さらば宇宙戦艦ヤマト2203 ~愛の戦士たち~   作:往復ミサイル

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接近、アンドロメダ

 

 

 アンドロメダこそが宇宙最強の戦艦だ、という自負が山南にはある。

 

 ヤマトがイスカンダルへの航海で得た様々な情報を元に装備を改良、そしてヤマト級四番艦『キイ』というテストヘッドでの試験運用を経て採用された新装備の数々は、性能面においてヤマトのそれを大きく圧倒している。

 

 こんなバケモノのような宇宙戦艦が、今の地球では続々と建造されている。当初は5番艦までで生産を打ち切り、次の発展型へと計画を移行する予定だったそれは、地球の防衛予算の大幅増額によって増産が決定。こうして山南が艦長席で、再生産が始まったばかりの天然モノの紅茶の香りを楽しんでいる間にも続々と姉妹艦が建造されている。

 

 それだけではない。アンドロメダを拡大・発展させた”超アンドロメダ級戦艦”の建造も計画されている(山南もモックアップを目にしたが、波動砲が3門も搭載されており度肝を抜かれたものだ)。

 

 しかし―――そんなアンドロメダ級でも油断ならない相手が、地球にはいる。

 

 それがヤマトだ。イスカンダルへの航海という無理難題を、無補給で、それもたった1隻で成功させ生還した地球の守り神。それを成し得たのはヤマトの性能ゆえだ、と司令部の高官たちは考えているが、しかし山南はそうは思わない。

 

 あれはヒトが成した偉業である、と山南は考える。

 

 生命には、その数だけ可能性がある。ヤマトはその可能性を幾重にも結び、増幅させる”器”なのだ―――防衛軍司令部の高官たちは、それを理解していない。ハードウェアの圧倒的な性能こそがガミラスを退けたのだと履き違え、ヒトの可能性に目を向けようともしない。

 

 そうでなければ、ここまで合理化を突き詰めたアンドロメダ級など建造されすらしなかっただろう。

 

 飲み終えたティーカップを傍らにそっと置き、昔の事を思い出す。

 

 昔―――それこそガミラス戦役以前の宇宙戦艦の居住性は、お世辞にも良いとは言えなかった。慣性制御は利いておらず、館内は無重力状態。だから艦内では靴底に磁石を貼り付けた磁力靴を履いて移動しなければならず、どうしても両足に重りをぶら下げている感じがあって、山南はそれを嫌っていた。

 

 そして何より、無重力状態では好物の紅茶を淹れる事も出来ない。帰還した時の楽しみでもあり、同時にこれが人生最後のアフタヌーンティーかもしれない、と思うのがあの頃は当たり前になっていた。

 

 しかしアンドロメダは違う。

 

 艦内は慣性制御が働いており、艦内の重力は地球と同じ1Gになっている。そういう事もあって磁力靴とは無縁となり、こうして艦内で紅茶を嗜む余裕も生まれた。

 

 恩恵を受けているのは山南だけではない。

 

 省人化もあって乗組員の数は減少され、各員に個室が与えられるほどになったのは大きな点であろう。おかげで空間騎兵隊などからは『ホテル』と揶揄されているそうだが、実際その通りだ、と山南は思う。自分たちは波動防壁と波動砲を積んだホテルで戦争に行っているのだ、と。

 

《間もなくヤマトとの予測遭遇地点》

 

「進路変更の可能性は」

 

《0.32%と推定》

 

「……了解、進路そのまま。念のため宙域の状況を加味しヤマトの予測進路を再計算」

 

《了解》

 

 賢い()だ、と山南は思った。

 

 アンドロメダのAIは日々進化している。時間断層内で行われているのは、宇宙艦の増産だけではない。アンドロメダの制御を担うこのAIも、時間断層内の基幹AIからのデータをフィードバックし真価を続けているのだ。

 

 今でこそ淡々と計算を行い、事務的なやり取りをするに留まっているが、もしかしたらいつの日かジョークを理解するようになるのではないだろうか。そんな期待が、山南の胸中には渦巻いていた。

 

「……」

 

「間もなく木星沖、デブリ帯に突入」

 

 副長の報告に頷きながら、艦橋の窓の向こうに見えるデブリ帯を見つめた。

 

 浮かんでいるのはガミラス戦役の頃に撃沈され、鉄屑として宙域を彷徨うばかりとなった地球、ガミラス両軍の残骸だ。

 

 木星沖での海戦と言えば、当時の地球がそのガミラスとの圧倒的技術力の差に押され、連戦に連敗を重ねていた時期でもある。地球本星での艦隊増強までの時間稼ぎのために磯風型駆逐艦がこの小惑星帯に潜み、ゲリラ戦術でガミラス側に出血を強いるような戦いで時間を稼いでいた。

 

 ここはそのゲリラ戦に従事し散っていった船乗りたちの墓場でもあるのだ。

 

 船体側面のスラスターが蒼い光を発し、アンドロメダの船体を右へと逸らす。やがて傾いた艦橋の脇を、クリピテラ級と思われる残骸のエンジンノズル部が掠めていった。

 

