さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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ヤマト航空隊

 

「お疲れ様です森さん、変わりますよ」

 

「ええ、ありがとう」

 

 艦橋に上がってきた西条が、レーダーで対空監視を続けていた雪と交代する。彼女は西条に席を空けると、古代の方をちらりと見てからエレベーターへと乗り込んで、艦橋を後にした。

 

 双眼鏡で艦橋の窓から外を監視しつつ、古代は思う。

 

 やはりみんなに無理をさせている、と。

 

 今のヤマトの乗員はイスカンダルへの航海の時と比べて人数が少ない。多くはガミラスとの戦いで命を落としたが、それ以外にも今回の出撃があまりにも急な話で、尚且つ防衛軍司令部にも知られないよう極秘裏に準備を進めてきたものだったから、イスカンダルの時とは違って十分な人員を集められず、どの部署も交代要員に余裕のない状態で回している状態だ。

 

 アンドロメダ級のような、AIの発達によって省人化や各所の自動化を実現した艦ならばその必要もないだろう。ほとんどはAIに任せ、人間はAIが提案してくる選択肢を精査、状況と照らし合わせて選択、承認するだけでいい。

 

 完全自動化を目指した”無人艦隊”の構想も挙がっているのだ、今後はそういった艦が増えていくのだろう。

 

 しかし、ヤマトはそうもいかない。

 

 ヤマトはアンドロメダのような最新鋭の宇宙戦艦から見れば、旧世代の技術で建造された旧式の艦だ。動かすのには常に人の手が必要で、今の地球防衛軍からすれば非合理極まりない代物に見えることだろう。

 

 そういう事もあり、各部署への負担は相当なものになっているという。中には満足な交代要員が確保できず、一人一人の負担を増やしたり、他の部署から人員を借りてきて何とかやりくりしている部署もあると聞いている。

 

 テレザートに到着する前に限界を迎えなければいいのだが、という懸念が、古代の中にはあった。

 

 そういう意味で、今回の航海はイスカンダルの時とはまた違った苛酷なものになるであろう。

 

 ヤマトは今、木星沖を目指して進んでいる。

 

 テレザートへの一番の近道であり―――最初の関門となるであろう宙域だ。

 

 木星沖では今、地球艦隊がかつてない規模の演習のために集結している。アンドロメダ級戦艦やヤマト級の姉妹艦『ムサシ』、『シナノ』も木星沖に集結し、ローレン・バレル艦隊司令率いるガミラス太陽系方面艦隊との合同演習に勤しんでいるのだという。

 

 ヤマトの進路は演習宙域から少し外れた、小惑星帯とデブリ帯にセットしてある。

 

 演習宙域にほど近く、もし察知されれば瞬く間に演習中の大艦隊が大挙して押し寄せてくる可能性があるが、しかし小惑星とガミラス戦役の時から無数に漂うデブリたちが、ヤマトの隠れ蓑になってくれる。

 

 それに、まさか地球から無断出撃したヤマトが地球艦隊の足元をすり抜けていくとは、司令部も、そして地球艦隊を預かる山南も思いはするまい―――というのが、古代と真田がこの航路を選んだ理由であった。

 

 ごん、と艦橋から見える第二砲塔の装甲に、小さな隕石がぶつかった。躱し切れなかったわけではない、当たっても問題ない程度の隕石だから敢えて回避しなかったというだけだが、しかし船体に何かがぶつかる音というのはひどく心臓に悪いものだ。

 

 「ひえっ」と太田が情けない声を出すが、しかし操縦桿を握る島は涼しい顔だった。

 

 小惑星帯を突破しデブリ帯を抜ければ、木星沖は通過できたも同然だ。後はそのまま太陽系を離れ、テレザートまで向かう事が出来ればいいのだが……しかし、そう上手くいく話もないようだ。

 

「レーダーに感! 右上方、数22!!」

 

「総員、第一種戦闘配置!」

 

「対空戦闘用意!」

 

 艦内に、聞き慣れた(そして一番聞きたくない)警報の音が鳴り響いた。艦橋内に各部署へと出す命令とその復唱が連なり、艦橋の窓の外では第二砲塔の上に取り付けられた2基の4連装拡散パルスレーザー砲塔がぐるりと旋回、4つの方針を右上方へと向けていた。

 

「接近中の敵影……航空機です」

 

「西条、メインパネルに投影」

 

「了解」

 

 メインパネルに、やがて小惑星帯の中を突破してくる航空隊の姿が映し出された。

 

 灰色の猛禽類を思わせる、コスモファルコンと比較すると鋭角的なフォルム。地球防衛軍の正式採用多目的戦闘機として新たに採用された、最新鋭機のコスモタイガーⅡだ。

 

