艦首、ステルス戦闘機を思わせる鋭角的なその左右に埋め込まれた発射管のハッチが開く。本来は艦首魚雷発射管として使用されている場所だ。無論、防御型アンドロメダも通常型の魚雷発射に対応している。

 

「撃て」

 

 安田が命じるや、発射管から波動防壁弾が躍り出た。

 

 ロケットモーターに点火したそれは、事前にAIが設定した通りの弾道を描いた。アポロノームの前を航行するアルデバランの真下を通過するや、アンドロメダの下方でぐにゃりと曲がった防壁弾は、アンタレス、アレスの放った防壁弾と合流しつつ右旋回。ぐるりと進路を変えるや、一斉にフィラメントを蜘蛛の巣状に展開、そこに蒼い光を纏わせ回転を始める。

 

 さながら傘が開くかのように、波動防壁が展開された。

 

 蒼い光を放つ防壁に、ガミラスの陽電子ビーム砲は次々に弾かれていく。演習用の最低出力ではあるが、仮に戦闘用の出力であったとしても、これの貫通は叶わないであろう。

 

 唐突な防御兵装のお披露目に、ガミラス艦隊も驚いたのが分かった。

 

 ガミラス戦役時、ガミラス艦に地球の砲撃は通用しなかった。どれもミゴウェザー・コーティングで弾かれてしまい、決定打を与える事が出来るのは肉薄しての実弾による質量攻撃のみ。地球は圧倒的に不利だった。

 

 しかし、今は逆である。

 

 地球には波動防壁に加え、防御型アンドロメダに搭載される波動防壁弾、そしてそれらを貫通されても、地球艦の船体にもミゴウェザー・コーティングが施されている。

 

 それに対し、ガミラス艦の防御はミゴウェザー・コーティングと装甲のみだ。

 

 今度は貴様らが狩られる番だ、という無言のメッセージは、確かにガミラスの将兵に届いたらしい。

 

 どれだけ砲撃を叩き込んでも突き崩せぬ、最強の盾。

 

 地球艦隊の反撃の時は、刻一刻と近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 両軍の熾烈な砲撃戦を見守る影が2つ、イオの衛星軌道上にあった。

 

 どちらも、ガミラスや地球の艦と比較すると異質な姿をしている。宇宙戦艦でありながら、その姿は水上艦―――それも第二次世界大戦時、2203年からすれば大昔の艦艇のそれに似ている。

 

 しかし、ガミラスやガトランティスといった異星人ならばともかく、地球にはこの艦の姿を奇妙なものを見るかのような目で見る地球人はいるまい。

 

 何故ならば、地球を救った希望の象徴―――宇宙戦艦ヤマト、その同型艦(姉妹)であるからだ。

 

 ヤマト級の二番艦『ムサシ』と、三番艦『シナノ』である。

 

 ヤマト級の中でも一番早期に就役、地球人類の運命を背負い広大な宇宙へ旅立っていったヤマトに対し、次女と三女となるムサシ、シナノの2隻の就役は遅れた。宇宙戦艦としての役目を果たせるまでになったのは、ヤマトが冥王星のガミラス軍基地を殲滅した辺りである。

 

 長女を追い共にイスカンダルを目指すか、それともヤマト計画失敗時の保険として、イズモ計画完遂のため地球に残るか―――選ばれたのは後者であった。

 

 そうでなくとも、ヤマトの侵攻ルートを回り込んだガミラス艦隊が、地球に止めを刺しに来る可能性も否定できなかった以上、地球の守りを修復すらままならぬキリシマ一隻に任せるのは拙い、という事情もあり、ムサシとシナノは長女たるヤマトの帰還するその日まで、地球の守りを担った。

 

 ちなみに四女となるキイが就役したのは、ヤマトがバラン星を突破した頃である。

 

 就役当時はヤマトの生き写しと言っていいほど外見に差異のないヤマト級の姉妹たちであったが、しかし度重なる改良に加え、旧式化したヤマト級を次世代戦闘艦のテストヘッドとするため、様々な試作兵器が搭載された事もあり、今となってはヤマト級というグループの中では、全く同じ形状の艦は一隻も存在しない。

 

 シナノの隣に展開するムサシからは、波動砲を下ろされ、代わりに波動防壁弾と試作型の波動共鳴装置が搭載されている。いわゆるヤマト級の”防御型”だ。ここで得られたデータが防御型アンドロメダ建造に生かされている。