 デブリの動きも全てAIが計算し、自動で回避運動を行っているのだ。だから操舵士は操縦桿に触れてすらいない。艦の運動はAIが全てやってくれるからだ。あそこにある操縦桿は、万一AIがダウンした際の非常用である。

 

(そろそろか)

 

 腕を組み、メインパネルに視線を向けた山南は、ヤマトの予測進路に間もなく接触する事を予感していた。

 

 もし自分がヤマトの艦長だったら、同じ選択をしているだろう。

 

 今のヤマトはワープ阻害装置の影響を受け、地球防衛軍司令部からの誘導がない限り、少なくとも太陽系内部でのワープは出来ない。無断で地球を出撃し叛乱を起こしたヤマトには地球防衛軍からのバックアップはなく、太陽系離脱までは自力での航行を余儀なくされる。

 

 そうなれば、最大の関門となるのがこの木星沖だ。木星沖では地球とガミラスの太陽系方面軍が最大規模の合同演習を行っており、もしそれらが大挙し襲い掛かってくれば、さすがのヤマトも振り切るのは不可能であろう。

 

 考えられるのは木星沖を大きく迂回するか、それともこのデブリ帯に紛れ一気に木星沖を通過するか。

 

 山南の読みは、後者であった。

 

 司令部からの情報では、ヤマトの行き先は惑星テレザートである可能性が高いという。

 

(ヤマトの乗組員が見たという夢……宇宙の危機、か)

 

 もしその言葉を信じるのであれば、彼らには一刻の猶予もない。

 

 ならば木星を迂回するという回りくどい進路はとらない筈だ。となると木星沖、つまり合同演習中の大艦隊の足元を、するりと抜けていく魂胆であろう事は想像に難くない。

 

 AIの予測も同じであった。とはいえ、それは予測の条件に『ヤマトの航海にタイムリミットがある場合』という条件を付け加えた場合の話ではあるが。

 

《広域レーダーに感》

 

「艦種識別、メインパネルに投影」

 

《了解》

 

 しばらくして、メインパネルに映像が映し出された。

 

 デブリ帯に紛れながら航行する1隻の宇宙戦艦。大昔の水上艦艇を彷彿とさせる姿に、改修によって幅を増した船体は非常にどっしりとしている。まるで太平洋戦争を戦った日本の大戦艦、大和を思わせる。

 

《艦種識別、宇宙戦艦ヤマト》

 

「やはりか」

 

 予想通りだ。

 

 口元に小さく笑みを浮かべた山南は思った。沖田さん、やはり彼らはあなたの子供たちだ、と。

 

 死中に活を見出す沖田戦法。もし沖田が健在であったら彼も同じ選択をしたであろう、と山南は思う。

 

 その教えは見事に、彼の子供たち―――古代たちに受け継がれているようだった。

 

 相手が沖田艦長から受け継いだ戦法で立ち向かってくるならば、こちらもそれに応じなければならない。

 

「主砲発射用意」

 

《照準は》

 

「ヤマト後方の宙域。威嚇で良い」

 

《了解しました》

 

 メインパネルに映るヤマトは、何も知らずにまっすぐに進んでくる。

 

 まだ、アンドロメダの姿を捉えられてはいないのだ。

 

 それもその筈である。アンドロメダ級戦艦はステルス性も考慮した船体設計となっている。ヤマト級と比較して全体的な凹凸が少なく、昔のステルス艦のようなのっぺりとした形状をしているのはそれが理由だ。

 

 徹底したステルス性の追求により、全長444mの巨体でありながらも遠距離においてレーダー上から完全に姿を消すアンドロメダは、敵対する者にとってはこれ以上ないほどの脅威となるだろう。

 

 ステルス状態からの波動砲斉射による奇襲など、悪夢そのものである。

 

 やがて、第一砲塔の砲身がゆっくりと持ち上がった。その砲口ははるか前方、狩人の如くデブリ帯に潜伏するアンドロメダの姿を未だ捉えられぬヤマトへと向けられている。

 

「撃て」

 

《発射》

 

 山南の号令に、AIが淡々とした様子で答えた。

 

 カッ、と蒼い閃光が迸る。

 

 砲塔内部と砲身中間部に設けられた増幅装置の恩恵で勢いを増したエネルギーの塊は、さながら神話の英雄が放った矢の如く宇宙空間を駆け抜けていく。

 

 ヤマトの砲撃は、言うなれば「空間に無理矢理エネルギーの束を捻じ込むような」力強い一撃であるが、アンドロメダの洗練された技術で放たれるそれは、よりスマートで鋭い一撃と言ってもいい。

 

 流星の如く宇宙空間を駆け抜けていったそれは、やがて暗闇の中で1つの蒼い花を咲かせた。

 

 ヤマトの船体を掠め、後方を漂っていたクリピテラ級の残骸を瞬時に蒸発させたそれが、大型の隕石に命中して爆発したのだ。

 