 主翼や胴体の下には、まるでラグビーのボールを更に引き延ばしたような形状の対艦ミサイルがいくつも吊るされている。駆逐艦程度の艦艇であれば、一撃で致命傷を与えられる威力がある。波動防壁には無力だが、非展開時に何発も叩き込まれれば、戦艦クラスの艦艇でも轟沈は免れないだろう。

 

 しかし―――。

 

「……模擬弾だ」

 

 それが実弾ではない事を、古代はすぐに見破った。

 

 ミサイルの先端部に、白いラインが引かれているのが見える。それは実戦用の対艦ミサイルではなく、模擬戦用に炸薬が取り除かれた模擬弾である事を意味する。逆に、赤いラインが描かれていればそれは実弾だ。

 

 地球防衛軍では、模擬弾と実弾をそうやって区別するという規定があるのだ。

 

「模擬弾って……演習宙域から来たってわけですか、まさか」

 

 太田が驚くのも無理はないだろう。

 

 ここから演習宙域までは小惑星帯が広がっている。ヤマトのような戦艦ならばまだしも、航空機ではあまり通りたいとは思わない場所だ。戦艦のような装甲も、波動防壁も持たぬ航空機では、いくら最新鋭のコスモタイガーⅡとはいえ、さっきヤマトにぶつかったような小隕石ですら致命傷になりかねない。最悪の場合、隕石とキスして粉微塵に砕けてしまう。

 

 しかも、ここから演習宙域までの間に広がる小惑星帯は特に濃度が濃く、戦艦であっても通過は難しい(もちろん波動防壁で強引に突破したり、砲撃で破壊して突き進むのならば話は別だ)宙域である、とされている。

 

 ガミラス戦役中、ここに磯風型駆逐艦を潜伏させてのゲリラ戦術を用い、性能で勝るガミラス艦に少なくない損害を与えたという記録が残っており、古代も島も士官学校時代に教科書で目にしていた。

 

 そんな危険な場所を、演習宙域から、それも模擬弾とはいえ重い対艦ミサイルをぶら下げて突破してくるパイロット―――慢性的な人員不足にあえぐ今の地球防衛軍に、そんな事が出来るパイロットが果たして何人いるというのか。

 

「いいか、こちらからは絶対に撃つな」

 

 マイクに向かって各砲座に厳命する。ヤマトは無断で地球を出撃したとはいえ、地球防衛軍は仮にも友軍だ。古代としても、つい先週まで共に任務をこなし、同じ釜の飯を食ってきた戦友たちを撃つことはできるだけ避けたいという思いがある。

 

 メインパネルに投影された航空機たちがヤマトへと接近してくる。「接触まであと10秒」という西条の報告を聞きながら、古代は目を細めた。

 

 模擬弾なんかで何をするつもりなのか―――機銃の方は実弾かもしれないが、しかしヤマトは機銃で撃沈できるほど脆い艦ではない。ガミラス軍の猛攻にすら耐え凌いだ浮沈艦である事は、地球防衛軍の誰もが承知しているであろう。

 

「……ん?」

 

 その時だった。双眼鏡を覗き込んだ古代が、接近してくるコスモタイガーⅡのうちの1機、その垂直尾翼に描かれたマーキングに気付いたのは。

 

 ―――『誠』の文字。

 

「あれは……」

 

 はっとしながら双眼鏡から目を離す古代の視界の先、艦橋の窓のすぐ外を、22機のコスモタイガーⅡたち(見間違いでなければ1機だけ形状が違う機体も混じっていた)が通過していく。

 

 彼らはパルスレーザーの照準を向けられているにもかかわらず、ヤマトのすぐ近くを「撃てるものならば撃ってみろ」と言わんばかりに通過していった。

 

 そのうちの1機が編隊を離れ、ヤマトの右舷から大きく回り込むコースで、艦橋のすぐ前を通過していく。

 

 その時に、古代も、島も、そして真田もはっきりと見た。

 

 垂直尾翼にこれ見よがしに描かれた『誠』の文字。そして対ビームコーティングが施されたキャノピーの中で、艦橋に向かって敬礼するパイロットの姿。

 

「加藤……加藤なのか……!?」

 

「加藤だ」

 

 攻撃の意図はない、とっとと着艦口を開けろ―――艦橋に向かって敬礼した加藤が、そう言っているようにも思えた。

 

 少なくとも敵ではない。それを悟った古代は、緊張を息と共に吐き出しながら命じた。

 

「格納庫開け、全機収納!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだなぁ、艦長代理?」

 

 コクピットから降りてきたのは、やはり見慣れた坊主頭の男だった。

 

 加藤―――イスカンダルの航海に同行した航空隊の隊長で、ヤマト航空隊のエースパイロットの1人。その名は地球防衛軍にも、そしてガミラス側にも知れ渡っており、その名が航空科の教本にも載るほどだと古代は聞いている。

 

 そんな彼が、かつてのヤマト航空隊の面々と共に仲間に加わってくれたのだ。頼もしい事この上ない。

 

「加藤、来てくれたのか」

 