 

 波動砲の取り外しでスペースと機関出力に余裕ができたため、艦載機搭載数は増え、主砲の威力や機動性も向上している。

 

 それ以外の差異は、副砲が取り外され、代わりに箱型の対空ミサイルランチャーが2基ずつ、並列に配置されている点だろうか。

 

 そしてムサシと共に地球艦隊の戦いを観察するシナノは、艦橋から後方の形状が大きく異なっていた。補助エンジンが2基、メインエンジンが1基という従来のレイアウトから、複数の補助エンジンとメインエンジンを束ねたようなレイアウトに変更され、後部甲板の武装も全て撤去されている。

 

 その代わりに、後部甲板には船体右後方から左前方へと伸びる、巨大な飛行甲板が搭載されていた。飛行甲板にはコスモシーガルの離着陸用のヘリパッドのようなスペースがあるほか、煙突の後方には護衛艦の艦橋を流用した、航空管制用の後部艦橋が増設されている。

 

 艦内も大きく変わっており、艦載機収納用のシリンダーは並列に2基搭載されている。これにより艦載機はヤマトの2倍に達し、場合によっては空間騎兵隊用の先頭車両も収納できるため、空母としてだけではなく強襲揚陸艦としても運用可能な艦艇へと変貌を遂げていた。

 

 就役当時から姿の変わった2隻。仲良く並んで演習を見守るムサシの艦橋で、艦長を務める栗田は副長が運んできてくれたコーヒーを口に含みながら、地球側の勝利を確信していた。

 

 確かにガミラス戦役では辛酸を舐めさせられたものだが、しかし地球側の練度が低かったと言えばそうでもない。少なくとも、技術力の差を技量で補っていた。故に地球の船乗りは優秀で、艦の性能さえ互角であればもっといい勝負が出来ていたに違いない……栗田はそう信じていた。

 

 コーヒーに混じる、微かな塩味。コーヒーに微かに塩を混ぜるという、国連宇宙軍時代からの伝統だ。

 

「しかし、暇なもんですねぇ。俺たちは後方で待機して戦闘のデータ収集、完全に蚊帳の外じゃあないですか」

 

 ムサシの戦術長を務める仁科が退屈そうに言った。

 

 戦術の鬼と呼ばれた仁科は、本来はヤマトの乗組員としてリストアップされていた人物だ。しかしヤマト発進の直前、急襲してきたガミラスの高速空母の攻撃を受け負傷、地球残留を余儀なくされた男である。

 

「仕方ないさ。ヤマト級は旧式だから後ろに下がってろ、って上層部の判断なんだ」

 

 栗田はいつもと変わらぬ口調で言うが、しかしその胸中には悔しさだけがあった。

 

 地球を救った希望の象徴、ヤマト。

 

 今の地球は、地球人類は、それを軽々しく見ていないか、と。

 

 煌びやかな摩天楼に最新鋭の宇宙戦艦。新しいものにばかり目を向けて、古いものを見ようとすらしない。いや、むしろ忘れ去ろうとしているのではあるまいか。

 

 そう思うと、今の地球に絶望すら覚える。

 

 土方のように自分も声を上げるべきではなかったかと思った栗田だったが、小さく首を横に振り、それを誤魔化すようにマグカップを口へと運んだ。

 

 自分には、そんな度胸はない。

 

 土方だからこそ、あんな事を直談判できたのだ。

 

 そしてその土方の言葉ですら、地球は止まらなかった。

 

 もう、この流れは止まらないのかもしれない。

 

 現状を叩き壊すような大きな事件でも起こらないものか―――ありえない事を願いながら、栗田はマグカップの中身を一気に飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ヤマトが命令違反を犯して飛び立った事を知る者は、この時点ではまだ、誰もいない。

 

 

 

 

 

 





2203版ヤマト級の特徴

・ヤマト
 主砲強化及びパルスレーザーを増設。パルスレーザーの配置と主砲砲塔の形状以外に特に外見上の差異はなし

・ムサシ
 波動砲未搭載、波動防壁弾と波動共鳴装置を搭載した防御型

・シナノ
 後部甲板を飛行甲板に改装、エンジンのレイアウトもヒュウガやアスカのような配置となった空母、あるいは航空戦艦

・キイ
 アンドロメダ級のテストヘッドとなった実験艦。アンドロメダの艦橋と主砲が乗ったヤマト

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