 暗黒の海原に芽吹いた閃光の中、1隻の宇宙戦艦の陰が浮かぶ。

 

 ―――宇宙戦艦ヤマト。

 

 今のは威嚇だ。次は当てる―――山南の行動で示した一言は、彼らにしっかりと届いているだろう。

 

 艦橋内部の空気が張り詰めていくのを感じながら、山南はAIに命じた。

 

「アンドロメダ、ヤマトとの回線を繋げ。説得を試みる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンドロメダより入電!」

 

 緊張した声で相原が報告する。

 

 やはり、さっきの一撃は威嚇のためだったのだろう、と古代は察していた。もし最初からヤマトを撃沈するつもりだったのであれば、アンドロメダは最初からヤマトに砲撃を当てに来ていた筈だ。火器管制システムは向こうの方が高性能なのだから。

 

 砲撃の威力と命中精度を見せつけ、こちらを威圧するための一撃―――相手の魂胆を見抜いたところで、「メインパネルに出してくれ」と指示を出す。

 

 やがて、頭上のメインパネルに軍服姿の男の姿が映し出された。堅苦しい軍服姿だが、しかし上品さが伝わってくるのは彼の人柄をよく知っているからであろう。

 

 ガミラス戦役以前からの生き残りで、今の防衛軍には数少ないベテラン―――沖田の右腕でもあり、冥王星沖での戦闘ではキリシマの艦長を務めていた山南の目をじっと見つめながら、古代はそっと敬礼をする。

 

 山南も同じように敬礼を返してから、そっと口を開いた。

 

《古代、戻れ》

 

 その声音に、いつもの飄々とした感じはない。

 

 短く用件だけを告げた山南の言葉には、必要以上に言葉で飾り立てるつもりはない、という意志が感じられた。

 

「お断りします」

 

 同じく、彼から投げつけられた本音に本音を投げ返す。するとメインパネルの向こうの山南は驚いたというよりも、やっぱりか、とでも言いたそうな顔で目を細めた。

 

「宇宙に危機が迫っているかもしれないのです。我々は行きます」

 

 古代、と山南はもう一度、古代の名を呼んだ。

 

 古代と島には、それが最後通告だ、というニュアンスを含んでいるようにも思え、腹の奥に何か重いものが沈殿していくような、そんな感覚を覚えた。

 

 ここから先は、本当に引き返しようのない領域だ。

 

 しかし、もう引き返すつもりはない。賽は投げられたのだ―――後は不退転の決意を胸に、ルビコン川を渡るのみである。

 

《古代、私がどういう男か―――君も知っている筈だ》

 

「承知の上です。山南指令、我々は行きます。テレザートへ」

 

《そうか……わかった》

 

 残念そうな、しかしどこか成長を喜ぶ親のような声色を滲ませながら、メインパネルを介した通信は終わりを告げた。

 

「来るぞ、総員戦闘配置につけ!」

 

 アンドロメダ級の火力は、ヤマトのそれを上回る。

 

 主砲の一撃だけで見れば、ヤマトの方に軍配は上がるだろう。しかしアンドロメダの砲撃は正確無比で、しかも主砲以外にも数々の強力な武装を搭載している。総合的な火力では、ヤマトが不利だ。

 

 それだけではない。

 

「艦長、レーダーが……!」

 

「なに!?」

 

 西条の報告に、古代は思い出した。

 

 アンドロメダ級に搭載されている装備―――ECMの存在を。

 

 妨害電波を用いて相手のレーダーを無力化、更にはレーダー照射までもを無効化し、正確な砲撃やミサイルの誘導を不可能とする……未だ水上艦艇が海戦の主役だった時代、イージス艦などに搭載されていた装備だ。

 

 アンドロメダには、それを現代の技術で蘇らせた装備が多数搭載されていた、と聞いている。

 

 ヤマトには無いものだ。

 

「くっ……レーダーには頼れないか」

 

「これがアンドロメダのソフトキル能力か……厄介だな」

 

 操縦桿を握る島が苦々しく呟いたその時、メインパネルの中のアンドロメダが変針したのを、古代は見逃さなかった。

 

「……?」

 

 船体各所から蒼いスラスターの光を閃かせながら、重々しく、しかしヤマトの回頭よりも軽やかに進路を変更するアンドロメダ。無論、ヤマトの確保を諦めたわけではない。それは甲板の上で旋回するショックカノンの砲塔の動きからも見て分かる。

 

 船体左側を向け、前部甲板と後部甲板、全ての主砲をヤマトに向ける格好で、ヤマトの進路上に立ち塞がるアンドロメダ。それだけではない。船体側面のバルジに搭載された対艦グレネード投射機や、速射魚雷の発射管も開いている。

 

 最大の火力で迎え撃つ―――引き返すならば今だ、という山南の言葉が、その行動からは窺い知れた。

 

 それでも進むしかない。

 

 ここで引き返せば、それこそ取り返しのつかない事になるからだ。

 

 もう既に、賽は投げられたのだから。

 

 

 

 

 

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