「ああ。きっと今頃、艦隊でも噂になってるだろうよ。ヤマトが謀反を起こしたってな」

 

 ははは、と何人かが笑い声をあげ、古代も少しだけ笑みを浮かべた。

 

「ところで、コイツの整備ができる人員は何人いる?」

 

「今のところはそんなには……一応、経験者がマニュアルを配って指導している」

 

「そりゃあいい」

 

 最新鋭機とはいえ、整備が無ければ運用は出来ない。

 

 そしてコスモタイガーⅡの配備数も限定的となっている今では機体だけでなくそれを整備できる整備士(メカニック)の存在もまた、貴重と言ってよかった。

 

 コスモタイガーⅡは今までのコスモファルコンとは全く違う機体だ。地球の最新技術だけでなく、ガミラス側の軍需企業からの技術提供もあって開発された機体とされている。

 

 だからコスモファルコンの整備士でも、コスモタイガーⅡには手を付けられないのだ。

 

 整備性自体は良好、という話は聞いているが、しかしガミラス系の技術に触れた事のある整備士の人数が限られるという事もあって、配備はなかなか進んでいないのだという(正確に言うと、機体はあるが整備する整備士が育っていないという状態だ)。

 

 それを改善するため、空母などでは整備も機械が行えるようロボットの導入を進めている、という話を古代は聞いていた。

 

「ともあれ、お前が来てくれて助かった」

 

「行くんだろ、テレザートに」

 

「ああ」

 

 がしっ、と固い握手を交わすと、加藤は踵を返して整備士たちの方へと歩いていった。整備の注文でも付けるのかと思ったが、どうやら見知った顔の整備士たちとの交流を深めに行ったようだ。

 

 そんな昔と変わらない彼の姿に安堵を覚えた古代は、再びエレベーターに乗り込んで艦橋へと戻った。

 

 航空隊の接近で一時はどうなる事かと思われたが、しかし危機が待ち受けている事に変わりはない。

 

 艦橋の窓の外には、小隕石に混じって金属製の残骸が浮遊しているのも見え、デブリ帯に突入したのだという事が分かった。

 

 地球の駆逐艦の残骸だけではない―――ゲリラ戦術でなおも抵抗する地球艦隊を掃討しようとしたのだろう、ガミラスのクリピテラ級の残骸も、その中には浮かんでいる。

 

 魚雷の直撃で船体がぶち折られたものもあれば、磯風型の艦首砲で船体を抉られた残骸、そして敵の追撃に夢中で回避がおろそかになり、大型の隕石に突っ込んだクリピテラ級の残骸……それらを目にするだけで、ここで繰り広げられた熾烈な戦いと、かつての人類の必死さが伝わってくる。

 

 さながら”船の墓場”だ。

 

(静かすぎる)

 

 これほどまでに凪いだ宇宙()は久しぶりだ。

 

 嵐の前の静けさ、という言葉もある。こんな静寂の後には何かがある、という古代の嫌な予感は、その直後、遥か彼方から飛来した蒼い閃光となって的中する事となった。

 

 ごう、と蒼い陽電子ビームの束がヤマトの艦橋の脇を掠めていった。エネルギー集束システムがより発達しているからなのだろう、ヤマトの主砲と比較するとそれはシャープで、捻れていない。

 

 空間に無理矢理エネルギーの束を捻じ込むようなヤマトの力強い一撃とは違う。洗練された、無駄のないエネルギーの塊は、ヤマトの後方を漂っていたクリピテラ級の残骸を瞬く間に蒸発させると、大型の隕石にぶち当たり爆発、周囲に岩塊を飛び散らせた。

 

「何だ今のは!?」

 

「ショックカノン……まさか」

 

「西条、レーダー反応は!?」

 

「ありません、レーダーに感なし!」

 

「反応なしだって……!?」

 

 古代は息を呑んだ。

 

 レーダーに反応はなかったが、しかし砲撃の弾道から距離と方角を逆算し敵の位置を特定する事は出来る。西条も古代が言うよりも早く敵の位置を特定すると、メインパネルにその姿を投影した。

 

「あれは……!」

 

 そこに映し出されたのは、最新技術によって生み出された地球の新たな守り神―――鋼鉄の装甲と最新のシステムを持つ、最新鋭の戦闘艦だった。

 

 戦闘機の機首の下に、2つ並んだ砲口。古式の水平二連散弾銃の如くぽっかりと開いた穴は、波動砲の発射口だ。

 

 甲板には3連装のショックカノンが並び、その後方にはヤマトと比較すると凹凸が少なく、のっぺりとした印象を受ける艦橋が聳え立っている。

 

 ニュースで何度も報じられている威容だ―――地球人ならば、見間違えよう筈もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あ、”アンドロメダ”です!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前衛武装宇宙艦、AAA-001アンドロメダ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤマトの前に立ち塞がったのは、地球の新たなる守護神だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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